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エピローグ

「リュウたちがカラスであると考えれば、全ての説明がつきます」


 アリスちゃんは静かに推理を続けた。


「カラスの視力は人間の5倍ほどですから、4・8以上あっても何ら不思議はありませんし、不可能に見える屋上からの逃走も、空を飛んだのだとすれば説明がつきます。カラスであれば窓から教室に侵入し、シュウイチの机にネズミの死骸を入れることなど造作(ぞうさ)もないことでしょう。グラウンドにいた人間たちは〝窓から侵入した人間はいなかった〟とは証言していますが、〝カラスが来なかった〟とは証言していませんからね。カラス三匹の内、ケンジとソウスケは〝集会〟(言うまでもなく、これは街のカラスたちの(つど)いのことです)に出かけていますから、アリバイのないリュウが犯人……いえ、犯鳥ということになります」


「そこまでわかっているってことは何でリュウがそんなことをしたかっていう動機もわかっているんだろう?」


「ええ。更衣室のシーンで女子たちが言ってましたよね。シュウイチが給食の残りをカラスにやっていたって。そのカラスがリュウだったのでしょう。リュウはシュウイチがイジメられているのをケンジから聞いて、なんとか励まそうと日頃のお礼も兼ねてシュウイチにプレゼントを贈った。もっとも、カラスにとってはプレゼントのつもりでも、人間にとってはイイ迷惑ですけどね」


「カラスって奴は賢いからな。餌をくれたりする人間をちゃんと覚えているもんさ。ツイッターなんかでも時々、カラスに餌をやったら、お礼に空からネズミの死骸が降ってきたみたいなツイートがあったりするだろ」


「なるほど。それが今回の小説の着想の元ってわけですね。カラスが犯人というのはこの手の日常ミステリーじゃよくあるオチですけど、それを勘付かせないために【アリスちゃんへの挑戦】で容疑者を限定した上、叙述トリックによって読者の目を欺いている点には先輩の努力を認めてあげましょう」


「そりゃどうも」


「それにしても先輩のフェアプレイ精神には頭が下がりますね。思えば小説の地の文や私との会話においても一度も〝犯人〟という言葉を用いていませんからね。リュウたちの登場シーンにおいても、〝三人〟と書くと人間のことになってしまうので、あえて〝グループ〟という言葉を使っています」


 やれやれ。アリスちゃんは本当になんでもお見通しだな。


「そこまでしている先輩だからこそ、私を大いに悩ませたのが【アリスちゃんへの挑戦】にある〝人物〟という言葉でした。これは普通、〝人間〟という意味で使われる言葉ですよね。もしもリュウたちがカラスなら、地の文に嘘があることになってしまい、フェアではありません。そこで、私は辞書で〝人物〟という言葉を調べてみました。すると、少し古い表現になりますが〝人物〟という言葉には〝人間〟という意味の他にも、〝人と他の生物〟という意味もあるようです。これならまあギリギリ許されるのではないか。そう考えて、私は今の推理に至ったというわけです」


 パチパチパチ。


 俺は拍手をした。


 心からこの後輩を称えるための拍手だ。


「さすがだよ、アリスちゃん。完璧に俺の負けだ」


「ありがとうございます。私も久々に退屈を忘れて楽しむことができました。またやりましょうね、先輩」


「ああ。また何かネタを思いついたら書いてみるよ」


「ふふふ」


 アリスちゃんはいたずらっぽい笑みを浮かべると、俺の耳元でこう(ささや)いた。


「今度こそ私の裸を見られるといいですね、先輩♡」


 にゃろう……。


 願わくは、この小生意気だが可愛い後輩をギャフンと言わせる小説をいつか書いてみたいものだ。



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