問題編 ④それぞれのアリバイとアリスちゃんへの挑戦
その後どうなったかは想像に難くないだろう。
悲鳴を聞きつけた教師が教室に乱入し、緊急の学級会が開かれた。
正義感の強いシュウイチのクラスの担任は「必ず犯人を見つける!」と宣言し、事件前後の状況を調べ始めた。
だが、この担任教師に名探偵の才能はなかったとみえて、調べれば調べるほど事件は迷宮入りの様相を呈しはじめた。
ここでは事件解決のヒントとして、大勢の証言をまとめる形で記載することにする。
まず、犯行時刻についてだが、シュウイチは体育の授業に出る前は確かに机の中にネズミの死骸など入っていなかったと証言している。
さらに言えば、教室を出たのはシュウイチが最後であり、体育の授業が終わった後は誰が一番というわけでもなく男子生徒はぞろぞろと群れをなすように教室に戻っている。
つまり、誰かが授業終了後、いち早く教室に戻り、犯行に及んだという線はなくなったのだ。
そして、教室に戻ってから死骸が発見されるまで本人を除いて誰もシュウイチの机に近づいた者はいない。
以上のことから、犯行は体育の時間、つまり午前11時40分から午後12時30分の50分間に行われたことになる。
犯行現場は言うまでもなくシュウイチのクラスである二年生の教室……なのだが、これについて少し厄介な問題が浮上した。
以下の図のように、シュウイチのクラスは校舎の二階にあり、両端を他のクラスに挟まれている。
シュウイチたちのクラスが体育の授業を行っている間、隣の各クラスでは座学の授業が行われていたが、授業開始後すぐにグラウンドから見て右隣のクラスで宿題をやっていなかった生徒が廊下に立たされていたことがわかった。
この立たされた生徒曰く、
「俺、宿題忘れの常習で、罰としてあの時は授業が終わるまでずっと廊下に立たされてましたけど、隣のクラスに近づいた奴は誰もいませんでしたよ」
とのこと。
ボーッとしていて見逃したのではないか、という追及に対しては、
「いや、いくらボーッとしてても、誰かが隣の教室に近づけば絶対にわかりますって!」
と、断言する。
また、彼を立たせた英語教師曰く、
「ええ。彼が反省をしているかどうか授業中は常に廊下の彼の様子をチェックしていましたが、ずっと廊下に立っていましたね」
この二名の証言から、体育の授業中、誰もシュウイチのクラスに出入りした人間はいないことがわかる。
加えて、立たされていた生徒が犯人という可能性もなくなった。
彼がシュウイチのクラスに行ってネズミの死骸を置こうものなら、彼を監視していた英語教師が気づいたはずだからである。
廊下から出入りしたのでなければ、窓からということになる。
確かにシュウイチの席は窓際だったし、窓の鍵も開いていた。
しかし上述のようにシュウイチのクラスは二階であるし、仮に誰かが屋上からロープを下ろして二階のベランダに降りたり、一階からはしごを使って登ろうとしたりしたのだとすれば、グラウンドでサッカーをしていたシュウイチのクラスの男子や体育教師の誰かが目撃していたはずである。
シュウイチ自身も含め、クラスの男子及び体育教師は口をそろえて断言する。
「そんな怪しいことをする人間は誰もいなかった」
――と。
関係者から聴取を終えた担任教師は困り果てた。
「馬鹿な……。いったい誰がどうやって木戸の机の中にネズミの死骸を入れたっていうんだ……?」
【アリスちゃんへの挑戦】
これまでに登場した人物の犯行時のアリバイは以下のとおりである。(※ここに名前が上がっていない人物の証言は全て真実であるので、推理の際に全面的に信用してもらって構わない)。
・リュウ:いつもケンジやソウスケとつるんでいる。グループのリーダー的存在。ケンジたちと分かれてからも学校に残っていたようであるが、アリバイを証明してくれる人物はいない。
・ケンジ:グループナンバー2。リュウのご機嫌を伺ってばかりいる。犯行時刻はソウスケと集会場にいた。その場にいた他のグループのメンバーたちもケンジとソウスケを目撃している。
・ソウスケ:リュウのグループの下っ端。ケンジと同様、犯行時刻は集会場にいた。
・松島:自分の大学をシュウイチに馬鹿にされたことから彼に恨みを抱く数学教師。犯行時刻には授業を受け持っておらず、一人で職員室にいたと証言。
・小日向アカネ:シュウイチに思いを寄せる幼馴染。マラソンの途中で気分が悪くなり、保健室に行くため、一人で校舎の中に入っている。
・山田ツトム:シュウイチの頭の良さを妬むクラスメイト。勉強のため体育の授業は見学していた。授業中、一度トイレに行くため校舎の中に入っている。
この中にシュウイチの机の中にネズミの死骸を入れた人物がいる。
その人物の名前、犯行手段、犯行動機の三つを答えよ。
手がかりは全て文中に隠されている。
なお、本件犯行は単独犯によるものであり、複数の者が何かを示し合わせて嘘をついているということは絶対にないことをここに明言しておく。