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問題編 ③事件発生

 女子のマラソンのコースは昇降口からスタートして直線距離で三十メートル程の所にある校門から外に出る。


 そこから校外の決められたルートを走り、再び校門を通って、昇降口がゴールとなる。


 総距離は三キロ。


 中学生女子にとっては過酷な道のりだ。


 女子たちがそのような苦行を強いられる中、男子たちは呑気にグラウンドでサッカーをしている。


 授業なので目下イジメに遭っているシュウイチもチームには入れてもらえるが、待てど暮らせどパスはまわってこない。


 シュウイチは運動神経が悪い方ではない。


 それどころか、小学生の時はサッカークラブのエースとして活躍していた程である。


 中学に入ってからは勉強に身を入れるためやめてしまったが、未だその黄金の右足は錆び付いてはいない。


 しかし、いくらシュウイチが黄金の右足の持ち主であっても、パスがまわってこないことには活躍のしようがない。


 体育の先生にサボっていると思われない程度に適当に走り回るしか彼にできることはなかった。


 そんなシュウイチをピッチの外から見つめる――否、睨みつける人物が一人。


 同じクラスの山田ツトムである。


「クソ……。木戸の野郎、あんなことをされておいて、どうして学校に来られるんだ。とっととどっかに転校しちまえばいいのに……」


 ツトムが憎らしく呟くのにも理由がある。


 小学校の頃は常に学年一位の成績を誇っていたツトムは中学生になると、いつも学年二位に甘んじることになってしまった。


 別の小学校から上がってきたシュウイチがいたからだ。


 最初はツトムも一位の座を手に入れるべく勉学に勤しみ、研鑽を積んできた。


 しかし、生まれ持った頭脳の差なのか、どうしてもシュウイチに勝つことができない。


 やがてツトムの鬱屈した思いは彼を卑劣な犯行に駆り立てた。


 シュウイチの上履きに画鋲を入れたり、教科書やノートを隠した犯人こそ、何を隠そうこのツトムなのである。


「俺はこうやって体育の授業を休んでまで勉強してるっていうのに、あの野郎は余裕でサッカーなんかやってやがる……。今に見てろよ……」


 ツトムの瞳は嫉妬と憎しみで濁りきっていた……。





 体育が終わった後、シュウイチは教室に戻った。


 シュウイチが制服に着替え終わったとき、ちょうど更衣室から女子たちが戻ってきた。


 今の体育が四時間目の授業だから次は給食の時間だ。


 給食当番ではないシュウイチは少し勉強をしようと机の引き出しに手を入れ、先ほどしまった筆記用具を取り出そうとした。


「ん……?」


 机の中に入れた手が何やらフサフサとした物に触れた。


「なんだこれ……?」


 シュウイチは誰かが間違えてぬいぐるみでも入れたのかと重い、何気なくそれを引っ張り出した。


 机の中に入っていたものが蛍光灯の光の下にさらされる。


「うわぁあああああああああああああああ!」


 〝それ〟を視界に入れるや否や、心臓が跳ね上がり、シュウイチは絶叫とともに後ろにひっくり返った。


 シュウイチの椅子や後ろの生徒の机がまるでドミノ倒しのようにガシャンという音を立てて倒れる。


 これには他の生徒も騒がずにはいられなかった。


「なんだ、なんだ? どうしたんだ?」


「木戸が突然悲鳴をあげてブッ倒れたぞ!」


 教室中の生徒の視線がシュウイチに集中した。


「きゃああああああああああああああ!」


 床に落ちた〝ある物〟を見つけた女生徒が先ほどのシュウイチに勝るとも劣らない悲鳴をあげた。


 床に落ちていた物――つまり、先ほどシュウイチが机から引っ張りだしたのは、血まみれになったネズミの死骸だった……。

 


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