出会い
薄暗い空間の中に、『それ』はあった。空間の中は、激しい振動と轟音が鳴り響いている。にも関わらず、まるでここに無いと錯覚してしまうほど、『それ』は乱れなく存在していた。
『待ってたよ…』
そう聴こえた。幻聴のような、だけど、確かに聴こえた頭に響く声。回りには誰も居ない。居るとするなら、眼前にある『機体』だけだ。薄暗い空間の中でも、美しく白銀の光沢を持ち存在するそれは、神々しくさえ思えた。
唐突に、金属の擦れ合う甲高い音が、眼前の『機体』から聴こえてきた。その『機体』の胴体部分が蓋のようにハッチが上へと開いた。それと同時に、僕が立っている橋が上昇し、開いた胴体部分へと着いた。薄暗い空間の影響で、内部は見えない。見えないが、私の見当違いで無いならば、恐らくコックピットだろう。
「…原型機」
実際に見たわけではない。既存の『量産機』とは全く外見が違うというだけだ。だけど、何故かは解らないが、これが『原型機』だという自信がある。
「私達は、あなたを待ってたよ…」
頭に『聴こえた』声が、右横で『聞こえた』。振り向くと、いつの間にか『少女』が佇んでいた。外見にして、十代半ばくらいであり、白いワンピースを着ていた。一際目に入ったのは、背中の中程まで伸ばした『白銀』の髪であった。
「僕を…待っていた…?」
「うん。私も、『彼』も…」
「彼?」
その問いに、少女は指を指した。それは、先程まで見ていた『機体』のことだった。
「乗って」
そう言った少女は、『白い光』と成って、眼前の機体へと消えていった。ここに立ち尽くしていても何も変わらない。そう思った僕は、激しい振動で体勢を崩しながらも、機体へと乗り込んだ。機体の中は、丸い球体のようだ。その奥に、まるで枝のように設置されたコックピットがあった。『量産機』ですら乗ったことが無いが、自然と乗り方が分かった。自転車のようなシートに股がり、左右に伸びている『操縦桿』を握る。っと同時に、先程まで開いていたハッチが閉まり、多数の量子モニターが出現し、次々と何かが更新されていく。ほんの数秒そのことが続いた後に、操縦桿周辺に機体の状態や『何か』を計測している数値、そして、機体に内蔵されている『リアクター』(主動力機関)の出力が表示された。
「やっぱり、原型機だ…」
先程まで自信でしかなかった思いが、確信へと変わった。現代技術とは別の道に進み、共に発展し、しかし、危険と判断され封印された技術の遺産、『原型機』。複数存在する内の一機が、この機体なのだ。
「エンペラー?」
機体状態を表示する量子モニターに書かれていた機体コードを読み上げると、球形全体が機体周辺の風景を映し出し、『エンペラー』と呼ばれる『原型機』は、起動し始めた。