表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デルタトライナイト  作者: 水原翔
第一章 ラボンス突入編
9/62

第8話 「エデン、皐月の行方」

「ようやく倒せたな……」


 カエンはふらつきながら砂になった巨大甲冑を見て、言った。

 本当にようやく、倒すことが出来た。両目を狙って、倒れてしまうなんて……とは思わなかったけれど。

 健次のペンダントゲートも、時間切れのようで、カエンの刀のように煙を上げ、色が消えていった。

 なんとか、勝てたのだ。


「ちょっと、大丈夫カエン!?」と、星影はふらつくカエンの体を支えるため、肩を貸す。


「わりぃ。ちょいと力使い果たしたみてえだ……ちと休ませてくれ」

 カエンはそのまま、床に座り込んで、壁に背中を付ける。


「俺のことはいい。2人とも奥に行ってくれ。3人で行くってのは、条件じゃなかったはずだからな」


 カエンはつぶやく。

 確かに、クロウズさんからは「深層に辿り着け」という目標を与えられた。

 別に3人で行くことに対しては指定がないので、あの目標を言葉そのままの意味で受け取るならば、星影か健次がこの先にいって、カエンを置いても何も問題ではないはず。

 だけれど、それとこれとは問題が違う。


「傷だらけなあなたを放っておくわけにはいかないわよ……」

「そうだよカエン」

「へへっ、泣けてくるなお前ら」

「そもそもカエン、あなたがゲートを開放なんてしなければ、こんなことにはならなかったのよ」

「まぁ、それを言われちゃあなんも言えねえなぁ」

「けど、実際これからどうしよう」


 じっとしているわけにはいかない。試験はまだ継続中なのだ。

 監視水晶は、僕ら3人の後を追うように浮かんでいる。

 

「体力だけでも回復しましょう、3人で行くわよ、カエン」

「それもそうだな……頼むぜ」

月の恵(モーゼン)


 星影のゲートが光り、星影の手から白色の光がカエンの体に向けられる。

 

「星影、回復魔法が使えるんだ」と健次はつぶやく。

「私の回復魔法は水のゲート程、効果はないけれど」

「いや助かる。そうだな、俺が立てりゃあ問題ねえな……」


 カエンは、さっきまでのふらつきがなくなり、そのまま立ち上がる。

 ただ、戦う力はないから気を付けてと星影はきつくカエンに忠告した。

 そして3人は、巨大甲冑が倒れた先の門を通る。道幅が狭く、一本道が続いている。

 

「しかし強かったよなあいつ」

「あれだけ強かったもの、この先に3大戦士デルタトライナイトのお宝か何かが眠っていてほしいものね」


“何か”が祀られているへレビス遺跡。おそらくあの巨大甲冑は、その“何か”を守るための守護者みたいなものだったのだろう。と健次は推測する。

 けどあんな高速ランス、二度と戦いたくないと思う。

 あれは一歩間違えれば本当に遣られていたに違いない。そう考えるとゾッとする。


 そんなことを考えていると、どうやら深層に辿り着いたようで、また広い所に出た。


「なんだ……ここは」


 ……門。また門だ。非常に大きな門が、3人の前に現れる。

 先ほど巨大甲冑が出現した1つめの扉よりも遥かに大きく、装飾も派手に施してある。


「門? また門なのかしら」


――いいえ。ここでへレビス遺跡は深層ですよ


「だ、誰だ!?」

 カエンが叫び、3人は戦闘態勢に。

 また、敵なのだろうか。


 女性の声。優しそうな声がする。

どこからともなく聞こえてきて、どこからか聞こえているのかは分からない。

すると突然、目の間に緑色で長髪、服装は白色のワンピースをつけた女性が現れた。

よく見ると、耳の部分がとがっていて、人じゃないような気がしてくる。


「よく辿り着きましたね……。お見事です。未来の戦士さんたち」

「君は、誰?」と、健次は緑色の女性に声をかけた。

「私はエデン。この門、楽園の扉(エデンゲート)の管理者です」

「エデンですって!?」

 

 星影は驚く。しかし、このエデンという女性、なんだかふわふわした雰囲気で、なんだか気が抜ける。


「私の事を知っているのですか!! うれしいです!」

「知っているも何も……」

「星影、あの人って」

 健次は尋ねる。


「あなたに一番最初、言ったわよね、あなたのことを、楽園の扉エデンゲートから来た、ダゼンスの民だって。そのエデンゲートを管理しているのが、女神エデンと呼ばれているわ。私は今不思議な気分よ……伝説上の人物が今目の前にいるなんて」

「え、ということは」


 この、へレビス遺跡の深層は、健次がこの世界に迷い込んだ扉、楽園の扉エデンゲートそのものだということになる。つまり、健次がラボンスに迷い込んだ扉の、ラボンスからの入り口。ということになるのだろうか。


「その通り。数日ぶりですね新山健次さん。私のことを覚えてらっしゃいますか?」

「いや、覚えているも何も、君とは初対面だよ」


 健次は、扉を渡った後、星影とカエンに助けられたのだ。

 このエデンという女性と出会って、話した覚えはない。


「がーん!! 2000年ぶりに人とお会いしたというのに」

「2000年!?」


 年が2000歳ということになるのか。なんというご高齢。

 しかし見た目は20代のチャンネーそのものである。

 星影から、エデンはエルフ族という種族の人だということを聞いた。

 人間よりも寿命が長く、かなり長生きする生物らしい。


「やーん恥ずかしいです。 でも心は永遠の17歳だゾ♪」


 きらりとピースをする女神エデン。


「なんかこいつ腹立つぞ……」


 カエンはその態度に腹が立ち殴ろうとしているが、その手を止める星影。


「押さえてカエン。女神様に失礼よ」

「あ、あの、エデンさん、聞いてもいいですか」


 健次は、知りたくて仕方がなかった。この世界に来た時の門番ならば、一度健次と会ったことがあるならば、この世界に来た時にあったのならば、聞かなくてはいけないことがある。

 皐月のことだ。エデンなら、何か知っているかもしれない。


「やだ私の事ですかぁ!?」

「いえ、あの、以前お会いしたとき、僕の連れの女の子がいたと思うんですが、その子がどうなったか、知っていますか?」

「……。健次さん、何も覚えていらっしゃらないのですね」

「すいません。ケルタ村で目覚める前、どうなっていたか覚えていなくて」


 本当に不思議と、ぽかんと穴が開いている時間。

 皐月を連れて門を超えた時、気がついたらケルタ村で目が覚めて、星影やカエンと出会っていた。健次自身はてっきり、ラボンスに来た瞬間、ケルタ村で目が覚めたのかと思っていたが、それならば皐月の行方がどうなったのか説明がつかない。明らかに、忘れているのか、覚えていないのか、空白の時間がある。

 その手掛かりが、このエデンさんが握っているかもしれない。原因はわからないが、何らかの理由で忘れてしまっている、皐月の行方を。

 覚えているのは、夢だけだ。

 あの巨大甲冑を倒した時と同じような言葉を言った、あの夢。


 ――チカラを、示セ。

 そう闇の中の影は言った。覚えていることはそれだけだ。


「あなたのお連れ様ですが、簡潔にいうと、誘拐されました」

「……誘拐!?」

「はい。ブラッド家を名乗るその軍団が、貴方が異世界ラボンスに来ることをまるで知っていたかのように、こちらに訪れました」

「ブラッド家だと!?」


 カエンが反応する。ブラッド家ってなに?

 エデンはそんなことはさておきといった感じで、話を進める。


「ブラッドは、あなたのお連れ様を誘拐し、あなたを殺害しようとしました。私はそれをなんとか防ぎ、貴方はそのまま気を失った……。私はそのあと、妖精さんに頼んでケルタ村郊外へあなたを避難させました。私は盟約でこの場を動けない身となっているため、お連れ様を追いかけることが出来ず、本当に申し訳ありません」

「ちょ、ちょええ?」

「誘拐されたの!?」


 皐月が、誘拐……!?

 目覚める前に、そんなことが起きていたのか。何故覚えていない……?

 健次は自分自身の頭を巡らし必死に思い出そうとするが……覚えているのはあの夢だけだ。


「恐らく、あなたに暗示がかけられていたのでしょう。どの時代もいるのですね……姑息な手段を使う輩が」


 暗示……。

 そのブラッドというやつらが何者かは分からないが、皐月が誘拐されたことが分かった。

 あの時、夢の中の声は、タイセツヲウバウ。といった。

 その大切、おそらく皐月の事だったのだろう。


「エデン」とカエンが遮るように聞く。

「はい、何でしょう?」

「そのブラッドだが、両腕に獣の牙みたいな奴はいなかったか?」

「……申し訳ありません、いなかったと思います」


 そうか。とカエンは引き下がる。誰か探している人でもいるのだろうか。


「カエン、ブラッドって何?」

「……国際指定犯罪組織、ブラッド家。その連中の目的は謎だが、殺人一家とも呼ばれているらしい。要は悪ぃ奴らということだ。俺はその連中のある人物を探してる」


 カエンの目が、見たこともないような怖い目をしている。何かその人物に、心当たりがあるのだろうか。


「皐月は、大丈夫なのか……?」

「命に別状はないと思うわ。彼らの目的があなたの言う皐月って子の命なら、殺されているはずだし」


 健次は少しほっとする。皐月はまだ生きている。

 なら、助けなくてはいけない。|奴ら(ブラッド家)から皐月を取り戻さなくてはいけない。

 目的は定まった。ブラッド家を探し、皐月を取り戻す。


「ええ。そして、戦士さんたちには伝えなくちゃいけないことがありま……す?」


 エデンが、何か言おうとしたその時。

 エデンの腹部に、突如ナイフが突き刺さった。


「く……あ……」

「エデンさん!?」


 星影とカエンが戦闘態勢に入る。

 健次もナイフを構え、周囲の様子を伺う。


「……」


 ナイフを投げた主が、姿を現す。

 声を一言も発せず、黒いフードに身を包んでいる。顔も分からない。

 しかし、漂う強烈な、“殺意”。

「女神も死ぬのだな」


 突如、一言話し始めた。そして黒ずくめの男は、エデンに刺したナイフをそのまま、回し始める。


「あ……ぅ……」


 エデンの腹から、大量の血液が流れ出てくる。

 人間と同じように、赤い血液が。


「てめえ!!」


 カエンがとっさに刀を黒ずくめの男に振りかざそうとする。それに合わせて背後からも星影が槍を構え、同時攻撃をしようとするが……。

 黒ずくめの男は、それをひらりと交わした。エデンを左手で持ちながら。


「なっ!?」

「やるわね」

「何者だ、お前!!」

 カエンが訪ねる。


「ブラッド家だ。貴様ら、弱いな……」


 ブラッド家……。

 健次は、人の流れる血を始めて見た。

 何もできない。

 怖い。怖い。動けない。

 手足が、震えている。

 自分自身の本能で、危険だと感じる。

 恐怖心で、口も開かない。


「なんだと!?」

「まぁいい。目的は達成された。貴様らにはここで消えてもらう」


 そうして、黒ずくめの男は、フードの中から剣を取り出し、カエンたちに襲い掛かろうとする。その時だった。

「何!?」

「……やはりそうだったか。ブラッド家」


 クロウズだ。第一次試験監督官の、クロウズが、健次たちの目の前に現れた。

大剣を振りかざし、ものすごい速さで黒ずくめの男を斬りつけようとするが、男はそれを防ぎ、大きく後退する。

 その隙を狙って、クロウズはエデンを取り返した。

 迫力が……違う。

 健次は恐怖心が少し和らいだ。クロウズは、強い。


「受験生、申し訳ない。到着が遅れた」

「監督官!!」とカエンは叫ぶ。

「緊急事態だ、お前たちは下がっていろ。女神様を頼む」


 クロウズの指示通り、エデンを連れてそのまま下がる3人。星影はエデンの治療を始めた。


「女神様!!」


 星影も叫ぶ。


「はは、私も所詮エルフ、生き物だということですね……でも大丈夫。私の体は……なくなるかもしれませんが……楽園の扉エデンゲートは機能する筈です」


 エデンは、喋るのにも精一杯な状況になっていた。

 腹部からの出血が止まらず、かなり痛そうだ……。


「しゃべらないで!!月の恵モーゼン!!」


 星影は、必死にエデンの腹部に回復魔法を施す。


「健次さん……カエンさん……星影さん……よく聞いてください。貴方たちは巨大甲冑ゴーレムを倒すことが……出来ました。それは……つまり、3大戦士デルタトライナイトの素質があるということです……」

3大戦士デルタトライナイトの素質だと!?」

 

 カエンは答える。新山健次、星影ナツキ、カエンの3人が、2000年前にラボンスで活躍した、3大戦士(デルタトライナイト)の素質があると、エデンは言っているのだ。


「ええ……。私が息絶えた時、エデンゲートは強力……な防護壁で守られ……ます。健次さんが……元の世界に帰るためにも……あなた方の敵である……ブラッド家を倒すためにも……トライスキルを手に入れてください」

「トライ……スキル」

「ええ……。それを習得することが出来れば……あなたたちは今よりも格段に……強くなるはずです……。健次さんのお連れ様を……助ける力にもなります……」

「皐月を、助ける力」



 健次は、改めて思う。自分自身の弱さを。

 このラボンスに来て、皐月を誘拐されたことが分かった。その誘拐した連中は、あの黒ずくめの男のように、ものすごい殺気立つような、連中であると。

 その黒ずくめの男に対して、健次は戦う気すらおきないくらい、戦力差を感じたのだ。

 ゲートが今使えないことが理由になるのか。

 ナイフが今使えないことが理由になるのか。

 違う。新山健次はまだ弱いのだ。それを本当に自覚する。

 属性が変化できたからと言って、巨大甲冑ゴーレムが倒せたからと言って、強くなったわけではない。

 これから、始めるのだ。

 これから、強くなるのだ。

 篠山皐月を助けるために。


「みなさん、ご武運を……」

 

 エデンは、そのまま目を閉じて、何もしゃべらなくなった。

 ラボンスに来たとき、最初に助けてもらった人。

 お礼も言えていなかった。

 もう少し、話をしてみたかった。


 その様子を、カエンと星影と健次はただ、見つめていることしかできなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ