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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第一章 ラボンス突入編
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第6話 「スタート、へレビス遺跡Part.3」

【登場人物】

新山健次 …主人公

篠山皐月 …主人公の幼馴染(行方不明)

カエン  …空に近づきたい夢を語る青年。

星影ナツキ…カエンの連れ。

クロウズ …スカイベル学園第一試験の試験監督官。

【状況】

現在地  :ラボンス「ベルフライム王国」ケルタ村郊外 へレビス遺跡

現在の目的:王立スカイベル学園の第一次試験を攻略しよう

「やったのか……?」


 健次は、カエンの大火炎斬が、巨大甲冑に命中した様子を見て、呟く。


 巨大甲冑の鎧は、カエンの炎によって燃え盛り、沈黙を保っている。

 直立不動のまま、立ち尽くしている。攻撃が効いたのだろうか。

 だが、油断はできない。

 カエンは再び深呼吸をして、様子を伺う。

 あの一撃を出した瞬間、カエンの息が上がっている。

 もしかして、相当無理をしているのではないのだろうか。

 

「馬鹿じゃないの……ねえ、あいつ何したの」


 星影が、いつの間にか意識を取り戻している。そして、疲弊しているカエンを見ながらつぶやき、健次に尋ねた。

 掠れた声で言っていて、馬鹿にしていると言うより、どうしてなのかと言っている気がする。


「僕もよく分からない。ゲート最大解放って言って」


 何か、カエンにとっていけないことだったのだろうか。


「解放したの……? ほんと馬鹿じゃないのあいつ」

「どういう、こと?」

「ゲート最大解放。文字通り、ゲート保有者がラボンスコアの力を最大限に使うことができるわ。けれど、それに伴う自分自身の負担がかなり増大するの。ほんと馬鹿。カエンの馬鹿」


 感情的になる星影。

 つまり、カエンは出せる力を今極限まで高めて、攻撃したと言うことになる。

 負担の増大って、どんな風になるのかは分からないが、カエンの体にかなり大ダメージが在るって事になる。


「どうして、どうしてそこまで」


 ――ナツキを傷つけ、俺たちの目的を邪魔するお前を、絶対に許すわけにはいかねえ!!

 カエンがさっき言った言葉を思い出す。

 目的は後で聞くとして、何がカエンをあんな風にさせるのだろう。

 というか、あんな全力なやつ、これまで出会った中で初めてかもしれない。

 ……全力?


 健次は改めて、考える。

 自分自身、カエンのようにこれまで全力を賭けて何かにぶつかり、進もうとしたことがあったのだろうか。

 「ヒーローになる」という子供の頃に描いた夢を忘れて、安定したい生活を送ろうと思った時、何故自分は諦めてしまったのだろうか。

 今は、分からない。

 そんなことを考えているときだった。


「なっ!?」

 

 カエンの驚く声。

 巨大甲冑の炎が消える。そして、両目がまた、青く光り始める。まだ、まだ動くのか。

 ランスを真上に構え、また攻撃の構えをしようとしている。

 そして、次の瞬間。


「くっ……」


 カエンは、超高速で飛んでくるランスをなんとか刀で防いだ。

 致命傷は免れるが、力負けして飛ばされてしまう。


「カエンッ!!」


 遺跡の壁にぶつかり、カエンの刀のゲートの光が消え、炎が消えていく。そして、刀から煙が立ち上る……。

 

「畜生、もう時間切れかよ」


 そう呟いて、カエンはその場に倒れた。

 その光景を、健次はただ見つめている。

 星影も意識は回復したが、戦闘できるほどの状態じゃない。

 

「逃げなきゃ……」


 でもどうやって?カエンを抱えて、星影を連れて、巨大甲冑の高速攻撃をかわしながら?

 そんなこと、自分には出来ない。

 

「はは、どうしろって言うんだよ」


 2人は動くことが出来ない。そして当の新山健次の武器はナイフ一本だし、戦う術がない。

 なんとかして、逃げなければ。

 あいつの、巨大甲冑の気を何かで引かせるか?

 いや、たとえそれが成功しても退路をあのランスで塞がれるかもしれない。

 自分一人でも難しいかもしれないのに、2人を連れていくなんてさらに無理がある。

 序盤の初期装備でラスボスと戦っているような感覚だ。

 あんなのとまともにやり合おうとしたカエンって、凄い。

 

 考える暇もなく、巨大甲冑の目線が健次のほうを振り向く。

 ああ、ここで死ぬのか――。

 

 くそ。

 畜生。

 結局僕は、このまま終わるのか。

 皐月、ごめん、僕は、君を探すことも、助けることも、出来なくなってしまう。


 ランスが、健次に近づく、その瞬間。

 突如、周囲の動きが止まり、周りの色がすべてモノクロになった。

 何が起きた?

 時間が止まった?

 どういうことだろうか。


「……なんだこれ!?」

『それでいいのか? 覚悟を決めたのではないのか?』


 声が聞こえる。ラボンスに入る前に聞いた時の声と似ている。

 何故だが、この声。どこか懐かしい気がする。

 でも誰の声だったか、思い出すことが出来ない。


「覚悟……」


 ラボンスに入るときの、門での覚悟。

 最初は皐月に連れられて来たが、なぜあの覚悟を決めた?

 確かめたい。

 そう、確かめたいんだ。親父が何を思って僕にペンダントを送り、この世界に連れてこようとしたのか。

 何もわからないまま、ここで終わっていいのか?

 連れてきた皐月を置き去りにしてここで終わっていいのか?


 いいはずがない。


『覚悟を決めろ、健次。そして最初は己の“弱さ”と向き合え。まずは切っ掛けだけでもだ』

「己の、弱さ……」


 モンスターを目の前に、戦うことを恐れた健次。

 そして今もなお、戦うことを恐れている健次。

 それは果たして、自分が“弱い”からというのだろうか。

 それが健次の弱さなのだろうか?

 

 ――否。

 自分自身でも薄々気が付いている。

 本当はそんなことじゃない。力の弱さなんて初めからわかっている。

 問題は、その“弱さ”がどれくらいかを図ろうとせずに、敵の前に立ち尽くしていることだ。

 つまり、新山健次の“弱さ”は、戦うことを恐れ、自分の力を知らない、臆病さにある。

 だが、そんなこと。


「臆病だって、いいじゃないか」

『それがお前自身が認めているのなら、いいのかもしれない。しかし、お前自身、本当のお前自身は、その臆病さを認めていない』

「っ!?」


 臆病さを認めていない?

 健次は声の主に言われて初めて、自分の思いに気が付く。

 こんな状況下でも、戦おうとしている、自分がいることに。


『その臆病さを認め、自分の弱さとして受け入れろ、まずはそれからだ』

「弱さを、受け入れる……」


 そうだ、何も行動を起こさずに、最初からあきらめてどうする。

 足掻いて、足掻いて、それでも無理なら仕方がない。

 けれど、最初から何も行動を起こさないで、逃げてどうする。

 では、なぜ逃げた?

 自分を知ろうとしない、僕自身の“弱さ”。


「まずは、やってみなくちゃな」


 やってみて初めて見えてくるものがあるはず。

 カエンは、圧倒的な戦力差にも関わらず、現時点での全力をぶつけたのだ。

 その姿を見て、心が動かないといったら嘘になる。


 動いたのだ。彼の叫びを。

 彼の思いを。

それが何かは分からない。けれど、新山健次は彼の行動に心動かされたのだ。

 決死の覚悟になって、敵を倒そうとする、決意。

 

「でも、力が……」


 しかし、自分自身の弱さに気付いたところで、どうなる?

 この状況を打開できる何かが、自分自身にはあるのだろうか。


『ゲートなら、すでに持っている』

「え?」


 ゲートをすでに持っている?どういうことだろう。

 とっさに思いついて、ポケットから取り出した、ペンダントが。


「これが……、僕のゲート?」


 遺跡の扉に反応し、鍵のような役割だと思っていた、父から届いた謎のペンダント。

これが、ラボンスでの、健次の武器、ラボンスゲートだというのか。

 なら、これを使えば奴に勝てなくとも、勝負することはできるはずだ。


『今のお前には倒せない。だが、それでいい。おまえの今の“弱さ”を知れ。そして目指すべき“高み”を見極めろ』


 戦う前から負けていることが告げられる。

 けれど、だからなんだ。そんなことは初めからわかっている。

 周りの風景が元に戻り始める。

 

「おまえは、一体」

『私のことはいい。今は目の前に集中しろ。健闘を祈る』


 時は、再び動き出す。

 巨大甲冑のランスが、健次の目の前に迫っていた。

 やるしかない。

 勝てないのだとしても、この状況を打開するためには。


「ラボンスゲート、最大開放ッ!!」


 健次は、ペンダントを握りしめ、カエンと同じように叫んだ。

時間がないから現時点での全力を、出すしかない。

その瞬間、カエンの爆風ほどではないが、風が吹き荒れ、ランスの軌道が健次の右横にすこしずれた。

直撃は、免れる。

しかし速さは半端ない。ゲートを開放してもなお、この速さはついていけない。


「なんとなかった!!」


 ペンダントを真正面に向け、ちょっとほっとする。


「ペンダント型の、ゲート……」


 星影は、健次自身がペンダントのゲートを持っていたことに驚く。

 彼が、ダゼンスから来た人間で、今ラボンスに来たばかりならば、彼はどうやってゲートを手に入れたのか。

 まさか、ダゼンスから?

 ダゼンスにも、ラボンスと同じように、ゲートの仕組みがあるのだろうかと、考えてしまう。


「星影」

「ええ?」

「僕のゲートは、何属性なんだろ」


 健次は素朴に感じた。

 属性が何かわからないならば、戦い方が分からない。

 しかし星影は、眉間にしわを寄せ、難しい顔をしている。


「ゲートは色で属性が判断されるはず。木のゲートは緑、火のゲートは赤、土のゲートは茶、金のゲートは黄、水のゲートは青、月のゲートは黒……でもあなたのゲートの色、色がおかしいわ」

 

 色が、おかしい?

 どういうことだろうか。

 だが、属性がゲートの色で証明されることは理解できた。

 なら、自分自身で色を見てみよう。

 健次は、自分自身のペンダントに埋められた水晶ゲートの、色を見る。


「なんだ、これ……」


 ――虹色。

 健次のゲートの色は、虹色をしていた。

 

「虹色のゲート、こんなもの、生まれて初めて見たわ」


 じゃあ、何だというのか。

 属性が分からないというより、新種のゲートらしい。

 そんなことが分かっても、使い方が分からなければ、意味がない。


 巨大甲冑は再びランスを構える。

 また、あの高速攻撃が来る……!

 避けることは難しい。なら、あいつの攻撃を防ぐ盾さえあれば。

 そう考えた瞬間、虹色のゲートが突然、茶色に変わった。


「なっ!?」

「色が変わった?」


 そして、お鍋のふたぐらいの大きさの土壁が、健次の前に出現する。

 しかし、そんな小さい壁なので、甲冑のランスはそれを貫いた。


「弱っ……!!」


 弱すぎる。なんか出たと思ったら、しょぼい盾。

 でも、何かできるはずだ。

 ランスの攻撃を防ぐのが無理ならば、星影みたいに足止めできれば……!

 そう、考えた瞬間、また健次のゲートの色が、黒色に変わった。


「今度は月のゲート!?」


 そして、僅かな黒色の球体が、巨大甲冑の足を止める。

 しかしその力は星影の月のゲートのように強くはなく、少し動きが鈍るぐらいで、あまり効果がない。

 

「意味ねえ!!」

(意味は、ないけれど……)


 星影は気が付いた。健次の虹色のゲートの意味を。

 ゲートから出ている魔法は初級魔法程度の微々たる魔法。最大開放してもあの程度なのは、新山健次のポテンシャルがまだ低い。魔法を扱う器ではあまりないように見える。

 だけど、問題はそこじゃない。

 確証はないが、彼は、『基本属性』を、変えている。

 健次は、基本属性を自在に変化させているのだ。

 これまでかつて、そんなゲートを持つラボンス民がいるとは、聞いたことがない。

 訓練で、他の属性が使えるようになることは聞くが、せいぜい1つくらいが限度だと聞いたことがある。しかし彼は、訓練もせずに発動させているのだ。

 ゲートの基本属性は、生まれた時から決まっているはず。

 そしてその基本属性が変化することは、ありえない。

 ましてや戦闘中に即座に切り替えるなんて、ラボンス中のゲート学者が大注目するくらいのレベル。


(一体、あの男、何者……?)


「あれ、今のも土魔法?」

「貴方馬鹿じゃないの、今のは月魔法よ」

「え? どういうこと!?」

「効きたいのはこっちよ……」


 健次は、自分自身で無意識に属性を変えていることに、気が付いていなかった。

 無意識で、無自覚なことに、星影は疑問を感じる。

 しかも彼は、魔法名を叫んでいない。

 それなのにもかかわらず、切り替わったゲートの属性に対して、魔法を出現させている。

 

(なんなの、もう)


 そして、また、巨大甲冑がランス攻撃を繰り返そうとする、その瞬間。

健次の手から、微弱ではあるが炎が出現し、巨大甲冑にぶつける。

 また力が弱く、巨大甲冑に対してはびくともしない。

 ゲートの色が、赤色、つまり火属性に変わっていた。


「僕弱ぇえええ……!! やっぱカエンのようにはうまくはいかないか……」


 健次は、これが自分自身の今の力なのだと自覚した。

 虹色のゲートといい、想定外の出来事が起こったけれど、それに対しての力はカエンや星影たちには到底及ばず、巨大甲冑にかすりもしていない。

 せいぜい、避けるのに精いっぱいな程度だ。

 

「危ないっ!!」


 忘れていた。

 魔法が出せても、ランスを交わすのを。

 健次の体を、巨大甲冑のランスが、ものすごい速さで貫いた……。



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