第61話 「記憶の村の中で」
かなり久々です。地道に更新していきます。
――ゼノ。
その名前はどこかで聞いたことがある気がしていたけれど、どこで聞いたことかどうかもちゃんと覚えていなかった。かすかな意識の中で、カエンは心の奥底から聞こえるその声に、惑わされ続けている。
「あぁあああああああああ!!」
「カエンっ!!」
星影はその様子を心配しながら、カエンの攻撃をかわし続ける。彼の力任せの攻撃に、星影は押され続けていくばかりだ。パワーなら確実に彼の方が上。かわすだけでは意味のないことに薄々感じ始めていた。
殺意。これまでに見たことない殺意が、星影に対してではなく、すべてに向けられていること。
その殺意を、カエン自身が必死に抑えこもうとしている姿を見ると、どのように進めて良ければよいのか迷いが生じる。ひとまず星影は、カエンの攻撃の手を緩めるべく、重力魔法を使い始めた。
「月の重力!!!」
「ぐぁあぁああああああああ」
「ひとまず動きは封じたけれど……」
「あぁあああああああああ!!」
自我を失い、ただ叫び続けるカエンを見る。重力魔法によって動きが鈍くなり、攻撃をかわしやすくなる。
「キリがないわね」
バックステップをし、ある程度の距離を保つ。カエンとまともに戦うのは、いつ以来だろうか。
星影と戦うときはいつも、彼は気を使っていて本気を出してくれていなかった。
今は無我夢中で向かってきている。
油断したら、死ぬ。
カエンはそれでもゆっくりと大技の構えをしてくる。
「星影ッ!! エレメントチェンジ、アクア!! 氷の球」
健次も、何かできることはないか、と考えた。
レロッサ・アイスバイドが使っていた技を、カエンにぶつけられないかと。
しかし、そんな技もカエンの前には溶けて消える。
「ダメか……」
「普通の氷属性攻撃じゃ、カエンには全く効かないようね」
「だね、やっぱ強いや」
重力魔法の効果が切れかけたその瞬間、カエンはものすごい剣幕で襲い掛かってくる。
星影は自分の槍を向け、カエンの攻撃を受け止める。
「影・火炎斬」
「くっ」
カエンがそう唱えた瞬間、黒色の炎を纏った刀が、星影を襲う。
槍で受け止めようとする星影だが、あまりの力業にどんどん後ろに下がらざるを得ない。
なんて力だ、と星影は思った。
攻撃を防ぐ構えをし、魔法である程度緩和させているにもかかわらず、両腕がじんわりと痛み出す。
思わず、槍を手放した。
「星影ッ!!」
「……駄目ね。強すぎるわ」
「コンディションを使うよ」
「どうする気?」
「この調整の力って、ひょっとしたら影人格を抑えることができるかもしれない」
ぱっと思いつき、だが健次は思った。
コンディションの力。
まだ自分自身、使いこなせてはいないものの、ひょっとしたら影人格のような人の感情も制御できるのではないか、と。
「危険そうな気がするけれど、やってみてもよいかも」
「珍しいね、星影が乗り気なの」
「カエンは間違いなく強いし、今ので確信に変わったわ。力じゃカエンには、私達2人では勝てないってこと」
「そうだね」
「なら、正攻法じゃない違うやり方で、やってみるしかないじゃない」
「わかった、やるよ!! トライスキル、コンディション!!」
★☆ ★
——その、刹那だった。
脳裏に、膨大な記憶が流れ込んでくる。
おそらくこれは、カエンの記憶だ。
「これは……村?」
健次は気づけば、自分の体が見知らぬ村にいることに気づいた。
ここは、どこなんだろうかと、近くの壁に触れると、手が貫通してしまう。
「サミル村……」
近くの看板にそう書いてあることが見えた。
そういえば前に、カエンが自分の出身の村を少し話してくれたことがあったような、と健次は思い返す。
フォグル工房で色々あった際に、ふと話してくれてた。
だけどその村があったことしか、話してくれたことがない。
少し歩いた先に、人里離れたところに一面の畑がある中、1つぽつんと家があるのが目に入る。
そこから、制服を着た男が、ゆっくりとこちらに歩いていくのが見えた。
「兄ちゃん!」
そうやって叫ぶのは、赤髪の少年。声のトーンですぐカエンだと分かった。小さいころからも元気がよかったんだな。
「カエンか。どうした」
カエンって兄貴がいたんだ、と思いながら健次は会話に耳を傾ける。
「俺って、なんで兄ちゃんと髪の色が違うの?」
確かに、彼のことを兄と呼ぶ青年は、黒髪でありカエンの地毛と全く違う髪の色をしていた。
「それはな…」
その瞬間、健次に聞こえないような口の動きを、兄貴と呼ばれる人物はした。
それを聞いた瞬間、カエン目が赤く染まりだし、目の焦点がなくなってしまう。
「お前はこの農家で生まれただけだ、赤い髪に疑問を持ってはいけない」
「わかりました」
「っ・・・!?」
従順に従うカエン。
そんな姿なんて、見たことがなかったのに、スイッチが入ったかのように受け入れている。
「なんだ…これ」
「いい子だ。ブラッドを受け入れているな」
「ブラッド!?」
思わず声を出した。
これはおそらく記憶、そんなはずなのに、健次が出した答えに対して、カエンの兄の人物はこちらを振り向いた。
「なぜ?」
「っ!?」
「なぜ、ここに入れる?」
「会話できる!?」
「質問に答えろ、なぜ、ここに入れる!?」
兄の姿が変容はじめ、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
その瞬間だった、その場にはカエンと兄と健次しかいなかったはずなのに、村の人物だろうか、気づけばゾンビが取り囲んでいた。
「っ……」
変容した姿に見覚えがあった。獣のような腕をもった、目が充血した人物。
彼は、ゾンゾ=ザス・ブラッドへと姿を変えたのだ。
「カエンの兄が、ブラッド!?」
姿を変えた瞬間、周りにいたゾンビが次々と健次を襲い始める。
健次はかわしながら、自分のゲートを変化させた。
「……属性変更!! フレイムゲート」
変化させたゲートで、火の玉をゾンビにぶつけだす。次々に燃えていくゾンビ。
ゾンビくらいなら、なんとかなる。
というかこんな空間でも、自分の力が使えるんだ、と健次は思いながら技を放った。
兄の存在が実際のゾンゾ=ザス・ブラッドだとするならば、
あの洗脳したカエンは、本当のカエンなのだろうか。
「カエンをどうする気だ!?」
「もともとカエンはブラッド家の人間ダ。どうもしない、元に戻るだけダ」
「明らかに洗脳だろ!!」
「ドウダカナ。ブラッド家は上位存在に自然と従わなければナラナイ」
健次はゾンビの攻撃を炎にぶつけながら、小さいカエンに近づく。
そして何とかカエンの頭に手を当てて、叫んだ。
「トライスキル・コンディション!!」
「ヤメロ!」
近づくゾンゾやゾンビが、映像を一時停止したかのように止まる。
止まった瞬間、健次が小さいカエンに触れた額から、赤く星の文様が広がるのが見えた。
星は、六芒星となっている。
「健次……か?」
「カエンッ!?」
やはり小さいカエンは、カエン自身だった。
この空間はおそらく、あのゾンゾ=ザス・ブラッドが生み出したものなのだろう。




