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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第四章 ブラッド編
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第60話 「裏切」

なんとか学園長室にたどり着いた健次と星影。

 クロウズやクローバーは船内の巡回に向かっているようで部屋の中にはいなかった。


「……ふむ」


 学園長は健次のコンディションが使えなかったことや、星影の聞いた噂話を聞き、また、船内で起きている神隠しの出来事について、答えてくれた。


「……まだ公表はしていないのじゃが、神隠しが頻繁に発生していることは事実じゃ。そして、生徒の遺体も確認されておる」

「そんな……」

「ブラッド家特有の魔法が確認されていたとなると、確かにブラッド家がこの船に紛れ込んでいる可能性は非常に高い。緊急事態じゃ。軍事区の人間もさらに強化する必要がある上に、いったん着陸したほうがよさそうじゃの」

「ええ。時は一刻も争います。それに、この”ゆがみ”もおかしいし」


 学園長と話して、かなり深刻な事態になっていることを、皆理解した。


「そうじゃの。あとは軍事区の人間に任せるとよい。君たちはここで」

 

 その瞬間。通信が入った。

 緊迫感のある声で。 


『緊急事態――。緊急事態――。操舵室が乗っ取られましたッ!!』

「何じゃと!?」

『今、軍事区の人間が再突入を試みていますが、異様な空間に吸い込まれているのを確認。何かしら策を考えなければ、無意味な特攻をするような状況です」

「ふむ……。」


 学園長はひげを触りながら考えていた。


「僕たちに、向かわせてください」

「健次」


 健次は、席を立ち真っ先に声を上げた。


「今度こそ、僕の”コンディション”で、調整してみせる」

「無茶よ。あなたさっき……」

「うん、だからみんなの力を借りたい。星影。マスターでなんとかできないかな?」

「合わせ技、ってことね。なんとか考えてみるわ。けれど、それならば私たちも、操舵室に向かった方がいいかも」

「……?」

「今、辿ってみたのよ、この魔法の流れを、おそらく根源は操舵室にある」


 そう、星影と健次が話していると、


「魔法の根源を絶てば、健次殿の技でこの異常事態を収めることができる、ってことでござるな」

「ゼレングさん……にレンゲ」

「兄上がいなくなっているのよ。ここに来れば何かわかるかもってね」


 レンゲの言葉に対して、ゼレングは腹部をゆっくりと触っていた。おなかでも壊したのだろうか。


「私たちも仲間に加えてくれない……? おそらく兄上も、そこにいるはずだから」

「わかった。手数が多いほうが助かる」

「ヘッ、しゃあねえなあ」


 健次、星影、ミンティ、ゼレング、レンゲが、操舵室奪還に加わることになった。


「……仕方ない、ワシも向かうぞ」

「学園長!?」

「学園のピンチじゃ。死者も出ておる。ここでじっとしておるわけにはいかんしの」


 こうして、学園長を加えた6名が、操舵室へ向かうことになった。

 学園長室と操舵室は同じフロアにあるわけで、ベルフライム軍の軍人が待機している箇所にすぐ向かうことができた。


「エド艦長!?」


 その言葉に、星影たちは驚いた。

 エドは、学園長でもあり、この船の艦長でもあったようだ。 

 軍たちが苦戦しているのは、操舵室の前に現れた、禍々しい闇の渦。クラックだ。

 近づきでもすれば、あの闇の空間に吸い込まれてしまうらしい。


「異常事態じゃ。ワシらが少し試してみる」

「健次、用意はいいかしら」

「うん」


 星影と健次はそれぞれトライスキルの準備をし始めた。

 その刹那。

 禍々しい何かが、ゆっくりとクラックから這い出てくる。

 クラックの外側つかんだ瞬間に、空間すべてに殺気が漂う。

 この感覚、もしかして……。


「ブラッドかよ、おい」


 ミンティはすぐ気づいたようだ。

 軍も、学園長も、そこにいるメンバーも全員、ゲート武器を用意し、構える。

 獣のような手足、ボサボサにのびた赤い髪。

 獣人間と言うほうが一番しっくりくるくらいの、人間。

 ゾンゾ=ザス・ブラッドかと思いきや、それとは異なると一瞬でわかった。


 あれは……


「カエン……?」

「ウガガガガ……ガアアアアアア!!!」


 雄叫びを上げる。

 星影が読んだとおり、顔を見てわかった。

 体にいくつもの文様が描かれ、獣に変化してしまって、自分たちに殺意むき出しであっても。それがカエンだと、すぐにわかった。


 カエンが這い出すと、シルクハットをかぶりながらにやりと笑う青年もクラックから出てくる。そして、レンゲが探していた兄貴も……


「兄上!?」

「やあ、さっきぶりだな。レンゲ」

「……アン=ハムじゃな?それにゴロウ、カエンまで」


 学園長は3人の正体を確かめる。

 レンゲは凍ったように立ちすくんでいた。

 敵側に、ゴロウがいる。

 これは一体どういうことなのだろうかと。


 アン=ハムは頷くと、高らかに笑いながら話し始めた。


「ええそうですその通りです。ゾンゾさんはカエンさんに倒されてしまいましたが、私たちの目的であるデルタトライナイトの一人を影人格に取り込めましたので」

「……どういうことでござるか?」

「星影……」

 

 健次は、星影から聞くはずだった、影人格の単語を聞いて、真っ先に反応した。


「なるほど、そういうことね……。非常に厄介なことが起きたわ」

「星影!? 説明してよ」

「……私と同じことが、今のカエンに起きてるってことよ」

「星影と、同じ……」


 星影の巫女事件で、星影が暴走した時を思い出す。

 そうか、あれが影人格……。


「ということは、カエン、ストロングを手にしたのね」

「ウガガガガア!!」


 カエンは叫び、近くの軍人に襲いかかる。その瞬間とっさに飛び出したのは星影だった。自分の槍をカエンの軌道上に投げ、軍人の攻撃をかばう。


「……まさか、こんな形で借りを返すことになろうなんてね」

「ガアアアアアアアアアアアア!!」


 右手で思いっきり星影めがけて切り裂こうとするカエン。

 星影はうまく交わすが、頬に傷がつく。

 そんな光景を見ている最中。クラックから多数のゾンビが這い出てくる。


「あれは……」

「乗組員や学生がゾンビ化されてしまったようじゃな……」

「レンゲ殿、いくでござるよ……レンゲ殿!?」

「嘘でしょ、兄上、なんでそこにいるの?」


 ゴロウは武器を取り出して、近くにいた軍人を切り捨てた。

 その光景を見た瞬間、レンゲは確信して動けなくなっていた。

 ゴロウは黙ったままニヤリとレンゲを見つめ、近づいていく。

 レンゲを守らなくては、とゼレングはゴロウと対峙した。


「ゴロウ殿。貴殿は……裏切ったのでござるな?」

「裏切ったも何も。はじめからこの船を、いや、デルタトライナイトを殺すことが俺たちの任務だったからな」


 ゼレングの問いに、ゴロウは答えた。

 レンゲは唖然としていて動けそうにない、近くの軍人にレンゲをお願いし、ゼレングはゆっくりと剣を構えた。


「……なるほど。一つ聞くが、レンゲ殿もブラッドの血を引いていたのでござるか?」

「いや、俺は”養子”としてレンゲの家に入ったからな」

「……ふむ」


 アン=ハム・ブラッドと対峙したのは、学園長だった。


「おや、学園長自らが私とは。光栄ですね」

「貴様には一枚かまされたことがあるからの」

「あのときは失礼しました。いやいやなかなか殺せないんですもん、デルタトライナイトの皆さんは」

「あんな回りくどいやり方をしなくても、貴様らにはすぐにやれたはずじゃろう?なぜじゃ」

「”ゼノ”のご意志だからですよ。クライアントの命令には従わないと」

「艦長!?ここは我々が」


 軍人たちが、学園長を助太刀しようとするが。


「……こいつが一番手練れじゃからな。ワシが相手をする。おまえたちはゾンビを頼む」

 

 そうして3人とそれぞれが対峙する最中、多数のゾンビをミンティや軍人たちが倒すために応戦し始めた。

 健次もまた、少ない力を使って助力する。

 今助けるべきは、星影だろう。

 とても1人で勝てそうにない。


「星影!?」

「ありがとう健次。あの馬鹿力には、私一人じゃ敵わなそう」


 星影のダメージはまだ薄い。

 気にしながらも、カエンの攻撃は続く。

 人としての意識がなくなっている。完全に殺意に満ちた獣に成り果てていた。

 こうして、カエンと星影、健次。

 学園長とアン=ハム・ブラッド。

 ゴロウ・ブラッドとゼレング。

 そして多数のゾンビたちと、奪還戦が始まった。


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