第5話 「スタート、へレビス遺跡Part.2」
【登場人物】
新山健次 …主人公
篠山皐月 …主人公の幼馴染(行方不明)
カエン …空に近づきたい夢を語る青年。
星影ナツキ…カエンの連れ。
クロウズ …スカイベル学園第一試験の試験監督官。
【状況】
現在地 :ラボンス「ベルフライム王国」ケルタ村郊外 へレビス遺跡
現在の目的:王立スカイベル学園の第一次試験を攻略しよう
「嘘だろ……」
遺跡内部の様子を見ていたクロウズは、予想外の展開に驚いていた。
第一次試験は、門の手前までを深層とし、攻略終了する予定だった。
3人の中で唯一何もしていない人物がいたが、提示していた条件は、遺跡の深層まで行くという条件だから、問題はない。
そう、そこまでは問題はなかったはずだ。
しかし、その、“何もしていない”人物によって、これまで開かれたことのない、開かずの間が開いたことに、驚きを隠せなかった。
開かずの間の扉がどういった仕組みで動いたのかも不明。
何か、鍵があるのだろうか。
少なくとも、クロウズ自身が生きている限りは、この遺跡の開かずの間が開かれたことは、聞いたことがない。
(あれは、ゴーレムか……)
伝承だけは聞いたことがある。3大戦士の、祀られた“あるモノ”を守る、魔獣。
……古代魔獣、“ゴーレム”。彼らの守護兵だ。
あの受験生たちに、倒せるのだろうか。
伝承によれば、あのゴーレムは立ちはだかるものを問答無用で排除する。
これは間違いなく、緊急事態。一刻も早く、止めなくては、3人の命が危ない。
そして、クロウズが動こうとした瞬間。
『待つのじゃクロウズ』
クロウズのそばに置いてある、もう一つの監視水晶から、老人の声が聞こえる。
声の主はクロウズも知っている、スカイベル学園、学園長だ。
「学園長!?」
『もう少し待つのじゃ。突入のタイミングは学園側で判断する。そのまま見ているのじゃ』
――そのまま、見ていろだと?
学園側は何を考えているのだろうか。
「しかし、このままでは危険です! 一刻も早く止めなければ」
『彼らの目を見ろ、諦めておらぬ。たしかに例外的な事態が発生したのは事実じゃが、この先を見てみたいのは老いぼれのわがままじゃ。心配するでない、責任は私がとる』
「……了解しました」
クロウズは、不服そうに唇を噛みしめる。
学園長は、開かずの間とこのゴーレムについて、何か知っているのではないだろうかと推測する。責任は向こうがとると言っているので、責任問題については気にする必要はない。だが、本当にこれでよいのだろうかと疑問に駆られる。
――このままでは、いけない。
そして、遺跡の内部では、カエンと星影が巨大人形相手に苦戦していた。
「火炎斬ッ!!」
カエンの火炎斬が、巨大人形の胴に命中。一瞬だけ傷が出来るが、頭部の目が赤く光り、回復する……。
「マジかよ」
「もう一度崩してみるわね、月の重力!」
星影が、月のゲートを発動させ、巨大人形の足元を狙う。
月の重力は、発動した球体の中で重力を通常より強くする効果がある。これで先ほども足止めして、なんとかなったのだ。
巨大人形の足元が崩れ、動きが遅くなる。
「問題はこっからだな」
傷が回復することが分かった今、カエンは再び攻撃することに躊躇していた。
また、攻撃しても回復され、足止めした意味が全くない。
「何か、弱点があればいいんだが」
「……弱点」
健次は考える。
最初の攻撃は、カエンが頭部を狙って弾き飛ばされた。
次の攻撃は、星影が奴の足止めをして、カエンが十字切りに斬った。その時は弾き飛ばされなかった……。
3度目は、胴を火炎斬で狙うと、回復することが分かった。
そして今、4度目の攻撃で足止めして、次の攻撃をどうするか伺っている。
健次は一つ、仮説を立てた。
「カエン、もう一度頭部を狙ってみてくれないか」
頭部に対しての、過剰防衛、つまり、頭部が弱点なのではないだろうか。
「ん? なんか考えがあるのか?」
「……分からない」
「あの手を避けきれれば当てられそうなんだが」
手を止めればいいのなら……。
「星影、今の技ってもう一度出せる?」
「当たり前じゃない」
星影は余裕そうな表情をする。
「あいつの、手を狙ってみてくれないか」
足と手、両方を星影の月の重力を使えば、手足の動きが鈍るはず。その隙を狙って、頭部をカエンが攻撃すれば、活路はあるはずだ。
あくまでも、仮説なのだが。
「なんであなたに指示されなくちゃいけないのよ」
「まぁ、それはそうだけど……」
「兎に角やってみようぜ、こうして健次が提案してくれてんだ。弱点が分かったのか?」
カエンは、健次の提案に乗ってくれるようだ。
「恐らくだけど。カエン、一番最初に頭部狙ったよね」
「ああ。あのとき吹っ飛ばされたよな」
「でも、二回目の時は足止めして胴を攻撃した」
「ああ。あの時は反撃してこなかったな」
「つまり、多分だけど頭部を守らなくちゃいけない理由がある。だから多分、あんなに高速で跳ね返したんだと思う。つまり現時点で考えられるあいつの弱点は、頭」
「……なるほどな、一理ある。どうだナツキ」
「まあ、それもそうね……。わかったわよ、月の重力!!」
星影の月のゲートが再び光り、巨大人形の手の動きを鈍くする。
「よっしゃあいくぜ……! 火炎烈斬ッ!」
そして、カエンが頭部を狙う。火炎の刀のゲートが赤く灯り、十字に斬る。
読み通りだった。案の定、巨大人形は手を使ってカエンの攻撃を跳ね返そうとするが、星影の魔法によって、その動きが止まる。
頭部の表面に傷が入り、大きく後退する巨大人形。
真後ろに、大きな音をして倒れていった……。
回復する、気配はない。
「おお、やるじゃねえか健次」
「いや、僕は何にもしてないよ。ただ知恵を出しただけだ」
でも、こんなにうまくいくものだろうか。と一瞬不安になる。
遺跡を守る巨大人形。
3大戦士の“何か”を祀るこの遺跡。
奥にはまだ道がある。
「さて、さっさと進むわよ」
星影がため息をつき、巨大人形の前を通り過ぎようとした、その瞬間だった。
【チカラハ、示サレタ】
声。また、あの声だ。
カエンが攻撃した頭部のヒビが割れ、そのヒビが巨大人形の体全体に。
赤く光っていた瞳は、青色に変わる。
巨大人形の石の鎧が、剥がれていく。そして、巨大人形は再び立ち上がった。
姿が、露わになる。
石が崩れ、現れたのは、鋼で出来た、巨大人形。青色の甲冑に身を包み、右手に握っていた石の剣が鋼のランスに変わる。
……まるで、ロボットだ。
「脱皮しやがった!?」
「星影、危ないッ!!」
「……?」
一瞬の出来事で、星影は、その様子に気が付いていない。
巨大人形は、星影を狙っている……!
健次はカエンよりも先に、全力で駆け、星影の元に向かう。
しかし、間に合わない。
「きゃあっ!?」
星影は、巨大甲冑に吹き飛ばされた。槍も手から離れ、彼女の体とともに地面に叩きつけられる。
「星影ッ!!」
「ナツキッ!!」
カエンも続けて星影の元に向かおうとしたその時、道を甲冑のランスで閉ざされてしまった。受け身の体制をとっさに取るカエン。
「ちっ……」
速い。
速すぎる。なんだあの速さ。
新幹線が高速で通過するのをどこかで見かけたことがあるが、その速さ並みに見える。
「カエンッ」
「ナツキは無事か健次!?」
星影の脈拍を確認する。まだ息はある。
衝撃で気を失っているだけのようだ。
「大丈夫!」
「ったく油断も隙もありゃあしねえな」
状況は、絶望的だ。
星影の意識はすぐに戻る気配はない。
カエンも負傷していて、あの甲冑に一人で相手するには難しいかもしれない。
ここは、逃げるしか……。
「カエン、逃げよう」
「……嫌だ」
「え?」
「ここで、諦めたくねえんだよ!!」
「どうして!?」
逃げる提案をする健次だが、それを拒むカエン。
こんな絶望的な状況にもかかわらず、あの甲冑に挑もうとしている。
何故だ?
死ぬかもしれないって時なのに。
カエンは何故、あんなに必死になっているのだろうか。
健次には、理解できなかった。
「健次、理由は後で説明するが、俺には、いや、俺達には後に引けない理由がある。引けねえから、たとえ無茶で無謀でも、進まなきゃいけねえ、戦わなきゃいけねえ時がある!!」
カエンは叫ぶ。
何が、何を、カエンにそうさせるのか。
こんな絶望的状況下で。
「なんで、そこまで……」
「俺の“意地”ってやつだ。大丈夫、お前は何もする必要はない」
カエンは、刀を地面に突き刺した。
何か、秘策があるのだろうか。
「師匠。ここで力を使うことをお許しください。でも俺には、俺達は、ここで諦めるわけにはいかねえんだ。ナツキを傷つけ、俺たちの目的を邪魔するお前を、絶対に許すわけにはいかねえ!!」
甲冑になった巨大人形に対して、叫ぶカエン。
……2人の、目的。
カエンの、スカイベル学園に入学する気持ちは、かなり熱い。
後には引けない理由が2人にはある。
その理由は今はわからないが、その理由がカエンを奮い立たせているのだろう。
カエンは、深呼吸をし、目を閉じ、仁王立ちをして、手を組んでいる。
彼は何かを始めようとしている。
それに対して、巨大甲冑はランスを構え、カエンに攻撃しようとしている。
また、あの速さの攻撃が来るのだろうか。
「カエンッ!!」
「ラボンスゲート、最大開放ッ!!」
カエンがそう叫んだ瞬間、カエンの刀のゲート水晶が、激しく光り始めた。
そして、カエンの立つ地点から、ものすごい爆風が吹き荒れる。
その爆風で、甲冑の攻撃がカエンからずれ、地面にランスが突き刺さった。
「な……」
健次もまた、その爆風に飛ばされそうになる。
一瞬の出来事で、健次は状況を理解することが出来なかった。
「一撃で決める」
カエンは、地面に突き刺した刀を抜いた。
刀が、炎の刀が、カエンの身長を遥かに凌駕する長さになっている。
まるで、太刀だ。刃渡り3メートルくらい、あるのではないかと感じる程に長くなっている。
「必殺……大火炎斬ッ!!」
カエンの刀が、巨大甲冑を貫いた……。
これが、カエンの、本当の力なのだろうか。