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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第一章 ラボンス突入編
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第5話 「スタート、へレビス遺跡Part.2」

【登場人物】

新山健次 …主人公

篠山皐月 …主人公の幼馴染(行方不明)

カエン  …空に近づきたい夢を語る青年。

星影ナツキ…カエンの連れ。

クロウズ …スカイベル学園第一試験の試験監督官。

【状況】

現在地  :ラボンス「ベルフライム王国」ケルタ村郊外 へレビス遺跡

現在の目的:王立スカイベル学園の第一次試験を攻略しよう

「嘘だろ……」


 遺跡内部の様子を見ていたクロウズは、予想外の展開に驚いていた。

 第一次試験は、門の手前までを深層とし、攻略終了する予定だった。

 3人の中で唯一何もしていない人物がいたが、提示していた条件は、遺跡の深層まで行くという条件だから、問題はない。

そう、そこまでは問題はなかったはずだ。


 しかし、その、“何もしていない”人物によって、これまで開かれたことのない、開かずの間が開いたことに、驚きを隠せなかった。

 開かずの間の扉がどういった仕組みで動いたのかも不明。

 何か、鍵があるのだろうか。

 少なくとも、クロウズ自身が生きている限りは、この遺跡の開かずの間が開かれたことは、聞いたことがない。


(あれは、ゴーレムか……)


 伝承だけは聞いたことがある。3大戦士デルタトライナイトの、祀られた“あるモノ”を守る、魔獣。

 ……古代魔獣、“ゴーレム”。彼らの守護兵だ。

 あの受験生たちに、倒せるのだろうか。

 伝承によれば、あのゴーレムは立ちはだかるものを問答無用で排除する。

 これは間違いなく、緊急事態。一刻も早く、止めなくては、3人の命が危ない。

 そして、クロウズが動こうとした瞬間。


『待つのじゃクロウズ』


 クロウズのそばに置いてある、もう一つの監視水晶から、老人の声が聞こえる。

 声の主はクロウズも知っている、スカイベル学園、学園長だ。


「学園長!?」

『もう少し待つのじゃ。突入のタイミングは学園側で判断する。そのまま見ているのじゃ』


 ――そのまま、見ていろだと?

 学園側は何を考えているのだろうか。


「しかし、このままでは危険です! 一刻も早く止めなければ」

『彼らの目を見ろ、諦めておらぬ。たしかに例外的な事態が発生したのは事実じゃが、この先を見てみたいのは老いぼれのわがままじゃ。心配するでない、責任は私がとる』

「……了解しました」


 クロウズは、不服そうに唇を噛みしめる。

 学園長は、開かずの間とこのゴーレムについて、何か知っているのではないだろうかと推測する。責任は向こうがとると言っているので、責任問題については気にする必要はない。だが、本当にこれでよいのだろうかと疑問に駆られる。

 ――このままでは、いけない。





 そして、遺跡の内部では、カエンと星影が巨大人形相手に苦戦していた。


火炎斬かえんざんッ!!」


 カエンの火炎斬かえんざんが、巨大人形の胴に命中。一瞬だけ傷が出来るが、頭部の目が赤く光り、回復する……。


「マジかよ」

「もう一度崩してみるわね、月の重力(ルナ・グラビティ)!」


 星影が、月のゲートを発動させ、巨大人形の足元を狙う。

 月の重力ルナ・グラビティは、発動した球体の中で重力を通常より強くする効果がある。これで先ほども足止めして、なんとかなったのだ。

 巨大人形の足元が崩れ、動きが遅くなる。


「問題はこっからだな」


 傷が回復することが分かった今、カエンは再び攻撃することに躊躇していた。

 また、攻撃しても回復され、足止めした意味が全くない。


「何か、弱点があればいいんだが」

「……弱点」


 健次は考える。

 最初の攻撃は、カエンが頭部を狙って弾き飛ばされた。

 次の攻撃は、星影が奴の足止めをして、カエンが十字切りに斬った。その時は弾き飛ばされなかった……。

 3度目は、胴を火炎斬で狙うと、回復することが分かった。

 そして今、4度目の攻撃で足止めして、次の攻撃をどうするか伺っている。

 健次は一つ、仮説を立てた。


「カエン、もう一度頭部を狙ってみてくれないか」


 頭部に対しての、過剰防衛、つまり、頭部が弱点なのではないだろうか。


「ん? なんか考えがあるのか?」

「……分からない」

「あの手を避けきれれば当てられそうなんだが」


 手を止めればいいのなら……。


「星影、今の技ってもう一度出せる?」

「当たり前じゃない」

 

 星影は余裕そうな表情をする。


「あいつの、手を狙ってみてくれないか」


 足と手、両方を星影の月の重力ルナ・グラビティを使えば、手足の動きが鈍るはず。その隙を狙って、頭部をカエンが攻撃すれば、活路はあるはずだ。

 あくまでも、仮説なのだが。


「なんであなたに指示されなくちゃいけないのよ」

「まぁ、それはそうだけど……」

「兎に角やってみようぜ、こうして健次が提案してくれてんだ。弱点が分かったのか?」


 カエンは、健次の提案に乗ってくれるようだ。


「恐らくだけど。カエン、一番最初に頭部狙ったよね」

「ああ。あのとき吹っ飛ばされたよな」

「でも、二回目の時は足止めして胴を攻撃した」

「ああ。あの時は反撃してこなかったな」

「つまり、多分だけど頭部を守らなくちゃいけない理由がある。だから多分、あんなに高速で跳ね返したんだと思う。つまり現時点で考えられるあいつの弱点は、頭」

「……なるほどな、一理ある。どうだナツキ」

「まあ、それもそうね……。わかったわよ、月の重力ルナ・グラビティ!!」


 星影の月のゲートが再び光り、巨大人形の手の動きを鈍くする。


「よっしゃあいくぜ……! 火炎烈斬かえんれつざんッ!」


 そして、カエンが頭部を狙う。火炎の刀のゲートが赤く灯り、十字に斬る。

 読み通りだった。案の定、巨大人形は手を使ってカエンの攻撃を跳ね返そうとするが、星影の魔法によって、その動きが止まる。

 頭部の表面に傷が入り、大きく後退する巨大人形。

 真後ろに、大きな音をして倒れていった……。

 回復する、気配はない。


「おお、やるじゃねえか健次」

「いや、僕は何にもしてないよ。ただ知恵を出しただけだ」


 でも、こんなにうまくいくものだろうか。と一瞬不安になる。

 遺跡を守る巨大人形。

 3大戦士デルタトライナイトの“何か”を祀るこの遺跡。

 奥にはまだ道がある。


「さて、さっさと進むわよ」


 星影がため息をつき、巨大人形の前を通り過ぎようとした、その瞬間だった。


【チカラハ、示サレタ】


 声。また、あの声だ。

 カエンが攻撃した頭部のヒビが割れ、そのヒビが巨大人形の体全体に。

 赤く光っていた瞳は、青色に変わる。

 巨大人形の石の鎧が、剥がれていく。そして、巨大人形は再び立ち上がった。

 姿が、あらわになる。

 石が崩れ、現れたのは、鋼で出来た、巨大人形。青色の甲冑に身を包み、右手に握っていた石の剣が鋼のランスに変わる。

 ……まるで、ロボットだ。

 

「脱皮しやがった!?」

「星影、危ないッ!!」

「……?」


 一瞬の出来事で、星影は、その様子に気が付いていない。

 巨大人形は、星影を狙っている……!

 健次はカエンよりも先に、全力で駆け、星影の元に向かう。

 しかし、間に合わない。


「きゃあっ!?」

 

 星影は、巨大甲冑に吹き飛ばされた。槍も手から離れ、彼女の体とともに地面に叩きつけられる。


「星影ッ!!」

「ナツキッ!!」


 カエンも続けて星影の元に向かおうとしたその時、道を甲冑のランスで閉ざされてしまった。受け身の体制をとっさに取るカエン。


「ちっ……」


 速い。

 速すぎる。なんだあの速さ。

 新幹線が高速で通過するのをどこかで見かけたことがあるが、その速さ並みに見える。

 

「カエンッ」

「ナツキは無事か健次!?」


 星影の脈拍を確認する。まだ息はある。

 衝撃で気を失っているだけのようだ。


「大丈夫!」

「ったく油断も隙もありゃあしねえな」


 状況は、絶望的だ。

 星影の意識はすぐに戻る気配はない。

 カエンも負傷していて、あの甲冑に一人で相手するには難しいかもしれない。

 ここは、逃げるしか……。


「カエン、逃げよう」

「……嫌だ」

「え?」

「ここで、諦めたくねえんだよ!!」

「どうして!?」


 逃げる提案をする健次だが、それを拒むカエン。

 こんな絶望的な状況にもかかわらず、あの甲冑に挑もうとしている。

 何故だ?

 死ぬかもしれないって時なのに。

 カエンは何故、あんなに必死になっているのだろうか。

 健次には、理解できなかった。


「健次、理由は後で説明するが、俺には、いや、俺達には後に引けない理由がある。引けねえから、たとえ無茶で無謀でも、進まなきゃいけねえ、戦わなきゃいけねえ時がある!!」


 カエンは叫ぶ。

 何が、何を、カエンにそうさせるのか。

 こんな絶望的状況下で。


「なんで、そこまで……」

「俺の“意地”ってやつだ。大丈夫、お前は何もする必要はない」


 カエンは、刀を地面に突き刺した。

 何か、秘策があるのだろうか。


「師匠。ここで力を使うことをお許しください。でも俺には、俺達は、ここで諦めるわけにはいかねえんだ。ナツキを傷つけ、俺たちの目的を邪魔するお前を、絶対に許すわけにはいかねえ!!」


 甲冑になった巨大人形に対して、叫ぶカエン。

 ……2人の、目的。

 カエンの、スカイベル学園に入学する気持ちは、かなり熱い。

 後には引けない理由が2人にはある。

 その理由は今はわからないが、その理由がカエンを奮い立たせているのだろう。

 カエンは、深呼吸をし、目を閉じ、仁王立ちをして、手を組んでいる。

 彼は何かを始めようとしている。


 それに対して、巨大甲冑はランスを構え、カエンに攻撃しようとしている。

 また、あの速さの攻撃が来るのだろうか。

 

「カエンッ!!」

「ラボンスゲート、最大開放ッ!!」


 カエンがそう叫んだ瞬間、カエンの刀のゲート水晶が、激しく光り始めた。

 そして、カエンの立つ地点から、ものすごい爆風が吹き荒れる。

 その爆風で、甲冑の攻撃がカエンからずれ、地面にランスが突き刺さった。

 

「な……」


 健次もまた、その爆風に飛ばされそうになる。

 一瞬の出来事で、健次は状況を理解することが出来なかった。


「一撃で決める」


 カエンは、地面に突き刺した刀を抜いた。

 刀が、炎の刀が、カエンの身長を遥かに凌駕する長さになっている。

 まるで、太刀だ。刃渡り3メートルくらい、あるのではないかと感じる程に長くなっている。


「必殺……大火炎斬だいかえんざんッ!!」


 カエンの刀が、巨大甲冑を貫いた……。

 これが、カエンの、本当の力なのだろうか。

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