第58話 「流星」
ゾンゾ=ザス・ブラッド。
カエンが追い求める人物。
サミル村の人間を自分以外残らず殺害し、自分だけを残した人物。
そして、ミンティ・フォグルの仲間もみんなゾンビにした人物。
それ以外にも、きっといろんな人間が被害を受けている。
そんな人間が、目の前にいる、兄だっていうのか。
しかも、自分自身がブラッド家?
だめだ、理解が追いつかない、というより理解したくない、という気持ちが強いだろう。
次々に迫りくる、ゾンゾ=ザス・ブラッドの攻撃を、カエンはなんとかよけ続ける。
「知ってるかい? 君は君自身を制御できな……イ」
ラルフ…ゾンゾ=ザス・ブラッドは、カエンの腕に傷をつける。かなり深めの傷だ。
電撃的な痛みが、カエンに。
そしてかなりの出血量だ。
口調も徐々に、最初に出会ったゾンゾ=ザスに変化してきている。
「ぐぁぁぁぁぁあああぁあぁぁあぁぁ!!」
「その痛さは嘘だ。ブラッド家は痛みを感じない。はやく戻るんだ。お前は殺戮マシーンになるべき、人なのだか……ラ」
痛さが、嘘……だと?
意味が分からない。
「うるせえよ!! 火炎斬ッ!」
カエンは自分のゲートを起動させ、火炎斬をゾンゾ=ザスに当てる。
しかし前回戦った時と同様に、かすりもしない。
「お前は俺には勝てない。いや、攻撃を当てることができない」
「どういうことだよ!?」
「このゾンゾ=ザス・ブラッドの表面皮膚は、燃えないんだ。そういう構造で作られている。いざという時のために、君が炎を使って俺に逆らわないようにね。だから君の攻撃、当たりは、俺を殺すことはできないのさ」
「なんだと…!?」
しかし、ゾンゾ=ザスの言うことにカエンは内心納得した。
あの時攻撃が届かなかったのは、届かなったわけじゃない、そもそも効かないんだ。
「ああ、そうだ、助けは期待しないほうがいい。ここは内側からじゃないと出られない。誰かがこの異常を観測したようだが、ここには入ってこれまい。」
「……」
「お前がトライスキル“ストロング”を手に入れる前に、ブラッドの血を取り戻させてやる。さあここに食事があるから、さっさと食べろ」
そういってゾンゾ=ザスが投げ出した、ウインドベル学園の女生徒だった。
名前も知らないほかのクラス。ほとんど瀕死に近い。
少し触れると、冷たくなっていた。
「食べろだと…?」
「意味が分からないか?ブラッド家は他人の血液を吸って生きるヴァンパイアだ。お前もその血統なら、この目の前のごちそうを平らげて見せろ」
「本気で言ってるのかよ」
ゾンゾ=ザス・ブラッドの正気を疑う。いや、正気なんてもの、常識なんてものはこいつらにないのだ。
目の前に倒れているこいつが食事だと?
意味が分からないし、早く助けなきゃいけないとカエンは思ったが、すこしゾクッとした気持ちになったことに、自分自身を疑った。
「やはりヒトの血液のほうが強いか、お前は」
「なんのことだよ!?」
「質問ばかりでうるさいなァ!?」
ゾンゾ=ザスはカエンの腹部に思いっきり蹴りを入れた。
カエンは吹き飛ばされる。
「痛いか?痛いか!?」
「ってめぇ……」
「お前がその人を食らえば、痛みはなくなる。真の強さが手に入るんだぞ!?」
「それでどうなるってんだよ、おまえらみたいなバケモンと同類になるのは、御免だぜ」
そういった瞬間、ゾンゾ=ザスはカエンを殴る。
受け身をとり、距離をとるカエン。
(炎が効かない、助けも呼べない、か。絶体絶命だなオイ)
サミル村で起きたこと。
あの風景は、脳裏に焼き付いて離れない。
それを自分が引き起こした。かもしれない。
自分がまだ、何者かもわからないまま、自分はブラッド家だと伝えられた。
正直、気が動転していないといえば、嘘になる。
しかし、不思議と冷静な自分がいる。そして、目の前の起きている出来事に、怒っている自分もいる。
前だったら、怒り重くまま刀を振りかざしていた。
自分も変わったのだろう。
許せない出来事も起きた。
自分が何者かもちゃんとわかっていない。むしろ敵だったかもしれない。
だからといって悲観的になる必要はない。
あいつらは強い。
こんなことで、俺を見限ったりはしない。
深く深呼吸をする。
攻撃は続く。全身が引き裂かれたような痛みが走る。
耐え切れず大きな叫び声をあげる。
全身が悲鳴を上げている。
深呼吸がさえぎられる。
何か、活路があるはずだ。
敵を見極めろ。
己の技でできることを、探し出せ。
そう自分自身に声をかけるカエン。
——思い出せ、お前の名を
「またかよちくしょう。俺の名前はカエンだ。けど、ラルフが言っていたことが事実なら、自分の名前は、カエン・ブラッドになるのか?」
——違う、お前の本当の名前だ、お前の本当の使命、運命を思い出せ
「そんな言い方だとあんた自身が知ってるような口ぶりだよな」
しかし、前々から自分がカエンとしか名乗れないことに違和感があったのは確かだ。
「……まあ、自分で思い出せってことだよな、けど、これだけ忘れているとなると、なにかしらロックでもかけられてんじゃねえか、俺」
——ほう、記憶制御の可能性まで見当がつくようになったか坊主。
「坊主……って、あんた、もしかして」
「ああ。俺の名前はガルグ・ストロング。久しぶりだな坊主」
「ほんと登場気まぐれだよなあんた、ってか姿初めて見たぞ」
炎のオーラをまとった彼は、発言するごとにものすごいエネルギーが伝わってくる。
仁王立ちで立つガルグ・ストロングは、すべての所作に対しての強さを感じられる。
「いや、これが気まぐれじゃないんだな」
「どういうことだ?」
「俺たち先代のデルタトライナイトが技を継承する条件は、候補者が何らかの感情をトリガーにした時コンタクトが取れるんだ。今はお前の感情が敵との交戦で大きく揺らいでいる。だからお前自身がこの状況を作り出したといっても過言ではない」
「まじか」
「まじだ」
「なるほど……わからん!!」
「いや、それぐらいわかれよ阿呆」
「いやわかんねえよナツキみたいに頭いいわけじゃねえし」
「はぁ、まあ、そのうちわかるさ」
「で、どうすればいい?」
「意地悪かもしれないが、お前はどうしたい?」
そう、ガルグ・ストロングに問い返される。
「強くなりてえ……。俺は、俺自身であるために、そして、ナツキを、みんなを守るため」
そう、一言発したカエンの目は、まっすぐにガルグ・ストロングを見つめていた。
「フッ。決まっているではないか」
「そうなのか?」
「あとはどう歩むかを私が教えるだけ、だな。よかろう、ストロングの第一歩を授けよう」
「ああ!」
「まずは腹いっぱい叫べ。お前の、本当の名を」
「いやわかんねえし!!カエン・ブラッドだっていうのか!?」
「まあそれもある意味あたりだが、お前はわかるはずだ、本当のお前の名を」
「俺の、本当の名?」
「思い出せ、お前は思い出せるはずだ。お前自身の使命を」
「いやだからよ……」
「まあ、ぶちかますか」
ガルグ・ストロングは、風を切るようにカエンを、思いっきり殴った。
「ぐぁあっ!?」
「ちゃんと、思い出せ」
「つってもよぉ」
流星が多数に流れる夜空。
俺は、この空にあこがれていた。
だから、名乗ったんだ。あのダサい名を。
当時はかっこいいと思っていたんだ。
だから、俺はそのかけらになっていたんだ。
『$%&?』
誰かに、その名を呼ばれた。
俺は、見知らぬ部屋にいる。ここはどこだ。
この記憶はなんだ。
「俺は、ブラッド……なのか?」
『$%&!!?』
「違う。俺は、カエン。そして、俺は……」
火炎の如く燃え滾る心を持ち。
流星の如く煌びやかに。
誓ったじゃないか。
俺が、俺であるために。
「俺の名は!火炎流星丸ッ!! 家名なんてものはもう知らねえ。俺がブラッドだろうがなんだろうか知ったこっちゃねぇ!! 俺は誰よりも先に空を目指す」
ゾンゾ=ザス・ブラッドの前で、カエンは自分の名を語る。
火炎流星丸。ダサい名だとは思っている。
けどこの名前に誇りを持っているのは確かだ。
そんなもの、なんで忘れていたのだろうか。
「何を言い出す?」
「サミル村に生まれし俺は孤児だった、ブラッド家の血を引くな。ただ俺は師匠、フレア・バーニングに拾われた。師匠がつけてくれた名だ」
「その師匠は一度お前を捨てたのだぞ?」
「知るかよ、それが嘘かほんとじゃなくても、師匠がいなければ俺はここにいなかった。この刀を握ることすらもできなかった、そして、あんたも例外ではない」
「は……?」
「殺戮兵器で敵討ちで、お前をぶっ倒してえことには変わりねえ。嘘偽りで俺の兄貴代わりになってたのかもしれねえ。それでも俺は俺としてここに立てるのは、すべての人間が俺に、俺たちに、生かしてくれたってことにはほかにねえだろ」
「気味が悪いことを言い出すなお前は、ブラッド家に戻る決意をしたか?」
「いいや逆だねくそ兄貴。ここまで育ててくれたことには感謝だが、お前のしでかしたこと、考えていることは猛反対だしぜっていにぶっ倒す。だからよ、最初で最後の反抗期。させろよクソ兄貴」
(……!? こいつ、熱量が変わってきた!?)
「俺の名は火炎、火炎流星丸。自分を高め空を目指し、そしてあいつを救う。運命なんて知ったことかよ、俺は俺の道を行く。だから、ぶった切るぜ」
——よかろう、俺と呼吸を合わせろ。授けてやろう、ストロングの一歩目を
「あぁ、いくぞ、トライスキル……発動!!」
ゲート最大解放をした勢いで、カエンの刀から構造物が今にも溶けだしそうな温度の熱風がはじき出される。
納刀した刀をゆっくりと抜刀し、カエンは一歩ずつ、一歩ずつ、ゾンゾ=ザス・ブラッドへ近づいていく。
思わずあとずさりをするゾンゾ。
しかし、そんな彼を気をとめることなく、カエンは放った。
「トライスキルッ!! ストロングッ!!」
ゾンゾに見えたのは、無数の宇宙の光。
「そんな覚えたてのザコ奥義が、効くわけ……っ!?」
手元を見ると、光とともに時間差で無限の熱量がゾンゾ=ザス・ブラッドに襲い掛かる。
それはまるで、永遠に固まらない火山のマグマの雨。いや、流星の如く降り注ぐ火炎。
その炎は、ただの炎じゃない。
赤い炎は、青い色へと変化する。
「な、なにが起こっている」
「さあ、しるかよ。俺はナツキみたいに頭はよくねえから、何が起こってるかはさっぱりだ。ただこれが、俺の、いや、俺と師匠の、思いだあああああああああああッ!!」
「……付け焼刃の技に何ができるという!?」
「付け焼刃は一本じゃねえぞ?」
「なっ!?」
青い炎は、無数の刀へと変化し、ゾンゾ=ザス・ブラッドの体を、ありとあらゆる方向から貫通させる。
「火炎流星覇翔斬。ってとこかよ」




