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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第四章 ブラッド編
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第57話 「正体」

 時は遡る。

 カエンが、サミル村にいた時の話。

 そして、サミル村での悲劇が起きたあとの話。

 カエンの兄貴、ラルフは、村がゾンゾ=ザス・ブラッドなるブラッド家の人間にカエンを残し村の人間を殺害、ゾンビ化し、壊滅させられたニュースを聞き、急遽戻ってきた。

 

 戻ったときには、カエンの刀で、ゾンビ化した村じゅうの人々が倒されたあとだった。

 涙を流しながら、表情が死んでいる。

 そこには、カエンの師匠、フレア・バーニングもいた。


 ゾンゾ=ザス・ブラッドはフレアが振り払い、敵影はなくなっていたらしい。

 ラルフはフレアに何が起きたのかを訪ねて、そんな現状を知った。

 そして、カエンの表情をみて、なんとも思えない気持ちになった。


「カエン……」

「……」

「村を出るぞカエン」

「……」


 カエンは、師匠に泣きついたあと、言葉は何も出さず、血まみれになった刀を地面に落とした。

力が、入らない。

 兄貴であるラルフはカエンが落とした刀を拾い、フレアとともに村を離れた。


 ひとまず、フレアが住んでいた離れの家に、一旦避難することにした。

 カエンは近くの川で体を洗い、師匠が変えの着替えを用意する。

 ラルフもまた、夕食を作っていた。


「……無理もないな、少し、時間がかかるだろう」

「バーニングさん……。ひとまず、ベルフライム軍へ連絡はしました」

「助かる。村が一つなくなるのは一大事だからな。お前はこれからどうする?」

「……正直、迷っています。これからカエンを残してまた士官学校に戻るべきなのか」

「お前がここに残ってカエンの面倒を見るとでも言うのか?」

「兄の責任ですよ、こんなになったのも」

「いや、この惨状は、お前でもカエンの責任でもない」

「バーニングさん」

「すべての原因はブラッド家だ。あいつは多分、ブラッド家に復讐する。本来自分が夢見ていたものを見失うかもしれない。それがあいつの弱さを作り出す可能性がある。ラルフ、お前はお前の道を行け」

「……はい」


 いつもなら殴り飛ばしている光景を見たことがあるラルフにとっては、フレア師匠がつぶやいた言葉に、カエンの心に与えたダメージの重さを理解した。

 なんてものを、ブラッド家は背負わせたんだ……と。


「……」


 カエンは、兄貴が作ったご飯にても触れず、目に光が灯っていなかった。


「食べろカエン、せめて」

「あ……おう……」


 ラルフの言葉でようやく手を動かし始め、ゆっくりと食べ始める。

 昔はこんな風にゆっくり食べることなんてなくて、いつもこいつは早食いだったよな、と思っていた。

 本当に、ショックだったのだ。

 家族だけじゃない、昨日何気ない会話をした酒場のおっちゃんや、いたずらをして怒られた近所のおばちゃんも。


 もう、いないのだ。

 ゾンゾ=ザス・ブラッドが全員殺害し、ゾンビ化。

 それを自分自身が、切り刻んだのだ。

 そうするしかなかった。

 生きるためには。


「……食べたら寝ろ」

「はい……」


 こんな日々が、しばらく続いた。

 1ヶ月、ようやく落ち着いてきたのか、気持ちの整理をつきたいのか、カエンは無心に素振りを始めた。

 今、自分が何故生きているのか、生きてしまっているのか、そんなことすらも思うようになったが、不思議と今自分は死ぬべきではない、なにかしなくてはいけない。このことになにか意味があるのかもしれないと思い始めた。

 師匠は、それに兄貴は、元気づけようと何かをいうよりも、そっとしておいてくれた。

 今思うと、それはやさしさだったのかもしれない。



「……しかし、なんの目的でサミル村を壊滅させたんだろうか」


 カエンのいない場で、フレア・バーニングはラルフにつぶやいた。


「ブラッド家がですか?」

「ああ。彼らは国際指定犯罪組織だが、あまり意味のない殺しはやらないと聞く。無意味な殺戮であればそれこそ許せないが、その理由が気になる……。それに、なぜカエンだけを生かした?」

「……それは」

「おそらく、今のカエンでは確実に殺されていたと考える。それに意味があるとすれば、あまりここには長居できないな」

「カエンを生かしておく理由が、ブラッド家にあるということでしょうか」

「あくまでも憶測に過ぎない。」

「……カエン、素振りを再開しましたね」

「ああ、すこし、何かをしなければと思い始めたんだろう。もう少し様子を見ようとは思う。お前もそろそろ戻ってはどうだ?これ以上は危険だ」

「いえ、少々遠いですが、ここから通うことも可能ですから」

「……そうか」


★☆ ★


そして、時間は今に戻る。

ゲートのマナを使ったせいの披露なのか、カエンは寝てしまっていた。

ここはスカイベル学園の飛空艇、とよく似た異空間。

この中にゾンゾ=ザス・ブラッドが潜んでいる。

そしてゴロウも巻き込まれた。


「起きたか」

「ゴロウか。どうだ首尾は?」

「相手が動く気配がないな。なんのつもりだろうか」

「さあな。何かを待ってるんだろうが……」


 ――カエンを生かしておく理由が、ブラッド家にあるんでしょうか。

 あのとき、師匠と兄貴が話していた言葉。

 2人は聞こえないと思う場所で話していたが、偶然聞いた。


 あの言葉が本当なら、ゾンゾ=ザス・ブラッドは何かを待ち構えているのだろうか。

 考えても仕方がない。

 けれどあの時は、本当に回復するまでに時間がかかった。

 師匠や兄貴に助けてもらってここまで来たが、最終的な一歩を踏み出すのは自分自身しかないのだ。

 そして、あることに疑問を思う。

 自分の、“家名“は、何だと。


 じぶんは カエンだ。

 しかし、なにか変だ。

 親父がいて、母親がいて、兄貴がいて、普通の家庭だったはずだ。

 なのに、自分の家名が思い出せない。

 そんなことはよくある話であるから、ベルフライム学園への登録も普通にいけたが、今の今までなんでこんなかんたんなことすら、考えることができなかったのだろうか。


 

 ――オモイダセ。オマエノナヲ

「っ!?」


 なんだ、今の声。

 急に空間が暗転しはじめて、ゴロウの気配もなくなる。

 目の前に、黒い髪でカエンと同じ顔、同じ格好をした人物が現れた。


「誰だお前!?」

 ――オモイダセ。オマエノナヲ。オマエノカゾクヲ。ホントウノキオクヲ。


「オモイダセって、意味わかんねえぞ。本当の記憶?あれが俺の記憶だ!」

 ――ホントウニソウナノカ? オマエノウンメイヲオモイダセ。オマエハ


「お前の名は」

「ラルフ兄貴!?」

「久しぶりだな。カエン」


 その暗転した空間に急に現れたのは、カエンの兄、ラルフ。


「兄貴、なんだこの空間」

「ここは一つの深層世界さ。俺がここに呼んだ。お前の本当の名を思い出してもらうため」

「どういうことだよ?」

「今の今までちゃんと考えたことはなかったのか?サミル村での出来事を。お前一人が生き残った意味を」

「……?」

「お前が、ブラッド家だからだよ」

「は……?」


 ラルフから発せられた衝撃の言葉に、カエンは耳を疑った。


「お、俺がブラッド家だと!?」

「うん、だから殺さなかったんだ。いい加減な平和ごっこからおまえを開放するためにね」

「意味がわからねえぞ、けど、仮にそうだとして、兄貴は!?」


 口ぶりからして、カエンは気づいた。

 気づきたくなかった。


「俺の本当の名は、ゾンゾ=ザス・ブラッド。ラルフは仮の名前だよ。そして、お前の本当の名は、カエン・ブラッド。」


 目を大きく開いて、その言葉を疑った。

 自分の兄貴が、ゾンゾ=ザス・ブラッド?

 そして、自分の本当の名前が、カエン・ブラッドだと?


「嘘だ……!!」

「嘘じゃない」

「なぜこんなことをした?」

「お前の力が特殊だからな。単なる殺しでは、強くなることができない。“恨み”や“復讐”の心が必要だったんだよ。フレア・バーニングがいつ感づくか本当にヒヤヒヤしたよ」

「ゴロウはなんだよ?」

「彼もブラッド家さ。ハヤトビ・ゴロウはブラッド家の血を持ち、ハヤトビ家に養子入したんだ。彼は転移魔法のスペシャリストだからサ」

「……てんめえ」

「騙すつもりはなかったんだよ、同じ家族だろ?」


 ゴロウは態度を変えずにフランクに接してくる。

 それがカエンにとっては恐ろしかった。


「……うぜえな。てかこんな回りくどいことしてまで、俺をどうしたいんだよ?」

「ブラッド家はとある研究をしていてさ、君が殺戮マシーンになるようにいろいろと試行錯誤してて。カオスゲートの媒体にぴったりだと思ってさ。いろいろと手順が必要だったんだよ」

「カオス……ゲートだと?」

「うん、マギアス・ソサエティからいいこと教えてもらってサ。ラボンスコアとは違うエネルギーの形。ユニバースコアの力を奪って作ったブラッド家の力の源。ようやく君に、それを打ち込むことができる」

「なっ!?」

「困るよカエン、エマ・バースは大事な交渉相手なんだから」

「全部、つながってたってことかよ」

「フフフ。さあ、早く思い出してもらうヨ。お前を、カエン・ブラッドとして蘇らせるために!!」


 ラルフは、右腕に力を込め、硬化し黒くなり始めた。

 動脈が大きくなっていき、ものすごい量の血液が右腕に送り込まれている。

 カエンが見た、ゾンゾ=ザス・ブラッドの姿に、その瞬間変身した。


「なっ!?」

「これでもう証明になったダロウ? 俺が、ゾンゾ=ザス・ブラッドだったってことに」

「なんだと」


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