第56話 「捜索、カエンの行方不明」
罰当番が終わり、部屋に戻る星影・ミンティ・健次。カエンは一人のこるとかで、先に部屋に戻ることにした。
傷は、大したことがなかったので、あとから来た星影に様子を見てもらい、医務室の先生と相談して部屋を出ることにした。
多分、一人で残って鍛錬をするつもりなんだろうけど、健次も一緒にできればと思って声をかけようとしたが、カエンは一人になりたそうだったので、声をかけるのをやめておいた。
「しかし、派手にやられたわね」
「ははは、面目ない」
「まぁ、いい経験よね」
「うん、レンゲは強かったし」
「そ」
悔しがらないのね、と星影は思った。
妙に諦めた感じがある。これが、レンゲが言っていた箍なのだろうか。
わからないなら、聞いてみるしかない。
「ねえ、健次」
「うん?」
「貴方、自分のことは、弱いと思ってる?」
「うん、けど、強くならなくちゃいけない」
「本当に?」
「きょ、今日は何だよ!?」
「ご、ごめんなさい、ちょっと気になって」
「皐月を助けるためにも力が必要なわけだし、強くなることは大事だ」
「そう……」
(何よ、別に問題ないじゃない)
健次の意識を確認する星影。
レンゲの言うような、弱さに箍をかけているような様子は伺えなかった。
★☆ ★
「ねえ、ゼレング、兄上見なかった?」
時を同じくして、レンゲ組。
少し焦っていたレンゲに、ゼレングはいつものかと聞こえない程度でため息をついた。
「鍛錬にでかけたっきりでござるが、戻らぬのか?」
「ええ、不安だわ」
「ゴロウ殿なら心配ないでござろう。拙者は寝るでござるよ」
「ま、まって。本当にいないの。気配がしないの……船の中なら探知できるんだけど、いないの」
「探知って、忍の力でござるか?」
「ううん、私がこっそり兄上につけてる探知用のゲート。これで兄上に何かあったらいつでも動けるようにって、それが反応しなくなったの」
(レンゲ殿……本当にブラコンでござるな。常に探知されているとか純粋に引くでござる。自分の妹だったら気が気でないでござるよな……)
「何か失礼なこと考えてない!?」
「別に。まさかとは思うが、音声認識機能や映像認識までできるようにはなっておらんのか?」
「そんなことするわけないじゃない。考えたけど」
(考えたのか、やはりレンゲ殿の兄妹愛は病……仲がいいでござるな!)
レンゲの思考にドン引きしながら、ゼレングは横になろうとした。
どうせいつものだろう、とおもったら。
「まぁ時期帰ってくるでござるよ、おやすみー」
絶対にめんどくさくなる。そう思ったゼレングは、土魔法で耳あてをし、横になる。
しかし、彼女は許さなかった。
「おきてよゼレング!!」
「どぅぅぅぅぅぅあ!!」
発したこともないような声で叫ぶゼレング。
腹部に、直接、グーパン……。
「レ……レ……ンゲ殿」
「行くわよゼレング、兄上を探さなきゃ」
「はい……」
渋々承諾をせざるを得なかった。
★☆ ★
夕食を食べ終えたあと。
最初に異変に気づいたのは、星影だった。
何時間立っても、カエンが戻る気配がないからだ。
「妙ね」
「ん?」
「それにしてもカエン、遅いわ」
「鍛錬がはかどってるんじゃねえか?」
と、ミンティが言うが、星影は気が気でないようだ。
「通信用ゲートで訪ねてみるわ」
「ちょっと見てくる」
「あ、おい、まてよ!!」
「僕も気になるからついてく!」
それに健次も、ミンティもついていった。
星影はカエンが行くところを探し始める。
歩いていた通行人にカエンらしき人物がいたか訪ねたが、皆首を横に降った。
「……あれだけ存在感があるカエンが、これだけ気配を感じないって、おかしくないかしら」
「別にどっかで寝てんじゃねえか」
「楽観し過ぎよ。何かこの船に乗ってから、変な気を感じていたのよね」
「変な気?」
星影、少し察知能力が上がっている気がする。
前はそんなこと言わなかったが、マスター能力を手に入れたことによる察知能力の工場なのだろうか。
「ええ。幸いここは軍隊もある船だから、大丈夫だと捉えていたけれど、油断したわ」
「……言われてみれば、なんかへんだな。アタイでもわかる。」
「健次、この船の壁面にコンディションをうってみてくれない?」
「なんでそんなこと」
「いいから」
「わ、わかったよ、何を見ればいいの?」
「この船に潜む、空間を見て」
「空間?」
「何か変なのよ、この船。昨日までは感じなかったけど。この夜から変わってる」
星影の言っている意味を健次は理解できなかったが、なんとなく状況を察した。
健次は、深く息を吸って、唱えた。
調整しろ。
調整しろ。
この船に潜む空間を。
見極めろ。
「トライスキル、コンディションッ!!」
船に手を触れる。
船の構造が一瞬で手にとるようにわかる。
けど、知りたいのはそんなことじゃない。
星影が知りたいのは、空間だ。
いや、空間って。そもそも何だ。
そんなことを考えていると、船の一部にほつれがみえる。
それに、手を触れる。
その刹那だった。
脳裏に、大量の赤が流れ込んでくる。
赤。赤……赤……赤。
鮮血。
目の前が真っ赤になる。
そして、叫び声。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……。
流れてきた情報とともに、体全体に恐怖が押し寄せる。
赤い虫が、大量にじわりじわりと足から、手からゆっくりと近づいてくる。
「なんだ……これ」
「健次?」
「うぁあああ……ぁあああ!?」
「落ち着いて、健次、何を見たの!?」
星影の声でようやく正気を取り戻す。
吐き気がする。
呼吸が荒くなっていることに気づく。
初めてだ。コンディションでこんな恐怖を見るなんて。
「は、弾かれた……」
「まさか、貴方のコンディションでも見れないというの」
初めてだ。
でも、確信したことがある。
「星影の言う通り、何かある」
健次は、星影に見たものを伝えた。
「……赤い虫、ブラッド家の幻術魔法かしらね」
「ブラッド家!?」
カエンが前にあって倒しかけた、ゾンゾ=ザス・ブラッド。
それに、星影の目の前でも出会った、アン=ハム・ブラッド。
彼らが、この船にいる……。
「まじかよ、カエンはそれに巻き込まれたってのか!?」
「可能性は高いわね」
「しかし、怖かった」
「健次、ありがとう。けれど、今回は特に妙ね。おそらくカエンはそれに巻き込まれたのだろうけれど、私達にはなにもないし、一通り船を回っても血の匂いがしない。ケンジが見たのは、おそらく、他の空間への扉」
「他の空間?」
「ええ。おそらく、空間を操ることのできる人間が、この船に紛れ込んでいる可能性は高いわ」
「船から落ちた可能性は?」
健次が質問すると、星影はないわね。と即答した。
「船から落ちる可能性はまずないわ。外に出る方法はいくらでもあるけど、夜間は生徒の下船はできないよう、プロテクトがかけられているもの」
「試したのか」
「……緊急事態を想定してね。考えても見て。確かにこの船は下の世界に何かが起きてようと、影響を受けにくい。けれど逆に、この船自体に何者かがいた場合」
「……船から脱出する手段がないとマズイってことか」
「ええ。けれど、ブラッド家が介入したのであればなにかしら生徒に被害が及んでいるはず。今教官室に聞いたけれど、そんなことはなかったと言っていたわ、ただ」
「ただ?」
「昨日から数名、神隠しにあっている生徒がいるらしいわ。それで捜索をすすめるべく、軍事区から人が降りてきてるみたい。」
「どうしようか」
「何もわからないことだらけだわ。私のはあくまでも憶測に過ぎないし」
「けれど、コンディションが使えないのは異常だよ」
「ええ、同意ね。おそらくかなりの手練が、この船になんらかの細工を仕掛けている。そのことには間違いないはずよ、学園長室へ行きましょう、緊急事態だわ」
「うん……!」




