第55話 「閉鎖空間」
「……しかし、さっきのは何だ?」
ゴロウが尋ねると、カエンはつぶやいた。
「ブラッド家だよ。あいつは殺した人間をゾンビ化するゾンビ殺人のゾンゾ=ザス・ブラッド」
「ブラッド家だと!? どうしてこの船に」
「さあな、けど教官に伝えなきゃマズいぜ」
「同感だ。急いで戻ろう」
「ああ!!」
甲板から船の内部に入ろうとした瞬間、妙な寒気がした。
「なんだ…!?」
「どうした、いくぞ」
「……おう」
「しかし、夜間とはいえ人気がなさすぎる気がするな」
「だな、とりあえず教官室だ」
ゴロウとカエンは走る。
「昼間は、妹が迷惑をかけたみたいだな」
「妹、レンゲのことか。まぁいいんじゃねえか」
「寛容だな」
「勉強になったぜ、あのゼレングってやつも強かったし。いい機会だったと思うぜ」
「ならよかった。昔から曲がったことが大嫌いで、同族嫌悪的な気質があるからな、あいつは」
「健次と似てるってことか?」
「ああ。多分な。親近感を覚えたんだろう、そしてあまりにも弱い彼に、ため息が出た」
「……健次は強くなろうとしてるからよ」
「悪い悪い。無駄話が過ぎたな。ついたぞ」
レンゲと健次の話をしながら走り抜けると、教官室へ。
思いっきりこじ開けようとするが、鍵がかかっていた。
「妙だな、ここが閉まることはないと思うのだが」
「てかよアマトビ」
「ハヤトビだ」
「お、おう。ハヤトビ。人の気配、俺らしか感じなくねえか?」
「たしかにな。ずっと感じていた。さっきお前が戦ったブラッド家がいなくなった瞬間、船の雰囲気がまるっきり変わった。」
「健次もナツキもいねえのかな、ちょっくら行ってみるわ」
「待て」
「ん?」
「なにか来るぞ」
ミシミシと、ゆっくりと床を踏みつけながら、現れるそれは。
うめき声をあげながら、血色が悪く目が充血した、スカイベル学園の女子生徒だった。
カエンはその姿を見た瞬間、なんとも言えない怒りを覚えた。
「……マジかよ」
「なんだあれば!?」
「さっきも言っただろ、ゾンゾ=ザス・ブラッドの能力」
「まさか、あいつはゾンビになったのか」
「クッソ!!」
「ツイデニハナセルヨウニナッタノダゾ」
女子生徒自身の意志ではないことがわかる、奇妙な声。
「ゾンゾ=ザスが喋らせているということか」
「もう、躊躇はしねえ。火炎斬ッ!!!」
襲いかかるゾンビ生徒を、カエンはぶった切る。
ゾンビ生徒の体は真っ二つに割れ、地面に横たわる。
そして、焼けて消えていった。
「お前……」
「俺が殺人者と見るか? もう、彼女は死んでるんだ」
「いや、お前の行動は正しい。しかし、またあの生徒がこの船にもいる可能性があるのか?」
「下手したら殆どやられてる可能性だってある、そうなる前に逃げたゾンゾ=ザスを追うぞ」
「理解したが、教官を呼ぶほうが先だと思うぞ」
ゴロウの一言に、それもそうだな、と刀を収めるカエン。
ゾンビ生徒は今の所、彼女一人だったようだった。
そんな姿があるにも関わらず、他の生徒・教官の気配はない。
まるで、自分たちしかいない、状況のように。
カエンは思う。
だったら隣のゴロウはなんだ?なぜここにいる?
たまたまか?
そんなことを考えているうちに、ゾンビ化した男子生徒が襲いかかってくる。
ゴロウは頸動脈を手裏剣で貫いた。
「お前、忍者か」
「ハヤトビ一族はベルフライムでも有名な忍だ。レンゲもそうだぞ」
「彼女は姿でわかる。お前はなんかこう、クロウズ教官のように大剣を振るのかと」
そうして背中に背負っていた大剣を見てカエンは言う。
「……これはフェイクだ。相手を油断させるためのな。体験はある程度振りかざすまでに時間がかかる。それを狙おうとする輩を油断させ、近づいた敵を殺る」
「えげつねえな」
「来るぞ」
また、次々とゾンビ化した生徒が襲いかかってくる。
かなりの数だ。
「畜生ッ! 烈破焼陣ッ!!」
カエンの刀から、炎の衝撃派が発せられる。
1ルシェほどの大きさの炎が、遅いかかるゾンビを焼き尽くす。
「お前の技も、なかなかだと思うが」
そう言いながらもゴロウは、カエンの背後から襲いかかろうとするゾンビを
いとも簡単に倒した。
「クロウズ教官の部屋に行こう」
「ああ」
星影や健次たちとも合流したほうが良いと思ったカエンだったが、自分らよりも強い人間がいたほうが、良い。
目的はわかっているのだ。
デルタトライナイト誕生の阻止。
そして、ゾンゾ=ザス・ブラッドはたしかに言った。
トライスキルに目覚めていないお前を殺せば、と。
だったら、ゾンビ化した生徒には申し訳が立たないが、狙っているのは自分ひとりだ。
それに、この状況にかなり怒りが来ている。
人の命を、本当になんだと思っているんだ。ブラッド家は。
自分が冷静さを失っていることに、気づいている。
それだけでも成長だ。
これまでは、自分の怒りの赴くままに、刀を振りかざしていた。
今は怒りもあるけれど、その怒っている、怒っている自分に気づいている。
だからこそ、大人の判断がほしい。
まだまだ、自分も子供だということを再認識させられる。
クロウズ教官のいる教官部屋につく2人。
ここも、固く扉が閉ざされていた。
「……チッ、なんだよこれ」
「本当におかしいな、ここ、ウインドベル・ローレライか?違う場所という
可能性があるかもな」
「可能性あるぜ。ナツキも健次もミンティの気配も感じないしよ」
「俺も試しにレンゲとゼレングに声をかけてみよう……だめだ、繋がらない」
「船、突き破ってみるか?」
「結構アグレッシブだなお前」
「一旦外に出てみれば状況わかるんじゃねえかと思ってよ、100年続いた船だ、穴が空いたって落ちやしねえよ」
「普通に出ればいいんじゃないのか」
「多分無理だ」
そう、カエンが言ったとおり、教官室から離れ、出口へ向かう2人。出口の扉は非常用の機構用ゲートに触れてもびくともしなかった。
「なるほど」
「昔ナツキに聞いたことがある、エデンゲートの魔法の劣化版を悪用している噂があるってよ」
「ん?」
「知らねえかエデンゲート。異世界に通じる扉」
「いや、それぐらいの知識はあるが」
「エデンゲートってトンデモ魔法だけど、もとを辿れば俺たちが使ってる魔法ゲートと原理は似てるらしい。その魔法は、人間そのものを他の空間へ移動させる。ただしそれは現実に存在する空間、ああなんか頭いてえ」
「つまり、この空間もその原理を応用した、別世界ってことか?」
「すげえ理解力だな、ナツキが言ってたことを思い出しただけだけど、多分そうかもしれねえ、なら、ゲート魔法にはゲート魔法、だろ?」
「目には目を歯には歯を、ってことか。まあいいんじゃないか」
「じゃあ、遠慮なく行くぜ」
「待て、何する気だ」
「業火無双撃ッ!!!!!!」
おそらく今のカエンの一番の大火力になるであろう大技で、出口の壁に向けて放った。
言い換えるなら、爆発が起きたという表現が近いだろう。
「うおおおおおおお!? 冗談かお前!?」
あまりにもの勢いにゴロウは驚いた。
そりゃ、ゾンゾ=ザス・ブラッドを驚かせた技でもあるし。
「あちゃーガス欠だ。マナ切れた」
「お前、馬鹿だろ」
「あん? 馬鹿じゃねえわ!!」
「いやそのぶっ放し精神。」
「それのどこが悪い!?」
「……脳が筋肉で出来てる類の人間か。お前は、しかし……」
「びくともしねえな、これ」
ため息をつく2人。




