第53話 「大敗北」
「一つ、お前たちに忠告だ、時間だけは守れよ」
クロウズ教官は、授業時間の終了までに戦いを間に合わせるように6人に伝えた。
「逃げると思ってたけど、案外乗るのね」
クナイを構えるレンゲ。
健次も自分のゲートを持ち、属性を変化させる。
彼女が木のゲートなら、“火”にしよう。
「……属性変更!! フレイムゲート」
健次のゲートが赤く光る。
「珍しい技を持ってるじゃない」
「いくよ、ファイア!!」
感心したレンゲに向けて、火属性の魔法を放つ健次。
しかしレンゲは軽く避けて、健次の背後に立ち、蹴り。
蹴りの勢いで健次は前に倒れる。
倒れかけたときにすかさずレンゲは攻撃を続ける。
「属性変更!! サンドゲート!! サンド・ウォール」
その攻撃をなんとか土属性の魔法に変更し、レンゲの攻撃を防いだ。
バックステップをして、レンゲは体制を立て直す。
あまり驚いていないようだ。
「敵にもならないわね」
また背後に立たれ、吹き飛ばされる。
健次の体が痛み始める。
ペンダント型のゲートが手から離れ、それを受け取ろうとする健次。
しかし、クナイでペンダントのチェーンを弾き、すぐに取れない状況に。
すきを見て正面に一瞬現れて、腹部に蹴り。
いや、足癖悪くないか?
「ぐはああっ」
「弱い、弱すぎるわ」
「まだまだ……」
健次は立ち上がる。
確かに、弱い。
このレンゲに歯が立たない。
今までいろんな敵と戦ってこれたけど、それでもだ。
コンディションに頼るか?
こんな戦いで使ってしまって良いのだろうか。
ゲートも自分の手から離れてしまっているわけで、口から血が吐き出される。
これは試合というより、一方的なものに近い。
彼女の攻撃を受けてもなお、健次は立ち続ける。
自分の、限界を知るんだ。
「……攻撃をしなければ意味がないけど?」
また、攻撃。
けど、彼女は刃を自分に当ててこない。いや、使うに値しないんだろう。
かろうじてゲートを掴み、月魔法に変化させる。
「属性変更。月の重力(ルナ・グラビティ)!!」
レンゲめがけて放ち、彼女の足止めをする。そして距離を取る。
「やるじゃない」
「足止めしただけどね」
ルナ・グラビティは星影が繰り出すとかなり長い時間拘束できるが、
健次の場合だとせいぜい5秒程度、ほんの一瞬の足止めにしかならない。
それに、レンゲは感心しているが、木属性のゲートのせいなのか、彼女そのもののポテンシャルなのか、あまり効いていないように見える。
考えろ。
なにか、策がある筈だ。
しかし、考えているうちに次の攻撃が上から繰り出される。
当たる寸前にサンド・ウォールで防ぐ。が、ウォールが崩れ、健次にまたダメージ。
「くっ」
「弱すぎ」
また、飛ばされる。
意識が次第に朦朧としてくる。
コンディションを使えと、自分に呼びかけてくる。
使わざるを負えないのか?
けど、使ったところで、彼女に勝てる方法は自分の中であるのか?
血を拭う。
それでも、立ち上がる。
「もう降参しなさい」
けど、だめだ。
だめなんだ。
ここで諦めちゃ、だめなんだ。
「いやだ」
「根性だけはあるみたいね」
その戦いを横目で見ながら、カエンと星影はそれぞれ戦っていた。
ミンティは星影と戦いながら、横目で健次のことを気にしていた。
「なんだかんだで健次のことが気になるのね」
「うるせぇ、お前もだろ」
「まぁ、そうね。どうなると思う?」
「無理だろ、あんなの」
「そうかしら、案外やるわよ、彼は」
「その根拠は何なんだよ」
「貴女ももう少し信じたほうが良いわよ、健次を」
「うるせえ!! 戦いに集中しようぜ!」
「一番集中してないのは貴女じゃない」
ミンティの銃型ゲートで放たれる弾を、槍を回転させながら弾く星影。
「……クソアマ、腕上げたな」
「貴女もね。ちょっとは脳筋比率、下がったかしら」
「うるせぇぞ!!」
「下がってないみたいね」
そして、カエンとゼレング。
「……なんだか、懐かしい気がするでござるな、お互い初めて戦うのに」
「同感だぜ、技名パクりやがってよ」
「それはこちらのセリフでござるよ」
腰の刀を抜き、ゲートを開放するカエン。
相手は土魔法。属性的に相手の方が有利だ。
「いくぜ!! 火炎斬ッ!!」
「効かぬでござるよ」
盾でカエンの技を防ぐゼレング。
土属性のせいなのか、炎は全く効いていない。
そして、かなりの衝撃を与えたのにも関わらず、びくともしていなかった。
「鍛えてるな、お前」
「カエン殿こそ。その刀の構え、拙者の師を思い出すでござるよ。さて、拙者も行くでござるよ、土眼斬ッ!!」
ゼレングは持っていた刀をカエンの攻撃を防ぎつつ、構える。
そして盾のゲート、模様だと思っていた一本の横線が、眼のように開く。
一瞬、まずいと思ったカエンは、その眼を見てしまった。
「体が、動かねぇ!!」
「そうでござる、拙者の盾は土魔法で相手の動きを完全に封じることができるでござるよ」
ゼレングの技、土眼斬を食らうカエン。
自分の体に潜ませていた、炎が鎧代わりになっていて、ダメージを軽減させる。
「ちっ、厄介な技だなぁ、オイ。まぁ、そのほうが燃えるから良いけどよ」
カエンは体制を立て直し、刀のゲートに手を触れる。
「もう少しつええ技、行くぜ。火炎烈斬ッ!!」
「きかぬ、でござるよ」
カエンが放ったのは、縦と横の斬撃。
縦の斬撃をゼレングが交わしたが、すぐ横の斬撃。
それも彼に防いでみせるが、彼の頬に傷が入る。
「盾つええなぁ」
「守りは大事でござるからな、拙者の番でござるよ」
一瞬、ゼレングは姿を消す。
カエンは気配を感じたが、それは遅かった。
背後。
「遅いッ!!」
「嘘だろオイ」
「盾使いの欠点は敏捷性でござるから、盾を持ったままいかに早く動けるか、それが大事なポイントでござるよ」
カエンは背中に攻撃を喰らい、バックステップで距離を取る。
ゼレング・バルキア。
只者じゃないなとカエンは思った。想像以上に強い。
攻撃を盾でかわす上に、この敏捷性。
「なるほどな」
しかしカエンは考えた。
あの盾ぶっこわせばとりあえずなんとかなるな。と。
そう思ったカエンは、刀に手を触れ。
「ゲート、最大開放ッ!!」
「は??」
爆炎が、カエンの体に灯る。
そして、その勢いでゼレングは吹き飛ばされる。
「な、なんと、」
「いくぜコピー野郎、烈破・大火炎斬ッ!!」
「これは……」
攻撃が外に映らないようにする障壁に、少しひびが入る。
クロウズは少し驚いて、修復魔法をかけた。
「相変わらず馬鹿みたいな戦い方よね。貴女と変わらない」
「う、うるせえな、ていうか、強くね?」
「ええ、カエン、うちに秘めた力は正直とんでもなく強いわよ」
「アチィし」
「暑いわね。全く、カエン、こんな訓練で全力を出すんじゃないわよ……」
それを近くで見ていた星影とミンティ。
他のメンバーに目移りしすぎである。
「やったか!?」
「その言葉は禁句でござるよ」
カエンの全力の必殺技、ゲート最大開放の技でも、ゼレングの盾はすこし綻びができるだけで、ゼレング自体にダメージはいっていなかった。
「し、しかしこの技、暑いでござるな」
「当たり前よ。俺の必殺技だからな!!」
「……ゲート最大開放をつかっても、ピンピンしてる」
カエンの戦う姿を見る健次。
カエン、強くなっている。
遺跡の時にやむなしでつかってた時とは違う。
「よそ見してる暇があるの?」
また、レンゲの攻撃。
意識が飛びそうになるが、立て直す。
「ひとつ聞いていい?」
「何?」
「なんでそんな“弱い”ことを意識してるの」
「それは、本当に弱いからさ」
そう、自分は弱い。
カエンのようにあんなすごい力の技が出せるわけじゃないし、星影みたいに器用に魔法が出せるわけじゃない。
「そういうの、むかつく」
「え?」
「もっと強くありたいと、思わないのッ!?」
「っ!?」
「ほんとうに入学当初からイライラしていたのよ、国王様に表彰までされてさ、すごいことしてて、決意はあるのに、どこか迷いがある感じ。力を持ってて、使わない感じ」
「……ごめん」
「ごめん、じゃないでしょ!? 自分の弱さと本当に向き合ってる!? 自分に鍵かけてない!?」
「なんで、けどなんで僕に対して」
「レンゲ殿は健次殿みたいなのが一番気になるでござるからな」
カエンの攻撃を受けながら、ゼレングが口をはさむ。
「誤解するような言い方しないで!! そんな人間と一緒に学園生活をしたくないの!!」
「……なぁ、ゼレング、あいつひょっとしてかなりいいやつか?」
カエンは刀をおろして、ゼレングに耳打ちする。
「そうでござる。ドがつくほどのお人好しで、人見知りでござる」
「なんだそれすごいな」
「地元では人気者でござったよ、いつもああ言ってるでござるが、年配者に気は使うし、子どもたちとも遊ぶし、修行も一生懸命に打ち込むし、嫌いな人間はいないでござるよ」
「ひょっとして健次におせっかいか、あれ?」
「そうでござるな、わかりやすいでござろう?」
「ああ、面白いな、なんか」
「というかそろそろやめるでござるよレンゲ殿。授業時間が終わるでござる」
ゼレングは刀を納刀して、レンゲをなだめようとする。
星影とミンティはその様子を見て攻撃をやめる。
カエンもあれ、という表情で刀を収める。
ボロボロの健次。
「止めないでよ!!」
「いや、その、後ろを見てほしいでござる。クロウズ教官がニコニコしているでござるよ」
「え……?」
「ハヤトビ・レンゲ。今何時かわかるか?」
「あ、あああ……申し訳ありません!!」
レンゲは気づいて、顔が真っ赤になる。
クロウズ教官は、言っていた。
時間だけは守れ、と。
みんな熱くなりすぎて、それをとっくに忘れていた。
一番最初に気づいたのはゼレング。時間を過ぎても止めない教官に違和感だった。
「……止めないんだな、教官」
「ここの学園の特徴でござるよ、拙者も今思い出したでござる。教官はリマインドしないでござるからな、忠告時間を10分過ぎてるでござる、それに他の生徒もいない」
ゼレングの言葉に、カエンは納得し。
「なるほど、言われたことをちゃんと覚えとけ、ってことか、まぁ、こりゃぁ」
「仕方ないわね」
「ペナルティだ。お前ら全員、学園区画の清掃。あとハヤトビ、アラヤマを医務室まで運べ。おまえがこてんぱんにしたんだからな」
「は、はい……」
レンゲの名字、ハヤトビっていうんだな。と、健次は意識失いかけて思った。
しかし、本当にボロボロだ。
流石に、弱すぎる気がする。




