第51話 「レンゲ」
エド・マクワドルの話も続いたが、その話についてはこれからの話だった。
宇宙へ行くための手段。
それは、ラボンス各国がそれぞれ持つ、アーティファクト。
ウインドベル・ローレライ号は、人の手で作られたが、ベースは古代遺物の船。デルタトライナイトが建造した船をベースに、100年前作り変えたようだ。
そして、イルリス帝国にあるラボンスコア。
ラボンスコアは、この世界の活力そのものといってよい。ダゼンスの僕らにとって、電気でもあり、石油でもあり、戦うための戦力でもあり、エネルギーそのものだ。
イルリス帝国、ラボンス最大の帝国にそのコアはあるらしい。
そして、レリュール公国。知っている人といえばレロッサ・アイスバイドさん。
そこに、宇宙船の航行装置に必要な、アーティファクトの“羅針盤”が眠っているようだ。
最後に、健次がフォグル工房で聞いた、“バリアブルストーン”。
自分の力強化の意味も込めて、授業の合間にそれを取りに行くことを許可してもらった。
バリアブルストーン。それがあれば武器を強化できるけれど、問題は、
「自分自身が、弱すぎるんだよな」
そう。
健次は、属性を返ることができるゲート魔法を持つが、それはすべて初級魔法しか使えない。はっきり言って戦力にならない。カエンや星影が主力戦力の状態だ。
“コンディション”も、力ではあるがそれ単独で強烈な力があるわけではない。
タレス・コンディションは、強さにはいろいろな形があると言ったけれど。
「もっと、強くならきゃ」
カエンが行っていた、素振り。
見様見真似だけど、隠れて毎晩やっていた。
それができる場所を探していたが、この甲板が丁度いいだろう。
練習用の木刀の素振りを行う。
筋力もあまりない。筋トレもしないと。
健次は、自分ができることからトレーニングを地道に進めていた。
より一層励もうと思ったのは、皐月の居場所を知ったときだ。
宇宙にいるなんて、聞いてないよ。
そして、あまりも無残すぎる。
「……皐月を、助けるために」
「手で下ろすだけではだめだぞ、後輩」
その瞬間、声がした。
後ろを振り向くと、屈強な男。そして鍛錬をしている女子生徒に、男子生徒が一人。
女子生徒は黒髪和柄の忍者装束。軽い身のこなしだ。
そして男子生徒は盾を持ち女子生徒の攻撃を交わしていた。
実践訓練を行っているようだ。
「え、ああ、」
健次は突然の声に驚き、木刀から手を放した
「すまない、驚かせたな。しかしあまりにも動作が滑稽だったもので、つい。な。後輩、腰を使え。すべての動作は腰が大事だ。手で振りかざそうとすれば力は入らないし、あと、肩の力を抜け」
「はい……」
「ああ、すまない、私の名はゴロウ、今戦っている二人は俺の妹のレンゲあとゼレングだ。よろしく。ケンジ・アラヤマ」
「ど、どうも」
女子生徒は会釈をする。
「ゼレング・バルギアでござる。鍛錬を重ねるのは良いこと。ただ基本を知らないといけないでござるな」
男子生徒、もといゼレング・バルギアは、盾を一旦起き、健次
「ご、ござる!?」
「拙者の口調に違和感が?」
「違和感ありまくりだよ」
ラボンス世界にも昔の侍みたいな口調をする人物もいるんだなと、ケンジは思った。
ただなんか、違う気がする。
「まあ第一印象は大事でござるからな。この口調でよく覚えてもらえるので楽なのでござる」
「兄上、ゼレング、続けましょう?」
「すまないレンゲ、鍛錬の邪魔をしたな」
レンゲ、という少女は話を切り上げたがっているようだ。
というよりも、何か自分が睨まれている気がする。
なぜだろうか。
「……レンゲ殿、今日から同じ学友になる同士、親睦を深めるのも悪くないでござろうに」
「いまは鍛錬のほうが大事でしょう? 一分一秒も無駄にしたくないし」
「焦りは禁物でござるよ? ケンジ殿、拙者とレンゲ殿は、同じ組でござるから、明日からよろしく頼むでござるな」
「う、うん。よろしく」
なんだか居心地悪くなった健次は、会釈をしてその場を立ち去った。
「続けるわよ」
「レンゲ。お前素直じゃないな。手が震えてるぞ。ちゃんと話せなくて悔しかったんだろ?」
ゴロウがそう言うと、うんうんとゼレングは頷いて、
「そうでござるなぁ。レンゲ殿は人見知りでござるからなぁ」
「うるさい!! だ、だまれ!!」
レンゲは顔が赤くなっていた。
「顔が赤いぞ。因縁をつけたがる気持ちはわかるけど、挨拶ぐらいできないと、お前もやってけないぞ」
「か、からわからないでください兄上。私はただ、嫉妬しているだけです」
「そういう正直なところがいいんだよなぁお前は。人見知りだけど」
「そうでござるなぁ。自分は一生懸命に頑張ってベルフライムに入学したのに、急に入ってきて表彰。星影やカエンは強いと評判でござるが、あの少年だけあまり何も前評判がないでござるからなぁ、それにあんな感じであると、嫉妬になるのもわからぬこともないでござる」
「……本当のこと言わないで!!」
「いやぁああ本当にかわいいなレンゲは。そうやって素直だから見てて飽きない」
「そうでござるなぁ」
「だまれんしゃあい!!!」
「その素直さを、もう少し初対面の人間に打ち明ければ、人気バク上げ間違いなしでござる」
「そうだな。ダスクナイツも安泰だ。わっはっは」
「……いいから続ける!!」
★ ★ ★
「おきろーけんじーあさだぞー」
カエンが起こす。もう、朝か。
体のあちこちが痛い。まだまだだな、自分も。
けれど、ゴロウさんのアドバイスは確かだった。
刀の振り方をまともに知らなかった健次だったが、基本動作を行うことで実践することが出来た。
「……珍しいわね。貴方が朝遅いなんて」
「おはよう星影。はは、ちょっとね」
寝癖を直しながら、身支度をする。
「朝食は簡単に用意しておいたから、それを済ませて。今日は初日よ」
そうだった。
いろいろな出来事があって忘れていたけれど。
健次は、この巨大飛空艇、“ウインドベル・ローレライ”号に作られた学園、スカイベル学園の学園生活が、始まるんだった。
制服に袖を通し、星影が用意してくれた朝食を口にする。
あれ、星影って料理できたんだ。意外にうまい。
「……それ、アタイが作ったんだ」
「ミンティが?」
「おう、盗賊時代に団員のメシ係だったからよ、短時間でできるやつは色々知ってるぜ、あとカエン、星影。ゲートの不調があればアタイがなんとかできるから、金かけて工房つかわなくてもいいぜ」
「おお、さすがミンティ、助かるぜ」
「頼りにしてるわ。その点だけは」
しかし、ミンティも機械だけの人間ではなかったのか。
それもさらに意外だった。
「その点、は余計だよ!!」
色々あったが、朝が始まった。




