第47話 「影人格」
「はは……無理だよ」
健次たちとの交信を終え、一人、ぽつんと鏡の前に座り込む皐月。
こんな遠い宇宙に、たどり着けるなんて、無理だ。不可能だ。
けど、不思議と、健次の決意は皐月にとっては心強いものだった。
無理だけど、無理だと思わせない、あの決意。
――だから、待っててくれ、皐月。必ずそこに、たどり着いてみせる。
「信じることも大事だよね。待ってる。健次くん」
幾千万光年離れた隔絶の宇宙で。
孤独な皐月は、健次のその言葉に確かに救われたのだ。
皐月は1人。祈りを捧げ始めた。
★★ ★
「ウバッタ大切を見つけたカ?」
声。
この声は聞き覚えがある。
最初に出会った。影のようなもの。
気がつけば、健次は暗闇に紛れていた。
再び会えるなんて。
一番最初にあったときは片言だったのに、今はすこし話し方がうまくなっている気がする。
健次は何よりも、確認したいことがあった。
大切を、奪う。
目の前の影が間違いなくそういった言葉は、どういう意味なのか。
「……お前に聞きたいことがある、皐月は自分で自分を隔離したと言っていた。あのときお前が奪ったものはなんだ!?」
健次は、皐月が言ったあと、このことがずっと引っかかっていた。
ブラッドに誘拐されていないにしろ、皐月は能動的に自分を宇宙へ隔離したんだ。
ならなぜ、この空間の存在は大切を奪うなどと言った?
「知りたければ、力を示せ。お前はまだ、達していない」
「もう一度、試してみるさ、トライスキル、コンディション!!」
ペンダントが激しく光り始め、靄の正体を暴こうとする。
しかし、届かない。
コンディションの力は影には届かず、弾き飛ばされる。
「力は示された。まだ、お前は達していない」
「くっ」
コンディションを手に入れてもダメなのか。
何が、何が足りない?
自分が弱いことは自覚している。
けれど、あのときよりも、最初にラボンスに来たときよりも。少しは強くなっているはずだ。
「何故だよ、ちくしょう……!!」
「コンディションを極めろ。お前にはまだ道がある」
☆☆ ☆
「……ここ、は?」
夢。
既視感のあるパターン。
たしかこんな感じで、星影と会ったんだっけ。
「目が覚めたみたいね。全く貴方のほうが疲れていたなんて、呆れるわ」
「さ、あ、星影……」
「3日間ぐらい寝ていたのよ、貴方」
「そんなに!?……あれ、眼鏡は?」
星影は眼鏡を外し、裸眼になっていた。
金髪でなければ皐月と見間違うほどに。
やっぱり、姉妹だったんだな。
「マスターの習得のおかげで、視力が良くなったみたい。なに、皐月に似てた?」
「違うし。けど、驚いたよ……君が皐月の姉だったなんて」
「それ以前に昔ダゼンス遊んだことがあったのよ? 覚えてないかしら」
なんか、今日の星影、憑き物が落ちたような清々しさを感じる。
「小さい頃の記憶なんてないし」
「ふふ、そ」
「とりあえず、終わったんだね。この事件は」
「ええ……後処理は学園とベルフライム軍がなんとかしてくれているらしいわ」
「そか、よかった。星影が無事で」
「ありがとね、健次」
突然にお礼を言われ、戸惑う健次。
「な、なにが? 影を打ち破ったのは星影だし。僕は何もしてないよ」
本当に、何もしていない。
今回も、カエンたちに助けられてここまでこれた。
「いろいろと。よ。なに、あなた自分で何もしてないと思ってるの?」
「いや……」
「意外と貴方に色んな人が感化されてるんだから、カエンも、私も。あの脳筋女も。そして、皐月も……」
「あ……」
「あの子、健次が助けるって言った瞬間、とんでもなくほっとした顔してたわよ。見えなかった?」
「わかんなかった」
あの時、健次が決意をした瞬間、皐月の顔はよく見えなかったんだ。
まあ、そんな顔してたんなら、良いか。と思う健次だった。
「さて、これからの目標も決まったことだし」
「うん、皐月だけにあんな思いはさせてやれないよ」
「そうね。私もできる限りのことは手伝うわ。」
「ありがとう」
「ただ問題は、皐月だけじゃないのだけれどね」
「どういうこと?」
「みんな集まってから改めて話すわ」
「わ、わかった」
「ところで、随分とうなされていたみたいだけど?」
「それは……」
星影に話すべきか、一瞬迷ったが、話すべきだろう。
今見た夢のこと。
最初に皐月がいなくなったときにも見た、夢のこと。
星影に操られた“影“と関係あるかもしれないし。
健次は星影に、一番最初に夢をみた、大切を奪う怪物の話を、星影にした。
「……貴方も、それに会ったのね。」
「ということは星影も?」
「健次のとは少し違うけれど、私の体を操って、私に語りかけてきたのは、間違いなく、その影だったわ」
「あれは、なんなんだ」
「私も気になって、“マスター”で調べてみたの」
「便利だなそれ」
星影が手に入れたトライスキルは、“マスター”。ラボンスに眠る
「いろいろと制約はあるけどね。あまり同時に使いすぎると脳に負荷がかかってしまうから、結局は図書館で調べたほうが早かったりするわ」
星影は、コーヒーを入れてくれていたようで、健次に渡す。
「……あれは、デルタトライナイトの“影人格“よ」
「“影人格”?」
「ええ。トライスキルは、通常のゲート魔法では考えられないほどの能力を発揮する力よ。正直私のマスターなんて、全魔術師が到達しようとしても到達不可能な領域にあるくらいの力ね」
「そんなに強い力なのか」
「貴方……。自分がどういう力を持っているかわかってる? コンディションは、敵の構造を暴くだけではなく、それを紐解ける。更に私の“マスター”、カエンが手に入れる予定の“ストロング”を制御できる、解析・制御魔法においては最強の力よ」
「……考えたことなかった」
星影の言う通り。
特別な力だということは、なんとなくわかっていた。
「そんな人間離れした力を、何年も何十年も修行しても、勉強しても到達できない力を、簡単に手に入れられる。仮に私達が試練を乗り越えたとしても。そんなおいしい話、出来すぎていたのよ」
「その、影人格は、僕たちにどういう影響が……?」
「それは……」
「おー健次、目が冷めたか」
星影が言おうとしたその時、カエンがちょうどいいタイミングで部屋に入ってきた。
「わり、話し込み中だったか」
「いえ、大丈夫よ」
「いいのかよ星影」
「カエンに1から説明するのも面倒だわ。あとでいい?」
「いやすごく重要なこと言おうとしてた気がするんだけど」
「そうかしら」
「ん?」
「なんでもないわカエン」
“影人格“。
力を与えられたものに対してのリスクが有るのだろうか。
自分も、星影見たく、影に取り込まれてしまう危険があるのだろうか。
結局、その日は星影から続きの話を聞くことはできなかった。




