第46話 「語られる真実、3人の決意」
星影を操る影は、健次のトライスキル、コンデイションと、星影が手に入れたトライスキル、マスターで倒すことができた。
影の正体はよくわからなかったけれど、これで星影は本来の自分を取り戻すことができる。
「ありがとう、健次、カエン、先輩」
「うん」
「おう、大変だったんだぜ、あの技」
カエン、クローバーは武器をしまい、星影のもとへ駆け寄る。
「ええ、カエンの攻撃がなかったら、今の私はいない。特訓しておいてよかったわね」
「内心ヒヤヒヤしましたよ、容赦なしの攻撃だったから」
カエンが星影を殴ったとき、本当に焦った。
「大丈夫か?腹」
「ええ」
「ならよかったぜ」
「……健次、皐月だけれど」
「うん?」
「……色々話すより、見せたほうが良さそうね。ついてきて」
星影は、ステラ・ウンブラの施設の奥へ、3人を案内する。
もう敵の影はいない。
「これ、全部私がやったのよね」
血だらけになり、見るも無残な姿になってしまった教団のメンバー。
星影の影が暴走して、攻撃してしまったらしい。
「……正確には、お前の影、だな」
「いずれにせよ、私の弱さが招いたこと。この光景を、私の罪を、見ておかなくちゃ」
「ステラ・ウンブラがしてきたことは、非人道的な行為であることは間違いありません。悔やむ必要は、ないはずです」
クローバーが、星影の肩に手を置く。
「けど、みんなが止めずに、同じことを村の、他の人間にしていたと思うと」
「もうよそうぜ。無事に戻ったんだし、で、この奥になんかあるのか?」
「…………そうね。 ええ。ついてきて。月の光」
星影は自分のゲート魔法を使い、光を照らし始める。
「この祠だけど、もともとはステラ・ウンブラのものじゃないのよ」
「マジか? なんで分かる?」
「マスターの能力みたい。ここはもともと、星影の巫女の祠だから」
「星影の巫女の祠?」
「ええ。ここはもともとそういう場所だった。私が育った村は、代々星影の巫女の存在を守ってきた村だったの。その伝承を、力を、歴史を、ステラ・ウンブラがその存在を利用して、歪なものに変えていったの」
ユニーバース・コア。
宇宙最大のエネルギーと伝えられているコア。
その力を取り出し、上位存在になろうとすべく、ステラ・ウンブラは活動していた。
星影の巫女は、そのユニバース・コアの力を、宇宙から取り出すことができる唯一無二の人間。
かれらはその星影の巫女を、人間とは思わずユニバース・コアのゲートとして、星影たちを使おうとしていたのだ。
「その意味で、星影の巫女を探すべく人体実験を繰り返してたってわけか。とんでもねえ連中だよな」
「そうね。連中の行いのせいで、星影の巫女の本当の役割は忘れ去られていた。というか、私自身が思い出せないように魔法のプロテクトをかけていた。というのが正解ね」
「やっと、今思い出したわけか」
「ええ。カエン、健次、2人とも、最初に私達があったときのこと、覚えてる?」
「……ああ。郊外で倒れてた健次を、俺とナツキが連れてきたんだよな」
「健次は?」
「うん、目を覚ましたら星影がいて」
「それまでに、空白の時間があったっていったら、信じる?」
「空白の時間?」
祠の奥に、複雑な文様が書いてある壁がある。
この壁の文様に、見覚えがある。
健次は、確かに覚えていた。
これは、一番最初にラボンスに来るときに見た、文様。
その文様が目の前にある。
ここは、あのとき皐月がダンジョンと呼んでいた場所に、関わりがある。
「ええ。健次には全て話す必要があるの」
煌めく水晶。映り込むのは広大な宇宙空間。
数多もの星の数数が、4ルシェほどある巨大な水晶に映し出されていた。
水晶が設置された床には、五芒星……いや、六芒星が書かれていた。
気温は外よりも少し寒い。5度位下がった気がする
「なにここ」
「星影の巫女が、何千年も守ってきた秘密よ。正直、2000年前のデルタトライナイトしか知らないわ」
「すげえな」
「ユニバース・コアとのつながりの場。そして、全ての世界の歴史を刻む場所。星影の巫女は、世界の均衡を守るため、各世界に一つしかないこの場を、代々守ってきたの」
「各世界?」
「そう、私はラボンスの星影の巫女。そして、健次が探している、篠山皐月は、この中にいるわ。ね?皐月」
「なんでひょいっとネタばらししちゃうかな、ナツ姉は」
懐かしい声。
健次がずっと探していた、自分の幼馴染の声。
探していた。
ずっと忘れることはなかった。
忘れたくなかった。
ようやく、再び会うことができた。
「ひさしぶり。健次くん」
水晶の中に映る彼女は、黒の装束に身をまとってはいるが、たしかに篠山皐月だった。
「皐月……。なんでここに」
健次は、水晶に手を触れる。
しかし、その手は宇宙に手を伸ばすことはできない。
「ごめんね。健次くん。全部さ、私がやったことなんだ。ナツ姉。もうギブアップだよ。ちゃんと話す」
「ええ。そうしてくれないと困るわ。私もようやく、自分が誰だか思い出せたわけだし」
「ナツキ?」
「カエン、健次。私達が何であるか、そして私達がするべきことはなにか、ここから話させてもらうわ。皐月も包み隠さず話すこと、いいわね?」
「はあい……」
「ちょ、ちょっとまってよ。皐月が妹で、星影が姉って姉妹みたいなこと言ってるけど」
健次は呼び方に違和感を覚えた。
「それもそうね。貴女、健次から私の記憶も消したのね」
「だって、健次くんに余計な心配かけたくなかったんだもの……」
「全く、気持ちはわかるけど」
「ナツ姉だっておんなじことしたし」
皐月は拗ねたように言う。
「ええい、わからなくなるからその話はあと。順を追って説明するわ。まず、健次の言う通り、皐月は私の妹よ」
「は、はああああ!?」
「健次が探してた皐月がナツキの妹だったのか」
「何カエン納得してるの!? い、妹って、ダゼンスの人間と、ラボンスの人間が?」
「私、ダゼンスにいたのよ。今の今まで忘れていたけれど。私の本当の名は、篠山菜月。星影の名は、ラボンスに来た時に自分でつけた名前ね」
「そうだったんだ」
「別々の世界同士の人間が姉妹っておかしいわよね。私も思い出したとき、事実をすぐには受け止めきれなかったわ」
「私達は、世界の均衡を守るために、生まれたときからその使命を背負っていたの。私はダゼンスの星影の巫女で、ナツねえがラボンスの星影の巫女」
「何言ってるんだ、皐月……」
今まで聞いたこともないことを言い始めて、健次はすぐに受け入れることができなかった。
皐月はただの幼馴染で。
確かに近所の洞窟とか、ダンジョンと言いながら遊んでいたことはあったけれど。
「健次くんはさ、この世界に私が連れてきたの、偶然だと思ってる? お父さんからペンダントをもらってさ」
「……。もしかして」
「うん、偶然じゃなくて、私が連れてきたの。健次くんのお父さんがあのペンダントを健次くんに渡した瞬間が、その時だったから。そして私が導いて、この世界で健次くんをデルタトライナイトにする予定だった。けど、奴らはそれを知ってたの」
「奴ら?」
「ええ。その奴らに、私達は最初に、襲われたのよ」
「ブラッド家か?」
エデンゲートの番人、エデンは皐月がブラッド家に誘拐されたことを言っていた。
皐月を探す手がかりに、ブラッド家が何らかの関わりがあると、健次は思っていたが
「それは、嘘だよ」
「う、嘘!?」
「うん、私がエデンに頼んだ嘘。ほんとは探してほしくなかったから。忘れてほしかったから。世界を助けては欲しかったけど、私のことは余計だから、考えてほしくなかったの」
「どういうことだよ、皐月!?」
「私、今どこにいると思う?」
「その中じゃないのか!!」
健次は必死に水晶を叩く。
けど皐月はつらそうに笑いながら、こう答えた。
「宇宙、だよ。ここからもずっと遠く。遠い遠い宇宙。通常の方法じゃたどり着くことができない、遠い場所。ここから1000万光年も離れた、隔絶された宇宙迷宮」
「宇宙?」
エド・マクワドル学園長が導いた地図には、たしかにこの場所を示していたはずだ。
それなのに、宇宙にいる、ということはどういうことなんだろうか。
「ええ。皐月はね、今こうして話ができているのは、星影の巫女の力。彼女がいる場所は、ユニバース・コアがある場所、そこで彼女は最後の砦になっているの」
「最初、健次くん、カエン、ナツ姉と私はね。全員、殺されそうになったんだよ?あの場所で。
みんなあの瞬間に、奴のことを認知したから。わたしは、敵の人質になって、みんなから敵の記憶を消すことで、その場を逃れることはできたんだ。じゃないと、みんな死んじゃうから」
「え?」
「私達を襲った敵が誰ってことは、まだ3人にはいえない。敵との取引だから。それにカエンが、ストロングを手にしていないし」
「そう。それが、私達の、最初の出会い。空白の時間に起きた、本当の出来事よ」
「皐月がその敵から僕たちを守って、そこにいるんだな?」
「うん」
「なら、答えは一つだ。僕が、僕たちが、皐月を助ける!!」
敵のことはよくわからない。
けど、皐月がしたことは、あまりにも不憫だ。
星影の巫女がどうとか、そういうことじゃない。
自分の記憶を消してまで、自分たちを守ってくれて。
それで、こんな遠い場所にいるなんて。
それを、放っておくわけ、ないじゃないか。
それに、健次は思い当たる節がある。
敵は多分、あのときの声。人の形をしたおばけみたいな存在。
――アラヤマケンジ、チカラヲ、示セ。
あれが多分、皐月の言っている敵だ。確かに、倒せなかった。
敵に関すること、今は言わないほうがいいと思い、健次は心の中だけにしておいた。
カエンがストロングを手に入れたら、このことも話そう。
完全に、記憶を消したわけではなかったんだ。多分。
「……ああ。そんな敵ぶっ潰して、助けようぜ健次」
「ムリだよ、私が使った魔法は片道でしか移動できない魔法。1000万光年も離れた宇宙に、ダゼンスの技術はおろか、ラボンスの技術で迎えるわけない。それに敵は、トライスキルでも倒せるかわかんないし。それに敵に勝てるかどうか」
皐月は否定する。
けど、以外にも肯定したのは、星影だった。
「そうかしら。すごく大変だけれど可能よ」
「おおうナツキ。否定するのかと思ったぜ」
「“マスター”の力はとんでもないわ。今否定しようとして打開策が浮かび上がったんですもの。さすがね。宇宙なんてラボンスの誰一人、今の技術で誰も行ったことないっていのに。不可能ではないわ。けれど鍵は、私達全員がトライスキルを習得していること」
「なるほどな。俺が、トライスキル”ストロング“を手に入れたらその方法にたどり着けるんだな?」
残るトライスキルは、カエンのストロングだ。
「ええ。だから、不可能じゃない」
「な、ナツ姉……」
「もう、私も貴女も、つらい思いをする必要はないわ。私はマスターを手に入れて思った。もっと自分の使命を、思いを、ちゃんと話すべきだったのよ、理解してくれる人間はいるはず。現に、健次は貴女のこと否定せず、ちゃんと助けようとしてくれてるじゃない。もちろん私もだけど」
「……」
「私達は、自分たちの使命をまっとうするあまり、大切なことをわすれてしまったのかも。私達がたとえ使命がある星影の巫女でも、人間であることはかわりないわ。辛いときは辛いって言っていし、楽しいことは心から楽しむべきだから。だから、皐月だけに背負わせないわ。これは星影の巫女だから、デルタトライナイトだから、とかじゃない。私があなたの、姉だから」
「あ……」
「皐月。イマイチ僕は、まだちゃんと理解できてないけどさ。星影さんの言うとおりだと思うんだ。それに僕は、皐月がいたからここまでこれたわけだし。この世界に行くことを、最終的に決断したのは僕だ。だから君が全部背負う必要はない」
「けど健次くん、あの状況に、この世界に行かざる負えない状況にしたのは私で」
「気にするなよ、僕は、この世界に来て、良かったと思ってるんだ。嫌な事件ばっかりだけど、それを乗り越えようとするみんなに助けられて。そんなみんなの姿を見てたら、僕にできることはなにかってずっと考えていた。デルタトライナイトについてもちゃんと、役割を理解していない部分もあるし。けれど、僕は僕が選んだんだ」
そう、流されたわけではない。
自分が自分で、決めたんだ。
この異世界に来ることを。
だから、使命とか、運命とか、知ったことか。
僕は、僕を助けた皐月を、助けるだけだ。
「だから、待っててくれ、皐月。必ずそこに、たどり着いてみせる」




