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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第三章 星影の巫女編
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第45話 「マスター」

「何ここ……」


 エルザが星影の額に右手を当てた瞬間、星影の周りの景色が一瞬で変化した。

 終りが見えない道に、左右を囲む蔵書の数々。

 図書館というよりも本の道だ。


「マスター能力を手に入れるための試練だ。ここから1冊だけ、この世界から抜け出すための魔法が記された書物が隠れている。それを探し出せ」

「何か、ヒントは?」

「ない。ハンデといえばマスター能力を使えることだな。力はすでにお前に譲り渡した。あとは使い方を学ぶだけだ」

「……上等じゃない。分かったわ」


 星影は、まっすぐの本の道を見渡した。

 かなりの数の蔵書。

 何かジャンルごとに並んでいると思いきや、そうではなく、名前も種類もばらばらだ。

 規則性はなく、ただ並べられているだけのようだ。

 1冊手に取るが、よくわからない言語で書かれていて読むことができない。

 次の本もそうだ。


 これでは、本物を見逃してしまいそうだ。


「なるほど。骨が折れるわね」

「ああ。この世界に抜け出すための書物について、正解を見逃す恐れもある。用心して探すことだな」


 星影は考える。

 早速マスターを使ってもいいが、それで本当に見つかるかどうか。

 あっさりと見つかる可能性もあるが、あえてそれを試練にするだろうか。

 物は試しだ。

 星影は、早速マスターを使うことにした。


「トライスキル……マスター!!」


 そう、言葉を唱えた瞬間。

 ものすごい情報が頭の中に流れ込み、通り過ぎていく

 

眼の前に広がる無限の文字の羅列。

人間が読める限界の速度よりも何倍も、何十倍もの速さで流れていく。

自分の言語ではない。情報の供給過多。

 それを処理しきれず、星影は頭痛がひどくなる。

 吐き気がする。

 立っていられなくなる。

 両耳から叫び声が聞こえる気がする。

 自分を保つことが、できなくなる。


「あぁああああああっ!ううあああああ!」


 呻くことでなんとか自我を保つ事ができる。

 声を出さなければ、自分が自分でいられなくなる気がした。


「……“マスター”は、手にしたものにラボンス全ての知識を与えることができる。しかしその力をうまく制御できない者には、今のように痛みが伴う」

「ひっどい能力ね」

「そういうものだぞ? 強大な能力は、強大な対価を必要とする。ラボンスコアから取り出すマナだって同じだろう?」

「……理屈はわかるけれど、この能力は」


 痛みが引いた瞬間、星影は床に倒れ込んだ。


「制御できなければ使い手に命の危機を与える、危険なスキルだ」


 倒れた星影にエルザが近づき、回復魔法を放つ。


「そんな危険なスキルを、私が持つのね」

「ああ。人間が一生かかっても取得できない知識の泉をお前は手にする。たとえ手にし、能力を完全に使いこなしたとしても、誰人たりともマスターのすべての情報を引き出すことはできない。それを理解しろ」

「ええ」


 星影はもう一度、マスターを解き放つ。


「トライスキル、マスター」


★★ ★


「火炎斬ッ!!」


 星影から切り離された影を何度も切り裂く火炎。

 倒れた星影を健次は抱え、月属性に属性変更して回復魔法を放つ。

 再び星影を取り込もうとする影を、火炎とクローバーは必死に追い払う。


「生きてくれ。星影」


 そうつぶやいた健次は、星影のゲートが光り始めている事に気がついた。


「これは……」


★★ ★


 聞き慣れない虫の音がする。

 確か、“セミ”って言うんだっけ。

 私は今までなんで忘れていたのだろうか。

 眼の前に男の子が1人と、女の子が1人。

 湖で遊んでいた。

 ……ひどく暑い夏。


 男の子とは、用事があるとかで別れた。

 別れないといけなかったのだ。

 そして、女の子と二人きりになる。

 彼女を私は知っている。

 私も彼女を知っている。

 いや、知っているどころではない。

 私の、とても大切な、大切な……。


「ナツねえ。本当に行くの?」

「うん。私が行かなくちゃ、まずいから」


 何を言っているのだろうか。

 それに、この見慣れない風景はなんだろうか。


「ナツねえか私のどちらかが、いかないといけないんだよね」

「うん。貴女には健次がいる。だからここにいなさい」

「けど、ナツねえは、お姉ちゃんは?」

「私は、やることがあるから」

「だめ、行かないで!!」

「……ばいばい、多分私のこと、すぐ忘れるから。健次も、皐月も」


 これは、記憶?

 私の記憶なのだろうか。

 星影は、自分の見覚えのない記憶に驚いた。

 なんで、こんなものを見ているのだろうかと。


「思い出しちゃったんだね。ナツねえ」


 突如、今まで星影に語りかけていた女の子が現れる。

 星影は、彼女の正体を知っていた。


「皐月よね。私の記憶を消したのは」

「うん。久しぶり。思い出してほしくなかったけど」

「ナツねえなんて、記憶が無くなる前は違和感あったけどね」


 自分と姿がよく似た女の子。

 彼女は篠山皐月。私の、星影ナツキの、いや、篠山菜月の妹。

 全ては、この2人から始まったんだ。


「私達は2人とも星影の巫女だから、こうして時々、つながることができる。今回もナツねえが倒れたから、助け舟なんだけどね」

「よく言うわ。小さい頃迷子になりまくって探したり、世話したの私じゃない」

「うん。感謝しているよ。今も。お姉ちゃんがあの選択をしなかったら、私は健次くんと中学校生活を過ごすことはできなかったから」

「けど、貴女はその生活を続けていくことが嫌になった」

「そう。やっぱり、ナツねえがいてこそだし。ラボンスで生きててくれればそれでよかったけどさ。世界の危機が迫ってるって思ったら、いても立ってもいられなくなってさ」

「だから貴女は私から、星影の巫女に関する記憶を消したのね」

「うん。健次くん、かなり巻き込んじゃったなあ。最初はそんなつもりなかったけど」

「彼はそんなこと思っていないはずよ。貴女を助けたくて、仕方がないんだと思う」

「うん……」

「皐月。貴女は今どこにいるの」

「遠い場所」

「ラボンスの何処かにいるのね?」

「ううん、もっと遠い場所。誰もたどり着けない、遠い遠い場所」

「まさか」

「うん。わかるでしょ? ここなら誰も、私達を一緒にすることはできないはず」

「……本当に貴女はそれを望んでいるの」

「しょうがないじゃん。世界を守るためだもん」

「私は望んでないわ。それに、一番望んでいないのは」

「健次くん、でしょ? ナツねえにバレたら、それだけにしてほしいけど、言うんだよね」

「当たり前じゃない」

「そっか」

「そっかじゃないわよ。健次は、貴女を探して旅に出ていたのよ。貴女がどこにいようが、探し出すわ。現に、私も同じ気持ちだし」

「無駄だよ。むしろきちゃ駄目。逆らえないんだよ」

「なんで、なんでそんな諦めたような顔をしているの。あのときと同じ」

「同じ顔、ナツねえもしてたじゃん!!!」


 その時、皐月は叫んだ。


「こういう気持ちだったんだよ!? 私はあのとき。もう二度とナツねえに会えないと思ったの!! 私だけ覚えてて、みんなの記憶からなくなって!! 嫌で嫌で仕方がなかった、もう誰も、こんな思いしてほしくなかった!!」

「……そう。そうだったのね」

「だからもう、こんな思いをするの、星影の巫女になるの、これで最後にしたいの」

「待ちなさい、皐月!!」

「嫌!!」


 星影は、思い出す。

 自分はもともとラボンスの人間なんかじゃない。

 皐月と、健次と一緒に、ダゼンスの人間だったのだ。


 普通に生活していれば、普通にダゼンスで過ごして、学校を卒業して就職して、普通に結婚していたんだろう。

 それが何故、自分の過去の記憶を消してまで、ラボンスに来たのか。

 それは、今皐月がしようとしていることと、近い事。

 ステラ・ウンブラが認識する星影の巫女とは、全く異なる、星影の巫女の真の姿。


 その瞬間、再び星影は目を覚ます。

 本の道の空間に。


「皐月ッ……もう、また変なところで」


 2度目のマスターも、同じ結果になってしまった。

 あまりにもの激痛で、今度は気絶してしまったらしい。

 気絶している間、夢を見ていたようだ。

 皐月と話していた。

 夢だけど、あれは夢じゃない。

 目が覚めると、治療をするエルザが目の前に立っていた。


「やはり無理か」

「……こんな力、どうやって制御していたの」

「それを自分で考え、使いこなすのがこの試練だ」


 深呼吸する。

 闇雲に力を使おうとしていたから、情報が取り出されすぎたのだ。

 だから、力を制御するための認識を変える必要がある。

 多分、そうしないとこの力を使いこなすことはできない。

 やることは見えた。あとはやってみるだけだ。


「やるしかないみたいね」


 一番最初、自分がやったことだったんだ。

 皐月にこんな悲しい思いをさせて、こんな行動をさせて。

 こんなことになるなんて思ってもいなかったのに。

 みんなのため。と思っていても、結局皐月のことをちゃんと考えていなかった。


 私は、間違えたんだ。


「間違えたなら。正すしかないじゃない」


 カエンに、健次に、この事実を伝えるためにも。

 私達がなすべき真の目的を伝えるためにも。

 ここで諦める訳にはいかない。


 星影は、歯を食いしばって、立ち上がる。


 考えろ。

 マスターの使い方を。制御方法を。

 適切なマスターの力を制御するための、イメージを。


 認識しろ。

 認識しろ。

 認識しろ。

 知識に惑わされるな。

 自分はちゃんとここにいることを認識しろ。


 そして、自分が、進むべき道を洗い出せ。

 私は、星影ナツキで、篠山菜月で、篠山皐月の姉。

 私の、私達の、真の目的を。


「私の名は!! 星影ナツキ!! デルタトライナイトになる1人、運命なんて、星影の巫女なんて、知るもんか!! 私は、私の、私達の進むべき道を、突き進む!!」

「……トライスキル、マスタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 星影の叫び声と共に、光が強く輝き始める。


★★ ★


 その叫び声は、影と戦闘するカエンたちにも響き渡った。


「な、ナツキが叫んだ!?」

 カエンが驚く。

「……ははっ、吹っ切れたのかも」

「待たせたわね。いろいろと迷惑かけて」


 自分の足で立ち上がり、影と対峙する星影。


「ナツキ、正気に戻ったのか!!」

「よかったです」

「ええ。なんとかね。トライスキルも手に入れたわ」

「いくよ星影」

「ええ。健次、協力してくれない? 私、この力をまだ制御しきれてないの」

「うん、OK。いつでも!!」


「ナニヲ、ホザイテイル?」


浮かび上がる影。

再び星影を取り込もうとする影。

 それを右手で振りほどき、何事もなかったかのようのに星影は平然と立っていた。


「もう、取り込まれないわ」


 カエンやクローバーの攻撃に当たりもしなかった影に、星影の振りほどいた手の攻撃だけでも、ダメージが与えられた。


「ゲート開放ッ! 月の重力ルナ・グラビティ!!」

「グアアアアッ!!」

「いつもの100倍増よ。効いたかしら?」

「私ニ何故攻撃ガデキル!?」

「マスターの力みたいよ。ひるんだ今がチャンスね、健次、さっさと決めるわ」

「うん!!」

「な、何するんだ?」


 カエンは、事の展開についていけてなかった。


「合体技よ。カエン、わかんないの?」

「そうだよカエン、この場合ってそれしかなくない?」

「いやなんだよその当然みたいな顔、俺トライスキルまだねーからわかんねーよ!!」


 星影は槍のゲートを構え、唱えた。


「トライスキル、マスター!!」

「トライスキル、コンデイション!!」


 健次も自分のゲートを影に向け、唱えた。


「「ダブルスキル!! マスター・コンデイション!!!!!!!!」」


 2人がそう唱えた瞬間、360度あらゆる方面から、全属性の強力魔法が、影に一斉砲撃を放った。


「すげえ」

「ええ、これがデルタトライナイトの力なんですね」


放たれた光に、影は欠片もなく一瞬で消え去った。




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