第44話 「記憶」
「業火、無双撃……!」
星影から分離された闇を切り裂くカエン。
しかし切り裂いたかけらは再びもとに戻り、闇の一部が棘のように伸びてカエンの体を突き刺す。
「ぐはっ」
「カエンっ!」
「つえーなこれ」
「エレメントチェンジ、月の重力!!」
健次も自分のゲートを月属性に変え、闇に攻撃を当てる。
しかし、闇はひらりと交わし、星影の体へ戻ろうとする。
カエンはそれを必死に振りほどき、闇がまとわりつかないようにする。
闇に吹き飛ばされるカエン。
「チッ……痛えな」
「カエン!? 危険だよ!?」
「うるせえよ健次。この闇に、ナツキをとりいれてたまるもんか」
カエンはそう言い、再び取り込もうとする闇に立ち向かう。
「火炎斬ッ!!」
しかし、その努力虚しく、切り裂いた影は2つに別れ、カエンの後ろを通り過ぎる。再び星影に闇は取り憑き始めた。
「ちくしょう!」
「……もう一度コンディションを」
そう思って再び健次が手を伸ばした瞬間、少し立ちくらみがした。
何度も直ぐにはできない事はわかっているが、こんなにも消耗していたなんて。
その様子を見たクローバーは、闇が取り憑いた星影に威嚇攻撃を始める。
彼女に当たらない程度に、バルカンを回転させギリギリの射程で。
「無理はしないでください」
「クローバーさん」
「健次。ここは俺に任せろ」
そう言って、カエンは地面に刀を突き刺して、仁王立ちし始める。
「カエン!?」
「星影は、俺が止める」
「ふうん。威勢だけはいいみたいね。カエン」
闇に再び取り込まれた星影が、皐月の気配を完全に絶ち、話し始める。
そして、いつも戦闘で使用している槍を取り出し、月魔法をカエンに向けて放つ。
それをカエンは仁王立ちしたまま両手で受け止める。
刀も使わずに。
馬鹿なのか、カエンは馬鹿なのか。
「死ぬよカエン!?」
「なあ、ナツキ。お前、師匠と俺が助けた後、言ったよな。みんなの分まで、自分が生きて、二度とこんなことが起きないようにしたい。そんな世界にするために、偉くなるんだって」
「そんなこと、いったかしら」
「とぼけんな、確かに俺はお前のその決意に、乗ったんだ。だからスカイベル学園の入学試験を受けて。健次と一緒にここまで来たんだ」
「……」
「思い出せナツキ。お前の本当の心を」
「うるさい」
星影は、カエンに再び槍を向け、突き刺し始める。
「……痛えな」
「何故避けないの」
「痛えけど、一番痛えのはお前だろ。心が泣いてるぞ」
「意味がわからないわ。そこをどいて。私は殺すの。すべてを。すべての人々を」
その言葉は、星影の喉から発せられていたが、
星影自身の言葉ではないことは、カエン自身が一番理解していた。
「……殺す? あんなにステラ・ウンブラを強く恨んでたお前が、連中と同じことをしようとしてるのに、何故気づかねえ?」
「うるさい」
星影の槍が、カエンの体に。それを素手で受け止めるカエン。
槍の刃先を両手で受け止めたため、手が血だらけになる。
「カエン!?」
「……ナツキ。正直俺はお前が最初嫌いだった。助けたとき何も言わねえし、師匠があんなにお前のこと助けようとしても、お前は最初は振り向かなかった」
「……」
「けどよ、気づいたんだよ、お前と過ごしてると。お前は一人で生きすぎたんだ。だから他人を頼るってことができなくなったんだ。それに気づいてから、俺はお前に対する見方が変わった。嫌いじゃなくなったんだ星影。お前はひとりじゃない。俺もいる、健次やクローバーさんだっている、いまお前は一人じゃねえんだよ」
「黙れ!!」
カエンは反撃をしない。
闇に囚われた星影はカエンを殺してしまう勢いでカエンの首を掴み取る。
「ナツキ……てめえ」
「カエン。感謝はしているのよ。貴方には。けど私の恨みは、もう止まらないの」
「……ああ、そうかよ。きかん坊かよ」
力強く握りしめようとする星影の腕をカエンはつかみ、取り払う。
星影は後ずさり、カエンは自分の刀を持つ。
「ようやく戦う意志をもったようね」
「火炎斬ッ!!」
火炎は刀を振りかざして、星影ではなく、星影の持っていた槍に攻撃を当てる。
それがあたり、星影の槍が手から離れ、星影は再び取ろうとするが、健次は土魔法で床に貼り付けて取れないようにした。
カエンが何をするかはわからないが、この場は任せるしかなさそうだ。
★ ★ ★
カエンの声は、確かに聞こえた。
星影は、一人じゃない。
その声で、目を覚ます。
――闇。
一面を覆い隠す巨大な闇に、囲まれていた。
星影は、自分に語りかけた闇に取り込まれた。
目を覚ますと、体中を鎖で繋がれ、身動きが取れなくなっていた。
「カエンッ!!……。 な、なにこれ」
「目覚めなくてもいいものを」
闇が、黒い闇が、星影に語りかける。
低く、気味の悪い声。
「誰?」
「我は影。星影の巫女に取り憑く影」
「……そう。私をどうするつもりなの」
「我に目的などない。湧き上がるのは恨み。そして憎しみ。それを糧とする」
こいつに取り込まれて。
私が私でなくなったのか。
「私は、こんなのに取り込まれたのね」
「……こんなの、だと?」
――ナツキ!!!!
カエンの声が聞こえる。私のことを読んでいる。
答えたいのに、答えられないもどかしさ。
「カエン……!!」
声をだしても、外のカエンには響かない。
私の本当の声は届かない。
ただ、カエンの声はきちんと届いている。
私の心に響いている。
一つ、私にできることは、できることは……。
「何をやっているのかしら、私は」
自分の手を見て、星影はつぶやく。
このままでは、敵だけではなく、カエンや他のみんなも傷つけてしまう。
誰も、私も、そんなことは望んでいない。
私は私の目的があって、ステラ・ウンブラを探していたんだ。
「……その思いこそが恨み。我の糧。」
「心を読んだのね。ずっと気になっていたの。あのときから私のどこかで、何か得体の知れないものが何か潜んでいたことを」
星影は、繋がれた鎖を取るべく、動き始める。
しかしそう簡単には外れない。
「無駄だ」
「っ……」
本当に、まだまだ知らないことが多すぎる。
星影の巫女は自分だけだと思っていたのに、もう1人いて。
お姉ちゃん。彼女は私にそう言った。
それに、健次と最初あったときのこと。カエンも私も、思い出せていない。
私は、真実を見極めたい。
全てを理解することは難しいだろうけど、せめて自分の身の回りに起きている不可解な出来事について、その理由を確かめたい。
だが、この鎖を自分自身で解くことは難しい。
どんなに力を込めても、外すことはできない。
「……」
「諦めろ。我に取り込まれる運命なのだ」
不思議と、この声は自分の気力を奪う力がある。
星影は自然と、その声に従いそうになる。
だが、いいのか?
それでいいのか。
このままじゃ、自分が自分でなくなって、
マギアスどころか、いろんな人を傷つけてしまう。
クローバーも、健次も、そしてカエンも。
「あきらめ、たくない」
よく考えろ。星影ナツキ。
私が絶望の淵にいた時、助けに来てくれたのはカエンだった。カエンがいなければ、私は立ち直ることも出来なかった。
そして、スカイベル学園に入れたのも、ダゼンスからきた少年、健次と共に、事件を乗り越えてきたからじゃないか。
それだけじゃない、クロウズやミンティ、それにレロッサ……。
そう、私は一人でここまでこれた訳じゃない。
沢山の人に助けられて、今ここにいる。
そんな人たちのためにも、
村の人たちのためにも、
ここで、あきらめるわけには行かないのだ。
まだまだやるべきことが、やりたいことが、たくさんあるんだ。
ここで諦めて、たまるもんか。
そう思った瞬間、迫り来る影の動きが止まり、
自分の周りの空間が、宇宙空間に変貌する。
「な、何ここ」
「ようやく決意をしたか、星影よ。影墜ちした時はどうかと思ったが」
「エルザ・マスター……」
「影の力は強大だ。コンディションの調整能力だけでは、離すことは出来ない。知識とそれに準ずる魔法が必要だな」
「トライスキルね」
「ああ。お前が持つべきトライスキルは、マスター」
「マスター」
「ラボンス世界のすべての知識を取り出すことが可能だが、使い手に強大な負荷をかける力だ」
「私が、その力を受け継ぐの?」
「それに相応しいと判断したからな」
力を手に入れる。それで星影の影墜ちから解放されるのであれば、もう、手段はない。
だが、星影は一つ確認しておきたいことがあった。
「……ひとつ、聞いていいかしら」
「ああ」
「2000年前の伝承では、悪魔を倒すべくっていったけれど、今回私たちがデルタトライナイトになる、本当の理由は何なの? 力を与えてそれでおしまい。というわけではないのでしょう?」
「ふっ、さすがだな」
「健次の時もそう、試験を突破して、弱いけど規格外の力を与えて、また悪魔でもくるって言うの? そもそも悪魔って何?」
「いいだろう。だがまずは、試練を突破してからだな」
「試練?」
「前にも言っただろう? あの女の声を思い出せ。お前の本当の名を思い出せとな。お前の過去から目をそらすな」
「過去……? 私はラボンスに生まれて、それから」
「本当にそうか? あの女はお前を姉と呼んだのだぞ。お前には妹がいた。それは確かだ」
「妹……」
何か、引っかかる。
星影は10年前、自分が7歳だった頃を思い出す。
星影が最初の村、もう村としての後はない村に1人で行きていた。
村の人々が面倒を見てくれていたはものの、自分の親のことを知らずにいた。
「思い出せない」
「やはりか。外から衝撃でも与えない限り、難しいかもな」
「衝撃、ね。カエンに一つお願いしていることがあったの、すっかり忘れていたわ」
「なんだと?」
「カエン、頼んだわよ」
★ ★ ★
「ああ、頼まれたぜ」
「カエン?」
「なんでもねえよ、ただナツキがそういった気がしたんだ。健次、クローバーさん、今からおれがやることは、ナツキが同意の上だってことは、十分に承知してくれよ」
「何するつもり?」
カエンは刀の鞘を星影に投げとばす。
それを避けようとする星影の隙を狙い、カエンは右手を思いっきり、星影の腹部へ。
「ナツキッ!! 歯ァ、食いしばれッ!!」
「ぐ、ぐはっ!!」
その瞬間、星影に取り憑いていた闇が分離され、星影は床に倒れ込む。
「きかん坊には殴って目を覚まさせる!」
「……嘘でしょ」
行為に驚くクローバー。
「ナツキがいいっていうんだからいいんだよ。お互いの約束だからな。俺がナツキみたいになったら、ナツキは俺を殴る、ナツキがそうなったら、俺がナツキを殴る」
「ア、アグレッシブだね」
「お互いの約束だからな」
(けれど、コンディションでしか剥離できなかった影が、カエンさんの拳一つで?一体どういうこと……?)
「今の技って、ただ殴っただけじゃないよね」
「さすが健次だな。俺の隠し技、火炎拳だ」
火炎は、自分のもっていた壊れた機構用ゲートを左手に持っていた。
★★ ★
その刹那。
星影は、全てを思い出した。
10年前。自分のかけらから消えていた両親の記憶。
そして、健次がラボンスに来た時の、抜けていた記憶の欠片。
「な、な……」
エルザは、突然のカエンの行為に驚いた。
「衝撃を与えたら思い出すかもしれないでしょう?」
「いや、あのな。お前の体は大丈夫なのか?」
「平気よ。カエンは私を殴ったけれど、殴ってはいないから」
「……ああ、なるほど。ゲート魔法を使ったのか。それで肉体に直接ダメージを与えずに剥離したのか」
「ええ。カエンは最初、この方法に反対していたから。私がステラ・ウンブラを追う途中で何かおかしなことになったら殴ってくれって、最初に提案したのは私」
「ゲート魔法を使った、ショック攻撃。お前がゲート魔法の仕組みを熟知してるからこその、攻撃、いや、回復魔法か。これは驚いた」
「そうね。カエンが殴った火炎拳は、直接私の肉体を攻撃せず、私のゲートを狙った。そこで電気を通して私の脳にショックを与えたの」
「……金属性を持たないカエンにそんな。いや、なるほど、機構用ゲートを破壊したのはそれが理由か」
「ええ。そこで発生した電気を、カエンの火炎拳を通して私の体に電気ショックを与えたの」
「一瞬お前もガルグと同じ脳構造をしているのかと勘違いしたぞ」
ガルグ・ストロングはやっぱり火炎と似たところがあるんだなと、星影は内心笑ってしまった。
「ガルグ、ガルグ……ストロングね」
「ああ。しかし、今の衝撃で思い出せたのか?」
「ええ。響いたわ。仕込んだ甲斐があるってものね。私は、皐月に全て乗せられていたのね。それであの子に全てを背負わせた。まったく、今の今まで私は私だけのことしか考えてなかったのが、情けなくてしょうがないわ」
「だが、それを望んでいたのは皐月だ」
「そうみたいね。私と健次のためにこんなことしたんでしょうけど、それにしては救いがないわ。自分でできることって限られているっていうのに」
「……思い出したようだな」
「ええ。こんなやり方で記憶って戻るものなのね」
「ならば、“マスター“を手に入れる資格はもう、お前にある」
エルザは自分の右手を、星影の額に当て、力を流し始めた。




