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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第三章 星影の巫女編
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第42話 「影落ち」


「魔法の仕組みを暴くしかありませんね」


 町に戻り、クローバーはそうつぶやいた。

 街の外に出ることができない魔法障壁の仕組み。暴くのであれは、コンディションを使うのが一番早い気がするが、やはりとっておいたほうが良いとのことで、別の策を考えることにした。


「健次が使った月属性の魔法が反応したよな、なんか関係あるのか?」

「ステラ・ウンブラの魔法は月属性が主ですから、何か反応した可能性は高いかもしれません」

「けど、僕の魔法じゃまだ弱い」

「……そうですね。星影さんが使うような魔法のレベルなら何か影響があるかもしれませんが。ただ、これだけの障壁を展開・維持し続けるとなると、街のどこかにルーンが刻まれている可能性もあります」

「それを探し出せばいいのか、けど、検討もつかねえぜ? 建物一件一件まわってたら日が暮れちまう」

「もう、あれを使うしかないですね」


 クローバーは一冊の本を取り出した。


「なんだそれ?」

「……本型の簡易ゲートです。対象の魔法源を特定できます。手がかりがつかめるまで使用を控えていましたが、使うしかないようですね。これで障壁のルーンをある程度絞り込めます」

「最初から使えば」


 カエンの言うとおりだと健次はおもったが、クローバーが理由を言う。


「簡易ゲートは一度しか使えないので、皐月さんの居場所を特定するために使うつもりだったんです。けど動けないんじゃ意味がありませんし、健次さんのコンディションを使うよりかは、幾分かましででしょう」

「そうなのか」


 簡易ゲートなんてあるんだと、初めて知った。

 クローバーは本を開き、持っていたペンで何かを書き始めた。

 すると本は光はじめ、白い球体が浮かび上がった。

 浮かび上がった球体は浮遊し、まっすぐ直線に伸びる。

 白い光となり、一つの場所を指した。


 ……教会だ。


「ふむ。妥当と言えば妥当かもしれませんが」

「とりあえずいってみようぜ」

 カエンの言うとおり、3人は教会へ向かうことにした。


 ★★★


 悲鳴が、聞こえなくなった。

 皆、抵抗をやめたのだ。

 声が出るうちはまだ、自分が人間であって、自分の自我があって。

 抵抗の意思を示していた。

 けれど慣れというものは怖く、痛みを受け続ければ次第と身体が麻痺していく。

 血のにおいがする。

 逃げたい。

 逃げたい。

 ここから、逃げ出してしまいたい。

 私はなぜ、こんな場所にいるのだろうか。

 私はなぜ、こんな思いをしているのだろうか。

 私はどれだけ、涙を流し続ければいいのだろうか。


 痛みは薄れてきても、涙は枯れない。

 あんなに皆、楽しく笑っていたのに。

 涙も枯れ始めてきたら、終わりだと思った。


「起きてください。星影の巫女よ」


 狂気。敬語こそ使うが、彼らが行っていることは異常だった。

 毎日のようにわけのわからない人体実験。

 何度も何度も魔法を体に当て続け、身体ともに消耗するまで続ける。

 痛覚がなくなるまで。

 昼はそんな訳の分からない実験につきあわされ、夜は独房のような部屋で閉じこめられながら過ごす。

 そんな扱いを、皆受けていた。


「……」


 抵抗すれば、痛みが増す。

 ならば何もしないほうが適切だと皆思い始める。

 だから声を上げなくなる。

 笑顔でいられなくなる。

 自分がどんな風に笑っていたのか、忘れてしまう。

 いつまでこんな日々が続くのか分からない。


「みんなは?」

「死んでしまいましたよ。実に愚かです。貴女だけが、星影の巫女たる資格を持っているに違いないのです」

「っ……!?」


 辺りを見回すと、街で仲が良かった友達。

 面倒を見てくれた姉のような存在だった者。

 みんな、絶望の表情をして倒れていた。

 とても、臭い。

 私はただ、そんな光景を見ていることしかできなかった。

 両手、両足に縛られた鎖を、解くことが出来なかった。

 その時、確実に怒りを覚えた。

 そして、自分だけが生き残ってしまったことに、後悔していた。

 彼らがしでかしたことであることは確かではあるが、なぜ自分だけ生き残ってしまったのだろうかと感じた。

 星影の巫女。

 それが彼らにとって、どれだけの価値があるものなのだろうか。私には知る由もないし知りたくもない。

 

「おなかすいたな」


 食事も必要最低限しか与えられなかった。自分に選択権など無かった。

 だから、空腹にもなる。

 

「どうして、こんな事になったんだろう」


 星影は気づく、今見ている光景が、過去の事象だと言うことに。


「これは、記憶なのかしら」

「左様。主が強い思いを抱いた記憶。主が星影の巫女と名乗る前の記憶だ」

「あなたは?」

「私は、エルザ・マスター。デルタトライナイトが一人」

 

 星影が後ろを振り向くと、顔が隠れた長髪の女性が一人、立っていた。 


「嘘でしょ。なんで私の夢の中に」

「今がその時だと感じたからだ。ただ、まだ”マスター”を拾得するには後一歩、思い出してもらわねばなるまい」

「どういうことよ?」

「ナツキ。今お主はとても危険な状態にあることを自覚しているか? 連中、ステラ・ウンブラに植え付けられた、影の人格が、歪な形で目覚めかけている。そうなってしまったら闇に取り込まれ、お主はお主でなくなる。ステラ・ウンブラでも止められなくなるぞ」

「私は」

「先ほどの女の声を思い出せ。お前の本当の名を思い出せ。自分の過去から目を逸らすな。それが鍵だ」

「鍵?」

「左様。マスターは知識を司る力。受け入れるためにはまず自分自身を認めなければならん。お主自身の闇を暴け。それが、お主がマスターを手に入れる条件だ」


 自分が星影ナツキではなく、別の名前だったという事は分かるのに、それが思い出せずにいる。

 それを急に思い出せと言われても、無茶な話だと思った。とにかく、今見ている過去の風景を、目を逸らさずに見続けることが必要なようだ。


 だが・・・・・。


 ――ソンナコトシナクテモ、チカラハスグニテニハイル


「何?」

「チッ、あいつでも押さえられなかったか!!声を聞くな!」


 再び聞こえる。目の前に黒い靄が現れる。

 気持ちが何故か取られていく。

 だめだという事が分かっている。

 けれど、その声に何故か従いそうになる。

 エルザは必死に星影を止めようと声をかけるが、ナツキには届かない。


 そう、あの時のように。

 抵抗をやめれば、楽になる。

 連中がやる行為が収まるわけではないが、少なくとも気持ちは楽になるのだ。

 だったら、ゆだねてみた方が楽じゃないか。

 

 ナツキは、闇に手を伸ばす。

 ――コレデ、ホントウノ、ホシカゲノミコヲテニイレルコトガデキル。


「不味いことになったな。目を覚ませ!」


 エルザ・マスターが声をかけても、星影は反応しない。

 闇の声に身をゆだねたまま、ニヤリと笑い始めた。


「手遅れか。心の隙を狙ったか。2人は過酷だが、まかせるしかあるまい。頼むぞ、カエン、健次」


 星影は眼を覚ます。

 なんだか悪い夢を見ていたようだ。

 闇に取り込まれたような、妙な感覚がしていたが、気のせいだろうと思った。

 それに、また別の人間の声が聞こえた気がしたけど、それも多分、きのせいだ。


「ここからでなくちゃいけないわね」


 武器がない。

 ゲートもない。

 いや、そんなものはいらなかったよね。

 星影は、手をまっすぐ扉に向け、ただ一言、それを唱えた。


「消し飛べ、月の衝撃ルナ・インパクト


 その一言で、重々しい金属の扉が木っ端微塵に砕け散る。ステラ・ウンブラの人間が気づき、星影を止めにかかるが、星影は魔法を見抜き、彼らが詠唱をする前に吹き飛ばす。


「弱いわね」

「ほ、星影の巫女が影落ちした・・・・・。何故だ?」


 影落ち?

 何を言っているんだこの人は。

 私は至って普通だ。


「何の事かしら。私はここを出たいの」

「あぁあああぁああぁぁぁあああああああああああああ」


 星影は男の首を強くつかむ。

 男が叫び声をあげて、倒れる。

 死んではいないが、気絶して重傷だ。

 星影はそんなことを気にもとめず、歩き始める。

 目は充血し、赤くなっている。

 廊下に一瞬映った鏡に、自分の髪が黒くなっていたことに気づいた。


「あれ、これが、私?」


 いつのまに黒く染まったのだろうか。

 連中が染めたのかは分からないが、今はどうでもいい。


「はやくあいつに復讐しなくちゃね」


 そう、それが、みんなが望んでいたことだから。

 さんざん私たちを陥れて、殺して。

 ずっとこのときを待ち望んでいたから。

 だから私は復讐を果たす。

 

 星影は、自分を誘拐した、あの男の元へ向かう。


「……容赦はしないんだから」

 ――ソウダ。ホシカゲノチカラ、オモイノママニ。コロセ。

 

 ★★★


 健次、カエン、クローバーの3人は教会にたどり着く。

 人の気配がまるでしない。

 場所は間違いなくここであっているはずだ。


「ここですね」

「開けてみるぜ……開かねえ」

「ここは私が」


 クローバーは右腕をバルカンの形状に変える。

 カエンと健次はまたか……と思いながら次の行動を予測した。

 予想通り、クローバーは容赦なく扉を木っ端微塵にしたのだった。


「誰かいたらどうするんですか!?」

「人の気配はしなかったから、安全です」

「ったくぶっ飛んでるぜ……」


 講堂に入ると、壁面全てに光る文字が刻まれ、講堂全体に何か仕掛けられているように見えた。


「ビンゴでしたね。この魔法ルーンを解除すれば」

「まさか教会ごとぶっ壊すんじゃねえだろうな」

「最悪の場合はそうしますが、こうした大掛かりな仕掛けの場合は、何らかの魔力供給源があるはずです。連中がゲートを使わないとなると、ゲートの代わりになる、何かが。もしくは外へとつながる仕組みがあるかもしれません」

「探索だね」


 カエンと健次、クローバーは講堂中を歩き回り、何か仕掛けがないか探す。

 健次のペンダントが光り始めている。

 少し歩くと、光の光度が増す。

 ヘレビス遺跡の時もそうだったが、このペンダントには何か秘密があるのだろうか。


「なんだこれ」

「……何か見つけたのか?」


 健次は、講堂のレンガに少しだけ色が違う箇所を発見した。

 ためらわず押すと、レンガの壁がゆっくりと上に動き出し、奥の道へとつながった。


「罠の可能性もあるかもしれないのに、危険ですよ」


 と、クローバーが言うが2人はお前には言われたくないよという顔をしていた。


「ま、奥へ進もうぜ」

「そうだね」


 奥へ進むと、大きな魔法陣が描かれていた。


「これは……転移陣ですね。どこかに飛ぶ仕組みになっています」

「町の外に出られるのか?」

「可能性はありますが、危険性もあります」

「……いこう」


 健次はためらわず、転移陣に足を踏み入れる。

 クローバーもカエンも頷き、3人共魔法陣へ。

 光りに包まれ、目の前の景色が一瞬で変わる。

 景色が変わり、村のような場所にたどり着いた。

 周囲の建物は人が手を入れた形跡はなく、劣化し始めている。

 所謂、廃村に近い場所だった。


「……ビンゴみてえだな。覚えがある」


 カエンが、周りの風景を見てつぶやく


「なにか知ってるの?」


 健次は、つぶやくカエンに尋ねる。


「ああ。昔、ナツキが住んでた場所だ」

「あ……」

「ステラ・ウンブラの連中は、この村すべてを襲い、自分たちの拠点にした。星影の巫女を探すためにな」

「……」

「ナツキは、この村でたった一人の生き残りだったんだよ」

「そうだったんだ」

 

 星影とカエンがずっと自分に話さなかった理由が、なんとなくわかった気がした。

 村の所々に、土を掘り返したような後が残っていて、不揃いな石に、名前らしき文字が刻まれている。


「墓だ。この村の人たちのな」

「せめて、祈りを」

「……後だな。俺もしておきたいが。村の奥に連中のアジトがある、急ぐぞ」

「あくまでも目的は星影さんの奪還。ステラ・ウンブラを壊滅させる力は、我々にはありませんから」


 クローバーが釘を刺す。


「分かってるよ」


 カエンの案内で、奥の扉へ向かった。

 奥へ向かうと、厳重な扉で閉じられ、2つの松明が設置された場所にたどり着いた。

 扉には、星影を誘拐したステラ・ウンブラたちの模様が刻まれていた。


「……しかし、妙ですね。街はあんなにガチガチに固めていたのに、ここまで敵もいなく、すんなりいくなんて」

「案外慎重なんだな先輩、そういうとこは」

「ええ? 私はいつも慎重で冷静沈着ですよ?」

「お、おう。ま、いこうぜ」


 カエンは扉を開き、奥へと進み始めた。

 敵が襲ってくることに添えて、3人は構える。

 しかし、敵の気配が全くしない。

 それどころか、教徒が床に気絶して倒れていた。


「なんだこれ」

「王国軍の介入でしょうか」

「先に進もう。嫌な予感がする」


 3人は通路を巡回し、教徒が倒れた後を追う。

 たどり着いた先は、一つの独房だった。

 とても分厚い扉なのに、紙のようにくしゃくしゃになっている。


「ここは……」

「誰かが閉じ込められていたのでしょうか」


 ふと、健次は誰かの気配を感じた。

 しかし、人影はない。声もしない。

 けれど、そこに誰かが確実にいた気がした。

 ペンダントも強く光っている。

 ここに、何かしらの手がかりがあることは間違いないようだ。

 ただ、無造作に散らかったガラクタのようなものがあるだけで、特に魔法が仕掛けられているだとか、そういったことはないようだった。


「気のせいかな」

「どうした?」


 カエンが気にして声を掛ける。


「ううん、なんでもない」

「……ここにはいないようですね。見つかる前に別の部屋を探しましょう」


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