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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第三章 星影の巫女編
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第40話 「星影の巫女」


「やはり、つながりませんか」


 クローバーはため息をつく。

 やはり、魔法水晶で学園長につなぐことができなかった。

 引率している身でありながら、後輩を誘拐させてしまうような失態をするなんて。

 いろいろ迂闊すぎたな、と反省する。

 街を回ってみたが、商売はしているものの、街から出られない状況になってしまっているようだった。


 クローバーはなんとなく分かっていたが、あえて聞かなかった。

 星影とカエンが、何かを隠していることを。

 それを健次に話していないことを。


「隠しておきたいことなんて、誰にでもありますよね」


 クローバーは右腕の手袋を外し、金属でできた自分の腕、そして左足を見る。

 荷物から弾薬を取り出し、充填する。

 フォグル工房で特注してもらった、戦闘機能のついた義手と義足。


 ――ステラ・ウンブラ。


(たぶん、星影さんはあの”村”の生まれだったのかも)


 星影の巫女。

 健次という少年は知らなかったみたいだけど、カエンと星影さんは知っていたはず。

 会ったときから疑問だったが、彼女が星影を名乗りながら、表立って行動しているのは、何か意図があったんだろう。

 そうでないと、あんな事件があったら、普通自分の名前を変えたくなる。それでも星影の名を言うのは、理由があるはず。

 それに、学園長が後輩たちと同行するようにした意図はたぶん、私自身の因縁にもかかわっているからだろうし。


(あんな連中に、今の戦力で勝てるでしょうか)


 見たことのない魔法を使う連中。

 健次さんが使う"コンディション"でも、魔法の一つを暴くことしかできなかった。

 使い方を考える必要があるのかもしれないけど、それでも4人は全く歯が立たなかった。


(……ひとまず、お湯を沸かしましょう)


 宿に備え付けの機構用調理ゲートに火をつけ、水を入れたやかんを置く。



★★★




 健次とカエンが話していると、


「目覚めましたか。よかったです」


 と言いながらクローバーが部屋に入る。コーヒーのよい香りがする。

 メイド服ではなく、白シャツに普通の黒ズボンで、普通の格好もするんだと健次は思った。

 ウエイトレスというか、バーにいそうなイメージ。

 ひょっとしたらメイド服は学園長の趣味なのかもしれない。


「どうぞ」


 クローバーはベット横のサイドテーブルにコーヒーを置く。

 カエンにも同じものを渡す。


「ありがとうございます」


 コーヒーを受け取り、口をつける。


「……ありがとよ先輩。うめえな」

「うん、おいしいかも。なんというかコクがあるというか」


 カエンと健次はもらったコーヒーを一口のむ。

 とても美味い。

 久しぶりにこんなに美味いコーヒーを飲んだ気がする。


「良かったです。さすが商業地区ですね。質の良い豆を仕入れることができました」

「なんでもあるんですね」

「ええ……。さて、健次さん、カエンさん、状況を整理させてください」


 クローバーはベット横のダイニングテーブルに移動を促し、カエンも健次もテーブル前の椅子に座る。一枚の地図を広げた。


「学園長と連絡は取れなかったんですか?」

「はい。おそらく先ほどの連中の仕業でしょうね。現在、ザクセン商業地区の周辺は魔法通信を阻害する何らかの仕組みが施されていたせいでしょう。先ほど市場に行きましたが、少々混乱していたようでした」

「どういうことだ?」

「……街の外に、出られなくなっているようなのです。人も、船も」

「やべえ状態だな」

「そんな魔法があるんですか?」

「伝承でしか聞いたことがありませんが、そのような魔法があることは史書で読んだことがあります。陸路も空路も塞がれた状態で、今ザクセン商業地区は陸の孤島です」

「加えて、ナツキがさらわれた状況か」

「はい、星影さんを攫ったあの集団、本で確認した、ステラ・ウンブラとなんらかのかかわりか、その集団そのものである可能性が高いでしょう」

「ステラ……ウンブラ。けど星影が、全員逮捕されたって言ってたんじゃ」

「確かに5年前逮捕されたのは事実です。が、実際に彼らはステラ・ウンブラの紋章を掲げ星影さんを攫ったことは確かです。逮捕されなかった残党が攫った可能性はあります。星影の巫女。彼らは星影さんのことを、そういっていましたし」


 健次は、一番聞きたくて、聞けなかったことをカエンに聞く。


「カエン、”星影の巫女”って、何?」

「……」

「知ってるんでしょ? ずっと来る前からそんな感じだと、なんとなく分かるよ」

「だよな。まあ、そうだよな。」


 カエンは少し躊躇って、ため息をつきながら話し始めた。


「ナツキと一緒に話すって決めてたんだが、まあ仕方ねえか」

「……星影の巫女は、ステラ・ウンブラがある儀式のために、生贄として捧げる通称みたいなもんだ」

「生贄!?」

「ああ。連中の儀式はそれは酷いものだったぜ。洗脳魔法に投薬。人体実験のオンパレード。その光景を俺は、俺の師匠とともにある村へ行き、ナツキを救ったんだ、もう、5年になるか」

「噂には聞いていましたが、やはり、星影さんは、星影の巫女だったのですか」


 クローバーも何か知っていたようだ。

 知らないのは健次だけだったらしい。


「ああ」

「けど、それならカエン、それなら何で、星影は星影って名乗ってるの。忘れたい記憶なんじゃ」


 そんな事件があれば、名前を変えたくもならないだろうか。


「あいつはよ、責任感が強いんだ」

「え?」

「当時、あいつが仲良かった友達、みんなステラ・ウンブラの拉致と人体実験で命を落としたんだ。ナツキはそれに意識が朦朧としながらも”自分が巻き込んだ”と思ってる。全くあいつのせいじゃないのにな」

「……」

「だから、復讐というかよ、コテンパンにしてえんだよ、ナツキは。こんな悲劇を二度と繰り返したくないからな。俺も同意見だし、ベルフライム王国軍に連中が逮捕されても、この事件は終わってないと思ってた。だからずっと手がかりを探してたんだ」

「もっと、そういうこと早く話してくれたらよかったのに」


 なんだか、一人だけ蚊帳の外というか。

 重たい話ではあるが、話して欲しかったと思う。仲間なんだから。


「心配掛けたくなかったんだよ。それに健次。お前はお前の目的があるわけだし、巻き込みたくなかったんだ」

「……カエン」

「まあ、結果として皐月って子がこの土地に反応してるのは、なんか関係あるかも知れねえけどな」

「話してくれてありがとう」

「おう。ま、ナツキのいない場で言ったから、あとで怒られるかもだけどな。とりあえずあの変態をぶん殴る。そうしないと俺もナツキも、気がすまねえ。けど、あいつらが何を考えているのか今のいままでまるでわかんねえ。やってることはひでえけどな」

「……納得しました。そういうことがあったんですね」

「ああ。わりいな先輩。ちと重たい話になっちまった」

「いえ、かまいませんよ」

「けど、どうするよ? あいつらがどこにいるのか見当つかねえぞ。それに分かったとしても、出られねえんだろ?」


 カエンの言うとおり、敵の正体がわからないのであれば、何かできることをするしかない。


「街から出られないとなると、後にも引けないし、まずはザクセン商業地区をみんなで回って状況整理して、この出られない状況を何とかすべきじゃない?」


 解決できるかわからないが、この状況で何か動くならばそれしかないだろう。


「……まあ、それしかねえよな」

「はい。私も同意見です。準備ができたら宿を出ましょう」



 ★★★




 3人は支度をして、街を出た。

 宿から出ると、空は暗く淀んでいた。

 明らかに何か異常なことが起きていることをこの光景をみて感じる。


「ザクセン商業地区は東西南北の門に分かれています。それぞれを当たってみましょう」


 クローバーの言うとおり、ザクセン商業地区の東西南北の門それぞれへ向かうことに。

 まずは北の門へ向かってみたが、物理的な見えない壁のようなもので通れず。

 壁を隔てて通行人が何らかの物理的手段で破壊を試みても、壊れなかった。

 クローバーはすかさず右腕をバルカンの形状に変え、躊躇いなく乱射しても、はじき返されるだけだった。


「無理みたいですね」

「びっくりするからまじで!!!」

「あら、失礼しました」

「ま、試すだけ試すか……火炎斬ッ!」

 

 カエンの刀が赤く光だし、障壁の破壊を試みる。

 しかし、障壁はびくともしなかった。


「……力でどうこうできる感じじゃねえな」

「僕のコンディションで」


 クローバーが止める。


「いえ、それはいざというときにとっておくべきです」

「クローバーさん……」

「貴方の力は万能ですが、限度がある。使い時を考えましょう。まずは、この魔法障壁が他の地区にあるのか、まず確かめましょう」


 3人は東の門、西の門、南の門を巡回する。

 予想通り、魔法障壁によって外に出られない状況になってしまっているようだ。


「やはり、だめですね」

「エレメントチェンジ……!!」


 健次はゲートを出し、雷属性に切り替える。


雷鳴ドンナー!」


 しかし、カエンとクローバーと同じく、魔法障壁はびくともしない。

 木、火、土、金、水、5属性では全く効果がなかった。

 では、月属性ならどうか。


「エレメントチェンジ……!! 月の重力ルナ・グラビティ!!」


 少し、障壁が揺らいだ。


「月属性が反応したな」

「けど、僕の力じゃこれが限界だ」


 一瞬揺らいだが、障壁は元の状態に戻る。

 障壁自体に何かを働きかけても、この事態は解決できないようだ。


「ちくしょう!」

「……一旦、中心部へ戻りましょうか」

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