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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第三章 星影の巫女編
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第39話 「健次の過去」


 ザクセン商業地区にある、宿へ向かう3人。

 星影が連れ等去られた後、追っ手は誰も追いかけてこなかった。

 彼らの目的は星影だったのだろうか。


 もう体力はほとんどなく、風呂に入り横になる健次とカエン。クローバーは今起きたことを学園長に報告しにいったようだ。

 いろいろ聞きたいことはあるし、星影の身が心配だが、今の自分にはどうすることも出来ない。

 カエンとも話そうとしたが、相当疲れていたのか、すぐに眠りに入ってしまった。


 ☆☆☆


「……」

 

 3年前。11歳の時。今でも覚えている。

 警官2人が自分の家の前に現れて、父がいなくなったことを伝えに来た。

 最初はよくわからなかった。

 いつも通り冒険に出かけて、何かけがをしたのかと思った。


 たいてい悲しいときには、雨が降るようなシーンが映画やドラマや本ではあるけれど、その日は蝉の声が脳裏に鳴り響くくらいうるさく、蒸し暑い日だった。

 

 母親は、父親の行方不明以来、家に帰ってこなくなった。


 ひとりぼっちになってしまった、家の中。

 もともと鍵っ子であった健次には、すぐに事態を受け入れてはいなかったけど。


 祖父母が来て。

 父さんと母さんがいた土地を離れることになり。空っぽになった家を見た時は、自然と涙がこぼれていたらしい。

 ココロに、ぽっかり穴があいたのだ。

 11歳の子供には、そんな現実はつらすぎる。

 まだ小学生だというのに。

 

 新らしい家につき、祖父母が作ったご飯を食べて。暖かい布団で寝て。常に話し相手がいて。

 あのとき、祖父母が助けてくれなかったら、きっと健次は自分を保てなかっただろう。


 それに、祖父母以外の存在も大きい。

 皐月だ。

 彼女もまた、健次を気にかけてくれた人間の一人だった。


 祖父母のいた土地には、小さい頃は長く住んでいた。7歳ぐらいまでいたらしい。

 当時は、近所にいた皐月に連れ回されながら、山や川や海や、いろんなところを冒険したらしい。

 いつも泥だらけで帰ってくる。

 

 父が冒険で忙しくなり。

 8歳から11歳までは、母の仕事の関係で、引っ越しを繰り返す日々。

 そのころ仲良かった皐月とは離ればなれになった。

 すぐに友達を作っても、繰り返す引っ越し。

 当時はインターネットなんて流行っていないし、携帯もない。手紙を交わすことも無かった。

 いつも別れはつらかった。

 母の仕事だから仕方がないと。

 けれど、父が行方不明になった瞬間にいなくなった母で、自分の心は疲弊しきっていたんだと思う。

 けど、皐月は、そんな自分に、依然と変わらずしつこいぐらい毎日話しかけてきてくれた。


「けーんじくーんーー」

「五月蠅いなあ」

「けーーーーーんじくーーーーん!!」


 家の入り方を知っているのか、玄関の鍵を閉めてても塀を上って入ってくる。

 今にしてみれば奇行だが、祖父母は容認していたから、健次だけがいやがっていた。

 そのころの自分は、友達なんてすぐ作ってもいなくなるのであれば、初めから作らなければいいとさえ、思ってしまっていたのだ。


「きょうよさげなダンジョン見つけたんだよ、いこ!?」


 皐月は強引に連れ出す。

 乗り気じゃないながらも、皐月が連れて行く場所は、とてもきれいな場所ばかりだった。


「いいでしょ、ここ」


 森の中。木漏れ日が差し込み、きれいな色の川が流れている。

 皐月は本当にきれいな場所を見つけるのが得意で、子守がちだった自分を、きれいな場所につれてきてれた。


「なんで、そんなに僕にかまうの」

「なんでだろ、好きだからかな、たぶん」

「え?」


 ぽっと出た彼女の言葉に、健次はびっくりした。

 思わず赤くなる。皐月もえへへといいながら照れていた。


「最初は健次くんが言ったんだよ。私のことがすきーって。覚えてないでしょ?」

「そんな昔のことなんか」

「いったよ? 私うれしかったんだから」

「そんな前のこと、覚えてねえよ」

「そっか。ま、いいや。好きだから、多分こうしているんだと思う。健次くん、なんだか壊れそうだったし、見てられなかったからさ」

「皐月……」

「健次くんはさ、冒険するべきだと思うの。」

「僕は、父さんみたいには」

「けど、どこかでわくわくしてたりしない? 本に書かれていないこととか、賢い大人たちが知らないこととか、世の中にはたくさんあふれてるんだよ」

「……」

「世界は広いし。近所にだって、こんなきれいな場所があるんだよ? 思えば人は、どこにだっていけるのです♪」

「僕は……」


 父みたいになりたくない。

 息子を置いていなくなる親父なんて、父親としてどうかしている。

 そう思っていたのに。


「私がつれてくる場所、最初は嫌そうだけどきたらすごい顔してみてるじゃん」

「すごい……顔?」

「うん。昔の健次くんみたいに、目をおおきくひらいて、ぱあっとなるような」

「私はついてくよ。そんな健次くんに。もっと健次くんのいろんな顔がみたいし」

「っ……皐月が連れ回してるだけじゃんか」

「そうだね。けど私はもっといろんな世界がみたいの」


 まっすぐ目を開いて、彼女は健次を見つめる。

 久しぶりにドキドキする。

  笑いながら彼女は森の中で踊る。

 きれいだ。

 踊り終わった彼女は、健次にこうつぶやいた。


「そして、いつか私を救ってね」


 その時、彼女は少し声のトーンを落としてその言葉を口にした。 


「どういう意味だよそれ」

「嘘嘘。なんでもないよ、なんかヒロインぽいことしてみようかなって。健次くんはヒーローになるわけだし。今の健次くんはよわよわだから、今は私が守ってあげるけどね♪」

「なんかムカつくなあ」

「じゃあ強くなること、いい?」

「運動は苦手なんだけど」

「運動だけじゃないでしょ?強くなるのって」

「まあそうだけどさ」

「お父さんをぎゃふんといわせたくない?」

「ぎゃふん……」

「宇宙でもいこっか。うんうん、そーしよー」

「簡単に言うけど皐月。宇宙ってとても金がかかるし、たくさん勉強しないといけなんだぞ」

「健次くんまかせた!」

「皐月も努力しないといけないって!」

「えー」

「えーじゃない!」

「私には、こう、でっかい宇宙戦艦にのった健次くんが、”のるかい?嬢ちゃん”とかいいながら乗せてくの」

「絶対僕そんなこと言わないだろ」

「いいじゃん空想の話だし」

「おじさんくさいな僕」

「おじ健次くん、りゃくしておじけんくんだね」

「意味わかんねえよ……」

「ま、そんなかんじで、この世界はまかせたよ、健次君!」


 ☆☆☆


 目が覚める。

 昔の記憶。忘れていた記憶。

 天井に手を伸ばす。

 

 何でこんな事、忘れていたのだろうか。

 両親とも行方不明になって。祖父母似引き取られて。絶望しかけた時に元気づけてくれたのは、

皐月だった。最初はとてもウザいと思っていた。

 けど、彼女の好意に、たぶん、あのとき揺れ動いたのは確かだろう。


「はは・・・・・」


 中学生になっても相も変わらずダンジョンに連れて行きたいといって彼女につきあっていたけれど。

 こんなこともあったなと、健次は思い返していた。

 この世界、ラボンスにつれてきたのは、皐月の後押しのおかげだ。

 けどーー。


 ――いつか、私を救ってね。


 あの言葉は、今考えると、こういう状況になることをまるで知っていたような。

 まあ、そんなことある訳ないか。


「起きたか、健次」


 カエンが部屋に入り、健次に声をかける。

 窓の外をみると朝日が昇っていた。

 どうやらあの後、すっかりぐっすり眠ってしまったようだった。

 

「カエン」

「具合はどうだ?」

「うん。なんとか大丈夫」

「クローバー先輩がマクワドル学園長に事態を連絡してるらしいけど、昨日から魔法水晶の通信機能が使えなくて、まだ連絡が出来てないらしいぜ」

「そうなんだ・・・・・。どうするの?」

「星影を取り戻す。そしてあいつをぶん殴る」



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