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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第一章 ラボンス突入編
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第3話 「ゲート、受験準備」

【登場人物】

新山健次 …主人公

篠山皐月 …主人公の幼馴染(行方不明)

カエン  …健次にスカイベル学園に入学することを提案した人

星影ナツキ…健次の手当てをしてくれて、ラボンスのことを説明してくれた人

【状況】

現在地  :ラボンス「ベルフライム王国」ケルタ村

現在の目的:王立スカイベル学園の第一次試験を受けよう!


「お、重っ」


 スカイベル学園の入学試験である、明日の第一次試験に備えるため、カエンと星影に連れられ、ケルタ村の武器屋で武器選びをすることになった健次。

 そもそも、なんで武器選びをしなければならなくなったのかというと、第一次試験の課題である、「遺跡攻略」に備えるためである。

 カエン曰く、遺跡にはモンスターが出るとか出ないとか。

しかし健次は、手に取った武器の重さに振り回されていた……。

 

「刀はすぐには使いこなせねえか。何がいいと思うナツキ」


 カエンはため息をつきながら、星影に聞く。


「そうね……。力が足りないなら、他の軽めの武器に頼るしかないと思うけど。期待外れね」


 明らかに馬鹿にされているような気がして少し癪に障る健次だったが、自分に力がないことはわかっているので、抑えた。しかし本当に星影が言うとちょっとむかつくのは何故だろうか。この子の才能なのだろうか。


「あのさ、この世界ってそもそも武器所有していいの?」


 日本で刀なんか振り回していたら銃刀法違反で捕まってしまう。

 しかし刀か……。まさかこんなに重いなんて。と、健次は驚いていた。

 こんなもん振り回しているんだよな、武士ってすげえと度々感心するばかりである。


「護身用とかで持ってる奴とかが多いな。街と街をつなぐ街道にもうようよいる」

「そうね。でも、ベルフライムにおいては、王国騎士団が定期的にモンスター排除しているらしいから、最近では持ってない人もいるかもしれないわね。昔と比べて安全にはなったらしいし」

「まあ、スカイベル学園は士官学校だし、持ってないといけねえ。必須アイテムってやつだ」

「なるほど……」

「で、話を戻すけれど、ダガーとかはどうかしら」

 

 星影が、健次にさっきの長めの刀とは違う、短めの刀を差しだした。

 持ってみると、やはり大きさの違いだろう、すごく軽い。


「軽っ」

「ただそんなんじゃあほんと護身用にしかなんねえぜ……」

「でもカエン、素人に他の武器を使って慣れさせるのに時間がかかるし、これぐらいしかないんじゃないと思うのよね。それにダガーでも使い方次第ではいけるはずよ」

「ダナ。どうだ健次」

「よくわからないけど2人がいいならこれにする」


 自分に合う武器とかすぐわかるもんだろうか。

 武器屋には他にもいろいろ武器が並べられていたが、どれも技術がないと使いこなせないもので、健次か指さしても2人に首を振られるだけである。

 ……さっさと決めてしまいたいし。


「まあ慣れてくれば他の武器も使えるだろ」

「そうね。で、このお代は誰が出すのかしら」


 カエンが、「あ」と意表を突かれた顔をした。

 そういえば世界が違うなら、日本円なんて使えないはず。

 ここは2人に出してもらうしかない。


「まぁ、提案したの俺だし仕方ねえか。貸しだぞ貸し」

「ありがとう」


 新山健次は、ダガーを手に入れた!カエンのお金で!

 その後3人は、武器屋を出て、村の広場に出る。


「あとは防具とゲートね」

 星影が、ふう、と息をついた。


「あの、また質問良いですか」

「ダメです」

「ナツキ」

 

 健次は星影に嫌われているのだろうかとふと思った。が、カエンが小声で「わりぃな、でも初対面でこんなに話すなんて珍しいんだよ」と健次に耳打ちした。


「何?」

でも、すごく邪険に扱うような態度取られているのですが、カエン。


「ゲートって何?」

ラボンスゲートとか言っていたあの言葉、どういう意味なのだろうかと健次は尋ねた。

それに対して、「はぁ」と星影はため息をつく。


「教えてやれよ。俺もよくわかんないし」

「カエンは知らないと駄目じゃない。まったく呆れるわね」

「いやあだって刀振ったらボッって炎でるからあまり気にしねえしな」

「仕方がないわね。まぁ教えましょう。入試にも関わってくるだろうし」


「まず、最初に、ラボンスコアについて説明する必要があるわね」


 ラボンスコア。

 この異世界、「ラボンス」に存在する、無限のエネルギーの源。

 何でできているかは不明ではあるが、量が減らず、無限に湧き出ることからラボンスにおいて普通に使われている生活資源である。その用途は料理の火を始め、船の動力機関や戦闘用の魔法エネルギーとして様々な分野で応用されている。

 健次の世界、「ダゼンス」でいう、ガスや電気が無限に使える。というようなことと、同じことであると考えると、とてつもない。

 

「その、ラボンスコアからエネルギーを取り出すのに使われているのが、バイパスであるゲート、ラボンスゲートね。ラボンスコアと直接バイパスしていて、好きなように取り出すことが出来るわ。……そうね、カエン、試しに見せてちょうだい。場所を変えましょう」


 RPGで言うMPが無限大みたいなものだろうか。何そのチート。

 星影のいうまま、村の郊外に出る3人。

 カエンは、腰にぶら下げていた刀を持ち、抜刀した。


「カエンの刀は、ゲート付き武器で、刀そのものがゲートになっているわ」

「おし、いくぜ、火炎斬!」

 

 カエンが、そう言い、両手で刀を振り下ろすと、鞘の部分の赤色の水晶が光りだす。おそらくあれが“ゲート”だろう。刀に炎が灯り、ものすごい衝撃波が通り過ぎた。衝撃波が通り過ぎた後は焼け焦げ、一本線として地面に焼き付いていた。


「すげえ……」

「まあ、ざっとこんなもんだな」 


 にしても、カエンの技の名前って、そのまんまで分かりやすい。

 カエンが斬る炎を出す技だから、火炎斬。大方そんなところだろう。


「これがゲートの威力ね」

「こんなのが無限に出せるのか」

「まぁ、無限に、というのはあくまで理論上の話ね」


 どういうことだろうか。


「“ラボンスコア”自体には無限のエネルギーがあると言ったけれど、ラボンスゲートはそうじゃないの。問題はその仕組みね」


 ラボンスゲートの、欠点。

 それは、使用する人間そのものの体力、精神力に依存するようだ。

 つまり、限界値が人それぞれあり、その限界値までしか、ゲートによる魔法が使えない。ということになる。


「だとしたらさ、さっきみたいな飛行船のエネルギーって、どうなるんだ?」

「いい質問ね。実はゲートには2種類あって、人間が魔法を使うための人間用ラボンスゲートと、機構用ラボンスゲートの2種類あるの。人間用のラボンスゲートは人に依存するけれど、機構用ラボンスゲートはその機構の耐久力、大きさなどで限界値が定められているらしいわ。よって、ウインドベル・ローレライ号はおそらく機構用ラボンスゲートのかなり高級なモノが使われているかもしれないわね」


 なるほど。無限といっても、人間に影響してくると。仕組みはわからないけど、チートなんて出来ないようになっているんですね。


「あとそうだ、もう一ついい? 人間用のラボンスゲートのさ、限界が来ると、次に使えるようになるまでってどれくらいかかるの?」

「良い所に気が付くわね。あなたひょっとして見かけによらず頭がいいのかしら」

「見かけ頭悪そうに見えるのか!?」

「こいつなりに褒めてんだよ」


 星影はそのまま説明を続ける。

 人間用のラボンスゲートの限界値が来ると、全回復するまで一晩寝る必要があるらしい。

 他にもアイテムを使って回復する方法もあるが、その後の人間に対する負荷が高いらしく、あまり使わないほうがいいとのことだ。


「なるほど。ありがとう」


 とりあえず、この世界の戦闘システムについては理解できた。

 あとは、そのゲートを入手する方法だ


「で、ゲートってどこで手に入るの?」

「その、ゲートなのだけれど……王都に行かないとないのよね」

「え?」

「ああ。この村にはゲート屋なかったな……」


 マジですか。

 ということは健次、武器ダガー1本だけで挑戦というわけですね。


「嘘だろ」

「まぁなんとかなるって。な、ナツキ」

「せいぜい足手まといにならないことね」


 その後、防具などをそろえ、カエンに簡単な戦闘指南をしてもらった。

付け焼刃な訓練で、正直足手まといになる気しかしなかったが、なんとか今日覚えられることは覚えた。

 とりあえずカエンから教わったのは“避け方”だ。相手を倒すことは星影やカエンに任せるとして、戦闘のダメージを抑えるために必要なこと。

 不安しかないが、皐月を探す手掛かりをつかむためだ。仕方がないだろう。

そして3人は、ケルタ村の宿へ。

 宿は、1階が食堂、2階が宿となっていて、3人は1階で夕食を食べながら、話していた。

 料理の名前はよくわからなかったけれど、意外とおいしい。


「いよいよ明日だな……」

「カエン、“洞窟”ってどこにあるの?」

「実はこのケルタ村郊外にあるんだよ。だから今ケルタ村は他の受験生もいるってことになる」

「へー」


 だからケルタ村に来ていたのかと納得する。


「今晩は明日に備えて早く寝なくちゃね。詳しいことは明日説明するわ。先におやすみ」


 星影はナイフとフォークを置き、ごちそうさまと言って2階へ上がって言った。


「おう、おやすみナツキ」

「おやすみ」

「さて、ちょっと男同士の話でもするか健次。ちょっと外いこうぜ」


 カエンに連れられ、宿の外に出た。

 あたりはすっかり暗くなっていて、光は集落の家の明かりと、月明かりと、星の光だけだ。

 どうやら、空は健次の元いた世界と同じらしい。


「いきなり悪かったな、ほんと。こんなことに巻き込んでさ」

「いや……正直ありがたいよ」


 急に異世界に来て、2人は助けてくれたんだ。

 そして、いなくなった皐月の手掛かりを見つける手段を教えてくれた。

 うまくいくかは分からないけれど。


「あのさ、カエンに聞きたいことがあるんだけど」

「おう」

「カエンは何故、スカイベル学園に入学しようと思ったの?」

 

 健次の目的は、皐月を探す手掛かりを見つけること。にある。


「まあ色々理由はあるが……」

 

 そう答えたカエンは、どこか遠い目をしていた。

 恐らく、様々な事情があって目指していたのだろう。

「空を、めざしてえんだ。それが一番の理由だな」


 カエンは、空を指さし、上のほうを向いた。

 その目はまっすぐに上を見ていて、何か憧れているのだろうかと健次は思った。

 スカイベル学園の、ウインドベル・ローレライ号が、空に浮いていることと関係あるのだろうか。


「空?」

「ああ。なんかワクワクしねえか? この空の向こうに何があるのかって、ラボンスの誰もがいろんなこと考えてんだぜ。誰も知らねえ。俺も知らねえ。なら知りてえじゃんかよ。スカイベル学園なら、空に一歩、届く気がしてな。まぁそんなとこだ」

 

 意外と、カエンはロマンチストだ。

 ……ラボンスには、宇宙に行った人がいないのかと健次は思った。

 そもそも、異世界であるこのラボンスは、地球と同じ構造をしているのだろうか。

 空の向こうは、地球と同じく宇宙があるのだろうか。

 もしそうであるなら、そうであるとすれば、

 健次は、空の向こうに何があるかを知っている。

 カエンは、空の向こうに何があるのかを知らない。

 だから憧れる。

 その瞳が、健次には眩しかった。

 かつても健次は、あんな眩しい瞳を輝かせていた時期もあったのだ。


「ワクワク……か」


 父さんも、同じような思いをして、冒険をしていたのだろうか。

 当時の自分からしたら、ただの自分勝手で身勝手な父親像だった気がする。

 たまにしか帰らないと思えば、すぐにお土産を置いて出て行ったり、昔から家を空けていることが多かった。

 でも、そんな父さんの帰宅を、父さんの冒険話を、楽しみにしていたこともあった。

 今、父さんやカエンのようなワクワクは、自分自身にあるのだろうか。


「どうした? 健次」

「あ、いや、なんでもないよ。ちょっと昔のことを思い出してさ」

「そうか……。なあ星影のこと、どう思う?」

 何を藪から棒に。

「というと?」

「いやよ、あんな性格だから嫌いになるやつ多くてな。トゲトゲしいだろ、あいつ。でもさっきも言ったけど、お前にはすげえ喋っているんだぜ。普通なら、見ず知らずの相手に対しても本当に無口で、たまに毒吐くぐらいしかしねえのに、不思議なんだわ」

「星影は……」


 よくわからないけれど、たまに腹立つときはある。けれど、ラボンスの世界のことといい、ラボンスゲートといい、色んなことをきちんと、わかりやすく説明してくれていた。

 このラボンスの世界のことを何にも知らないのにも関わらず。だ。


 もし、自分が逆の立場だったならどうしていたのだろうか。

「異世界からやってきました」なんて、正直頭おかしい奴としかとらえられないし、病院送りになることは確実だろう。

 そんなことを考えるならば、普通に受け止め、こうして提案してくれて、こうやって一人の人間として対等に話してくれるのならば、かなりいい奴なんじゃないか。と思う。


「いい人だとおもうよ」

「おお。なんかその言葉聞いて安心したぜ」

「2人とも、やさしいよほんと」


 カエンもそうだ。

 こんな見ず知らずの奴に、こんなにもしてくれてさ。

 裏があるんじゃないかってちょっと思ったが、今日1日のやりとりでそんな感じがしなかった。


「やさしいか? 俺たちの目的のためにお前を巻き込んだのに」

「それでもだよ」

「それでもか」


 ばつが悪そうな顔をして、頭をかくカエン。


「まあ、これからよろしくな、健次」

「うん。こちらこそだよ。カエン」


 2人は、改めて握手をした。

 いよいよ明日。不安だらけだが、とりあえずがんばろう。

 何があるかは全く分からないけれど。


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