第32話 「入学」
1年半ぶりの投稿です。これからは定期的に更新していく予定です。
私は彼に嘘をついた。
その嘘は彼に多分、かなり迷惑な嘘だったと思う。
けれど私はその時が来るまで、私は嘘を貫く必要がある。
もしくは、彼にその嘘を見抜いて貰う必要がある。
私はいつまでその嘘をついておく必要があるのだろう。
それはわからない。
彼に見つかるまで。私が目的を達成するまで。
どちらが先になるかわからないけれど、それまで、私は彼に嘘をつく。
「ごめんね、ケンジ君」
私は、あなたに酷いことをしたのかもしれない。
それでも私は嘘をつき続けなければならない。
私が私であるために。
私が私を見失わないために。
小さく息をつき、そんなことを思う私の意識は、遠くへ。
★
《間もなく、本線はナハト魔法特区へ到着いたします。どなた様もお忘れ物ないよう、お気をつけください》
船内放送が流れると、健次は甲板から、街の風景を眺めた。
「うわああああ」
思わず、声が出た。
メカメカしいタルメ工業地区とは180度異なる、異国情緒あふれる街。
中央にそびえ立つお城。から、レンガで出来た城下町が東西南北に別れている。
空港は、その郊外にあるようだった。
箒で空を駆け回る魔女。
それぞれの建物に付けられた煙突からは、様々な色の煙が出ていた。ただの煙なのに、色が違うと綺麗に見える。
あれも、ゲート魔法の一種なのだろうか。
「ついたな!」
「ええ。ここが、ナハト魔法特区ね」
船はゆっくりと空港に着陸する。
そして、ひと目で分かる、ものすごくでかい船。
「でっけえな」
「ウインドベル・ローレライ号ね。全長400ルシェはあるとされているわ」
定期船から見上げるほどの大きさ。
この船が、まるごと学園というのだから、テンションの高まりが半端ない。
皐月を探すために、ここまで来た。それが一番の理由だけど、何よりこの巨大建造物が浮遊するという事実だけでも、たまらない。
「首が痛くなるね」
健次は、カエンとともにウインドベル・ローレライ号を眺める。
「ああ。 良かったなナツキ」
「どういうことよ?」
「ここまで長かったなって。お前の努力のおかげだ」
「あ、ありがと。けどカエン、貴方がいなければここまでこれなかったかも」
「おう! ただ健次のおかげでもあるからな!」
「そうね。2人とも、ありがとう」
星影は、笑顔でカエンと健次にお礼する。
「カエン……星影が素直だ。今日雨でも降るのかな」
「ん? こいつはいつもこうだぞ」
「貴方達ね」
「来たか」
3人が話していると、屈強な男が歩いてくる。
クロウズ・ガンザルド=ガンザー。ちゃんとした名前は、エマ・バース事件のあとに聞くことになった、自分たちの試験監督。ある種この人のおかげで2次試験を免除することができた。星影にとってそれは不服だったが、カエンと健次にとっては喜ばしいことだった。
「よく来たな。早速ウインドベル・ローレライ号へ案内しよう」
「よろしくおねがいします!」
「ははっ、楽しみだな健次」
「うん、きょうからあの巨大船に住むんだね」
昔小さい頃、家族でフェリーに乗ったころを思い出すこの高揚感。
こんなバカでかい船が空に浮くだなんて、それを考えただけでものすごくワクワクする。
「まあな~。ちょっとワクワクするな」
「住む。わけじゃなくて勉強するわけだからね」
「へいへい。わかってるって。ここでわかるといいな。健次。皐月っていう子のこと」
「そだね。ブラッド家に誘拐されたって、エデンは言ってたけど」
女神エデン。遺跡で会った、楽園の扉の管理人。
少し遠回りしたけど、まず大きな目的は皐月を探すことだ。
この世界に連れてくるきっかけを与えてくれた子。
それでも最終的にこの世界に来る判断は、自分がしたわけで。
健次は、探さなければならない気持ちと同時に、少し後ろめたさを感じていた。
スカイベル学園に入学することで、皐月が何処にいるか手がかりがつかめるかもしれない。
けど、カエンや星影から聞いた、“ブラッド家”。この前エデンを刺したやつもそうだったけど、強烈な殺気を持っていたのを強く覚えている。
皐月を助け出すために、あんな連中と戦わないといけない。
それを考えると、自分ひとりだけじゃだめだ。
今の自分はトライスキル、“コンディション”を持ってはいるが、これはあくまでも調整の力。
この力自体が強大な力を持っているわけではない。
「まず、入り口だが、これだけでかい船だが入り口は一つだ……何故かは部外者を入れないためだな。空からは常に機構ゲートでバリアが施していて、万が一壊されたらアラートが鳴って、巡回中の王国兵が回ってくる」
「王国兵がいるんですか?」
「ああ。この船は単なる学園じゃなく、ベルフライム王国のシンクタンクも兼ねている。外国に狙われる可能性も少なくはない」
「シンクタンクって?」
聞き慣れない単語がクロウズの口から出たため、思わず質問した。
「研究機関。みたいなものよ。スカイベル学園の先生たちは最先端の研究をしていて、軍事利用や国のあらゆる技術の向上、さらに諸外国への学術的連携も行っているの」
「だな。ラボンスでは研究機関といえばスカイベルって言われるくらい、ココに知識と情報が集まってくる」
「はえー。すげえんだな」
カエンがただただ感心する。
「大学みたいなのがまるごと船だと思ったらいいのかな」
「ダイガクってなんだ?おいしいのか?」
カエンがアホみたいな質問をする。
「カエン。すぐわからないものを食べ物に例えるのはやめなさい。恥ずかしいわ」
「ダゼンスの研究機関みたいな感じかな」
「なるほど。ダゼンスにも似たようなものはあるのね」
「流石に浮いたりはしないけどね」
「浮かないのか!?」
「驚くとこそこ!? ラボンスにも普通に浮かない学校あるでしょ!?」
「あ、いやなんか健次の反応が新鮮だったからからかった」
「貴方ね……」
「はっはっは。お前ら仲良くなったな。ま、そのままついてこい」
クロウズにそのまま連れられ、船内の案内をしてもらった。
入り口は一つしかないが、学園関係者は転送用のゲートを所持しており、船が浮いていても1ボンス(1km)以内なら、転送してもらえるそうだ。便利。
船は大きく3つのブロックに分かれており、階層ごとに機能を分けているらしい。
一番下は居住区。船の関係者はここに住むことになるようだ。
船でたとえると水が一番かかっている部分。だけどウインドベル・ローレライ号は浮いているわけだから、場所によっては窓から空の景色が見れるみたいだ。
「まあまずは住むところからだな」
クロウズに案内してもらい、3人が住む部屋へ。
途中学園の関係者と思われる人間が何人かすれ違った。
廊下も人が余裕で歩けるくらい十分に広く、これが船だと忘れてしまうくらいだ。
「学園はチーム制で動いている。4人1チームだな。お前ら3人は学園側の意向もあって同じチームだ」
「そう、ですか。」
「何安心してんだよナツキ。お前他人苦手だもんな」
「余計なこと言わないで」
「で、基本は4人で生活してもらう。もちろん寝る部屋は施錠できるから何かあればベルを鳴らす事だな」
クロウズが部屋にたどり着く。
部屋名は、なんて書いてあるかはよくわからないけど、とりあえず後でなれるだろうと思った。
扉を開けると、ちょこんと座っている緑の髪の女が、制服を着て座っていた。
何か、すごく見覚えがある。
「よ、よう。さっきぶり」
「どうして貴女がいるのかしら」
「え、誰?」
「ミンティ・フォグルだよ!!!」
一瞬気づかなった。髪型が変わっているのもあるが、へそ出しルックのカーボーイ的な服装だったミンティが、畏まった学生服を着ているせいなのか、一瞬別人かと思ってしまった。
ミンティ・フォグル。フォグル工房の彼女がどうしているのかはわからないけど、健次は嫌な予感がした。
「まさか、4人目って」
「ああ。彼女、ミンティ・フォグルがお前らのチームの4人目だな。そして俺がそのままおまえらの担任だ」
「おう、よろしくなミンティ」
「お、おう」
「へえ。へえ~? 貴女どうやってこのスカイベル学園に」
「いろいろあったんだよ……」
予想はしていたが、やはり星影のあたりが強い。
「ま、ということだから4人でやってくよーに。とりあえずここで一旦解散だ。2時間後に再び来るから、その際に他の区画を案内しよう」
「わかりました」
扉が閉められると、星影は大きなため息を付きながら、椅子に座る。
明らかに嫌そうだ。
「貴女とまた一緒になるなんてね」
「アタイもあんたと一緒だとは思わなかったよ」
「第一試験はもう終わってるのにどうやったはいったのよ?」
「普段から勉強はしてたからな。クロウズのダンナにじいちゃんから無理言って、入れてもらった」
「へえ、ズルいわね」
「んだと!?」
「まあまあ落ち着いてよ」
「健次。私にもルームメイトを選ぶ権利はあるわ。あなた達と部屋が一緒なのはかまわないけど、この脳筋女が一緒だとは聞いていない」
「おいおい、仲良くやってこうぜ……」
「先が思いやられるね」
改めて部屋を見回すと、リビングを中央にして、バス・トイレ付きだ。台所もついているが、基本は食堂があるようだ。ここで料理をすることもできるらしい。寝室はクロウズのいる通り男子・女子と別れており、施錠する事ができる。
それぞれの部屋や部屋の箇所に機構用ゲートが備え付けられており、そこからアラームを鳴らすこともできるようだ。
嫌な予感しないが。
カエンと苦笑いしつつ、健次とカエンも、男子部屋へ向かった。
「お、男子制服かっこいいな」
「だね」
ミンティの衣装もそうだったが、スカイベル学園の制服はデザインがいいようだ。
軍服テイストだが、華やかな装飾が施してある、が目立ちすぎず、シンプルにかっこいい。
スカイベル学園での学園生活を通じて、皐月の手がかりを探すことはできるのか。
けど、やっていくしかない。
そうして健次は、新たな気持で制服に袖を通しつつ、よしとつぶやき、小さな決意をした。
皐月を、探す。必ず




