第31話 「出発」
MSC第31話
――夢。
「ヒーローになりたい」という夢を、かつて抱いていた。
けど、世の中そんなに綺麗ではなく、誰しもヒーローみたく格好良く慣れるわけでないと、
次第に気づいていく。
こうして、当たり障りのない目標が生まれ、大人になっていくいのだと悟る。
面倒くさい。面倒くさかったのだ。
そんな考え方は、ラボンスに来て変わったのかもしれない。新山健次は今、「ヒーローになりたい」。
考え方そのものが変わったというより、考えていなかったのだ。この当たり前だと思っていた世界を。
けれど、自分が手に入れた力は、想像するようなヒーロー像とはかけ離れた、調整の力。
だが、それが悪いことじゃない。自分にあったやり方で、自分自身ができる、役割。
トライスキル、コンディション。
新山健次は一歩、ヒーローに近づいた。
異世界ラボンス。全てのエネルギーを、ゲートというモノから取り出して生活している世界。
その世界で、健次は旅をする。
いなくなった幼馴染を見つけるため。
親父の手がかりを探すため。
3大戦士になるため。
空を目指したいカエン、スカイベル学園へ行きたい星影ナツキ。この2人とともに。
新山健次は、旅をする。
未だ、己の運命には気づかずに。
★★ ★
「本当に良かったのか? 追わなくて」
カエンは、無くなってしまった船があった場所を見つめ、ミンティに尋ねる。
前もって星影に聞いていたから知っていたが、騒動が落ち着いた後、レロッサ・アイスバイドによって船を奪われてしまった。いや、正確には、もとにある場所に帰った。というのが正しいだろう。
「いいよ、もともとアタイの船じゃなかったわけだし」
船の国籍はレリュール国籍だったわけだし、レリュールが回収しに来たというのも納得できる。だからミンティは別に、そのこと自体、気にしてはいなかった。
当初の目的通り、エマ・バースに誘拐された、ハーブ・フォグルを取り戻すことが出来たからだ。
だが、肝心のエマ・バースを完全に倒すことはできなかったわけではあるが。
「レロッサ……アイスバイド」
星影は、そう答えて唇を噛みしめる。
見抜けなかった。怪しいとは思っていたけど、それを探求できなかったのだ。
しかも、“あの事”を得体の知れないレリュール人が知っているなんて、と。
(……星影の、巫女)
思い出したくもない、忌々しい過去。
ずっと気にしないでいたのに、あれからずっと星影の脳裏には、過去の出来事が頭から離れなかった。
そうやって考え込む星影を、健次は気にしていた。
なんだか、この事件以来、星影がなんだか元気がない気がしていたからだ。
その理由は、よくわからない。
「しかし、形はともかく、事件は解決したわけだ。俺たちも無事、スカイベル学園へ行くことができるな」
カエンの言うとおり、エド・マクワドル学園長の計らいで、ハーブ・フォグル救出によって、健次たちはスカイベル学園の2次試験を免除されることになった。
「ええ……」
「ナツキ? どうした?」
「な、なんでもないわ」
星影は、カエンに勘ぐられた。と思った。
「まーあんなに試験勉強頑張ってたわけだし、ちょっと腑に落ちないか?」
「それもそうだけど……」
「まさかおまえ……」
「ええ?」
「腹減ってんな!!」
「ば、馬鹿じゃないの!?」
なんてアホなことを言うんだ、この男は。星影はそう思った。
けどそう思って、それがこの男の良いところなんだって、思う。
素で行っているのか、あえて言っているのか、わからないけど。
「いこうみんな、船がもうすぐ出るよ」
健次は、そんな2人に船の出発時刻が迫っていることを伝える。
ナハト魔法特区は、2次試験会場でも合ったが、ウインドベル・ローレライ号が停泊する場所でもあるらしい。
つまりそこで、ナハト魔法特区で、スカイベル学園の入学式が執り行われるというわけだ。
4人は、船が出る、タルメ空港へ向かった。
「世話になったな」
ミンティが言う。あの事件から2週間位たって、王国軍の聴取も受けて。
クロウズさんに3人の合格を伝えられて、色々な入学手続きをして。
正直、実感はない。完全にエマ・バースを倒したわけじゃないし。
けど、ミンティは、真の意味で開放された気がする。
健次の目から見て、彼女は何かに囚われていたような気がする。
その理由はわからないけど、表情を見れば分かる。
「いい笑顔だね」
「な、なんだよ……」
健次のその一言に、そっぽ向くミンティ。何が恥ずかしいのだろうか。
「あ、そうそう、爺ちゃんが、“バリアブルストーン”を見つけたら、すぐにでも連絡してこいだって。お前の武器、造ってもらえるらしいぜ。そのゲート用によ」
「本当に? ありがとう」
「ま、手がかりは何もないけれどね。結局、バリアブルストーンってなんなのか分かってないし」
と、星影が釘を刺す。確かに情報を聞いただけで、何なのかは結局わかっていない。
というか、健次の武器が古代遺物であることも、あまり実感が沸かない。
「健次、出発まで時間あるか? ちょっと話がある」
「う、うん?」
なにを藪から棒にと、健次は思ったが、彼女の言うとおり、空港の展望台へ向かった。
多数の船が行き来し、タルメ工業地区を一望することができる。
なんか、ダゼンスの空港とはまた、違った空気だ。
なにせ、船が飛んでいるのだから。飛行機が飛んでいるのとわけが違う。
「すごい……」
「小さい頃、アタイが好きだった場所さ」
「で、話って?」
「お、おう……。健次、その、あの……ありがとうな、いろいろと」
ミンティの頬が少し、赤くなっている気がする。
健次はその言葉にびっくりして、どういうことなのかと思った。
「な、何が?」
「いろいろとだよ、爺ちゃんのことも。アタイをかばってくれたことも。ちゃんと御礼言ってなかったし」
「どういたしまして」
「お、おう……」
「な、なんか変な感じだね。最初会った時は敵だったのにさ」
「お、おうそうだな……てかよ、色々聞いたんだけど。アタイがいたあの盗賊団、盗賊団じゃないらしい」
「え?」
一体どういうことだろうか。ミンティが盗みをしていないということは健次は知っていたが、盗賊団が盗賊団でないとは、意味がわからない。
「クロウズのダンナから聞いたんだけどよ、レリュールの内偵部隊だったらしい」
「内偵部隊?」
「アタイもよくわかんねえよ……。ベルフライムでなんかの目的で来てて、“盗賊団”を名乗ってたらしい。なんでアタイが入れたのか意味わんねえけど、なんかスッキリしねえよ」
「そうだったんだ」
「けど、スッキリはしねえけど。それでもアタイがいた居場所だから、覚えていたい」
全員、ゾンビになったんだ。
それをカエンが全員倒して、消してしまった。結果的にゾンゾ=ザス・ブラッドが悪いわけど、ミンティにとってあの瞬間は絶望でしかなかったと思う。
けど、その事実をミンティはしっかりと受け止め、前に進もうとしている。
「ちょっと、聞いてくれるか?」
ミンティは、まだ話したいことがあるらしい。
健次はそのまま、聞くことにした。
「うん。まだ時間あるし」
「エマのクソ野郎が言ってたように、アタイの両親は小さい頃、殺されたんだ」
「うん」
「誰が殺したのかも分からなかった。その上爺ちゃんが誘拐されてさ、本当の意味で、アタイの家族がいなくなってしまうっていう恐怖があった。正直我を忘れてた。だから健次、お前を危険に晒して、本当にごめん」
「いいよ、結果的に無事だったわけだし」
「お、おう。この事件、元はといえばアタイが家出して、ずっと自分のことに迷いがあったんだって、そのことも原因の一つだと考えるとさ、良くないと思ってさ」
「うん」
「だからアタイは、フォグルを継ぐ」
「……!?」
そう宣言するミンティの目は、まっすぐだった。
まっすぐに、健次を見つめて、宣言した。
「もう迷わない。いなくなったアイツらのことも、両親のことも。全部アタイの中で生きてんだ。アタイがこうしてここに生きてるのも、その人達のお陰だと考えると、アタイに何ができるんだって、必死に考えた。まさか爺ちゃんが誘拐されて、国が揺れ動く事態になるなんて、アタイも分からなかった」
「うん」
「そのことを気付かされたのは、他でもない、あんたのお陰なんだよ、健次」
「え……?」
ミンティの心を、自分自身が動かしたのか?
健次は、そんなこと、思っても見なかった。
「お前が見捨てないで連れてきてくれたおかげで、アタイはここにいる。お前があのデカブツから助けてくれたおかげで、アタイはここにいる。アタイにしか出来ないこと。アタイの役割を」
「あはは、すごいや、僕はそんな大したことしてないのに」
「いや、お前はすげえよ。アタイが自信持って言う」
健次は想像以上に、ミンティの心を自分が揺れ動かした事を自覚する。
何より彼女が言った言葉が証拠となって。
「う、うん」
「だからお前も自信持っていけ。お前はすげえんだから」
「分かった……」
★
展望台から出て、ミンティの宣言を聞いた健次。
自分の行動が、こんなにも人の思いを動かしてしまうなんて。
これは、彼女を救ったことになったのだろうか。
戻った先には、星影とカエン、そして、ハーブ・フォグルが待っていた。
「爺ちゃん!? 仕事は良いのかよ!?」
ハーブ・フォグルがこんな時間に復旧途中の工場から抜け出すとなると、かなり大変なはずだ。
それに、見送りは自分だけでいいと言ったのに。
「バカモン、命の恩人をちゃんと見送らずに、仕事もクソもないわい……ほんと、あんたらにはなんと言っていいか」
「……お世話になりました」
健次はお辞儀をして、そのままタラップに進む。
「あばよ」
ミンティが声をかける。別れの時だ。
「おう。じゃあな」
カエンが返事する。
「せいぜい、くたばらないことね」
星影なりの挨拶だろうが、それはないよなと健次は思う。
「ケッ、てめえはさっさといっちまえいっちまえ」
「ええ。私もせいせいするわ。頭が筋肉で出来た人間が一人減って」
「んだとやるかこのアマ!?」
ミンティは腰のゲート銃に手をかけようとする。
「あはは……相変わらずだね」
「いい加減にせんか。もう時間だぞ」
「では、失礼します」
「ああ。バリアブルストーンが見つかったら、遠慮せずにいつでも来ると良い。ワシが最上級の武器を生成してやろう」
「その時は、よろしくお願いします」
こうして、3人は船に乗り、ナハト魔法特区へと、飛んでいった。
その光景を見て、ハーブはミンティに話す。
「……受験準備、整ったぞ」
「ありがとよ爺ちゃん」
★★
「……あの女と、何話してたの」
星影が健次に尋ねる。何か気になることでもあるのだろうか。
「ミンティ、工房を継ぐんだって」
「……そ」
「素直じゃないよね星影。いい友達になれそうなのに」
「だれがあんな脳筋女」
「少なくとも、いろいろ考えてるとは思うけど」
「ま、それは否定しないわ」
「あ、そだ、ミンティから聞いたんだけど、あのゾンビになった盗賊団、レリュールの内偵部隊?だったみたい」
「……!? それ、本当?」
星影が、真っ直ぐに健次を見る。
「う、うん。クロウズさんからの話らしいけど」
「なるほどね。一連の出来事、ブラッドとマギアスだけの話じゃなくなってきたかもしれないわね」
「ど、どゆこと!?」
「なんか気になることでもあるのか? ナツキ」
カエンは、星影が妙に納得していることに気になる。
「……最初から、全部関係ある話だったかもしれないってこと」
「え?」
「その盗賊団、恐らく、マギアスを内偵していた部隊だったかもね」
「どういうことだ?」
「あくまでも推測。本当のことはわからないけど、ミンティ・フォグルに降りかかる災難を考えたんだけど、あまりも偶然すぎるのよ、色々と」
「それはそうかもしれないけど、だからどうなんだ?」
「彼女は最初から狙われていたのよ。誰かにね。それはマギアスなのか、ブラッドなのか、レリュールなのか、わからないけれど……。多分、レロッサ・アイスバイドは知ってる。私のことだって……」
「ん?」
「あ、いえ。なんでもないわ」
「ともかく、そんな難しい事は後にして、ナハトに行こうぜ」
「そうだね……考えても仕方がないことだし」
星影が言うことも気になるけども、今はスカイベル学園に行くことを考えよう。
船は、ナハト魔法特区へ舵を取る。




