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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第二章 フォグル工房編
31/64

第30話 「決戦、ミンティの決意」

「喰らいなさい、死の重力デス・グラビティ!!」


 エマ・バースの、強力な月の重力魔法が、全員を襲う。

 全員が床に倒れ、体の自由が効かなくなってしまった。


「ちくしょう……」


 ミンティ・フォグルは唇を噛み締めていた。

 自分は今、何が出来ているのだろうかと。

 自分勝手に突っ走り、結果的に健次たちに助けてもらったくせに。

 なんて、自分は愚かなのだと。

 そして、この現状、何も出来ないということを、悔しいと思っていた。

 唯一の肉親の、爺ちゃんを助けることが出来ないなんて。


 もう、何も失いたくない。

 

 悔しいと思いながら、ミンティは考えていた。

 この、どうしようもなく絶体絶命の状況を、打開できる方法を。

 健次は、とんでもなく強いデカブツの仕組みを、見事解いてみせた。

 なら、自分には、何ができるのか。

 何が、手伝えるのか。

 何を、すればいいのか。


「もう、だめだ」


 このまま、何も出来ないまま、エマ・バースにやられてしまうのだろうか。

 足元は魔法でがっちりと固められ、全員の身動きが取れない。

 本当に、このまま、やられてしまうのか。


「あきらめんな」

「っ!?」


 カエンが、ミンティに言った。


「ミンティ、お前が決めたことだろ、爺ちゃんを助けることを」

「けどよ、アタイらこんな状況で、どうするんだよ!?」

「それは、わからん!!」

「はぁあ!? テメェ何考えてんだよ!?」

「何も考えてねえよ!! だけどよ、諦めちゃダメだぜ。見ろよ」


 カエンがミンティに、周りを見るように言うと、誰ひとりとして、諦めていなかった。必死になって、倒れ床に伏せている体を必死に起こそうとしている。

 健次も、星影も、カエンも。

 一方で、レロッサとクロウズは、軽々しくと立ち上がっていた。

 やはりこの2人は、段違いに強い。


「誰ひとりとして、諦めてねえんだよ。だから諦めんな」

「だな。レロッサ・アイスバイド、そろそろ本気を出したらどうだ?」


 クロウズは、レロッサが力を抜いている事に気づいていた。

 エマ・バースに苦戦していたように見えた2人は、ある種、手を抜いていた。


「ちぇっ、バレとったみたいやな」


 エマ・バースの攻撃にもろともせず、


「我々大人が、手本を見せないといけないからな」

「せやな、いくで」

「ああ……」


 弓のゲートをレロッサは構え、矢を持ち、弦を引き、氷の矢を放つ。

 その矢のスピードと同調するように、クロウズはエマ・バースの前へ一気に距離を詰めた。


「な、なんです!?」

「済まないな。そろそろ本気を出させてもらう」


 見えなかった。

 カエン、星影、健次、ミンティには、クロウズのその見事なまでのスピード攻撃が、目視で確認することはできなかった。

 とても、大剣を背負う人間の動きではない、俊敏な動き。

 目にも留まらぬ速さとは、まさにこの事だろう。


「速いッ!!」


 あまりにもの速さに、エマ・バースも動けなくなる。次の瞬間、エマ・バースの腹部に、クロウズの体験がヒットする。魔法で防御しているが、クロウズの力に押され、弾き飛ばされる。

 形勢逆転。一気に状況が変化した。


「……フッ。さ、見せてもらうか。レロッサ・アイスバイド」

「しゃーないな」


 レロッサは、弾き飛ばされたエマ・バースに向け、弓のゲートで矢を放つ……と思いきや、天井めがけ、矢を放った。


「行くで」


 彼がそういった瞬間、放たれた矢は突如分裂をしはじめ、エマ・バースに狙いを定めた大量の氷柱へと変化した。

 静止した、状態で。

 


「……氷柱の雨アイシクル・レイン


 レロッサがそう言い、指を鳴らした瞬間、大量の氷柱が吹き飛ばされたエマ・バースめがけ飛んでいく。

 

 エマ・バースの体に直撃し、幾つもの氷の針が貫通していく。

まさに、氷の針地獄だ。


「すげえ……」


 ミンティは、ただただその光景を呆然と見てるしかなかった。

 カエンと星影、健次も。

 一瞬で、状況を覆したのだ。


「けど、アタイには……」

「いや、あれを普通にされては困るわ。強すぎですもの」


 クロウズとレロッサの攻撃を見て呟くミンティに、星影が嘆く。

 確かに、強すぎる。今までかなり手を抜いていたのかと思うくらい。


「だね。ミンティ。君は君で、君にしか出来ないことがある。僕もそうだ。星影も、カエンも。だから、君が君自身ですべき事をするんだ」

「アタイに、できること……」


 健次が言ったことは、タレス・コンディションの受け売りにしかすぎない。だけど、そうなのだ。人間だれだって、得意不得意がある。健次は健次で自分のすべき方向性を見つけた。

 だったら、ミンティも、見つけるべきだ。

 

「全く、ミンティ。ワシが叩き込んだことを、この3年で忘れたんか」


 急に、拘束されていたハーブが、喋りはじめた。

 苦し紛れの声に、ミンティは驚いた。


「爺ちゃん!?」

「ゲートだってそうだったじゃろ。考えるな、つくれ。そしてつくれとな。机に図面を書いてるだけじゃ何もみえん。大事なのは、とにかく造れ」


 突然のフォグルの言葉が、一番ミンティに刺さった。

 何を、自分は考えすぎていたのだろう。

 ミンティ・フォグルは、考えすぎる女ではない。

 ミンティ・フォグルは、好奇心旺盛だ。

 ミンティ・フォグルは、家族思いだ。

 ミンティ・フォグルは、前だけ見て、突っ走る女だ。


「忘れてたよ、爺ちゃん」

「その心意気じゃ……。ミンティ、ワシは、お前が生きてて、本当に良かったと思っておる」

「……え? と、突然何言い出すんだよ」

「盗賊の件は、ワシの耳にも入っておったからな」

「え、じ、爺ちゃん?」

「正直、3年前はワシにも非があった。怖かったんじゃ。お前まで失うのが」

「あ……」


 ミンティは、改めて昔の出来事を思い出す。

 そして、何故だか涙がこぼれだす。

 

「知ってたんだね。ハーブさんは」

「……どうやらそのようね」


 健次と星影は、そんなミンティを見て言った。

 親は、やっぱりすごいなと、健次は思った。ハーブ・フォグルは知っていた。ミンティが家出した後の、盗賊団の事件を。


「オリーブたちの事件があって、ワシはお前さんにゲートを作らせるのに躊躇しておった。それが仇になって、お前さんは家を出た」

「あ……」

「あの時お前さんに、ちゃんと向き合うべきだったと、ワシは後悔しておる。だからこそ、戒めの意味で、ワシの気持ちを整える意味で、お前さんに伝えたい。造れ。そして、創れ」


 その時、ミンティはかつて抱いていた、子供の頃からの夢を改めて思い出す。

 

 ――じいちゃん!!アタイもゲート触りたい!!


 そう、子供の頃から口癖のようにハーブに言っていたミンティ。

 マギアスがどうとか、盗賊団がどうとか。

 いろいろ大事だけど、自分のことをちゃんと考えなくちゃダメだ。

 ミンティはそう思って。


「……分かったよ、爺ちゃん」


 ミンティは立ち上がる。自分の中で何かが、吹っ切れていた。

 小さな自分の、ゲート銃を握りしめて。父さんと母さんの、仇を取るために。

 ハーブが言っていた言葉を、心の中で唱える。

 造れ。

 造れ。

 造れ。

 ……創れ。

 ミンティは、そう思った瞬間、握りしめていたゲート銃が光り始めた。銃は形を変化させ、巨大な銃へと変化する。


「な、なんだこれ!?」


 思っただけで武器が変化したのでミンティは驚いた。


「フォグルの力の一つじゃ。その力は、強化。お前さんの銃を、より強力なものへと強化ささせたんじゃ」

「なんだよそれ!?」

「詳しいことは後じゃ。とにかく使ってみい」

「お、おう……」


 ハーブに言われた通り、大きくなった銃を氷漬けにされたエマ・バースめがけ放つ。

すると、まるで戦車の大砲が撃たれたかのような巨大な音と共に、巨大な弾がエマ・バースに命中する。」


「へへ、どうよ、アタイの実力!」

「ワイが氷漬けにしたから当たったんやで」

「うるせえ!!」

「油断は禁物だ。見ろ」


 歓喜するミンティに注意するクロウズが、指差した先には、平然と立つエマ・バースが不気味な笑いをし始めた。


「ふふふふふ…………正直驚きました。“壊滅のクロウズ”の他に、レロッサ・アイスバイド、貴方、何者です?」

「くせもんや」

「……覚えておきましょう。しかしアレ・・も倒されてしまったし、こんな強力な相手が2人もいて、私も分が悪いですね。ここは引くとしましょう。それに、ミンティ・フォグルに力が継承されたようですし」

「……孫娘に手を出したら、容赦せんぞ!!」


 ハーブが怒鳴る。


「ふふふふ。トライスキルといい、驚くことばかりです。また、お会いしましょう」


 そう言って、突然とエマ・バースは姿を消した。

 後を追うべく、クロウズとレロッサが姿を消したところへ走るが、痕跡もなく、ふう、とため息をつく。


「やられたな」

「いや、正直助かったで。6人がかりでやっとの相手や」

「……まあ、そうだな、ハーブ殿、無事でしょうか?」

「問題はないわい」

「爺ちゃん、ごめん、アタイは……」

「いい、もう何も言うな。ワシも悪かった」

「爺ちゃん……ごめん、ごめん……」


 ミンティは、ハーブに抱きついて、お互いに涙を流す。

 緊張が、どっと解れて安心感に満ち溢れている瞬間だった。


「丸く収まってよかったぜ。いまいちスッキリしねえけど」

「そうね……」

「どうしたの星影?」


 カエンの言葉に同意する星影は、なんだか上の空だった。

 何か、考えている事があるのだろうか。


「なんでもないわ」

「そ、そっか」


 

★★


 騒動の後、遺跡は軍によって管理され、一切の立ち入りはできなくなった。ハーブ・フォグルは無事保護され、怪我もなく健康状態は良好のようだった。

 ミンティもほっとしたようで、笑顔になってきていると思う。

 首謀者であるマギアス・ソサエティのリーダー格、エマ・バースの行方は掴めず、その後の足取りはよくわからなくなったらしい。

 まさに、あの時カエンが言っていた、スッキリしない状況にはなった。

 しかし、健次はトライスキルを手に入れ、ミンティはある力に目覚めた。

 事件が終わり、軍の聴取も終わり、一段落ついた頃。


 健次たちの宿泊する宿の近くで、星影は誰かと会話するレロッサ・アイスバイドを目撃していた。

 事件は本当の解決には至っていないが、それより星影は気になることがあったのだ。

 レロッサ・アイスバイド。彼は何者なのかを。

 スカイベル学園の教官、クロウズと共に肩を並べられるような力の持ち主。


「――ハーブの爺さんはなんだかんだで無事や。壊滅のクロウズがおったからな」

「――せや。 プラクティスとか名乗っとったで」

「――ちゃうちゃう。それは関係あらへんよ」


(何を話しているのかしら……)


 魔法水晶で誰かと話しているレロッサ。

 その会話内容が、星影は気になる。

 何気なく力を貸してくれた彼だが、いまいち、素性がつかめていない。

 ただのレリュール人だとは、星影には到底思えない。


「……ああ。目星通りや。コンディション、目覚めとったで」

(健次のこと? 一体誰と話しているの……)


「……了解、また連絡するわ」

「誰と話していたのかしら」


 通信を切った瞬間、速攻で星影はレロッサに話しかける。

 


「なんや星影はんか、怖いなぁ。オトコのプライベートにはいろいろあるんやで」

「内容から、とてもプライベートな話とは思えないのだけれど」

「えーそんな話してへんよー」

「気になるのよ、あんな力を隠しておいて、私たちに協力した理由」

「ただのお節介やで」

「嘘ね」

「じゃあワイが何者か、あててみ」

「……予想だけど、レリュールからのスパイってとこかしら」

「まあ今の会話を聞けばそうやな。けど、当たらずとも遠からずってとこや。第一スパイなら、ベルフライムの元軍人と見えるように接触せえへんやろ」

「……確かに」


 星影は、一手取られたなと、心の中で思う。

 この男、ふざけているようで、得体の知れない何かが隠れている気がする。

 

 ただ、一つだけ思う。

 何故、今まで気づけなかったのだろうか。と。

 思えばヒントは沢山あったはずだ。突如絡んできたレリュール人。示し合わせたように起こる事件、そして異常なまでの強さ。


「まあワイのことを知る前に、一つだけ宣言しとくわ。ワイはあんたらの、“敵”ではないで」

「……」

「怖いなあ星影はん。ホントやで?」

「じゃあ目的は何? 情報収集?」

「どうやろうね」

「誤魔化さないで」

「せやろか。だってワイが星影はんに教えたところで、なんのメリットが有るん? それに代償のモノを、星影はんは渡せるんか?」

「……っ」

「まあ、本当に、ワイは敵ではあらへん。てか正直ワイの力を借りへんでもクロウズはんのちからでなんとかなったと思ったんやけど」

「それは、感謝してるわ。正直あの時、私たちは……」


 クロウズとレロッサの助けがなければ、エマ・バースの魔法に、やられてしまっていたところだろう。

 健次の“コンディション”で、彼の操る巨大甲冑を倒したところまではなんとかいけたのに。


「せやけど、巨大甲冑はさすがのワイでも倒せへんよ」

「……」

「まあ……一つだけ忠告しとくで。星影の、巫女はん」

「……!? ど、どうしてそれを!?」


 星影は驚く。

 どうしてこの男は、それを知っているのかと。

 本当に、レロッサ・アイスバイドはスパイではないのか。

 と、同時に、星影は急に自分の過去を思い出す。

 

――星影の巫女。


 思い出したくもない、聞きたくもない、フレーズ。

 何故この男は知っているのか。

 それも何故こんなときに聞かなければならなかったのか。


「カマかけるなら、それ相応の覚悟がないとダメってことやで。まだまだあまちゃんやなあ」

「っ……何故貴方が知っているの!? 本当に貴方は敵ではないのね!?」

「せやで。けど、星影はんたちの動きに寄っては、敵になりうるかもしれへんけど」

「!?」

「で、ワイはレリュールに帰るで。みんなによろしゅうな。楽しかったで」

「ま、待ちなさい!!」

「あ、そうそう。ミンティはんが持ってた船、回収させてもろたから、ミンティはんによろしく伝えといてな。まあ、ミンティはんとこなら飛空艇なんてこまらへんやろ」

「え、ちょ、ちょっと!?」


 回収とは、どういうことだろうか。

 星影は考える暇も、止める余裕もないまま、ただその場で呆然と立ち尽くしていた。

 エマ・バースのことも気になるが。

 なにより、このレロッサ・アイスバイドという男。

 一体何者なのだろうか。

 そして、何故、自分自身のことを、知っているのだろうか。


 星影の、巫女。

 そんな言葉を知っているのはごくわずかしかいないはず。


「……悔しい。なによ、勝手に……」


 星影は、声を大にして、叫んだ。

 気づけなかったことも、そうだ。

 そして、“あの事”をあまり関係が深くないレリュール人が知っていたことも、そうだ。


 自分が、悔しかった。

 おかしいと、思っても、行動できていなかったのだ。


「見てなさい!! レロッサ・アイスバイド!! 必ず貴方の正体を掴んで見せる!!」




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