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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第二章 フォグル工房編
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第29話 「協力、巨大甲冑戦」

「ふふふ、ははははっ、私を、倒す?貴方が!? 今の一撃で死にかけた、貴方がですか?」


 エマ・バースは嘲笑う。

 甲冑の攻撃に、一度は死にかける健次。攻撃も何もせず、ただミンティをかばっただけの健次の啖呵に、エマは笑っていた。

 無理もない。

 とても、健次の言う啖呵は、無理なものに近いと、エマは思っていた。


 確かに、そうかもしれない。

 タレス・コンディションから、トライスキル、“コンディション”を手に入れたけれど、この力が未だにどんなものかも理解していないし、おそらく強烈な力ではないことも、健次自身分かっている。

 今あるこの、コンディションというカード一つで、エマ・バース操る巨大甲冑を倒すことは出来ない。


「健次……」


 ミンティが、健次に声をかける。


「無事?ミンティ」

「ごめん、アタイのせいで」


 ミンティは、健次が無事に立ち上がってなんだかほっとしているようで、罪悪感があるようだった。


「全く、喧嘩っ早いのはいいけどさ。気をつけてよ」

「健次、無事なのか?」

「なんとかね」


 さすがに飛ばされた時の痛みは、残っているようだった。

 時間を止めて意識を転送されても、その直前に起きたことまで回復するわけじゃない。

 一時停止していただけなのだ。


「良いでしょう!! 喰らいなさい!!」

 

 エマ・バースは再び攻撃を繰り出し、 巨大甲冑がミンティめがけ攻撃を繰り出そうとした、その瞬間。


「させないわ、月の重力ルナ・グラビティ!!」


 星影が、自身の持つ槍、月のゲートで、巨大甲冑の動きを止める。


「月魔法ですか……けどそんなもの、ききませんよ、アンチ・グラビティ!!」


 エマは魔法を唱え、その瞬間星影の重力魔法を無効化する。

 無効化というより、かき消したかのようだった。

 星影は距離を取り、体制を立て直す。


「くっ……!!」

「デカブツをなんとかせえへんと、アカンみたいやな……」


 レロッサが、そう呟く。

 エマ・バース操る、ゲートを使わない、“魔法”は正直言って、何でもありだ。

 健次のように気軽に属性を変え、どんな攻撃もその対抗策を講じ、無力化させる力を持っている。

 厄介なのは、属性を変えるだけではなく、その最上位の魔法を使うという点だ。

 健次のゲートの能力では、せいぜい小さな魔法を使う程度だが、エマが操る魔法は訳が違う。エマは、巨大甲冑を足止める星影の魔法を一瞬で無効化した。


「ああ、彼の“魔法”も独特で危険だが、まずは巨大甲冑を倒すことを優先すべきだろう。

……しかし、妙だな」

「なにがや?」

「巨大甲冑に、“意志”が見られない」

「どゆことや?」

「実は同じタイプを、前に見たことがあってだな、それは自立型で、自分自身の“意志”を持っていた」


クロウズは、ヘレビス遺跡での出来事を思い出していた。

3大戦士デルタトライナイトの試練でエデンがその素質を調べるための、力試し。


「そいつとは、訳が違う。奴が操っているようだな」

「まあ、見た感じそんな感じやな」

「問題は、その、仕組みだ」

「魔法で操ってるんとちゃうか?」

「3大戦士の試練をだぞ? いくら相手が魔法のエキスパートとはいえ、可能か?」

「せやな……なんかからくりがありそうやけど」


「お喋りはその辺にしてほしいですねえ」


 次の瞬間、巨大甲冑がクロウズとレロッサに襲いかかる。

 それに気付いた2人は攻撃を避け、大きくジャンプした。


「ひえー」

「……全く、油断も隙もないな」

「火炎斬(かえんざん)ッ!!」


 体制を立て直し、カエンが再び甲冑に攻撃を繰り出す。

 しかし、攻撃はかすりもしなかった。

 その後、全員が甲冑に向けあらゆる攻撃を繰り返しても、一向に当たる気配はなく、むしろ無敵に近い状況だった。


「マズイわね」

「ああ……全く利きやしねえ」

「もしかして……“コンディション”なら……」


 健次は、自分の右手を見る。

 あの時意識で飛ばされて、タレス・コンディションに与えられた、新たな力。

 トライスキル、コンディションを、ここで試す必要はあるのではないか。と。

 

「コンディション?」


 星影が健次に聞く。


「僕に、任せて欲しい」


 クロウズとレロッサが巨大甲冑の攻撃をなんとか受け流している間、2人の会話を聞いていて、健次は“コンディション”を早速使わなければいけないと感じた。恐らく、2人の言うとおり、巨大甲冑は操られている。

 ならば、ならばこそ、“コンディション”の出番なのではないか。

 タレスは言った。


 ――いいか。貴様が手にした力は、調整の力だ。ありとあらゆるものを調整する。その力の意味を考え、適切に使うが良い。


「健次? なんかあるのか?」

「うん。倒すことは、出来ないかもしれないけど」


 その瞬間、エマ・バースは再び笑い始める。


「貴方に何ができるというのです!? 壊滅のクロウズやこのレリュール人が苦戦しているのにも関わらず、貴方に!! 何が!! できるのですか!?」

「何も、出来なかった」

「……?」


 健次は、過去形で話し始める。

 何も、出来なかったって口にしたけれど、何も出来ないなんて、思って決めつけていたのは自分だった。

 強さは、カエンやクロウズ教官のような、力の強さだと思っていた。

 星影のような、知識の強さもあると思っていた。


 けど、今は、追いつけない。

 だから、自分が得意なことで、戦いに参加するんだ。

 タレス・コンディションはかつての3大戦士デルタトライナイトを調整する役割だった。次の3大戦士デルタトライナイトが仮に僕らだったとするならば。

 健次は、自分の立場を改めて考える。

 そして、己の役割を。

 タレスに気付かされた、健次自身の強さを。


「だから、僕は、僕のやり方を定める!!」


 その瞬間、健次のペンダントがかつてないほど激しく光り始める。


「なんです!?」


 輝きに、エマ・バースは驚く。

 輝きとともに、健次の右手に、時計型の文様が浮かび上がる。

 健次は、右手を巨大甲冑に向け、叫んだ。


「トライスキル!! コンディション!!」

「トライスキルですって!?」


 急に叫ぶその言葉に、星影とカエンは驚く、一体、いつの間に健次はトライスキルを手に入れたのか、そんなことを考えながら。


 健次の目には、巨大甲冑の異常な強さの正体が浮かび上がった。

 やはりクロウズとレロッサの見込み通り、エマ・バースの魔法で操られているようだ。

 その仕組みが、伝わってくる。

 断片的な情報ではあるが、巨大甲冑には、ある“細工”が施してあるようだった。

 それが、エマ・バースが操れるようになった、仕組みになるかもしれない。

 しかし、その文字が、健次には読めなかった。

 見えるが、その仕組みがわからない。


「ふふ、はははは!! 何も出ないじゃないですか!! やはり貴方は馬鹿だ!!」

 

 エマ・バースは笑う。そうして再び健次たちを攻撃し始める。

 確かに、目に見えて特殊なことは、何もしていない。

 健次はただ目の前の状況を確認して、“調整”の前段階に入っている。


「……どうかな?」


 健次は、健次だけに見える複数の歯車を、パズルのように入れ替え始める。

 幾つものダイヤルを、右に左に、感覚のまま回していく。

 そして、自分の意識をただ、調整することに意識付ける。


 調整しろ。

 調整しろ。

 “操り“を調整しろ。

 見極めろ。

 見極めろ。

 敵の、仕組みを見極めろ。


「何をしてるんです!?」


 健次以外の人間には、健次がただ右腕を前に向けて右に左に回転させてあるようにしか見えない。エマ・バースも同様、健次が何をしているのか、理解できていなかった。

 

 敵の、巨大甲冑の操りを調整するのは、タレスの訓練とわけが違う。

 歯車も、ダイヤルも、全くわからない、複雑すぎる。

 そんな状況でも、カエン、星影、レロッサ、ミンティ、クロウズは、健次を守るように、巨大甲冑の攻撃を次々にかわしていく。

 皆、健次に掛けていた。


「コンディション、調整の力やね……見たところ、完全じゃないようやけど」

「なんか言ったか?」


 レロッサが何かつぶやいたので、クロウズはその言葉が気になった。


「いや、なんでもあらへん」

「火炎斬ッ!!!」

「月の衝撃ルナ・インパクトッ!!」


 カエンと星影は、健次のコンディションが終わるまで、なんとか喰い止める。

 ミンティもまた、そんな健次の姿を見て、自分の銃を構え、放つ。


「雷鳴(ドンナ―)!!」


 戦ってくれてる。

 みんなが、繋いでくれている。

 けど、活路が見いだせない。それほど巨大甲冑にかけられている、操り魔法の仕組みが、複雑だということ。


「なんで……解けないんだ」


 一向に進まない。

 折角コンディションを使う時が来たのに。

 自分が役に立つ時が来たのに。

 皆が、その瞬間までなんとか持ちこたえてくれているのに。

 ……健次は、焦りを感じていた。

 焦りを感じれば感じるほど、調整がおかしくなっていく。

 歯車が、噛み合わない。

 やればやるほど、視界が暗くなっていく。


「なんです? 何かをしようとしているようですが、効果がないようですね!!」

「くっ……!!」


 どうしよう。

 このままでは、みんなやられてしまう。

 何か、手は……?

 どうやったら、この状況を打破できる?

そう考えているうちに、健次はタレス・コンディションが言っていた、ある言葉を思い出した。


 ――私の力は特殊だった。他の2人、エルザ・マスターとガルグ・ストロングを調整する力が私にはあった。


 調整。あの時聞いた時に、深くは考えなかったけど。

 健次は、改めてその意味を考える。

 かつてのデルタトライナイトをタレスは調整していた。

 それはつまり、タレスは自分ひとりで戦っていなかったことを意味する。

 デルタトライナイトは3人。3大戦士でデルタトライナイト。

 だから、1人で戦っているわけじゃない。


 だからこそ、だからこそ。


 そうだ。

 この、コンディションの力は、自分ひとりで発動するものじゃない。

 今の、カエンと、星影の力を借りて、その2人の、いや僕自身の、3人の力を繋げば……!!

 

「健次、私たちにできることはある?」

「ああ。頼むぜ健次」


 2人が問いかける。言おうとした矢先に、2人は答えてくれた。

 何か、共通して思うところがあるのだろう。

 健次はそのまま頷き、答えた。


「うん……クロウズさん、レロッサさん、ミンティ、その場を持ちこたえてくれませんか?」

「……分かった。何か、活路があるんだな?」

「はい。なんとかですが」

「了解やで」

「おう」


 3人は了承し、前に出る。

 エマ・バース操る巨大甲冑の攻撃をかわしつつ、反撃を続けていく。

 そしてその間、健次は星影とカエンに話す。


「“コンディション”がどういう形で手に入れたかは後で話すよ、それより、この力は、調整の力なんだ」

「調整……?」


 カエンが尋ねる。


「調整、つまりあらゆる物事をチューンする技ね。なるほど、だから“コンディション”なのね」

 

 星影はさすがに、理解が早いようだ。

 健次は話を続ける。


「そう。だけれど僕の力は完全じゃない。今、あの巨大甲冑が操られている仕組みを、調整しようとしてるんだけど、読めないんだ。文字が」

「貴方には、見えているのね? あのデカブツのルーンが」

「ルーン?」


 ルーンってなんだ。と健次は聞き返す。

 星影はそれ以上は聞かないでと、手を出して止め、


「詳しいことは後で。それより、もう一度確認するけど、貴方には見えているのね?」

「うん。読めないけど」

「だったら話は早いわ。私が、それを見る」

「え……?そんなことできるの?」

「昔、ある本で読んだことがあるのよ。あまり使われなくなった月魔法だけど、相手の視界をジャックできる魔法。普段は敵に使うけれど、それを逆手に取るの」

「視界を、ジャック?」

「なるほど。それは、健次にしか、出来ねえな」


 カエンも頷く。

 健次も、その意味はすぐに理解できた。

 自分のゲートの特性を、活かすのだ。


「なにをコソコソしているんです?」


 エマ・バースがクロウズたちを乗り越え、健次たちに襲いかかる。その攻撃をカエンは即座に受け流す。


「……分かった。それでいこう」


 エマ・バースが来て、作戦は離せなくなったけど、星影の一言で、健次はなんとなく察していた。3人共その場を離れ、健次とアイコンタクトを取る。

 そして、エマ・バースの足を、レロッサが止める。


「こんな氷魔法ごときに!!」

「へへ、今や!!」


「はい!! 属性変更エレメント・チェンジ!!」


 健次が叫ぶと、ペンダントの色が変化し、月のゲートへと変わる。

 そして、散り際に星影に教えてもらった、視界をジャックする魔法を叫び、星影にかける。


「アイ・ジャック!!」


 そして、健次の視界を、星影に強制的に写し込む。

 間髪入れずに、健次は叫ぶ。


「そして、トライスキル、“コンディション“!!」


 健次の目の前に、多数の歯車が再び現れ、巨大甲冑のルーンが映し出される。そのルーンは健次には読むことが出来ないが、視界をジャックした星影ならば。


「……なるほど。そういう仕組だったのね。カエン、巨大甲冑の右後ろ45度、首筋を狙って連続攻撃」


 星影はすぐにルーンを理解したようで、カエンに指示を出す。

 カエンは思いっきり地面を蹴り上げ、巨大甲冑の背後から、刀を振りかざした。


「ああ……!! 行くぜ、業火無双撃ごうかむそうげき!!」


 目にも留まらぬ速さで、健次が見て、星影が捕捉したルーンの位置を攻撃する。

 その瞬間、ルーンの文様が少しずつ欠けていき、巨大甲冑の動きが鈍くなる。


「な、なんです!?」

「今よ、健次!!」

「うん!!」


 星影とカエンの協力で、視界がクリアになっていく。

 これで、やっと、巨大甲冑を調整できる。


健次は、健次と、星影に見える複数の歯車を、パズルのように入れ替え始める。

 幾つものダイヤルを、右に左に、感覚のまま回していく。

 そして、自分の意識をただ、調整することに意識付ける。


 調整しろ。

 調整しろ。

 “操り“を調整しろ。

 見極めろ。

 見極めろ。

 敵の、仕組みを見極めろ。


「……ここは、貴方に任せるわ。私には見えてるけど、分からない」


 星影の言葉を聞き、健次は頷く。

 右手に全神経を注ぎ込み、感覚のまま回していく。

 皮膚感覚から伝わってくる、“操り”の仕組み。


「見えたッ!!」


 ――調整、完了。これで、敵の、巨大甲冑の異常な強さが、全て解除された。


「な、なんです!? 何をしたんです!?」

「調整したんだ。正常な状態に」

「ええ。甲冑に掛かっていた2重のルーン。1つめは、カエンがやった、炎攻撃を連続で叩き込むことによる、第一のルーン。2つ目は、健次が解除した、複雑なプロテクト。それを、私たちは、調整したのよ」


「ば、馬鹿な!? ゲート魔法ごときに、そんな技が!? 何故こうもあっさりと!?」


 巨大甲冑は、微動だにしなくなった。

 両手をぶら下げたまま、前に倒れ込む。

 その光景を見て、エマ・バースはかなり驚いていた。


「今思えば、よく考えられた仕組みだと思うよ。だって、デルタトライナイトであることを偽装して、この巨大甲冑を動かしていたんだから」

「っ……!?」


 仕組みは、こうだ。

 エマ・バースが使った魔法は、“偽装”。巨大甲冑は元々、ヘレビス遺跡にあったように、デルタトライナイトが設定した力試しのようなもの。だから、デルタトライナイトの力によって、動かされている。

 その力を、エマ・バースは偽装したのだ。普通の魔法じゃ、到底出来ないと思う。魔法知識が全然ない健次にとっても、その点は肌感覚で理解できた。


 けど、仕組みが分かれば、どうってことはない。

 異常なまでの強さの正体は、その力を偽装させ、あたかもデルタトライナイトが操っていたかのように巨大甲冑に認識させたことによるものだった。

 だから、その認識を調整すれば、巨大甲冑は正常な状態に戻る。


 2重ロックは、その正常な状態に戻させないための、エマ・バースが施した仕掛けだった。


 だけど、コンディションと、カエン、星影の力で、なんとか乗り越えることが出来たのだ。


「ふふふふふ、ははははははは!!」

「何がおかしい?」


 開き直りなのか、エマ・バースは突如笑い始めた。


「そうか、もしかして“トライスキル”ですね? なるほどなるほど……私は少々、貴方達を侮りすぎていたようです」

「エマ・バース、貴様を誘拐、及び放火の疑いで、拘束する!!」


 クロウズは一歩踏み出し、エマ・バースの動きを止めようとする。

 ……しかし。


「面白くない。面白くない面白くない面白くない面白くないッ!!!!!!!!!!」


 そう、エマ・バースが叫んだ瞬間、多数の魔法陣が6人の足元に現れ、それぞれの動きを止めてしまった。


「う、動けねえ」


 ミンティは叫ぶ。巨大甲冑を無効化したことで、活路が見いだせたと思ったが、そううまくは行かなかったようだ。

 エマ・バースは強い。

 やはり、オリジナルな、“魔法”を操るだけはある。


「本気を出させていただきますよ、残念ですが、皆さんには死んでいただきます!!」


 ダメだ……。

 健次も星影もカエンも、ミンティも、クロウズさんやレロッサさんまでも、少しも動くことはできなくなった。恐らく、月の重力ルナ・グラビティに似た、足止めをする魔法なのだろう。

 絶体絶命、大ピンチだ。



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