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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第二章 フォグル工房編
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第28話 「タレス・コンディション」

「あれ、ここは……?」


 健次は、目を覚ますと、果のない暗闇が広がっていた。

 既視感。これはひょっとして、ラボンスに一番最初に来た時の、あの空間とよく似ている。

 光すらも見えない。何処が前で、何処が後ろで、何処が上で、何処が下なのか、分からない。最初は、その空間が怖かった。


「アラヤマ、ケンジ」

「お前は……」


 ――チカラヲ、シメセ。


 そう言って、健次から、“タイセツ”を奪った闇が、健次に再び声をかける。


「オマエハ、マダヨワイ」

「それはよくわかってるさ」

「ダカラ、タイセツハトリモドサレナイ」

「大切って、皐月のことか?」

「…………」


 否定も肯定もしない。

 自分が弱いせいで、皐月がどこかへ行ってしまったのだろうか。

 エデンは、皐月がブラッド家に誘拐されたと言っていたけれど、なんだか違うような気がしてくる。そう思う根拠は何もなく、ただ何もないこの空間と、聞こえてくる声からか。


「ケレド、オマエハ、ケツイヲシタ」

「……!?」


 決意を、した?

 そうか。

 健次は思い出す。少し前の出来事を。

 体が勝手に動いて、ミンティを守ろうと思って。

 ヒーローになりたいと、願って。


「ソノケツイニメンジテ、オマエノ、チカラヲミキワメロ」


 声が、そういった瞬間、暗闇しかなかった空間に突如、巨大な門が出現する。

 その大きさは、健次の身長の10倍の長さほどだ。


「で、でか……」


 扉の隙間から、白い色をした空気が漂っている。健次は思い切って、扉に触れる。

 すると、自分が持っていたペンダントと強く反応し、その扉は開かれた。

 道は、一本道。

 とりあえず進むしかなさそうだ。

 健次は走り、その道を駆け抜ける。


「てか、僕って、どうなったんだ」


 肝心なことを忘れていた。

 ミンティをかばって、ステラド遺跡のエマ・バース操る人形兵器にやられて。

 それで、気を失ってしまったのだろうか?


「まあ、今はいいか」


 何か、この先に何かがある。

 それを掴まなければ、先に進めない気がする。

 根拠はない。けどあの声と、自分の中に感じる、何かが、健次をそう思わせる。

 しばらく走り抜けると、健次は思わず息を呑んだ。



 満天に広がる星空。さっきまで光が何もない空間だったのに、上を見ても、下を見ても、右を見ても、左を見ても、前を見ても。

 数多もの星の輝きが、健次のまわりを包む。

 こんな綺麗な星空。今まで見たことがあっただろうか。


「宇宙……? なのか、ここは」

「左様。ここは、宇宙だ」


 また、声が聞こえる。

 今度は女性の声だ。頭に直接響いてくる。

 その一声だけで、女性の気迫が伝わってくる。

 かなり、まっすぐな声。


「!?」

「安心しろ。貴様がいた空間から、精神だけを切り離した。いわばここは精神世界だ」

「え……?」


 意味がわからなかった。精神だけ切り離した、精神世界?健次は突然何を言い出すんだと。


「私の名は、タレス・コンディション。初めましてだな、新山健次」

「タレス・コンディション!?」

 

 3大戦士デルタトライナイトの一人である、タレス・コンディション。白髪の女性で、凛々しい顔をしており、かなり硬そうな甲冑に、時計を握りしめていた。


「左様。貴様がデルタトライナイトになると決意する前から、我は貴様を見ておった。しかし貴様、実に弱いな」

「う……分かってるけど、改めて言われると腹立つな……」

「馬鹿者。貴様は死ぬところだったんだぞ」

「……え?」


 死ぬところだった?

 一体どういうことだろうか。


「ミンティ・フォグルをかばおうと、甲冑の攻撃を受けようとしただろ。そのタイミングで私は時を止め、貴様を精神世界へ連れてきたのだ。私がそうしなければ、甲冑の攻撃が貴様を貫き、即死していたところだぞ」

「へ?」

「全く。ハラハラして仕方がない。ここで死んでもらっては困るのだ」


 そ、そうなるところだったのか。

 健次はタレスに言われて初めて、事の重大さを理解した。


「貴様が弱いことは百も承知だ。けど貴様は常に諦めず、向上心を抱いていた。いい心がけだ」

「……タレスさん、僕は、強くなりたい」

「強く……か。それは精神的な強さか? 肉体的な強さか? もしくは知識・見識の強さか?」

「カエンみたいに、肉体的に」

「それは、可能なのか?」

「う……」


 カエンを見習って、隠れて素振りをしていたこともあった。動きを真似しようと裏でトレーニングしていたこともあった。けれど健次はそんな日々の努力も、魔術師たちの前ではあまり効かなかったのだ。ましてや今回、死ぬ寸前のところまでになった。

 果たして、そんな健次が強く、なれるのだろうか。


「貴様は自分自身を理解していない。貴様自身の特性を」

「特性……?」

「左様。貴様の強さは何だ? 考えろ」

「僕の、強さ……」


 なんだか、お前は強くなれないと、断言されている感じで健次は落ち込みそうになる。

 けど、タレスが言いたいのはそういうことなのだろうか。

 健次は、考える。

 自分の強さって、何だ?

 健次はふと、ヘレビス遺跡のことを思い出す。

 遠くから様子をうかがって、星影とカエンに指示出しをしていた時のことを。


(あの時は、とっさに思いついたんだ。何かしなくちゃって思って)


 何かしなくちゃ。そう思って。

 必死に考えて、仮設を立てて。

 頭部をカエンに狙ってもらったんだ。

 それは自分自身が気づいても、自分ひとりじゃ倒せなかった。

 星影と、カエンがいたから倒せたんだ。


「ほう。意外にも思いつく節があるか?」

「僕の、強さ」

「今考えているのが、貴様の強さだ。貴様は状況を脳内で“調整”し、的確に合わせる能力を持っている。それは力の強さではない。消して一人だけでは成し得ない強さだ」

「これが、僕の強さだっていうのか?」

「不満か?」


 不満……。

 それも、よくわからない。

 カエンのように、星影のように、敵を倒す力が。

 皐月を助ける力が。

 ヒーローになる力が、欲しい。


「力は欲しても、手には入らない。ましてやその力と自分自身が釣り合わなければな」

「……僕は、僕の強さは、カエンや星影のような、力の強さではないってことか」

「フッ。理解が早いな」

「まだ、納得してないけど。思い描いていたヒーローとは、ちょっと違う気がするし」

「いいか新山健次。人にはそれぞれ向き不向き、得意不得意がある。何も苦手なものについていく必要はない。私もかつて、デルタトライナイトの中で最弱戦士と呼ばれていたからな」


 そんなに強そうな格好をしているのに?と健次は突っ込みそうになった。


「最弱……」

「ああ。だが私の力は特殊だった。他の2人、エルザ・マスターとガルグ・ストロングを調整する力が私にはあった」

「調整?」

「左様。エルザ・マスターはそれ自身が図書館かと思うほどの知識量と完璧さ。ガルグ・ストロングは地上最強の戦士と呼ばれていたからな」

「ひ、ひええ」

「その2人を、私は“調整”する。それが、トライスキルたる、私の力、“コンディション”の能力だ」

「……コンディション?」

「私の気まぐれだ。この力は試練で手に入れるより、手に入れて調整するほうがかなり難しいからな、貴様にこの力を渡そう」


 その言葉の瞬間、タレス・コンデイションの右手が、健次の胸に触れる。その瞬間、物凄い熱が、健次を襲った。


「う、うああああああああああああああああああああああああ!!」


 熱い。熱い。熱い……!!

 体が、まるで沸騰しそうなくらいの熱さが、健次を襲う。


「フッ、いま貴様に流し込んだのは、我の力、トライスキル、コンディションだ」

「はあっ……はあっ……」


 立てない。

 声は聞こえるが、自分の意識を保つのに精一杯だ。

 タレスは、何をしたんだ……。

 けど、立たなきゃ。

 右手が、熱い……!

 健次は、燃えるほど熱い自分の右手を眺めると、血管のように張り巡らされる文様が、浮かび上がっていた。


「立て青年。その力を使ってみろ」

「はあっ……はあっ……」


 使ってみろって、どうすればいいんだ……。

 タレスが指をパチンとした瞬間、目の前に巨大な歯車がいくつも現れ、噛み合い始めた。

 一番上には、時計があり、動きが止まっている。


「練習だ。こいつを調整しろ」

「くっ、コ、コンディション!!」


 健次はただ熱い自分の右手を前に向けた瞬間、歯車が急に動き始め、噛み合うように入れ替わりを始めた。パズルが自動的に動いて、噛み合うかのように。

 しかし、動きが止まった瞬間、その歯車はうまく噛み合わず、時計は動かなかった。


「もう一度」

「コンディション!!」


 くそ、なんなんだよ一体。

 カエンみたいに莫大な力を出せるわけじゃない。

 この力は、歯車をうまく噛み合わせるように、調整している。

 これが、コンディションの力?

 こんなのが、なんの役に立つっていうんだ。

 ずっと、ずっと同じことの繰り返し。

 何度やっても、何度叫んでも。

 結果は同じだった。


「やはり、すぐには無理か。もはや貴様、コンディションを信じていないな?」

「だ、だってこれ、なんの力か意味わかんないし」

「ふむ……なるほど。まあ分かるまでやるがいい」

「ええええー」


 歯車は、再び噛み合い始める。

 何度やっても、何度やっても、うまくいかない。

 むしろ、欠落して落ちてくる歯車があるくらいだ。

 ミンティを助けたかったのに、今自分は何をしているのだろうか。

 早く、戻らなきゃ。


「けど、戻ったところで、僕は死ぬかもしれないんだった……」


 そうかもしれないけど、あのときミンティが本当に危なかったのは確かだ。

 それで、自分の命を落としかねない事態にまでなっているという自覚なんて、なかったのに。

 ラボンスに来て。

 皐月がいなくなって。

 カエンや星影、ミンティたちと出会って。

 旅をして。敵を戦って。

 それでも皐月の手がかりは未だ見つかんなくて。

 スカイベル学園にいけば、ほんとうに見つかるのだろうか。

 それすらも、確証はない。

 本当に、今、僕は何をやっているのだろう。

 急にタレス・コンディションに呼ばれ、コンディションという力を渡されて。

 その力の使い方が分からずに、さっきから失敗ばかりで。

 一体どれくらいの時間が立ったのだろう。

 それすらも、わからなくなった。

 けど、何でだろう。

 無意味なら、やめてしまえばいいのに。

 無意味なら、これ以上続ける必要なんてないのに。

 不思議と、手が動いている。声を出して、叫んでいる。


「コンディション!! コンディション!! コン……ディション!!」


 歯車の噛み合いが、少しずつ良くなっていってる気がする。

 そうだ。さっきまで無意味にやってたけど、何も考えてなかった。

 ちゃんと考えるんだ。この機構の仕組みを。

 想像するんだ。そして創造するんだ。動く絵を。

 調整しろ。

 調整しろ。

 ……コンディション。


 僕の強さは、力の強さじゃない。

 タレス・コンディションと同じく、調整する強さ。

 敵の弱点を見抜く、分析。

 それが、僕の強さ。

 無理に強がる必要ない。

 遠くから、全体を見るんだ。

 この機構の仕組みを。

 考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。考えろ……!!


「すーっ……」

「ほう……」


 深く、深呼吸する。

 呼吸を整える。

 考えれば考えるほど、浮かんでくる。


「……トライスキル、コンディション!!」


 そう健次が叫んだ瞬間、今まで噛み合わなかった歯車が、見事に噛み合い始め、時計が動き始めた。


「見事だ。完全ではないが、コンディションの力を手にした。ということだな。この短時間で習得するとは」

「まだ、よくわかんないですけど」

「いいか。貴様が手にした力は、調整の力だ。ありとあらゆるものを調整する。その力の意味を考え、適切に使うが良い。では、再び、君がコンディションを極めし時に、お会いしよう」


 そう言って、タレスの声が遠くなっていく。

 残ったのは、数多もの星々。


「宇宙……か」


 さあ、行こう。再び時は動き出す。

 ミンティをかばって、甲冑に飛ばされた自分の時間に。

 健次は、拳を握りしめ、強く願い、叫んだ。


「死んで……たまるかよ!!」



 ★★★


「嘘でしょ」


 星影は、開いた口が塞がらなかった。

 目の前で、健次が巨大甲冑に飛ばされ、横たわる姿を見て。


「馬鹿じゃないですか!! 甲冑の攻撃なんか食らったら死ぬに決まってるじゃないですか!! アホだ、アホが居る!!ふはははははははははは!!」


 エマ・バースは横たわる健次を嘲笑う。


「てんめえ……」


 カエンはエマに向けて攻撃をしようとする。しかし甲冑が護衛に入り、カエンも飛ばされる。


「まて、様子がおかしいで」


 近づいて治療しようとする星影を、レロッサは止める。



「ふーっ……」


 健次は、自分の腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。


「ば、馬鹿な!? 今の一撃で立てるのですか!?」

「け、健次……」


 かばわれたミンティも、やっと正気に戻り、涙ながら健次を見つめていた。

 ゆっくりと立ち上がり、健次はエマ・バースをにらみながら、叫んだ。


「エマ・バース、君を、倒す!!」




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