第27話 「探索、そして真相」
「ついたぞ……」
船を降りた後、クロウズの先導で、ステラド遺跡にたどり着いた一行。
健次は、その遺跡の大きさに、ただただ驚いていた。
よく、東京ドーム何個分とかいう表現を使うのを聞くけれど、そもそも東京ドームがどれぐらいの大きさなのか健次は知らないので、それに例えることは出来ない。
例えるなら、エジプトのピラミッド。
大きさとしては、それぐらい、巨大なものだった。
石で作られた遺跡には、人が入れるほどの大きさの扉に、フードをかぶった集団が出入りしていた。
「でかい……」
「3大戦士にまつわる遺跡だからな。前のヘレビス遺跡とは違い、ここはそうであることが分かっている」
「けどよ、そんな場所、奴らの本拠地にしちゃってて良いのか?」
カエンがクロウズに尋ねる。
「よくはないな。たしかここは、ベルフライム政府が管理していたはず。しかし様子がおかしいな」
「掲げてあるあの」
「っ……」
星影は、頭を押さえ、気分が悪そうに、うずくまっていた。
その様子に気付いたカエンは、星影に声をかける。
「ん? どうしたナツキ?」
「なんでもないわ、ただちょっと、昔のことを思い出してしまって」
「あれか……」
「あれって?」
健次が尋ねるが、星影とカエンは答えずに。
「健次は気にしなくていい。まあ、ちょっとしたことだ」
「いや、でも星影、体調悪そうだし」
「大丈夫よ……問題ないわ」
星影とカエンは、何か言えない事情を隠しているのだろうか。それはひょっとして、ブラッド家のことだろうか。
「ブラッド家?」
「いいや、そうじゃねえ。まあ、今は話す話じゃねえな。時が来たら……だ。どうするナツキ、外で待機しとくか?」
「問題ないわ」
星影は、立ち直してカエンのほうを真っ直ぐ見る。
健次は、気になるけれどこれ以上詮索しないでおいた。
そういえば、カエンはブラッド家と因縁があるのは分かってたけど、健次自身、星影のことは何も知らない。
ただ、知識が多くて。
ただ、ちょっと高飛車で。
ただ、ちょっと皐月に似ていて。
今まで、そのことについて何も触れていなかったけど、やっぱり気になる。
けど、今はそんな暇はないし、話してはくれないだろう。
何か、星影とカエンに深く関わる事情が、この遺跡にあるのだろうか。
「さっさと行こうぜ。アタイも準備はできてる」
ミンティは、今か今かと準備していた。
愛用の、銃型のゲートを構えて。
「せやな。ただ、あの魔法連中、何も考えてへんようで考えとる。揚げ足とられんように気をつけんと、やられるで」
「そうだな……。取り敢えず、私を先頭に、君たち3人はついてくるといい」
「アタイは後ろから迎撃する」
「ワイは後方担当やな」
「「「はい!!」」」
こうして、それぞれの立ち位置が定まった。クロウズ監督官の先導のもと、カエン、星影、健次がそれについてきて、ミンティが後ろから迎撃。そして後方の敵を、レロッサが仕留めるという、布陣だ。
「あくまでも目的は“ハーブ・フォグル”の救出。不要な戦闘はなるべく避けるように」
「了解しました」
「……皆さんに、強化魔法をつけます。月の加護!!」
健次は頷き、クロウズが駆けていくところについていく。
星影は、月の加護、モードで全員の攻撃力を上げる。
「まずは、門番からやな!!」
「ああ、行くぞ!!」
奇襲をかけるように、クロウズが先陣を切る。
遺跡の扉付近で待機していた警備担当のフードたちを、目にも留まらぬ速さで、クロウズは斬りつける。
背中に背負う大剣を、軽々しく振り回し、軽快なステップで敵に斬りかかる。
まさに、獲物を狩る虎のような、そんな姿。
その速さに、魔法を発動させることもなく、一瞬で終わり、星影はかなり驚いていた。
「行くぞ!!」
「早い……」
「やっぱつええな……軍人って」
門をくぐり、中に入ると、一気に明かりがつき始める。
恐らく、魔法の灯籠なのだろう。クロウズが入った瞬間に、一直線に灯り始めた。
そして、侵入を感知したのか、再び次の集団が襲い掛かってくる。
その奇襲勢をミンティはいち早く気づいて、魔法を避けつつ、トリガーを引いた。
「喰らえ!!」
しかし、クロウズのように一撃必殺とはならず、空中で回転して魔術師たちは避け、呪文を唱え始めた。そして、雷魔法を発動させる。
呪文を唱える声は小声で、何を言っているのかは健次には理解できなかった。
その魔術師の放つ電気は、ミンティめがけて一直線に飛ばされる。
まさに、雷に打たれたかのように。
「うああっ!!」
「ミンティ!!」
「くっ。セイヤッ!!」
クロウズが雷魔法を放った魔術師を背後から斬りつける。いつの間に後ろに回ったんだ。
ミンティはその雷魔法でやられたようで、銃を手放し、地面に倒れ込む……が。
「クソッタレ!!」
ミンティはそう叫んで、立ち上がる。クロウズ監督官は軽々しく倒してるとはいえ、相手はかなり強いと、健次は思っていた。
雷で打たれた人間が、すぐに立ち上がれるのだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。
彼女は、助けたいんだ。
喧嘩別れして、3年間も会っていなかったけど、ミンティにとって、ハーブ・フォグルは確かに家族なんだ。
だから、焦りもするし、こうして諦めずに立っている。
だったら僕も、負けてられるか!!
そんな思いで、健次は虹色のゲートを掲げ、襲いかかる敵に攻撃を繰り出そうとする。
「雷には、土!!」
健次の虹色のゲートが、茶色に変わり、多数の小石が地面から浮き上がり、敵の魔術師集団に解き放つ。
「サンド・スティール!!」
しかし、属性を変えど、健次の攻撃は彼らのフードに傷をつける程度だった。
彼らがひょうと手をだすと、手の周りに魔法陣が浮き上がり、炎魔法で健次の土魔法を防ぐ。
炎で土が燃えるのかよ!?と健次は驚いてしまったが、これは魔力の差なのかもしれない。
「やっぱり、まだダメか……」
「火炎斬ッ!!」
火炎は、迫り来る敵をクロウズに負けじと倒し続ける。火災の時といい、病み上がりなのにもかかわらず、かなりの動きだ。
そんな様子を、健次はただ、見ているしかなかったのが、くやしい。
何か、火炎たちに手伝えることはないだろうか。
「月の恵。これで大丈夫よ」
星影は、傷ついたミンティを、回復魔法で癒やす。
ミンティはそれでありがとよと呟き、再び攻撃を続ける。
健次が気づくと、戦闘は終了していた。
「急ぐぞ!!」
クロウズが叫び、みんなは頷いて奥の方へ進んでいく。
「……見てみたけど、やっぱりヘレビス遺跡と似てるわね。歩いてる最中にみた壁画とか、恐らく同じ時期のもののようね」
「みてえだな。それより星影、大丈夫か?」
「え、ええ。まあ、なんとかね」
カエンが心配するのも無理はない。星影は遺跡の文様を見るたびに、顔が青ざめ、息が少し上がっているようにも見える。
戦闘で疲れているのか、とも感じたが、そうではない。明らかに、いつもの星影とは違う、何かがあった。
カエンはそうやって、星影をところどころ心配していたが、大丈夫の一点張りで、すこし無理しているようにも見えた。
一体、何があったのだろうか。
そんなことを考えていても、他のメンバーは魔術師との戦闘を継続していた。
次の集団が再び、襲い掛かってくる。
「キリがないな……レロッサ、すこし大きめな魔法、打てるか?」
「余裕やで」
「分かった。敵を誘導するから、そこに打ち込んでくれ」
「はいよ!!」
クロウズの誘いに、レロッサは了承して、クロウズは敵の魔術師たちを誘い込み、中央に寄せる。
「今だ!」
「おっけーい! 喰らえ、大洪水!!」
火災の時よりも大きめの、物凄い量の水が、魔術師たちを襲う。
2人の攻撃で隙が出来たようで、クロウズはそのまま進むぞ!!と叫んで奥へと進んだ。
こうしてたどり着いた場所は、かなり広めの空間だった。
これまで狭い通路で戦ってきたせいもあってか、余計に広く感じる。
そこの目の前に、ハーブ・フォグルは拘束され、周囲を松明で照らされていた。
他に、人の気配がない。
「着いたようだな。」
「爺ちゃん!!!!」
その姿を見て、ミンティは一目散にハーブの元へ走っていこうとする。
が、しかし、クロウズが叫んで止める。
「待て!!」
その声でミンティは立ち止まり、クロウズのほうを向いた、次の瞬間だった。
上の方から、巨大物体が落下し、ミンティの目の前に崩れ落ちるように着地する。
「うわあぁっ!?なんだこれ!?」
「……おい、あれって」
カエンが、その姿を見て呟く。
ミンティの、健次たちの目の前に現れたのは、ヘレビス遺跡の時に見た、巨大甲冑、そのものと、かなり似た、巨大な人形だった。
そして、直立不動のまま、赤い目がこちらを睨んでいた。
「間違いないわ。ヘレビス遺跡の時のものよ」
「……つまり、これも3大戦士の試練、というわけか?」
そう、クロウズが言った瞬間。
「ちょっと、違いますねえ」
第一声で、その声の主が分かった。
ハーブをさらい、この火災事件を起こした、張本人、マギアスの青年、その人が、文様があるフードを来て、こちらの方に現れた。
「貴様は!?」
「……初めてお目にかかります。“壊滅のクロウズ”さん。マギアス……いえ、マギウス・ソサエティの、プラクティカス。エマ・バースと申します。以後お見知りおきを」
「やはり、あんたはんらやの仕業というわけやったか」
レロッサが尋ねる。
「仕業? 何か私達が悪いことでも?」
「しらばっくれるんじゃねえ!! 爺ちゃんを誘拐して、工場燃やしやがって!!」
「あら、貴女は……なるほど。なるほど!! なるほぉおおおおおおおおおおおど!!!いやあ、実に滑稽。はははははは!!!」
ミンティの問いに、エマと名乗る青年は気味の悪い笑い方をした。
あまり、話したくない人種だと、健次は一瞬で思った。
「何がおかしい!?」
「いやあ。おかしいのはあなた達ですよ。オリジナルの魔法がどれだけすばらしいか、それをちゃんと理解していない。ましてや“ゲート”なんぞという、気味の悪い装置ばかりに頼って。そんな世の中が、おかしい!! おかしい!!実ぅうううううううううううに、おかしい!!」
「まず、聞かせて。貴方がそちらの、ハーブ・フォグルを誘拐して、工場に放火した事件の、首謀者ね?」
星影は、冷静に尋ねる。
「ええ。あんなもの必要ありませんし。この男もただちに殺したいですが、いかんせん取引がありますしねえ」
「んにゃあろおおお!!!」
ミンティがエマに向けトリガーを引くが、巨大甲冑の守りですぐに弾かれる。
「……クロウズ監督官、間違いないようです」
「分かった。我々は、貴様を放火、及び誘拐の現行犯で拘束させて頂く」
「へえ……そうやってあなた達は、私達をいつまでも、縛る。縛る。しばああああああああああああああああああありつける!!」
クロウズの問いに、叫び返すエマ。
喋れば喋るほど、気味が悪い。
「おい!! てめえ!!はやく爺ちゃんを開放しろ!!」
「開放? 忌々しいフォグルの一族を、開放? 嫌です無理です遠慮します。せっかくオリーブもクレソンも消せたのに、おまけにレリュールの忌々しい虫どももブラッドに頼んで消してもらったのに、開放だなんて、そんな馬鹿な真似、できるわけ無いでしょう!!」
「……まさか、お前が父さんと母さん……それに盗賊団のみんなを、殺したのか?」
「ああ、口が滑ってしまいました。失敬失敬。どうせあなた達は、ここで消える運命ですからまあいいでしょう」
「ミンティ……」
「てめえ!!よくも!!」
「ふふふふふふふ、その怒りにかられる感情、実にいい。いい!!私が貴女を殺さず、周りからどんどん殺していったのは、貴女にそんな才能があったからだと思ったんですよ。真の魔法の探求のためならば、いかなる手段を使ってでも、貴女を手に入れたかった!!」
エマ・バースが語る、真相に怒り狂うミンティ。
無理もない。彼女の人生を狂わせたのは、他でもない、彼なのだから。
彼の、魔法の探求という、くだらない理由のために。
ミンティは、その瞬間、亡くなった自分の両親の、オリーブ・フォグル、クレソン・フォグルの顔を思いうかべた。
仕事が忙しくて、相手にしてもらえなかった。
けど、本当は、もっと話がしたかった。
その機会を、その生命を、かけがいのないものを全て、この、エマ・バースは奪ったのだ。
「だから貴女を、今の感情のまま、いただきますよ?」
「なんだと!?」
その一言で、健次は一瞬で察した。彼女が、ミンティが危ないと!!
「まずい!! ミンティ!!」
気づけば、全速力で走り出していた。
――ヒーローに、なれやしない。
ずっと、そんなことばかり考えていた。
小学生の頃は、あんなに思っていたのに。
ヒーローになりたいと、思っていたのに。
何故、そんなふうに思ったのか。
それは、他でもない。親父だ。
世界中に飛び回り、世界中の困っている人々を助ける。
親父は、常に、そう言っていた。
探検家だったのに、なんだか医者みたいなことを言ってて、今思うと笑ってしまうが。
そんな親父がかっこよかったのだ。
だから、ヒーローに憧れた。
だけどそんな親父も、行方不明になって。
いつしか、そんなものになれやしないなんて、嘆いてしまったんだ。
けど、本当にそれだけの理由か?
本当に、ヒーローになりたいと、思った理由はなんだ?
新山健次は考える。
自分にとってのヒーローを。
ミンティが、今怒り狂って涙を流している。
そんなミンティのもとに、巨大甲冑がミンティを掴もうとしている。
助けなくちゃ!!
――ヒーロなんて、なれやしない……じゃない。
諦めていたんだ。進むことを。
諦めていたんだ。自分の夢を。
必死に戦うカエンたちを見て。気づいたんだ。
悲しい顔なんて、見たくない。
みんな、笑っていたい。
だから、僕は……
ヒーローに、なりたい!!
健次は、ミンティを突き飛ばして、巨大甲冑の攻撃を受けようとする。
それに気付いたカエンが、ワンテンポ遅くなって、健次に近づく。
星影も、健次のまさかの行動に驚いて、はっとする。
レロッサはいち早く、巨大甲冑の動きを止めようと、魔法を繰り出す。
そして、カエンは叫んだ。
「健次ィイイイイイイイイイイ!!」




