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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第二章 フォグル工房編
25/64

第24話 「捜査、魔法原理主義者」

【登場人物】

新山健次 …主人公

篠山皐月 …主人公の幼馴染(行方不明)

カエン  …健次のパーティーで、スカイベル学園受験生の1人。

星影ナツキ…カエンの連れ。同じくスカイベル学園受験生。

ミンティ・フォグル…元盗賊。盗賊団が壊滅したため、健次たちと行動をともにする。

ハーブ・フォグル…タルメ工業地区、フォグル工房の工房長。

レロッサ・アイスバイド…レリュール公国からの旅人。

クロウズ …スカイベル学園の試験監督官。


【状況】

現在地  :ラボンス「ベルフライム王国」タルメ工業地区

現在の目的:王立スカイベル学園の第二次試験に備えるため、ナハト魔法地区へ向かおう!

現在の状況:タルメ工業地区、フォグル工房で火災。ハーブ・フォグルが誘拐されてしまった。

「……魔法原理主義者だと?」


 カエンが、レロッサの言葉を繰り返す。

 ゲート反対派……。

 ヘレビス移籍攻略のときに、確か星影から聞いた言葉。

 あんまり関係ないと思っていたけど。


「せや。国の動き、世間の動き。それを良しとせず、”本来の魔法”を好む連中や。危ないっちゅーのに」

「その人達が、ハーブさんを誘拐したってこと?」

 

 もし、レロッサや星影の言うとおり、ハーブ・フォグルを誘拐したのが、

 その”反対派”だったとしたならば。

 ゲートを使わない、原理的な魔法を主張する主義者たち。

 その連中が、今の状況を認めず、工場を放火し、ゲートを作る職人を誘拐する理由にも繋がる。

 けど、それはあくまでも。


「可能性は、あるやろな」

「けど、確証がないわ。あくまで可能性ね」


 そう、あくまでも可能性にすぎないのだ。

 星影とレロッサは、現状と、自分たちの知識を当てはめただけ。証拠もないし、つながる理由にはならない。たまたま事象が一致した可能性だってある。


「よし、そいつらが犯人の可能性があるんだろ!? さっさと行こうぜ!!」

「待ちなさいカエン!!……正直、この件はこれ以上首を突っ込まないほうがいいと思うの」

「……なんでだよ?」


 星影の提案に、カエンは食い下がる。

 そんな様子にびっくりして、星影は動揺しつつ、説得する。


「だ、だってカエン、これは国際事情も絡んでる、”政治的”な事件かもしれないのよ? 一受験生の、私達が首を突っ込んでいい案件には到底思えないわ」

「どういうことだよ……」

「考えたらわかるでしょ。これだけの工場火災を起こして、おまけにフォグル工房のトップを誘拐。もし彼らが犯人じゃないとしても、立派な犯罪。おまけに謎も多い。私達だけじゃ解決できるものじゃないと思うの」

「まぁ、せやろな。誘拐事件というだけでも、王国軍が調査すべき案件やろうし。ワイらは軍の捜査を待つしかないで」

「けどよ……俺はミンティに、借りがあって……」

「カエン、焦ってはだめよ。私達が介入して、軍に余計な迷惑をかける可能性だってあるわ。今回だって厳重注意されたじゃない」

「だけどよ!!」


 カエンの気持ち、わからなくもない。

 ミンティは、カエンをなんとか助けてくれて、そのおかげで命をとりとめた、いわば恩人だ。

 そのミンティの家族であるハーブが誘拐されて、

 命を助けられたカエンがないがしろにするわけないようだ。

 カエンは、そんな”借り”をきちんと返さないと気が済まない性格なのだろう。

 なんとなくカエンなら、そうするんだと健次は思った。

 健次も、考える。

 確かに、星影の言うとおり、これ以上突っ込んで、正式な捜査機関である軍に、迷惑をかけてはいけない。しかるべき捜査機関に、ハーブさんの行方を調べてもらうべきだ。

 けど、本当にそれでいいのか?

 カエンのように、何かしたいと健次は思った。

 ミンティは、どこか放っておけない。

 それが何なのか、今自分の中で理由ははっきりしない。

 けれど、放っておけないんだ。


 それに……。

 健次は、自分の弱さを自覚している。

 今のままではいけない。

 そして、その弱さではおそらく敵に太刀打ちできない。

 ただでさえ、あの魔術師集団に悪戦苦闘していたのだ。

 けれど、健次は、新山健次は――。


 ――ああ。僕は優しいヒーローになるんだ。皐月のことだって、放っておけないさ。

 

 もう一度、自分の言葉を思い出す。

 正直、ヒーローなんて馬鹿馬鹿しいと思っていた。

 ヒーローが格好良く悪を倒して、みんなに賞賛されて。

 そんな姿を見て、あの時ヒーローに憧れたんだろうか。

 今では、分からない。


 けれど……。

 健次は、何もしゃべらないミンティを見つめ、考える。

 彼女に、できることはないのか。と。

 そんな気持ちが溢れ出てくる。


「健次? ちょっと大丈夫?」

「…え?」

「大丈夫か健次。考え事してたみてえだけどよ」


 気づけば、かなり時間が経過していたようだ。

 星影とカエンに話しかけられ、我に返る。

 自分が考え事をしている間に、思っていたよりも時間が進んでいたようだ。


「出ましょう。あんまり長居するとお店に迷惑だろうし」


 カエンたちが食事する外には、タルメ工業地区の他の工場労働者たちが、まだかまだかと席を開くのを待っていた。あたりを見渡すと、がらんとしていた店内は、ほぼ満席に近い状態となっており、店員の目も厳しくなっていた。


 そして、夜……。

 ミンティは、また事情聴取があると、軍に呼び出されて詰め所に行ってしまった。

 レロッサもレロッサで、個人的な用事とやらでいなくなった。


「……さて、どうしましょうか」

「わざわざ聞くってことは、もう反対してないってことか?」

「そうじゃないわ。今でも反対よ。けどミンティには借りがあるし。この件に関わるのか。それともかかわらずにタルメを出て、ナハトに向かうのか。それを3人で決めましょ」

「ああ……」


 ナハト魔法特区に向かう。

 それで健次たちの、当初の目的であるスカイベル学園入学に向けた、2次試験に備えることができる。現状のまま向かっても、なんら問題はない。

 けれど、事件が事件だ。ゾンゾ=ザス・ブラッドとの戦いで、危なかったカエンを、タルメ工業地区の診療所へ運んでくれたのは、他でもないミンティだ。そのことに対して、星影もカエンも、健次も。ミンティには感謝している。

 そのミンティの祖父が誘拐され、おまけに工場まで火災の被害に合ったのだ。

 そんな現状をみて、そのまま自分たちの目的を達成するために向かって良いのだろうか。


「健次、お前の意見はどうだ?」


 カエンが尋ねる。


「僕は……」


 言いかけて、考える。

 何もしない事は、普通の選択だ。

 けど、それじゃいけないと、健次は心の何処かで感じている。


「俺は、助けてえ。このままナハトに向かうにもすっきりしねえ!!」


 カエンは、拳を握りしめ、少し大きめの声で2人に宣言する。


「カエン……」


 そんなカエンを、純粋に、かっこいいと思う健次だった。

 洞窟のときもそうだったが、カエンは考えるより動けというタイプらしい。


「気持ちは、分からなくはないけれど」

「僕も、助けたい」

「健次? 貴方まで……」

「カエンの言うとおり、何もしてないだけじゃ、すっきりしない。ゲート反対派が絡んでる可能性はわかったけど、それ以外に謎も多いし」

「はぁ……分かったわ。けど、軍になんて話せば……」


 星影は、健次の宣言に渋々納得する。

 けど、彼女の言うとおり、何かをしようとすると、軍に止められることは間違いない。


「……その件については、心配しなくていい」


 3人の会話に、聞き覚えのある男の声。

 筋肉質で巨漢、体を重厚感のある甲冑で覆い、背中に大剣を背負ったその男は、

 健次たちが第一試験のときに会った、クロウズ監督官だった。


「監督官!? 何故こんな所に……?」


 星影は尋ねる。

 確かに、試験とはなんにも関係ないのに、何故現れたのだろうか。

 というより、どうやってここがわかったのだろうか。


「失敬。実は受験生の動向は、ウインドベル・ローレライ号を通じて把握していてな。今回は受験生が緊急事態に巻き込まれた可能性とあって、参上した」


 クロウズは、3人が座っていた宿屋のテーブルに、同席する。


「えっ……」


 健次は驚いた。受験生にそこまで心配してくれるのか……と。


「何もそこまで、と思うか? 貴君らはデルタトライナイトになる可能性を秘めた者たちであるし、なによりスカイベル学園は、受験生全員を無事に受験させるため、あらゆる手段を使って保護せねばならない決まりがあるからな。今回の件も然り……だ」

「お気遣い、感謝します。それで、心配しなくていいというのは……?」


 星影が、クロウズに尋ねる。


「ああ。エド・マクワドル学園長から、正式な依頼で、今回の件を君たちにも協力してほしいと、要請があってな。まあこれも試験の一環だと思ってくれていい」


 クロウズは、依頼書を3人に提示する。

 たしかにそこには、健次、星影、カエンに対して、今回のフォグル工房爆発事件に関する調査の依頼について、エド・マクワドル直筆で、書かれていた。


「正直、今回の件は学園にもかなり大ダメージになる恐れがある。ハーブ氏の身柄確保のため、少しでも情報がほしいし、人手も欲しい」


 ゲート工房であるフォグル工房の火災は、飛空艇のウインドベル・ローレライ号の維持管理の重要拠点だったらしく、学園側もかなりのダメージを受けているようだ。


「ありがたい話ですけど、どうして……?」

「正直、タルメ駐留の連中は頭が固くてな。先程詰め所に寄ったが、捜査は進展していないらしい。それにどうやら、“敵”に接触したのも君たちだけのようだしな。詳しく話を聞かせてもらえないだろうか?」


 星影は、クロウズに火災の出来事、魔術師の連中、それが反対派の可能性があることを伝えた。


「……あくまで、憶測にすぎないのですが」

「いや、案外その可能性は高いかもしれない。よく知っていたな。魔法原理主義者なんて」

「あ、え、えっと、昔本で読んだことがあるので……」

「……? まあいい。軍に捜査許可ももらっているし、君たちの好きなように、調べてみるといい。私も同行する。今回の事件が解決に導けば、場合によっては君たちの2次試験免除も考えていいと、学園長はおっしゃっていた」

「マジすか!?」


 カエンの目が変わる。

 そんなに勉強するのが嫌だったのだろうか。


「ちょっとそれは贔屓なのでは……?」


 星影がクロウズに尋ねる。

 確かに、ちょっと条件が良すぎる気がする。


「はは。星影は真面目だな。正直、この事件を解決しなければ、ウインドベル・ローレライ号は、他国でメンテナンスを受けないといけない可能性だってある。そうなれば、ベルフライム王国は他国に借りを作ることにつながりかねないからな」

「そんな大事なんですか……この事件って」


 健次は驚く。

 単なる工場火災が、国に関係する出来事なんて。


「それくらい、フォグル工房が大手ってことよ。わかりました。微力ながら、私達も協力させていただきます」

「さっきは頑なに反対してたくせに」

 カエンがぼそっと呟く。


「なによ。状況が変わったからいいじゃない」

「べつにいいけどよー最初から賛成してもいいじゃんか~」

「うるさい!! カエンの馬鹿!!」

「へいへい」


 そして、翌日。

 クロウズはあくまでも助言役のようで、星影、カエン、健次たち3人で、この事件の解決をすべく、捜査をすることになった。


「……なんや、一人増えとるのう」

「レロッサさん。おはようございます」


 クロウズを見て、はっとするレロッサ。会ったことがあるのだろうか。


「……どうした?」

「いやいや、なんでもあらへんあらへん。ワイはレロッサ・アイスバイド。レリュールからの旅人や。あんたは?」

「クロウズだ。彼らの……保護者とでも言っておこうか」

「よろしくやクロウズはん」

「ああ」


「……で、どうするよ?」


 カエンがパンをかじり、星影と健次に尋ねる。


「まずは、だけど、ミンティと一緒にフォグル工房で聞き込みした方がいいと思う」


 聞き込みは捜査の基本であると、健次がダゼンスで見ていた刑事ドラマで見たことがある。捜査を任されたからには、まずは情報収集が大事だ。

 レロッサと星影が言うように、“反対派”の犯行であるかを確かめるために。


「そうね。私達の憶測だけじゃ、解決につながらないだろうし」

「聞き込みか……そういうのは任せるわ。俺は敵をぶっ倒してえ!!」

「カエン貴方ね……」

「いい考えだな。軍に許可はもらってある。まずはフォグル工房へ向かおうか」

「ワイもついていってええ?」

「……レリュール人の力は借りる必要はない」


 と、クロウズは断るが……。


「えー別にええやろ」

「……。まあ、貴君は彼らを助けてくれた事も聞いている。許可はしよう。ただし、捜査はあくまでも彼らを中心とさせる、いいな?」

「へいへい」


 こうして、パーティはいつの間にか、5人になっていた。

 レロッサもかなりの腕の持ち主であるし、クロウズ監督官もついてきてくれている。

 正直、戦力としては申し分ない。

 一番足を引っ張るのは、自分なんじゃないか。と、健次は思ってしまった。

 そして、5人はフォグル工房へ向かった。


「……惨いな」


 クロウズは呟く。確かに、ここまでする理由が、あるのだろうかと思うくらい、

 立派な工場は、焼け焦げて、崩れ落ちていた。

 火は消し止められているが、工房の大半が焼け焦げ、従業員や軍人たちが、解体作業や調査作業をしているようだった。


「まずはどないするんや?」

「ミンティのところに行ってみます」

「そうね……。彼女がいたほうが、話が進みやすいだろうし」


 こうして、5人はミンティを探した。

 以外にも、ミンティは従業員たちに指示出しをしたりして、解体作業の監督官をやっているようだった。


「その機材は頼みます。アタイはこの辺をやるんで」

「ああ!分かった!!」

「お嬢。役所の報告はどうしやしょう」

「そんなもん後でいい。まずは被害状況の把握と、解体作業を」

「了解」


 昨日見せていた、暗い顔はなくなっていた。

 どうやら、ミンティはミンティなりに考えて、行動しているようだ。


「ミンティ!!」


 そんなミンティに、健次は声をかける。


「……健次か」

「大丈夫?」

「ああ。いつまでもメソメソなんてしてられねえしな。アタイも、アタイにできることをしなきゃと思って」

「やるじゃない。的確に指示出しているみたいだし」


 ミンティの様子に、星影は褒める。


「……爺ちゃんなら、もっとうまくやってるけどな。それより大所帯でどうしたんだ?」

「実は僕達……」


 健次は、捜査をすることをミンティに伝えた


「!?……。 そうか。なあ、アタイも一緒に行動していいか?」

「構わないよ。ミンティがいてくれたほうが、捜査が進むかもだし」

「決まりね。で、これからについてなんだけど、ちょっといいかしら」


 6人になったグループを集め、星影は話を切り出す。


「聞き込み、分担してやってみない?」

「だね。2人一組で分けたほうが良いかも」


 捜査は2人一組だと、健次の知っている刑事ドラマで見たことがあるし。


「無難やな。チーム分けはどうするん?」


 レロッサが尋ねる。


「そうね。カエンと私、健次とミンティ、クロウズ監督官とレロッサ。というのはどうかしら」


 皆、頷いた。


「決まりね。それぞれ聞き込む対象を変えましょう。私たちは、工場に出入りする人物を当たって見る」

「僕たちは……そうだね、ミンティもいるし、従業員に話を聞いてみるよ」

「軍には顔が広くてな。調査をしている兵隊に、話を聞いてみよう」

「特に注意して聞くことって、なんだろ」


 健次は考える。それをクロウズは答え。


「とりあえず、工場火災時の状況と、それまでに不審なことがなかったか、を基本として聞いてみるといい。他にも話を聞いてみて、気になることがあれば聞くんだ」

「了解しました」


 こうして、6人によるフォグル工房火災・誘拐事件の捜査が始まった。


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