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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第二章 フォグル工房編
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第20話 「ミンティの過去」

 ミンティは、工房長室のある事務棟の屋上に出て、風にあたっていた――。

この場所は、3年前、ミンティ自身が家出するときと、変わっていない。

 しかし、タルメ工業地区が、景色が、がらりと変化していた。


「あーちくしょー。こうなることは分かってたのに」


 3年前と変わらない。また爺ちゃんと喧嘩をしてしまった。

 そう、ミンティは後悔していた。

 けど、3年という月日で、かなり状況が変わっている。

 知っていた景色も。自分のたったひとりの肉親も。

 そしてこの工房も。

 3年前とは、全く姿を変えていた。

 驚くほどに、巨大化していた。


「……」


 その変化に、ミンティはかつての景色を思い出そうとする。

 けれど、盗賊団のことや、ゾンビのこと。

 いろいろなことがあって、思い出せなくなっていた。


「そういや――」


 そして、ミンティは思い出す。

 自分が、何故3年前ここを出てしまったのか。

 何故、爺ちゃんと喧嘩をしてしまったのかを。


 フォグル工房は、元々はタルメ工業地区の小さな町工場だった。

 ハーブ・フォグルは、ミンティの祖父に当たるため、ミンティ自身、ハーブの息子であるオリーブ・フォグルと、その妻であるクレソン・フォグルの一人娘だった。

 

 ハーブ・フォグルは、フォグル工房の工房長で、ミンティの生まれる前からタルメ工業地区でも有名のゲート技師だった。ゲートに関わる武器や防具、生活するための関連商品など、数々のものを手がける職人だった。

 その工房を大きくしたのは、ミンティの父親であるオリーブ・フォグルである。

 

 オリーブ・フォグルは、ハーブのゲート技能を受け継ぐのはもちろんのこと、経営手腕に優れていた。オリーブは、スカイベル学園の出身であり、最新の経営を学び、フォグル工房を拡大させた。

 飛行艇の生産がベルフライムでもなかった頃、いち早く取り入れたのもオリーブ・フォグルである。


 ミンティが生まれ、物心つく頃は、フォグル工房が拡大する真っ只中だった。

そのせいもあってか、両親は仕事が忙しく、ミンティ自身、ハーブと共に過ごすことが多くなっていた。


『じいちゃん!! あたいもげーとさわりたい!!』

『まだお前には早いわ!!』

『えー!! いいじゃんあたいもさーわーりーたーい!!』

『ダメなもんはだめじゃ』


 ハーブがゲートを調整したり、開発したりするところを、ミンティは眺めるのが好きだった。とにかくハーブの仕事を、細かいところまで観察していた。

 だが、ゲートそのものに関わることを、ハーブは嫌がっていた。

 そして、隠れて工房に忍び込んで、自分でゲートの機械を触ったり、解体することもあり、怒られることもしばしばだった。


『こらミンティ!! バカ娘が!! また触りおって!!』

『だって、アタイもやりたいんだもん……』


 それでも、触らせてもらえることはなかった。けれど不思議と、ハーブはミンティを部屋から追い出したりすることはなく、ミンティは変わらず、ハーブの仕事を観察することに熱中していた。

 他にも、工房にあるゲート関連の書籍を読んだりもした。

 当時は字があまり読めなくて、書いてある図などで、様々なゲートの仕組みを知ったものだった。


 そして、そんな日々が続いていく中。両親の仕事も忙しさが増し、ミンティは親よりも爺ちゃんと話すことが多くなっていった。

 だから、両親のことをあまり覚えてはいない。


『レリュールからの納期が早まるか……クレソン、今日はちょっと忙しくなるぞ』

『ええ。大丈夫よ』

『おやじ、きょうもしごとか!?』

『おやじじゃない。お父さんだろ。ミンティ』

『そうよ。あなたは女の子なんだから。もっと女の子らしくしなさい』

『あたいは……』


 もっと、会話がしたかった。

 なんで喋るたびに、両親はイライラしているのだろうか。

 女の子らしくしなさいと、母親は言う。

 父親は、仕事のことなんて一言も話してくれない。


 爺ちゃんは、怒られてはいるけど、たまにゲートのことについて教えてくれることもある。

 とにかくミンティは、怒られる意外のことで、両親とまともに会話したことがなかった。

 いや、あったかもしれないが、ミンティ自身の記憶には、まったくない。


『あたいじゃなくて、私でしょう? 全く、ハーブさんの口調が移ったのね。貴方からも何か言ってやってくださいよ』

『まあまあ。次第に治るだろ』


 治らなかったけどな。

 荒っぽい口調も、爺ちゃんからの受け売りだった。

 両親は仕事ばかりで、帰ってきては自分の素行について怒られる日々。

 爺ちゃんにも怒られていたけど、それとは違う、ただのストレスの発散のように感じていた。

 だからだろうか。ある日言ったことがある。


『おやじやおふくろなんてだいきらい!!』

『ミンティ!!』


 いつ言ったのか、どんな時に言ったのかなんて詳しく覚えていない。

 けど、その言葉が、両親に言った最後の言葉だった。


『ねえ、爺ちゃん? おやじとおふくろ、なんでおきないの?』

『っ……』


爺ちゃんは、答えない。 

ミンティの目の前には、2つの棺。

 そして神父が、十字架に祈りを捧げている。

 周りの人々はうつむき、涙を流している。


『聞いたか? 社長と夫人、銃殺だってよ……』

『酷い。誰がそんなことを』

『ゲート流通を巡って、社長強引な手法で展開してたからなぁ。恨みを買われてもおかしくないし』

『おいこら、ご家族がいるんだぞ』


 子供のミンティには、その状況が理解できなかった。ただ両親が仕事で疲れて横になっているだけだと、感じていた。


『ハーブ、お前その子を引き取るのか?』

『ワシが引き取るしかなかろう』

『工房はどうする? 経営権を息子に譲ったんだろう?』

『ワシが再開する。経営者はワシが雇う』

『あんたもう年だ!! 大丈夫なのか?』


 親戚たちが、ハーブと何か揉めている。

 ミンティは、その光景をただ見ていることしかできなかった。

 死だと理解したのは、少し大きくなった後だった。

 

「はは……あの後爺ちゃんに引き取られて、爺ちゃんに育てられたんだっけ……」


 自分の、銃のゲートを見つめる。

 爺ちゃんの見よう見まねで、盗賊団にいた時に造った銃。

 自分が初めてゲートに触って、調整した銃。

 

 両親がいなくなってから、ミンティはハーブの工房に入れてもらえなくなった。

 かなりの楽しみであったミンティに、それは非常につらいことだった。

 それに耐えきれなくて、ついに喧嘩して。


「それで、アタイは盗賊団に入ったんだよな……」


 家を出て、森に迷って。

 路頭に迷っていたところを、団長に助けられた。

 助けられたときは、盗賊団だとはわからなかったのだ。

 今は、その盗賊団も、みんな、いない。


「ちと、きついな」


 立て続けに亡くなる、自分の周りの人々。

 爺ちゃんと喧嘩なんかしている場合だろうか。

 けど、アイツは。

 新山健次は、不思議なやつだった。


――よし、じゃあ明日行こう!! 星影たちに相談するよ!!


(ナヨナヨしてんのに、変なところで強引だよな、アイツ)


 初めて会った、不思議な少年。

 ミンティにとって、新山健次との出会いは新鮮だった。


「お嬢!! ここにいたんですか、戻りますよ」

「……ああ」


 スタッフに見つかるミンティ。

 もう、戻るしかないようだ。



 ★


 同時刻。工房長室にて。

 健次のゲートについて、ハーブから説明を受けているところだった。

 ハーブは、健次のゲートは、特殊なゲートで、古代遺物アーティファクトであるという。古代遺物アーティファクトについてはあまり詳しいことはわからなかったが、健次のゲートに、バリアブルストーンという物が必要かもしれないらしい。


「バリアブルストーン?」

「そうじゃ。聞いたことないかの?」

「私は知らないです」


 あれだけ知識豊富な星影でも知らないって、かなり珍しいものなのだろうか。


「まあワシも現物は見たことないわい。けどゲート属性を自在に変化するとなると、ゲートそのものの特性を買える武器が必要になる。バリアブルストーンは物質を外部要因で変幻自在に変化できるんじゃ」

「そうなんですか!!」

「……バリアブルストーン。健次がそれを手に入れたら、強くなるってことなのか?」


 カエンが、ハーブに尋ねる。

 カエンの言うとおり、それを手に入れれば、初級魔法程度の健次のゲートも、少しは強化できるようになるのだろうか。


「そうじゃろうな」

「バリアブルストーンって、何処で手に入るんですか?」


 健次は尋ねる。


「しらん」

「え」

「バリアブルストーンがあれば、坊主のゲートを強化できるかもしれないという、あくまでも可能性のことを言っただけじゃ。かなり珍しい鉱石で、どこに眠っているかもわからん」

「そうですか……」

「まあ、健次。各地を回って探していくしかないぜ」


 カエンが、肩を叩く。


「あ、うん。そうだね」

「どうした? ショックなのか?」

「いや、そういうことじゃなくてさ」


 強化できるできない、の話よりも、健次はこのペンダントがかなり特別なものだということに非常に感心していた。

 そのことが知れただけでも、ここにきた甲斐はあったかもしれない。


「ん?」

「いや、なんでもないよ」

「まあ、そのバリアブルストーンがあれば、いつでももってこい。馬鹿娘を連れ帰ってくれた礼じゃ。代金はいらん」

「ありがとうございます!!」


 その後、3人はハーブに挨拶をし、工房長室を出た。


「……そんなに特殊なゲートだったなんて、知らなかったわね。大切にするべきよ、あなたのゲート」


 星影が、ゲートを見つめる健次に話す。

 たしかにそうだ。なくさないように、大切にしておかないと。


「うん。そうだね。いろいろ道草したけど、これでナハトにいけるよ。……あ、3000エデルどうしよう」

「カエンとあなたの服、かなりボロボロだし、新調したらどう? ミンティ次第だけれど」

「あ、そだね。ミンティ探さないと」


「……その必要はねえよ」

「ミンティ」


 会話を聞いていたようで、後ろからミンティが現れる。

 スタッフもついてきたようで、ここでいいとミンティが言ってスタッフは階段を降りていった。


「悪い。折角連れてきてもらったのに、こんな感じになっちまってよ……」

「構わないわ。あとは貴女の個人的事情になるわけだし。私達の用事は終わったわけだし」

「あ、ああ。まあなんとか仲直りするぜ」

「それが良いわね」

「……星影」


 健次は、低く星影の名前を読んだ。

 その意味を、彼女は理解したようで


「え、ええっとね。ミンティ。その」

「なんだよ金髪」

「……ありがとう。カエンのこと」

「あ……おう」

「確かに言ったわよ!! 健次!!」

「うんうん。これでよし」


 星影は恥ずかしそうに、言っている。

 そう、彼女はミンティにカエンのことの御礼を、キチンと伝えていなかったのだ。

 ミンティも、意外なことを言われたようで、驚いた顔をしていた。


「ん? お前らなんかあったんか?」

「か、カエンには関係ないわ!!」

「そうか」


 珍しく動揺する星影。

 いつも冷酷に物事を言うけど、こういうところは可愛いと思う。

 こういうところを出していけば、嫌われない気がするんだけどな、と心のなかで思う健次だった。


「……貴女も、ちゃんと仲直りしてきなさいよね」

「わかってるよ。アタイは今夜はここに泊まる。明日とりあえず合流しようぜ」

「ええ。ナハトへの航路のことね。ほんとに何を言って良いのやら」

「お前がそんなこと言うと雨でも降るんじゃねえかって思っちまうな」

「なに、悪い?」

「い、いや。別に。じゃあ健次。気をつけてな」

「うん。ミンティもがんばって!」

「お、おう。またな!!」


 ミンティは、小声で反応して、赤面して帰っていった。


「なんで顔赤かったんだろ」

「……罪な男だな、健次」

「え? なんのこと?」

「いや。なんでもねえよ……」



 そして、夜――。


「やっぱ、すぐには無理だよな」


 ミンティは、あの後ハーブのところにいったが、まともに口を聞いてくれなかった。

3年ぶりに入る自分の部屋の掃除が終わって、窓の外から工房を覗く。

 フォグル工房は、工房内に寮があり、ハーブも別棟で生活していた。


「……けど、オヤジたちも死んだのに、よくこんなにでっかくなったよな」


 両親の死亡も関係なく、フォグル工房は大きくなる。

 ハーブがここまで大きくしたのだろうか。

 それはまだ何も聞いていないので、全くわからない。


「そういえば……」


――だから何度も言っとるだろう!! ワシらはベルフライム王家からの仕事も請け負っておる、“ベルフライム”の工房職人じゃ!! そう安々とあんたらの得体の知れないもんなぞ、造ってたまるものか!!

――困りましたね。私達も運命をかけて参上している次第です。この額でもご満足いただけないと言うことでしょうか?


「あれ、なんだったんだろ」


 爺ちゃんがかなり怒る程の人物。

 技術的な話に関しては、結構怒ることはハーブは多かった。

 けれど、お客さん?にあそこまでムキになる爺ちゃんも、珍しいなとミンティは思った。


――埒が明かないようですね。あなたは何れ、“この仕事を受けなければならないのに”


「あの言葉の意味……」


 ミンティは、何か嫌な予感がしていた。

 ハーブと話していた、真っ黒スーツの怪しい青年。

 その、仕事を受けなければならないという、意味深な言葉。


「仲直りしたら、爺ちゃんに聞いてみるか」


 そう、思って窓の外を眺めていた瞬間だった。

ドーン!!と、大きな爆発音が聞こえた。


「な、なんだ!?」


 音の元を探るべく、窓から身を乗り出して、あたりを見回す……。

 すると、爺ちゃんが寝泊まりしている棟の近くから、大きな爆発音とともに、煙が上がっていた。

 ――爺ちゃん!!


 ミンティは心配になって、とっさに部屋を出た。


 


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