第19話 「ハーブ・フォグル」
ミンティとハーブの喧嘩の途中で。
あの後も、言い争っている2人だったが、一向に終わらないので、スタッフと苦笑いしながら健次たちはほとぼりが覚めるまで待っていた。
星影や健次が途中止めようとしたが、思った以上に2人の喧嘩はヒートアップしていた。
いや、喧嘩なのだろうかと疑いたくなる展開になってしまっている現状があるのだが。
「アタイは、ゲートエネルギーと空気の比率は6:4のほうがいいと思う!!」
「バカモン、それじゃ濃すぎるわい。基本比率の5:5じゃ!!」
「えー。代わり映えしねえじゃねえかそんなの」
「基本が大事じゃ」
「だけどよーそれじゃ他国の出力にやられちまうぜー。アタイの乗ってた船なんてその比率だからウチよりも速いし」
「……お前、船なんか持っておったのか」
「え、ええと……」
「話せい。この3年間、何があったんか」
ミンティは、しまった。という顔をしてハーブに聞かれた。
「……途中わけのわからない話になってたけど、一応落ち着いたんだよね?」
「ええ。恐らくね。専門用語ばかり言ってたものだから、私にもわからなかったけれど」
「ミンティ、もうこうなったら話すしかないよ」
「……アタイは」
ミンティは、これまでの経緯をハーブに話した。
盗賊団のこと。健次たちが来て、助けてくれたこと。
怒られることを覚悟し、恐る恐る。
そして全てを言ったあと、ミンティの頭を一発殴った。
「痛ってえ!!」
「バカモン、盗人なんぞやっとる場合か!!」
「だからごめんって。しかもアタイは盗みなんて一度もしてねえし……」
「黙れバカ娘。人様に迷惑をかけおってからに」
「けどよ……」
「おまえさんたち。うちのバカ孫娘が大変ご迷惑をかけた。そしてワシの機嫌で少々迷惑をかけた非礼も詫びよう」
ハーブは、意外と素直だった。
そして健次は、星影も言っていたけれど、やはり家族だな、と感じる瞬間だった。
ミンティの頑固さは、このハーブから来ている。
ハーブ・フォグルは、THE職人というほど、かなりの頑固ジジイだったけど、孫娘のことをかなり心配していたというのは、健次にも伝わってきた。
「いえ、いいんですよ。たまたま僕達が遭遇したまでだし」
「私達からも御礼を言わせてください」
健次たちを引率していたスタッフも、御礼を言い始めた。
「正直、フォグル工房は工房長も体を痛めているし、経営もうまくいっていません。そんななかお嬢が戻られて、工房もなんとか持ち越せます」
「……アタイは、べつにここを継ぐために戻ってきたわけじゃねえし」
「お嬢」
「うるせえよ、ちょっとどっかいってくる」
ミンティは、罰が悪くなったのか、工房長室から離れ、どこかへ行ってしまった。
「お嬢!!」
「……ほっとけ。あんな孫娘なんぞ」
「もう親方ぁ。素直じゃないんだから」
そう行ってスタッフは、ミンティを追いかけていく。
健次たちも行こうと思ったが、スタッフが止め、そのまま工房長室に待つことにした。
「はは……」
「家族ね……」
その光景をみて、星影はどこか遠い目をしている。
「星影?」
「あ、いや、なんでもないわ」
ミンティが何処かへ行った後、ハァとふかくため息を付き、ハーブはこちらのほうを見てきた。
「……オホン。で、おまえさんたち、名前は?」
「俺はカエンだ」
「私は星影ナツキといいます」
「僕は新山健次です。よろしくお願いします」
それぞれが自己紹介をする。
「ふむ。うちのバカ娘が迷惑をかけた。なにか礼をせんとな」
「そのことですけど、ハーブさん、ちょっと見てもらいたいゲートがあるのですが、そのお時間を頂くことって、大丈夫でしょうか?」
星影が話を切り出す。
「……フン、見せてみぃ」
健次は、自分のペンダント型のゲートを首から外し、ハーブに渡した。
ハーブは、自分の机の上の大量の書類をどかせ、工具やらを取り出す。
そして、卓上のスポットライトに電気をつけ、右目だけのレンズを装着して、何かを調べ始めた。
「刻印もなし。メンテナンス用の取り外しネジもなしとな……。ふむ……」
ハーブはそういい始めながら、健次のゲートを注視した。
そして、10分くらい時がたった後、開口一番ハーブは、
「これを、何処で手に入れた?」
「あ、いや、届いたというか」
睨むように、ハーブは健次を見つめる。やっぱり怖い。
「届いた?」
「……実は彼、ダゼンスの人間なんです」
星影が補足する。
「……ダゼンス?」
「異世界だぜ。聞いたことないか爺さん」
「ふん、そんなもんは知らんわい。普通、人間用戦闘ゲートと言うのは刻印があり、製造元が分かるようになっておる。お前さんたちの武器もそうじゃろ?」
カエンと星影は、自分の武器のゲートを見始める。
フォグル工房製と、刻印が打ってあった。
「ここの製造だったのか、俺の武器って……」
「あらカエン、フォグル工房ってかなりの大手よ。知らなかったの?」
「師匠にもらったしなぁ」
「まあ、普通はそうじゃろう。だがその坊主が持っておるこのゲート、刻印がない」
「ということは?」
健次は、ハーブに尋ねる。
「製造元が不明というわけじゃ。正直、現代の技術じゃないわい。全く、こんなものどこで手に入れておったのか。しかも虹色とは、初めて見たわい。ゲート革命以前に作られたもんかもしれんのう」
「ゲート革命って、200年前じゃない!?」
「え、そんな昔のなの、これ……」
「正直王国軍の管理委員会に渡すぐらいの代物じゃろうが、ワシにわざわざ見せるぐらいじゃ、このゲート、坊主の大切なものじゃろ?」
「……はい」
父さんが突然くれた、謎のペンダント。虹色に輝き、この世界にくるあの扉でもかなり反応していた。
そして、遺跡での属性変化。
思えば、このペンダントがなければ、ラボンスに来ることもなかった。
皐月の手がかりも、このペンダントで何か分かることはないのだろうか。
「これ、古代遺物ってことかしら」
「確証はできんが、おそらくそうじゃな。普通、ゲートというのはラボンスコアとパスを繋ぐ為使いすぎると摩耗するが、こいつにはそのためのメンテナンスができないし、なにより摩耗もしておらん」
ゲートの技術的側面は健次にはよくわからなかったけれど、それより。
「アーティファクトってなに……?」
「正直、私も伝承でしか聞いたことないものよ。ほんとに、あなたこれ、どうやって手に入れたの?」
「これは、もらったんだ。僕がダゼンスにいた時、父さんから届いた手紙に」
誕生日を祝う手紙。
14の誕生日を祝うメッセージが入った、たった一通の手紙。
筆跡は親父とは違っていて、新山三郎を名乗る別の誰かが送ってきて、父さんじゃない可能性だってあるのに。けど健次は、父さんの贈り物じゃないかって勝手に思うことにはしているが。
そのペンダントが、アーティファクトとかいう、謎のものだとは……。ひょっとしたら、冒険中の父が、ダゼンスにあったものを見つけて、自分自身に送ってきたのかもしれない。
「ワシ自身、こんな特殊なゲートを見たのは生まれて初めてじゃ……。しかしワシ自身とゲートリンクをせんとなると、これは坊主のみに反応するゲートということになるんじゃろうな」
「え……? ゲートリンクって何?」
「説明してなかったわね。ゲートリンクって、人間がラボンスゲートを使える状態になっている状態のことよ。ラボンスの人々の中でも、自分の特注の武器を作る人達は、自分以外に武器が使えないようにしていたりするわ」
「まあ俺のもんは俺のもん原理ってことだな」
と、星影の説明をカエンが端的に説明する。
「ちょっと違うけれど……まぁいいわ。で、そのゲートは正真正銘、あなたのゲートということになるのよ」
「これが、僕のゲート」
ハーブから鑑定が終わった健次のゲートを受取り、改めて眺める。
虹色に輝くクリスタル。
これが、古代遺物だというのか。
だがなんなのだろうか。星影も知らないようだし。
「しかし、古代遺物に関して、ワシはよく知らんが、これ単体で動くもんじゃない気がするのう」
「どういうことですか!?」
「坊主、このゲートを使ったことについて、詳しく説明せい」
「わかりました」
健次は、これまでの戦闘でゲートを使った経緯をハーブに説明する。
「ふむ。初級魔法程度しか使えぬが、属性を変えるとな」
「ええ。正直私も驚きました。まさか古代遺物だったなんて」
星影が言う。
だからアーティファクトってなに!!
「確信はできておらんぞ。それ以外の可能性だってある。しかし坊主、これは別に器があると、ワシは思う」
「器……?」
健次は繰り返す。
「星影とカエンといったか、お前さんたちのゲートも、ゲートそのものと武器が分離できるようになっておろう?」
「ええ。そうですね」
「そうなのか?」
星影は頷くが、カエンだけ初耳だったようだ。
はあとため息を付き、星影はやれやれといった顔をする。
「……カエン、ほんと貴方は何も知らないのね」
「コホン。で、坊主のゲートも、その器がある可能性がある。そうすれば、坊主のゲートも強化できるじゃろ」
「器、か……」
「それをこちらで造っていただくことって、できるのでしょうか」
星影がハーブに尋ねる。ハーブは唸りながら、
「わからん。正直なところ、そのゲートについてワシは知識がない。ワシが造ったところで、そのゲートの力を最大に発揮できるかはわからん。けどできないわけじゃない」
「え……」
「そうじゃな、“バリアブルストーン”って知っておるか?」




