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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第二章 フォグル工房編
18/62

第17話 「タルメ工業地区」

2017.1.26

皆様お久しぶりです。

打ち切りとしていましたが、やっぱり連載を再開しようと思います。

グダグダになってしまい申し訳ありませんが、今後共よろしくお願いいたします。

「ここは……」


 カエンは目を覚まして、体を起こす。見たことのない景色

 目の前には、星影が座っている。


「よかった……!! 目を覚ましたのね」

「ナツキか。俺は一体」

「ゾンゾ=ザス・ブラッドにやられて、重症のあなたを健次たちが連れてきてくれたのよ。今、タルメ工業地区の診療所にいるわ」

「なるほどな……俺が倒れている間に、いろいろあったみたいだな」

「痛みはない?」

「ああ……。大丈夫だ」


 カエンは自分の腹部を確認する。傷を治療した後があり、ゾンゾ=ザス・ブラッドに刺された傷跡が残っている。


「よかった……。ゾンビ化因子は、消えたみたいよ」

「だろうな。夢の中で倒したし」

「倒した?」

「おう、師匠のおかげでな」

「……全く、あなたは不思議ね」


 一瞬驚いた顔をした星影は、上げていた肩を下げ、カエンを見つめた。


「なんでだ?」

「あなた、あの攻撃で死ぬかもしれなかったのよ? 私と健次の治療と、ミンティの船がなかったら、本当に」

「……そうだな。ありがとうな、ナツキ。そしてすまねえ。俺の無茶に付き合ってもらってよ」


 まっすぐな瞳で星影を見つめるカエン。何かつきものが落ちたような、何か決意をしたような、ともかく、表情が以前よりも引き締まっていて、星影はそれに驚いていた。

 一体、夢の中で何があったのだろうかと。


「え、ええ……」

「どうした?」

「あ、え、いや。ゾンゾ=ザス・ブラッドにやられたのに、平然としているから……」

「確かに、俺はやられた。そして分かったことがある。俺は、まだまだ“弱い”。ゾンゾ=ザス・ブラッドを倒したい怒りだけであいつと戦ってて、それが俺の心に隙を生んだんだ。確かに倒せなかったことは悔しいが、それは俺の修行がまだまだ足りてねえってことだ」

「カエン……」


 ★

 健次とミンティは、星影たちとは別行動をしていた。健次もカエンが目覚めるまで診療所で待機していようと思ったが、星影に鉄鉱石の件についてクエストの報告を先にしてきて、と頼まれ、鉄鉱石を手渡すべく、輸送先のとある工場へ向かっている途中だった。


「すっげえぇ」


 感嘆の声を漏らす健次。工業地帯の名にふさわしく、重々しい金属音で動く重機や、煙突からでる煙。そして未知を照らす無数のスポットライト。

 あたりはすっかり夜になってしまっており、そのスポットライトが照らす工場はなんともいえない重厚感に包まれていた。

 “工場萌え”というキーワードがダゼンスにいたときに流行っていたが、まさしくそんなことを感じるような景色になっている。


「すげえかな。アタイはもう見慣れすぎてうんざりした景色だったけど」

「そっか」


 ミンティは複雑な表情をしながらその光景を見つめている。家出したわけだから、いろいろと思うところがあるのだろう。

 それに、これからいく工場は、ミンティたち盗賊団が奪った鉄鉱石を返しに行くわけなのだ。さすがに渡すのは健次一人で行くわけだが。


「にしても、アタイ一人でよかったのか? アイツが目覚めるまで待ってもよかったのに」

「まあそれもそうだけど、星影がああいうし、あの場は任せようかなって」

「へえ……それならいいけどよ」

「複雑?」

「まあそうだな。アタイが直接奪ったわけじゃないけどさ」


 自分の仲間がすべていなくなってしまったのだ。そのショックさといったら、計り知れないものがあるだろう。

「ついたみたいだぞ。アタイはここにいる」

「うん分かった。渡してくる」


 たどり着いた工場は、物凄い大きさの建物だった。一番驚いたのは、その工場の大きさというより、その周辺に経っている人間の異様さだった。

 工業地帯なので、作業服のような格好をした人物が多い中、健次たちが届ける工場はというと、黒服の連中がたむろする、なんとも怪しい感じがしていた。


(黒服にグラサンって、ちょー怪しいじゃん)


 健次は内心ビビっていたが、資金獲得のためだ。それに、届けられなかったものをきちんと届けているのだ。悪いことではない。


「あのう」

「なんだ」 

「鉄鉱石クエストを受けてきたものなんですが……」

「なに。その手に抱えているものはもしや……」


 その後、健次は大勢の黒服たちにかこまれ、何処かに連れて行かれるかと思ったが、健次が両手に持っていた鉄鉱石を取っていき、その後男がやってきて、袋を渡した。


「報酬の3000エデルだ。受け取ったら立ち去るがいい」

「はあ」


 ありがとうの一言もなく、拍子抜けする健次。思っていたのと違っていた。健次が想像していたのは、困っている工場労働者のおじさんたちが、ありがとう!って言ってくれる光景を想像していたのだが、こんな怪しい黒服連中に渡すとなると、逆に健次が悪いことをしているような気にかられてしまう。

 まあ、3000エデルを受け取ったのだから、文句は言えないが。

 なんかこう、ね。

 ミンティのもとに戻ってきて、健次はふうと息をつき合流した。


「終わったみてえだな」

「うーん。なんだろ、なんか悪いことしたような気になっちゃう」


 まるでなんかの密輸のようである。それはミヤビが届けた工場の人物たちが異様なこともあったのかもしれない。


「まあ、3000エデル手に入ったんだし、それでいいじゃねえか。それよりなんでそんなお金手に入れようと思ったんだ?」

「……僕達、スカイベル学園に入学しようと思っててさ」

「スイカ食べる学園?」


 どこをどう間違ったらそんな単語に切り替わるのだろうか。


「スカイベル学園だよ……」


 健次は、スカイベル学園に入学するため、二次試験の会場である、ナハト魔法特区に向かう資金稼ぎの話をした。


「それなら、アタイの船でナハトに行けば良いんじゃね?」

「……それもそうだね。いいの?」


 考えてみれば、ミンティの船を使えば、当初の目的であるナハト魔法特区へ行くことは容易だということがわかった。結果的に、この3000エデルは別の目的に使えるようになったのである。

 

「言っただろ。アタイは今なんにもないし、あんたらに付いていくって決めたから」

「ミンティ……。あのさ、一つ聞いておきたいことがあるんだけどさ」

「おう?」

「カエンのことなんだけど、恨んでる?」


 ミンティは、健次達についていくと決意した。

 けれど、カエンは。

 ゾンビとはいえ、ミンティの盗賊団を倒してしまったのだ。

 あの時のミンティの絶望した表情が、健次の中で脳裏に焼き付いていた。

 だから、少し心配なのだ。


「……カエン、あの倒れた赤毛のニーチャンか」

「うん」

「正直さ、ゾンビとか、まだアタイの中できちんと整理できてねえんだ」

「うん」

「けど、カエンがやったことは間違いじゃないってこと、なんとか整理しようとしてる」

「……うん」


 ミンティも、理解していないわけじゃないようだ。

 あの場では、ああするしかなかった。

 カエンもそう言っていて、ミンティも理解しようとしている。

 ただ、そういうミンティは、何か複雑な表情をしていた。

 彼女の言うとおり、気持ちの整理をしている途中なのだろう。


「だからよ、アタイは別に、カエンのこと恨んではいねえ」

「よかった」

「けど、ちゃんとアイツと話せるのは、ちょっと気持ちの整理がついてからだな」

「うん、それでいいよ」

「ていうか、ケンジこそいいのか? アタイは犯罪者だぜ?」

「……僕の勘だけどさ、ミンティって悪いことしたことないでしょ? ただ盗賊団にいたんじゃない?」

「え……」


 意表を突かれ、驚くミンティ。ケンジの勘はどうやら的中しているようだ。


「ほら。盗賊団にだって、家出したから来たわけでしょ」

「……ち、ちげーよ、アタイだって盗みの1つや2つ……」


 目が泳いでいる。別に悪いことをしていないことを問いているのに。

 ミンティは面白いなと、健次は思った。


「……はぁ。そうだよ、アタイは盗みなんてしてねえ。というよりさせてもらえなかった。盗賊団に入ったことだけは事実だけどよ」

「最初からそういえばいいのに」

「うるせえ馬鹿!! 団長とか、他の奴らからは、戦い方とか、逃げ方とか、そんなん教わった。あとアタイは料理担当だったし」

「料理できるんだ」

「ちょこっとな。そんなマジなもんはできねえけど」

「ていうか、最初から星影に言えば、ちょっとは納得するかもしれなかったのに」

「あいつは、なんか嫌いだ。別に言っても信用しねえだろ」

「まあ、分からなくはないけど……」


 さりげなく毒はいたり、毒はいたり、毒はいたりするもんな。

 最初からミンティに対してはあまり良く思っていない。

 カエンの件がなかったら、仲間にすることもなかったかもしれない。

 カエンが最初に言った、パーティーメンバーがいなくなるのも分かる気がする。


「ほんと、楽しかったんだ。それでも。毎日のようにバカやってさ……」

「……うん」

「それが気づいたら、一瞬にしてああなってた」

「ねえ、ミンティ」

「なんだよ」

「お爺さんのとこ、行ってみようよ」

「なんでだよ」

「僕らについていくのは良いけどさ、やっぱりちゃんと、ミンティのお爺さんに顔合わせてからのほうが、良いんじゃないかなと思うんだ」

「勝手なこと言うなよ」

「まあ、そうだけどさ。このままでほんとに良いの?」

「……ちょっと、怖えんだよ。爺ちゃんに合うの」

「まあ3年ぶりだしね。けどさ、会えるなら、会ったほうが良いと思うんだ」


 会えなくても会えない自分とは違って……と心の中で健次は思った。

 ミンティのためにも、ちゃんと家に戻ったほうがいいと、健次は考えた。


「……まぁ、そうだな」

「よし、じゃあ明日いこう!! 星影たちに相談するよ!!」

「明日!? ちょ、ちょっとアタイにも心の準備が……」

「そんなこと言ってたらいつまでたっても会えないよ」

「わーったよ、いくよ、いくからよ!! けどさ、なんでアタイのことに、あって間もないアタイに、そこまで言うんだ?」

「なんかさ、他人事じゃない気がするからさ」

「……あんたにも、いろいろあんだな」


 家族との再会か。なんだかぎこちないのは健次にも分からなくもない。

 

「ま、戻ろうぜあいつらのとこに。そのカネの使い道、決めねえと」

「うん」


 2人は、タルメ工業地区の鉄板通路を歩きながら、カエンたちのいる診療所へ向かった。

「戻ったわね」


 カエンの寝ていた部屋に入ると、星影が本を読んでいた途中だったらしい。本を閉じてこちらのほうを向いた。


「星影、ただいま。3000エデル手に入れたよ」

「ええ。ありがとう」

「カエンの様子は?」

「問題ないみたい。峠は超えたし」

「……ああ。健次、心配かけたな」

 

 ベッドからカエンが起き上がり、健次に話しかける。傷はあるが、いつものカエンだ。

 しかし、なんか表情が引き締まったように健次は感じた。


「うん。無事でよかったよ、本当に」

「ああ。なんとかな。納品しに行ってくれたんだったてな。俺がこんなばっかりに」

「いいよ。ちょっと気になることはあったけど」

「気になること?」

「うん、まあそれは大したことないから後で良いんだけどさ。星影、ナハト魔法特区に行く手段は解決したかも」

「どういうこと?」

「アタイの船があるってわけだ!!」


 健次は、ナハト魔法特区へ行く手段として、ミンティの船を使うことを話した。


「なるほど……。とてもありがたいことだけれど、大丈夫なの?」


 ミンティの発言に、星影は問う。


「ああ。アタイはあんたらに付いていくって決めたしな」

「貴女は、最終的にはどうしたいのかしら。私達3人は、スカイベル学園に入学するべく、動いているのだけど」

「そのことなんだけどさ星影。まずは彼女をお爺さんのとこに連れて行こうと思う」

「……はぁ。健次。あなた二次試験まで余裕のない中、余計なことに首を突っ込もうとしてないかしらね? それに健次のゲートの仕組みについても、調べなきゃいけないでしょう?」

「う……」

「いいじゃねえかナツキ。俺のこと助けてくれたのミンティだろ。別に1日くらい」


 カエンが健次を擁護する。

 星影が言っていることは最もだが。


「あなたもよカエン。貴方と健次の合格レベルまで行くためのスケジュールを、私が建てているところなのに。私たちに必要なのは合格よ。余計なことをしている暇なんてないはず。ミンティ個人の事情なら、個人的にいけばいいじゃな……ちょっと待って、ミンティ。貴方の名前って何だったかしら」


 星影は言いかけて、何かを思い出したようだ。ミンティに改めて名前を尋ねる。


「ん? ちゃんと覚えろよ。アタイの名はミンティ・フォグルだよ」

「フォグルってもしかして、貴女のお爺さん、ハーブ・フォグルという名前かしら」

「ああ。そうだけど、それがどうしたんだ?」

「……思わぬところで目的に近づいてるわね。ほんとなにが何やらだわ」

「因果だな」


 カエンも星影も、少し驚いた顔をしていた。一体どういうことだろうか。


「ちょ、ちょどういうこと星影?」

「……ハーブ・フォグルは、タルメ工業地区1、いえベルフライム王国でも1の、ゲート職人よ。つまり」

「健次のゲートの仕組みが、分かるかもしれねえってことだぜ。健次」

「え、えええ!?」


 どうやら、ミンティのお爺さんが、当初予定していた、ゲート解析の職人だったようだ。

 思わぬところで偶然が重なってしまったようで、そのおかげからか、最初反対しようとした星影を納得する理由になったようだ。

 なにがともあれ、明日、ミンティをハーブ・フォグルのところへ連れて行くことになった。


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