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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第二章 フォグル工房編
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第14話 「新たな仲間」

 カエンの傷は、思っていたよりも深く、致命傷ともいえる傷だった。

 星影の月魔法や、健次の属性変更エレメントチェンジによって水属性の弱い回復魔法などを使ったが、それらでは限界だった。


「お前……不思議なゲート持ってんだな」

 

 そんな中、ミンティが、健次のペンダントの属性が変わりまくることに驚く。

 無理もない。ラボンスの世界でおそらく唯一、属性変更できるゲートを持っているのだ。

 ただし、魔力は弱いのだが。


「力は、弱いけどね」

「マズイわね。どうしましょう」

 

 星影が、頭を抱えている。

 星影曰く、一応、カエンの腹部の出血を一時的に止めることが出来たが、あくまでも緊急的な延命措置であり、きちんと、水属性の基本属性を持ったヒーラーに、治療してもらわないといけないらしい。

 盗賊のアジトがある地帯から、カエンを連れて街まで行くのは、至難の業だ。

しかも、早く治療してもらわなければ、カエンの命が危ないかもしれない。


「アタイに一つ、考えがある」


 ミンティが、一つ提案した。星影は盗賊の力なんて……。と呟いていた。しかし自体は一刻も争う状況だ。何か手段があるなら、それに縋るしかない。


「アタイらの船で、タルメまでいく方法がある」

「あなたたち、船なんて持っていたの!?」

 

 ちなみに船とは、スカイベル学園のある、ウインドベル・ローレライ号のような飛空艇らしい。星影は驚いた。一介の盗賊が船なんてもっているなんてありえないわ……。なんて言っているが、今はそんなことは気にしない。


「小さい奴だけどな」

「お願いだミンティ。乗せていってくれないか?」

「構わねえが、一つ条件がある」

「わかった!!」

 健次は状況を聞く前に、快諾した。


「おいお前アホかよ……条件を聞く前に承諾するなんて」


ミンティは条件を言う前に健次があっさりと快諾したことに拍子抜けした。


「今はカエンを助けたい。助けられるならばなんだってやるさ、だろ、星影」


 カエンは、あの時自分のかたきと出会ったが、倒せなかったのだ。

 きっと、健次には考えることが出来ないほど、悔しいに違いない。

 だったら、カエンはまた奴に挑んで戦うはずだ。

 それならば、カエンは絶対に助けなくちゃいけない。

 

「とにかく、条件をいいなさい」

「さっきの戦闘は悪かった……。アタイたちには守りたいものがあったからな。だけど今はアタイの仲間はみんないなくなった。もう、アタイには何処にも行く当てがねえ。だからあんたらに、ついていっていいか?」

「いいよ」

 

 健次は、高額なエデルを請求されるかと思っていたので、意外なミンティの提案に内心驚いたが、再び健次は承諾する。

 ミンティは自分の状況をようやく受け入れたのだろう……しかし、この切り替えの早さ、彼女は彼女なりに、今何をすべきか、必死に考えた結果なのだろうか。

 彼女の事をどうするかは後で考えればいいのだ。

 そんなことよりも、「足」があるということは、当初の目的の、ナハト魔法地区に行くという条件が、整ったということになる。これは最大のメリットだ。

この話、乗らないわけがない。

 

「ちょっと健次。あなたどういうつもりなの? 犯罪者を仲間に加えるなんて、どうかしてるわ。」


 しかし、星影は反対する。無理もない。星影の言うことに関しては一理ある。クエストをしたと思ったら、盗んだ人と仲良くなりました~ちゃんちゃんだったら依頼側はおそらく大激怒だろう。

 だが、状況はそんなことを考える程、甘くはない。

 カエンの命が掛かっているのだ。


「いいじゃないか星影。今は一大事だ。早くカエンを街に連れて行って、治療をしてもらわなければいけない。悪者にだってすがるさ。それに当初の目的だって達成できるかもしれない」

「それは、そうだけれど……」


 健次は、渋る星影をなんとか説得する。

 

「あんたら、鉄鉱石を取り戻しに来たんだろ? 船に乗ってるから、もう好きに使ってくれ」

「いいのか?」


 意外にあっさり鉄鉱石を返してくれるミンティに、健次は戸惑う。

 どういう風の吹き回しだろうか。


「ああ。依頼を受けたのおやっさんだし、もう依頼どころじゃねえからな……。アタイはもう盗みから手を引くよ」

「大切なモノじゃなかったのかしら」


 ミンティと戦闘したとき、彼女が言ったことを星影が問う。

 そうなのだ、盗んだものにもかかわらず大切なモノってなんかおかしいが、それを簡単に手放す。と彼女は言っている。どういう風の吹き回しだろうか。


「おやっさんたちが大切なモノって言ってて、アタイに詳細は聞かされてねえんだ。どうすればいいのかも分かんねえし、こんなことになっちまったしさ、もう、別にいいぜ」

「なるほどね。でもその鉄鉱石を売って資産にするという手もあったかもしれないのに」

「そんなにケルタ鉱石って価値あんの?」


 そう、ミンティが質問した瞬間、星影ははぁ?と言いながらミンティを横目で見る。


「……あなた、あれの価値を分かっていないで盗んだのかしら。馬鹿じゃないの。やはり単細胞なのね」

「うるせえ金髪クソアマ眼鏡」

「下品な思考だから下品な言葉しか出せないのかしら、このお下品単細胞」

「もうやめなよ、とっとと行こう」


 なんだか、カエンの言う、パーティ―メンバーが去っていくと言っていたことが、なんとなくわかった健次だった。

 ミンティもミンティだが、星影も星影だ。タイプは違えども、健次には似たもの同士に見える気がする。

 カエンを抱え、ミンティたちの船の隠し場所へ向かった。このアジトから少し離れたところにあるらしい。ゾンゾ=ザス・ブラッドもここに来ていないので、何らかの理由で立ち去った。と考えてもいいだろう。

 ミンティが先導し、2人はその後をついていく。健次は意識を失っているカエンをおんぶしながら、進む。

そして、船に向かう途中、星影がしかし妙ね。と呟き始めた。


「どうしたの?」と健次は気になって小声で尋ねる。何が妙なのだろうか。

「いえ、私の気のせいかもしれないけれど……。何故ブラッド家は単細胞の盗賊を襲ったのかしら。と思って」


 星影は、健次にしか聞こえないボリュームで話す。ミンティには聞かれたくない事なのだろうか。


「どういうこと?」


 なんだか、意味深なことを星影は言うなあと健次は思い、話を聞く。


「目的が不透明なの」

「目的?」

「ええ。カエンの村もそう、無差別に襲う割には、何か法則があるのかしら。と度々考えることがあるの。ただ、ブラッド家に関する情報なんて、限られているから、本当に無差別に襲っているのだけかもしれないけれど」

「けれど?」

「貴方がラボンスに来て、状況が変わった気がするの」

「僕がラボンスに来て?」


 言われてみれば確かに言えるかもしれない。

 健次はラボンスに入った瞬間から、ブラッド家に襲われ、皐月に誘拐されたのだ。

 そして、カエン、星影と共にへレビス遺跡で第一次試験も受けた時にも遭遇。

 さらに、このアジトに突入した時も、遭遇しているのだ。

 星影は、こんな状況、普通あり得ない。という。

 カエンは、自分の生まれ故郷の一件以来、一度も遭遇していないのだ。

 それが、健次がラボンスに来たことによって、示し合わせているかのようにブラッド家が出現している。考えて見れば、まるで見張られているようで気持ちが悪い。


「たしかに……そうかも」

「けれど、考えてもしょうがないわね。私達には情報が足りなさすぎるもの」


 情報が足りなくては、考えようがない。

 星影は言う違和感が、健次には少し分かる気がした。

 ……ブラッド家。

 今後も遭遇する可能性はあるかもしれない。

 あんな“恐怖”を、二度と味合わないためにも、もっと強くならなくちゃいけないと、健次は確信した。


「ついたぜ」


 星影とブラッド家について話していたら、いつの間にか船の格納場所に辿り着いていた。

 格納場所も洞窟のようになっており、ミンティが隠し扉のスイッチを押した。

 その瞬間、岩壁がシャッターのように開く。


「すご」

「盗賊にしてはやりすぎな設備ね」

「アタイはなんの疑問もなかったけど、こいつが運転できれば問題ねえや」

「おお……」


 洞窟の奥に入ると、ミンティの言う、船が工場のような場所に格納されていた。

 大きさは、10人乗り程の、ダゼンスでいうお金持ちが乗るようなクルーザー並みの大きさだ。

 船体には、ミンティたちの盗賊のロゴ?のようなものがプリントされている。

 そして、後ろには2つの大きな穴があった。

 これが、エンジンみたいなものなのだろうか。


「これが飛ぶのか」

 

 飛空艇。というのを生まれて初めて見る健次は、なんだか興奮する。

 こんなちっぽけな船みたいなやつが、空を飛ぶ。

 普通ではありえないが、この世界ではあり得るのだ。

 健次はあの時、見てしまったのだ。空飛ぶ豪華客船を。


「ええ。この飛空艇についているのが、機構用ゲートになるわね。しかし結構新しい船ね……一体どこで手に入れたのかしら」


 羽もついていないのに、これが空を飛ぶのか……。

 ゲートの力って、すげー!!


「ああ。アタイにもよくわかんねえが、おやっさんが買ったらしい」

「……買った? 盗んだのではなくて?」

「そんなのすぐにバレちまうだろ。ちゃんとこれは買ったんだ」

「そうなの。ちなみに製造国と登録国はどこなのかしら?」

「ちゃんとしたベルフライム製だぜ。税金が安いからレリュールに登録してるらしいけどよ」

「レリュール公国ね。しかし、妙ね……」

「さあ乗りな。全速力でタルメに向かうよ!!」


 ミンティは船のハッチを開き、カエンを先に入れて、船内に入った。船内は思ったよりも広く、大型バスの内装に近い感じで、座席が配置されている。

 カエンを寝かせる簡易ベッドのようなものもあり、気を失っているカエンを、健次は寝かせる。その傍で、星影がカエンの手を握っていた。


「カエン……どうか無事でいて」


 ミンティは操縦室へ入り、出発準備を始めた。


「カタパルトスイッチオン、計器類異常なし。第1ゲートエンジン開放。第2ゲートエンジン開放。目標、タルメ工業地区」


 ミンティは、操縦室にあるいろいろなスイッチを押したり、調整したりしている。

 何やら専門用語を言っているようで、健次にはよくわからなかったが、なんだかかっこいい。

 音は、飛行機のような、会話が聞こえなくなるくらいのエンジン音を健次は想像していたが、船の機構用ゲートエンジンの音は、電気自動車のように静かだった。

 

「すげえ……」

「んじゃ離陸するぜ。つかまってなー」

 

 ふわり。と浮いた感覚がする。この感覚、健次にはたまらなかった。恐らく船体がゲートエンジンによって浮いたのだろう。窓の外を見ると、すでに10ルシェくらいは浮いている。

 離陸の瞬間だ。

 そして、健次たちはカエンを助けるべく、タルメ工業地区へ向かった。

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