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デルタトライナイト  作者: 水原翔
第二章 フォグル工房編
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第12話 「その名はゾンゾ=ザス・ブラッド」

 健次は彼女の言う、“ゾンビ”という言葉に何か引っかかって、気になっていた。恐らく、この先に何かがある。そんな気がしてままならない。

 だったら、事情くらい聞いてもいいじゃないか。健次はそう思った。


「あぁん? てめえらじゃねえのか?」

「違うよ。僕らは今さっき来た、君たちが奪った鉄鉱石を取り返しに来ただけだ」

「……アレはアタイらにとって大切なもんだ。そうかあんたら、ギルドの連中だな」


 女が、トリガーに指を置いた。


「待って!! 僕はただ君が言うゾンビって何かが気になって!!」

「そんなことはどうでもいい!! アレを狙うならあんたらも敵だ!!」


鉄鉱石の事を言ったのは、あまりよくなかったと健次は反省する。

 女は、トリガーを引いて拳銃を撃った。銃弾の軌道が、健次に当たってしまいそうになる。健次は、避けようとしたが間に合わない。

だが、一瞬で星影が健次の前に立ち、銃弾を弾いた。


「なにしているの健次。死にたいの?」

「ご、ごめん……ありがとう」

「どうやら話が通じないようね。ここはやるしかないでしょう」


 星影が槍を頭の上で一回転させ、盗賊女の前に突きつける。

どうやら、戦闘は回避できないようだ。銃弾を跳ね返して、星影は余裕そうな表情をしている。

 しかし、跳ね返された女は驚く様子も見せず、むしろ笑っている。

 

「アタイのゲートを見て見な、金髪」


 女は自分の銃を見せる。持ち手の近くに黄色の水晶ゲートが埋め込まれている。


「黄色のゲート……、金のゲートね。それがどうしたのかしら……まさか!!」

「その、まさかだよ。金髪。雷鳴ドンナー!!」


 星影が弾き飛ばし、洞窟の床にあった銃弾。

 女が叫んだ瞬間、その銃弾が突如光だし、光が線のようにつながり始め、電撃のように轟き始めた。そして、電撃が星影の体を直撃する。彼女は叫び声をあげた。


「アタイのゲートは金。武器は銃弾ではなく、雷。銃弾が中継地点になっているんだぜ。当たらなくてもアタイのゲートがあれば、どうってことはないのさ。金髪」

 

 最初、女は健次を狙い銃弾を放った。その銃弾を星影が跳ね返して、銃弾が地面に落ちた。

 そして、女は金のゲートを使って、雷の攻撃をした。

 銃弾は金属。雷は金属を伝って直撃すると聞いたことがある。健次は、女の厄介な戦法に驚いた。


「星影ッ……!!」

「もう終わりか金髪。手ごたえねぇな。アタイに啖呵切った割には」

「なるほど。雷魔法をそういう応用でやるのね。勉強になったわ」

「なんだと!?」


 星影は、平気な顔で前を向き、盗賊女の方を向いた。

電撃に撃たれてなんともないのだろうかと健次は思う。

 盗賊女は「嘘だろ」と呟きたじろぎ、一方城に下がった。

 槍を構え、星影は静かに唱える。


月の重力ルナ・グラビティ


 その瞬間、女の手に、星影の重力魔法がかかる。女は

 

「な、なんだこれ。お前まさか」

「そう、私のゲートは月。見くびらないでほしいわね」


 星影は、槍の水晶ゲートを盗賊女に見せた後、地面を踏み込み、盗賊女に向かって飛び込んでいく。

 

「くっ……!!」

「喰らいなさい」


 そうして、盗賊女の腹部に、星影の槍が刺さろうとした、その時。

 星影の腹部を、女が思いっきり蹴り上げた。


「かはっ……」

「へへ、こんなんで足止めしたようだが、意味ねえぜ金髪」


 星影はそのまま女の蹴りに吹き飛ばされる。ものすごい力だ。


「星影ッ……!!」


 健次は思わず叫び、星影の元による。この女、結構強い。


「意外と……やるじゃない」

「へへっ、参ったかクソ金髪」


 そして、女が銃口をひるむ星影に向け、トリガーを引こうとした瞬間。

洞窟の奥から、赤い光が何度も何度も光り始めた。

 その光景を3人は見て、女は一目散に光の方へ走り去っていった。

恐らく、先に突入したカエンが、戦闘をしているのだろう。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」

「休戦だ金髪!! アタイは奥へ向かう!!」

「追いかけるよ、星影」 


 健次もまた、星影を連れ、女の後を追う。

しばらく走ると、洞窟の中で沢山の盗賊の群れに、火炎斬を放つカエンが、一人で戦っていた。

 女はその光景を見て、カエンを止めようと銃弾を放つ。とっさにバックステップをし、銃弾をかわすカエン。


「なっ、なんだお前!!」

「なんだ。じゃねえよ、アタイの仲間に何しやがる!!」

「盗賊の一味か……。もうお前の仲間は、人間じゃない、見て見ろ」


 カエンの言う通り、盗賊の群れは、とても人間だと呼べるほど、外見が大きく変わっていた。10wd程はある長い爪に、赤く充血した瞳。腹部に3つの傷がついていて、うねり声しか上げていない。そして、なんだか生臭いにおいが、ここにきてさらに強くなった。入り口で臭った生臭さの正体は、こいつらだったのだろう。

……まるで、映画とかで見た、“ゾンビ”そのものだ。

 先ほど女が言っていたゾンビとは、この人たちの事だったのだろう。


「でもアタイらの!! 仲間だ!!」

「俺もかつてはそう思った。女。一つ聞きたいことがある。こいつらをゾンビにしたのは、両腕に獣のような牙を持った赤髪の男じゃなかったか?」


 カエンが、声を低くして尋ねる。健次はそのカエンの姿を見て、これまでに見たことない、怒るカエンを見た。あんなに怒っているのは、始めて見たかもしれない。


「それはわからねぇよ……アタイが聞きてえぐれえだ。気がついたらみんなこうなってて、アタイは犯人を捜した。けど何処にもいねえんだよ!! あんたは何かしってんのか!!」


 女は叫ぶ。カエンは何か知っているのだろうか。

 そういえば、エデンに対してもカエンは、同じことを尋ねていた。

 何か、因縁がある相手なのだろうか。


「カエン……あなたもしかして」


と、星影は何かを察したようにカエンに問いかける。


「ナツキ。ようやく俺は見つけた。あいつの手がかかりを。女。詳しいことは後で話す。下がってろ」

「やめろ、やめてくれ!!」

「見ただろ、あいつらはもう人間じゃない。ゾンビだ。お前の気持ちは痛いほどわかる。もうああなっては、殺すしか方法はない」


 こうしている間にも、ゾンビは近づいてくる。カエンは心の中で思い出す。

 嫌になるほど、カエンの記憶の隅に焼き付いて離れない、この光景。

 ようやく、ようやく手掛かりを見つけることが出来た。

 ならば、奴が近くにいることは間違いない。

 カエンはそう思い、刀を構え、叫び始めた。


「ゾンゾ=ザス・ブラッド。俺の両親を殺し、村を赤く血に染め滅ぼした、俺の恨むべきかたき!! 腹部に傷跡。そして長い爪。間違いない、奴の能力でゾンビ化した、俺の倒すべき相手の証拠だ!!」

「やめろぉおおおおおお!!」

 女は止めようと必死に抵抗しようとするが、星影が重力魔法で彼女の足を止める。

カエンの刀の水晶ゲートが、赤く光り始めた。


「必殺ッ!! 大火炎斬だいかえんざんッ!!」


 そして、カエンが刀を振りかざすと、ものすごい炎が刀から出現し、カエンたちに近づくゾンビの肉体が燃え、灰になって消えていく。

 女はただ、その光景を、涙を流し、声を上げながら見つめていた。

 カエンは刀を納刀し、周囲を見渡した。


「カエン……」


 カエンが探しているゾンゾ=ザス・ブラッドという男。

 彼の言うことが本当ならば、カエンは昔、そいつに両親を殺されて、村を滅ぼされた過去があったということになる。

 一体どれくらい悲しくて、どれくらい恨んだのか、健次には全く想像がつかない。

 ひょっとして、あの時の夢はその夢だったのだろうか、と健次なりに推測する。

 だけれどそれはカエンの事情、あまり深入りしないほうがいいのかもしれないと健次は思った。

 盗賊の女は、泣くのを止めない。それは無理もない。いきなり自分たちの仲間がゾンビになって、カエンに焼かれて消えていったのだ。

 おそらく、自分以外のすべての仲間を。


「なんてことしやがったてめえ!! なんてことを!!」


 女は叫ぶ。無理もない。こんな光景を見てしまったら、カエンを責めても仕方がないかもしれない。けれどカエンは言う。


「いいか、俺も同じ目に遭った。お前の気持ちは分かる。すべてゾンゾ=ザス・ブラッドがやったんだ。俺が今倒さなかったら、お前があいつらを倒していたかもしれない」


 そういうカエンの目は、悲しい目をし、唇をかみしめていた。

 

「けれど、あいつらは……アタイが……」

「無理だ。ゾンビ化したら元には戻らない。これは仕方ないことだ。奴は見境なく殺す。そうして殺して言った連中をゾンビ化して手駒にする、最低な野郎だ」

「アタイの、家族だったのに……」


 女の涙は止まらない。カエンはおそらく正しいことを言っているのだろう。

しかし女の中で、現状を頭の中できちんと理解し、受け入れられていない。

 それに、家族を失った悲しみは、健次にも理解できるのだ。


「……カエン」

「健次。さっさと鉄鉱石取って戻るか」


 カエンは、洞窟の奥にある、商人が奪った鉄鉱石のほうへ歩いていく。

 健次は思う。彼女をこのままにして、置いていくのはどうなのかと。

 たしかに襲ってきて攻撃してきた。けれどそれは彼女たちなりに守るべきものがあってのことだったはず。

 健次の目線がずっと女の方を向いていることに、星影は気付いて声をかける。


「健次。あなた変なこと考えてないでしょうね? 盗みは犯罪なのよ。よってこの女も犯罪者」


 確かに星影の言う通り、彼ら盗賊が鉄鉱石を奪ったことは事実だろうし、彼女たちに情けをかけることもおかしい。

 けれど、その仲間たちがすべてブラッド家に殺され、ゾンビとなって消えていった光景を見て、彼女は今一人になっている。

健次はそういうことは関係ないのじゃないかと思ってしまった。


「でも……」

「恨むべきはブラッドだ。俺はこんな光景をもう見たくねえから、あいつを倒すんだ健次。それに俺たちは進むべき道がある。だろ?」

「う、うん」


 しかし、頭でわかっていても何故か健次は納得できていない。

 去るカエンたちとは、反対に、彼女の元に寄ろうとする健次。

 ――その、刹那だった。


「あららぁ? 俺のかわいいゾンビがいなくなってるじゃねえ……カ」


 声。その声がした瞬間、突如奴は襲い掛かってきた。

「健次ッ!!」


 声の主は、健次に襲い掛かってくる。それをカエンは炎魔法を声の主に打ち込もうとするが、奴はかわしてその場に立った。


「な、なんだ!?」


 健次は思わずたじろいだ。現れたのは、獣のような牙を持ち、手が獣のそのものとなっている奴がいた。

 目は赤く光り、健次のそばにいる女を、ギロリと睨んだ。


「お前は……お前は……!! ゾンゾ=ザス・ブラッド!!」

「どうやら、殺しそこねたガキがいたようダ……ナ」


 カエンは叫ぶ。どうやら、盗賊をゾンビ化した真犯人。カエンが探している敵、ゾンゾ=ザス・ブラッドその者が、突然現れた。


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