第0話 「輪廻、旅の終わり」
音もなく、右も左も上も下もない。そんな宇宙で、僕たちは戦っている。
手が、震えている。
緊張?
恐怖?
……いいや違う、興奮を押さえずにはいられないのだ。
ようやく、こいつと決着をつけることが出来る。
宇宙空間にぽかんと浮かぶ、大きな船。船の真正面には、巨大な人型が対峙し、互いに戦闘している。
巨大な人型からは、際限なくエネルギー弾が飛んでくる。それに負けまいと、船からもエネルギー弾を発射。
ただ、状況は人型が優勢のようで、弾が、船に次々と命中していく。
船体が、大きく傾き始める。
操縦室からは、ブザー音が鳴り響いていた。
「被弾! 破損率20%!」
「隔壁閉鎖。第5、第6ブロック壊滅」
――ダメか?
乗組員と船長たちの、焦燥する声が飛び交っている。
人型の攻撃を食らったようで、船体が大きく揺れており、船内のディスプレイには、被害状況が映し出されていた。
その被害は甚大で、多数のブロックが破壊されている。
船内の誰もが、圧倒的な力の差に愕然とする。
「バリアパワーを上げろ」
「バリアパワー、アップ……ダメです。持ちません!」
「ラボンスコア、オーバーロード、稼働限界です!」
――もう、ダメかもしれない。
誰かがそういった。
しかし、僕たちは諦めない。
強すぎる……「敵」。
普通に考えれば、倒す事なんて出来ない。無理だ。
でもアイツは、いや、アイツと僕たちは、それを可能にした。
もし、僕1人だったならどうなっていたことだろうか。
成し遂げるための努力。
その努力を支えてくれた仲間。
仲間が生み出した、力。
絶望的な状況でも、諦めない、僕たちがいる。
「やいおっさん、苦戦しているみたいだな」
緊迫した操縦室に、1人の男の声。
こんな状況にもかかわらず、落ち着いている。
声の主である、長髪の男が現れ、それに続いて2人の男女が出てきた。その姿を確認した艦長は、息をつき3人のほうを向いた。
「……正直、あまり持たないぞ」
状況は、芳しくないようだ。
仲間はみな疲弊しきっている。
だが、ここであきらめる理由がどこにある?
「大丈夫。私達には、トライスキルがあるわ」
艦長の言葉に対し、彼女はそう言った。
言葉が自信に満ちていて、今の状況をひっくり返せるんじゃないかって、期待感。
――きっと、いいリーダーになれるはず。
彼女は、そんな完璧さを兼ね備えた力を持った。
その完璧すぎる力を持つがゆえに、時に迷い、時に苦しんだ。
けれど、今の彼女の瞳はまっすぐで、迷いがない。
「ああ、構うことはねえ、見せつけてやるぞ。俺たちの力を。MSCの力を」
彼は、完璧ではなくとも努力し成し遂げる、屈強な強さを持った。
彼の強さに2人がどれだけ救われたことだろう。
彼の強さに2人がどれだけ励まされただろう。
彼の強さは力ではない。消して諦めず夢を追い続ける心の力。
僕は彼の芯の強さを知った時、彼に勝とうと努力した。
よきライバルでもあり、よき友だ。
「いこう2人とも、最後の戦いだ」
そして僕は、その2つの力を、調整する力。
力なんて、なかった。
でも、それでも僕自身にできる役割を一生懸命探した。
この旅で、どれだけ自分自身と見つめあったことだろう。
この旅で、どれだけ自分自身を憎いと思っただろう。
この旅で、どれだけ自分自身を受け入れられたのだろう。
3人の力がなければ、ここまで辿り着かなかった。
これまでやってきたことは無駄じゃない。
……そう、確信する。
――待っていてくれる、あいつのためにも。
僕たちのこれまでの全てを、この一撃に。
「行くわよ、トライスキル、マスター!」
「ぶっ飛びやがれ、トライスキル、ストロング!」
「これで終わりだ、トライスキル、コンディション!」
「「「デルタスキル・MSC!!」」」
3人の叫びとともに、艦隊から超巨大なエネルギー弾が放出され、あたり一面が光に包まれていく。