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ねこばす

作者: かわせみ

これから私の身に起きた不思議なことをお話ししましょう。


私は、この田舎の村で長年バスの運転手をしてきました。

かれこれ20年以上になります。

私の村は小さく、お金もありませんからバスが1台しかなく、

しかも1時間に1本しかありません。

それでも人々はバスを頼りにしてくれます。

「バスのおじさん」と村の人々にも慕ってもらい、充実

した日々を送っていました。


ところが、かねてからの利用者の減少とバスの老朽化に伴い

廃線が決まりました。


私がこのおんぼろバスの現状を一番よく知っていましたから

辛くとも受け入れるしかありませんでした。

もうずっと前から座席はぼろぼろで、穴もあいていました。

村にはバスを新しくするお金はありません。

私は自分のお金でなんとか直せるところは少しずつ直して

いっていましたが、最近はエンジンも不調でした。

ある日突然止まってしまうのではないか、そんな

不安がありました。


そしてある夜のことです。

もう誰もお客さんは乗っていなくて、

終点まで走るだけでした。

終点から2つ目のバス停まで来たとき、暗い中で

何か光るものを見ました。

よく見ると、バス停にねこがちょこんと座っていたのです。

目がきらりと光っていたのです。

それは、まるで待っていたようでした。

ねこがバス停でバスを待つなんて、聞いたことがありません

から、バスを停めずに素通りしてもよかったのですが

なぜか停めてしまいました。


私はバスの扉を開けました。

すると、ねこはひらりと乗り込んできました。

ねこはしばらくゆっくりと歩きまわった後、

ひときわ大きな穴があいていて、私がガムテープ

でふさいでいる座席にひらりと飛び乗って、

さっきのようにちょこん、と座りました。


ねこは黄金色のきれいな毛色をして、その目は

きれいな緑色でした。

ふと、ねこと目が合いました。私はどきり、と

して前を向き直り、いつもお客さんが乗ってきたように

言いました。


「次、終点です。ドアが閉まります、ご注意ください。」

ドアを閉めました。

「発車します。」

ゆっくり走りだしたバスの中で、ねこは黙ったままじっと

真っ暗な外の景色を眺めていました。


わたしはバックミラーでねこをちらちら見ながら

不思議な気分でバスを走らせていました。

すぐ、終点になりました。

「ご乗車お疲れさまでした。終点です。」

ねこはするりと座席から飛び降り、こちらまで向かってきました。

開いたドアから出ていく間際、ねこはこちらを振り返り、

私の目をじっと見て、ひとこと「ニャーオ」と言いました。

そして、あっという間に夜の闇にまぎれて行ってしまいました。


私はしばらくそのまま、ねこが行った先を見つめていました。


そして、あくる日。

私がいつものようにバスのもとへ行くと、バスは

まるで新品みたいになっていました。

古びた外観が、ぴかぴかのきれいな緑色に、そう

あのねこの目の色のようになっていたのです。

車内もまるで新品みたいにぴかぴかで、

座席の穴は全部埋まり、ふかふかになっていました。

そう、あのねこの黄金色のふかふかの毛みたいに。

そして、バスのエンジンを入れました。エンジンも

新品みたいに絶好調で、あのねこのようにするりと

スムーズに走りだしました。


あのとき、ねこは「ありがとう」と言っていたのでしょうか。

あれからあのねこには出会ったことがありません。


そうして私は、今もバスを走らせているのです。



『となりのトトロ』の猫バスから着想を得て書きました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 不思議なのだけれど、どこか優しい心温まる話でした。ねこの毛の色が黄金色なのも幸せを運んでくれるような、そんな印象を与えてくれました。あえてひらがなを使用しているところが優しい雰囲気を出して…
[良い点] タイトルに惹かれ、拝読しました。レトロな雰囲気が良いと思います。文章も読みやすかったです。
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