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05 街へ行こう

 勇気がエミリアの実家に厄介になることが決まって落ち着いた後、起きる気配のないミーシャを2人は心配した。


「ミーシャさん、目を覚ましませんね…」

「怪我は全部治ったと思うんだけどなぁ」


 盗賊団との戦闘後、あれから少し時間が経ち、日も少しずつ落ち始めていた。


「いつまでもこんな所で寝かせるのも良くないだろうし」

「そうですね、どうしましょうか…」

「んー。そしたら街まで向かうか」

「ミーシャさんを抱えて行くんですか?」

「抱えて歩くのはちょっとばかり大変だから、空間魔法を使ってササッと行っちゃおう」

「空間魔法、使えるんですか…」


 エミリアは感心やら呆れやらを込めた言葉を呟いた。この世界では、空間魔法の使い手はそう多くない。


「そうそう、街に行く前に聞きたいことがあるんだ」

「何でしょう?」

「エミリアの実家があるブルーノの街って、入るのに審査があったりする?」

「ええと、審査と言いますか、街に入るのに税金がかかるんですね。冒険者の方や貴族の方は払わなくていいんですけど、それ以外の方は支払う必要があります。支払いが必要かどうかを確認するっていう意味合いでの審査になります」

「なるほど」


 冒険者が税金を免除されるのには理由がある。冒険者はその仕事柄、街と外の出入りを頻繁に行う必要がある。街に入り直す度に税金を支払っていたのでは、冒険者の生活が苦しくなってしまう。冒険者の経験が浅い層はそれなりに多く、負担ばかり掛けていては後進が育たず成り手も減るだろう。成り手が減れば、魔物の脅威が街に降りかかって来る。

 魔物から街の安全を守るための、いわゆる投資とでも言うべきか。

 これまでの異世界召喚における経験から、街に入る際の手続きを聞いてみたのだが、今回は身分証が必要ないことには安堵した。税金さえ払えればいいのだ。身分証が必要となるといった最悪の場合、身分証をなくしたフリをすることも考えていた。


「因みに税金の額は?」

「1年前と変わりがなければ銀貨1枚のはずですよ」


 銀貨1枚がどのくらいの価値を有するのかはちょっとした疑問ではあるが、それはさておき勇気は一文無しだ。エミリアにお金を借りることも考えたが、もっといいことを考えついた。

 おもむろに盗賊団に向かっていき、首領の懐をまさぐると、革製の財布袋を取り出した。中身を確認すると、金貨が1枚と銀貨と銅貨が数枚あることがわかった。


「これだけあれば充分かな」


 盗賊団全員から金を奪うことはせず、首領からのみに止めた。税金である銀貨1枚はあったし、エミリアの実家に厄介になれることを考えると、当面の生活には何の支障もなさそうである。


「後はこの服装だけど…当然目立つよね」

「そうですね。デザインはこの世界の一般の物と離れています。その立派な縫製だけでも目立つ要因になりそうですね」


 安物なんだけどな、と勇気は内心で苦笑する。しかし目立つようであれば、服を用意しなければならない。


「服は自分の分しかなくて…どうしましょうか」

「ああ、心配には及ばないよ。ほいっと」


 何とも気の抜けた掛け声とともに、彼の手には1着のローブが現れた。エミリアが着ているローブに似せたデザインとなっていて、灰色で染められている。


「じゃじゃん! これならどうかな?」

「デザインは問題ありませんが…」

「それならよかった」

「あの、さっきも気にはなってたんですけど…。盗賊達をやっつけた時の剣といい今回のローブといい、一体どうやっているんですか?」


 言いつつ、エミリアは空間魔法で物を仕舞っているのかと当たりをつけた。そうすれば、剣の雨が降ってきたことも一応の納得がいく話ではある。もっとも、その予想は外れていたのだが。


「ん? 魔法で創ったんだけど」

「そんなまさか。魔法で物を作るなんて聞いたことありませんよ」


 過去、数十回に渡って異世界に召喚された勇気は、その都度新しい能力を得た。物を創造するというこの魔法もそのうちの一つである。

 神に異世界へと召喚された際、神からの祝福として能力が一つ与えられる手はずとなっていたのだが、それまでに散々と異世界に召喚されてきたこともあり、大概の能力を勇気は持っていた。与えられる能力がこれの他にないと嘆いた神からの贈り物が、無から有を生み出すこの魔法だった。まさしく、神の業とも呼べる代物である。

 かなり便利なこの魔法は、勇気のお気に入りとなっている。


「現にできるんだけどな…」


 そう言いつつ、勇気はローブに合いそうな革靴と頭陀袋を創りあげる。頭陀袋にスーツの上着とワイシャツとネクタイ、今まで履いていた革靴を放り込んでローブを羽織ると、旅人のそれらしい姿にはなった。


「これならどうかな?」

「ええ、これならバッチリです」

「よし、これで準備は万端だな」

「ところで、あの盗賊達はどうしますか?」


 2人は眠りこけている盗賊達へと視線を向ける。異世界のことだからと、勇気は処遇については無関係を決め込んでいた。しかし、この世界で生きることを決めたからには、その言い訳はもう通用しない。


「放置じゃ駄目かな」

「街の警備兵の所に連れて行かないんですか?」

「確かに、俺なら空間魔法で全員連れて行けるし、それが1番なんだろうけど…。こいつら連行していったら、かなり目立つよな」


 勇気は目立つことを恐れていた。目立てば権力者の目に留まりやすくなる。権力者と関わることで起こるいざこざが煩わしいため、できるだけ避けたい気持ちでいる。

 そんな勇気が出した答えは、


「縛って放置しよう」


だった。


「盗賊達の最期って、結局は死刑でしょ? そらなら縛って捨て置けば魔物の餌になるし手間がかからない。運良く魔物に襲われなければ、こいつらを見つけた冒険者か誰かが何かしら対応するさ」

「はあ。ユーキさんがそれでいいなら」

「んじゃ早速」


 魔法で創りだしたロープは、まるで意思を持っているかのように次々と盗賊達を縛り上げていく。そして最後には、木へと繋いでいく。


「今度こそ大丈夫かな」

「ええ」


 勇気とエミリアはミーシャの隣へと移動する。


「それじゃ、空間転移するからブルーノの街の周辺をイメージしてもらえるかな。転移先のイメージを読み取りたいんだ」

「…記憶を読むんですか? と言うか読めるんですか?」


 自らの記憶を読み取られる事を危惧して、つい身構えてしまう。もしそんなことができたとしても、勇気がそんな事をするはずがないと妙な信頼をしてはいるが。


「そんな大層なことはできないよ。イメージだけしか読み取れないから安心して」


 実際には記憶を読み取ることは造作もないことなのだが、そこはエミリアを安心させるために嘘を吐いた。何より勇気自身も、他人の、ましてや女性の記憶を読み取ろうなどというデリカシーのないことをするつもりは全くなかった。奇しくもエミリアの信頼に応える形となったが、お互いにそれを知ることはない。


「そうですか、それでしたら…」


 エミリアはブルーノの街周辺で、転移しても問題なさそうな場所をイメージする。1年振りのため、多少は変わっている可能性もあるが、そこまで大きな変化はないはずだ。


「それでは失礼して…。うん、オーケー」


 イメージを読み取り、転移先に問題はなさそうであることがわかった。


「それじゃ行くよ」


 エミリアが頷いて答えた次の瞬間には、3人の姿はそこから消えていた。

20141116

盗賊達の最期って、結局は死刑でしょ?

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