一ヶ月後
短めだけど結構重要です。
今気づいたんですけど主人公、二度しか会話してませんね。別にコミュ障では無いんですが。
一年一組が召喚されてから一ヶ月が経とうとしていた。
予定では今頃、王城内にある図書室で優雅に午後の昼下がりを過ごしていたのだが、やはり予定は予定。そう上手くはいかないものだ。
「クソッ!なんで俺があんなお花畑野郎の言うことを聞かなきゃなんねぇんだよ!!」
メシメシメシ……ベキィ
「ギァァァァァ」
勝士の竜の左腕が俺を締め付ける。苛つきで手加減も忘れているのか、骨が折れて体も千切れそうになる。
「クソックソックソォォォォ!」
怒り故か口から炎が漏れている。
それにしても今日の荒れ具合は尋常じゃないな。ま、あの二人は絶対に性格合わないだろうし仕方ないか。
なんで俺がこんなに冷静かって? それは痛みに慣れすぎたからだ。もうかれこれ一ヶ月もこんな事されてるんだ、慣れもする。今なら拷問受けたって耐え切れる自信があるね。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
勝士は肩で息をしている。実戦訓練の後に俺を痛めつけるようにと、残しておいた魔力が尽きかけているんだろう。ご苦労なこって。
竜の手から離れた俺はべちゃり、と音を立てて自分の血の中へと身を落とす。
「ゴプッッ」
落とされた衝撃で血が逆流して来る。
「明日もこの時間にここに来い。来なけりゃ倍だ」
そう言い残して勝士は武器庫から出て行く。
このまま死んでしまえば楽なのだけど、そうは問屋が卸さない。地面に落ちた俺の体はじくじくと痛みを発しながら固有技能『自己治癒』が発動している。このスキルは自動的に発動するタイプだ。厄介なことに、自分の意思で中止することはできない。
『自己治癒』でゆっくり直しても構わないのだけど、何せ俺には時間が無い。早く図書室へと行かないと。
少し前に覚えた魔法で加速的に治す。と、その前に体に雑菌が入らないように《ウォッシュ》を使うことも忘れない。魔力量だけには自信があるんだ。
でも悲しいかな、治癒師である以上攻撃魔法に適性が無い俺は、この有り余っている魔力を治癒魔法と生活魔法にしか活かせない。魔力貯蔵庫にも魔力が溜まる一方で、全然消費しきれてないから、もうすぐ最大量に達するんじゃ無いかとヒヤヒヤしている。まだ底は見えていないけど。
「ウォッシュ、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール、ヒール」
うし、こんなもんでいいだろう。
全く、なんで異世界に来てまで、いたぶられなきゃならないんだ。ふざけんなよ。
勝士達は何時も実戦訓練が終わり昼になると武器庫に俺を連れ込み、ボコボコにする。まだ今日は一人だっただけマシだ。一昨日なんて十人くらいにリンチされた。
まぁ、害ばかりじゃ無い。いたぶられるのにも少ないけれど利点はある。
瀕死の状態から復活すると魔力の最大値が上がるのだ。レベルが上がる時の上昇値と比べると少ない物ではあるのだが。
他にも瞑想なんかで最大値を上げる方法はあるみたいだけど、これは達人なんかが行う方法で、俺みたいな一般人に毛が生えた程度の人間が出来ることじゃ無い。
だから、毎日こんだけ痛めつけられていたら嫌でも最大値が上がる上がる。
しかも、普通の人が死ぬような怪我でも俺は、擬似魔核さえ無事なら復活出来るみたいだ。一度、頭蓋骨が陥没して心臓が止まったんだけど、5時間くらい寝てたら治っていた。
あの時の勝士達の慌てようったら無かった。でもそのせいで死んでも大丈夫だと思われたのか、攻撃はもっと苛烈になって行ったけど。
ま、そんなことはいい。さっさと図書室に行って本を読もう。『魔術師サイモン・ジンジャーの生涯』を今日こそ読み終える。あの本無駄に分厚いんだよな。書かれてあることは興味深いんだけど。
「プッ」
口の中に溜まった血を吐き捨て口元を拭う。《クリーン》で血のついた服を綺麗にした後、外に出る。
この広い王城も漸く慣れることができて、メイドさんに案内されなくとも図書室に行くことが可能となった。
此処から図書室は遠いから、この一ヶ月の事でも思い出しながら行くか。