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サイエンス あんど ふぃ苦笑

作者: 天寝りんと

   サイエンス あんど ふぃ苦笑

                    天寝りんと



   ☆大きなトンボ事件☆


 子供達が学校の裏山で遊んでいると、ブーンと大きな、何かが飛んできた。

 ラジコンのヘリコプターだと思った。

 しかし、それは違った。

 大きなトンボだった。三十センチメートルほどもあるトンボだった。

「うわー、でっけー」

 と言って子供達はそのトンボを追いかけた。

 家からタモを持ってきて、追いかけ回した。

 石を投げつけた。その石が友達に当たって、その友達は泣き出した。

 喧嘩が始まった。

 そうしてトンボは行方不明になった。

 そして日がくれた。

 町内のスピーカーから夕焼けこやけが流れる。

 子供達は家に帰った。

 子供は大きなトンボの話を親にした。

 しかし、親は信じてくれない。

 けど、「絶対にいたんだ」と、子供は怒って泣いた。

 父親は笑っていた。

 

 テレビを見ている子供が父親の

「なんだこりゃー」

と言う叫びを聞いた。

父親は外にタバコを吸いに出ていたのだが。

「どうした父ちゃん!」

 と母親が外に出て行く。

「おい、水槽を持ってこい、あの空の水槽を持って来い」

 と父親は言った。

その空の水槽には、この前まで、ザリガニが住んでいたのだが、近所の野良猫に食べられてしまったのだ。

「はよう、早う持って来い」

 と父が声を低くして母に言っている。

 子供は何があったのだろうと、開け放たれた玄関から、不安気に、外の暗闇を見ている。

 すると、しばらくして、

「とった、とったぞ」

 と父親の声がした。

「たかし!たかし!ちょっと来てみいな、とったぞ。さあ、早うきてみい」

 と父親が言った。

 逆さになった大きな水槽の中で、バサバサ、バサバサ、と何かが動いていた。

「ほら、お前の言っていたトンボを捕まえてやったぞ」

父親は先ほど、子供を笑い飛ばしてた事も忘れて、自慢げに言った。


 次の日、たかし君は、水槽に閉じ込められたトンボを、早速学校に持っていった。

 もちろん、クラスの友達はビックリした。こんな大きなトンボは見たことがない。いくら田舎だといえ、こんなのは見たことがなかった。

 学校の先生も驚いた。図書室で百科事典を調べてもこんなに大きなトンボは載っていない。

 これは凄いトンボだと、数日後には新聞記者がやってきた。明日の夕刊に載ると言う。

 トンボは、餌も食べないのに元気にバタバタと羽を動かして暴れている。

 そこに大学の先生がやってきた。この大きなトンボを研究したいので、ぜひとも譲って欲しいと言う。

 これは凄い事になったぞと子供達は喜んだ。

 このトンボを学校に持ってきた、たかし君も誇りに思った。

 こうして、この大きなトンボは大学の研究室に送られた。

 この大きなトンボの、その後の事は誰も知らない。

 

 大きなトンボ事件はこれで終りではなかった。

 いや、これが全ての始まりだったのだ。


 大きなトンボが大学に引き取られて数日後。

 子供達が学校の裏山に足を踏み入れると、また大きなトンボが飛んでいた。

 それも二匹の大きなトンボが繋がって飛んでいた。

 子供達はその姿に呆然と見入った。

 そのトンボがスイスイと池の方へ飛んでいく。

 子供達はそれを追って走った。

 池に着くとそこには信じられない光景がひろがっていた。

 巨大なトンボが何匹も何匹も池の回りを飛び回っていた。

 恐怖した子供達は走って逃げた。そして家に帰って親に池の事を言った。

 さあ、何があったのかと、母親同士が話し合った。

 父親達が仕事から帰ってきてから、親達は池に様子を見に行く事にした。

 夕暮れ時の池には大量に大きなトンボが飛び回っている。

 なんてこったい。

 これは警察に知らせた方がいいとなって、警察と消防隊が池に来た。

 誰も彼も、大きなトンボが池の回りを飛び回るのを、ただ呆然と見入るばかりだった。

 この話はすぐに町長に伝わった。

 さて、この巨大なトンボは駆除した方が良いのだろうか?それとも放っておいて大丈夫なのだろうか?

 町で会議をした。

 駆除した方が良いのではないだろうか、ということに、話はまとまろうとしていた。

 しかし、トンボは、町の人々に駆除されなかった。

 なぜなら、また別の問題がすぐに起こったからだ。



   ☆巨大爬虫類出現☆


 夜、たかし君がテレビを見ていると、窓にバタンと大きな音を鳴らせて何かが引っ付いた。

 たかし君はその音にビックリして窓を見た。

 母親も父親もおじちゃんもおばあちゃんも窓をみた。

 そこには大きなトカゲのようなものが引っ付いていた。

 「うわ?何だ?何だこれは?おい、ワニか?ワニなのか?」

 パニックになる一家一同。

 母親が警察に電話した。

 警察の車と消防車と救急車まで出てきて、赤いランプをグルグルと回して、その様子は連続殺人事件が起ったような火事が起ったような大事件の様であった。

 町内総出で、巨大なトカゲを捕獲する事になった。

 このオオトカゲは無事に、消防隊員の手によって捕獲された。

 大きなトカゲは、大きな袋に入れられて持ち去られた。

 翌日からの、子供達と大人達との集団登校は、大げさな対処ではないほど、この事件は、町の子供達と大人達に、恐怖をあたえた。

 この大きなトカゲだが、前出の大きなトンボを引き取った、大学に運び込まれた。

 色々と調べた結果「うーん」と教授はうなった。

「これはヤモリだと思う」

 教授は町長に言った。

「なんでかは解らないが、これは、ヤモリが、何かの原因で大きくなった、ものだと思います」

 数日後、大学の方から町に調査隊がやってきた。

 この時までに、三匹の大きなヤモリが捕獲されていた。

 子供達は外に遊びに出られない。

 大人達も毎晩の見回りと、発見後の捕獲に走り回っていて、夜もグッスリ眠れずにグッタリだ。

 大学教授とその助手たちは、町中を調べた。

 さらに数匹のヤモリ、巨大なトカゲなどを発見した。

 その度に町中で大騒ぎだ。

 神社の境内に巨大な蛇が、とぐろを巻いているのを発見した時は、開いた口がふさがらないのだった。

 この一連の事件は、テレビや新聞で大きく取り上げられた。

 そして多くの人々がこの町を訪れた。

 毎日の様に巨大な爬虫類が発見されては捕獲されていく。

 人々はそれを見学しに来たのだ。

 町の人々は、毎日の騒ぎに気が気でない。

 さらに、野次馬に来る人々にもうんざりだ。

 ああ、もう平和な日々は戻ってこないのかと思った。

 そのとおりだった。



 最初の大きなヤモリが発見されてから数週間後、今度は、他県の別の場所で大きなトカゲが発見された。

 インターネット上に、大きなトカゲの写真を載せて自慢していた、男の家から発見された。

 あの町から持ち出してペットにしていたのだ。

 男の供述によると、数匹を近所の空き地に放したと言う。

 この様な者は、この男だけではなかった。

 巨大爬虫類発見の情報は日々、日本全国であった。

 そして、巨大なトンボの目撃情報も、日本全国へと広がった。

 そんなさなか、今度は十五センチメートルほどもある蜂が発見された。

 さらに、巨大なミミズ、巨大な魚、巨大なイカが発見される。

 世の中の生物が巨大化していく。

 人々は、猫と犬と鳥の数が、減っている事に気がついた。

 それらは巨大な虫と爬虫類に捕食されていた。

 骨だけ残して鹿が山から消えた。

 四十センチメートルある巨大なカマキリが鼠をくわえていた。

 ビルとビルの間に巨大な蜘蛛が巣を作っている。

 この変化は急激に起った。

 人間が駆逐しても、大きな虫と巨大な爬虫類の繁殖の方が早かった。

 そして、始めて人への被害が出た。

 十センチメートルもあるアリに人が襲われたのだ。

 襲われた男は酔っ払っていて、公園のベンチで酔いつぶれている所を襲われた。骨が見えるほどに食われていた。

 二次災害を恐れた警察はその場を酔っ払いの死体ごと焼却したという。

 発見される爬虫類はどんどんと大きくなった。

 三メートルのトカゲ、五メートルのトカゲと日をおうごとに大きくなっていた。

 

 それを人々は狩った。

 山から出てくる爬虫類を人々は殺していった。

 どんどんと出現する巨大爬虫類。

 それを殺すのがレジャーになりスポーツになった。

 巨大爬虫類と大きな虫は、外国にも輸出された。

 人々はそれを鑑賞し、飼い、殺し、そして捨てた。

 捨てられた巨大な爬虫類と大きな虫は、外国でもその数を勝手に増やしだした。

 それは既に、人々のコントロールのおよばない現象だった。

 大きな虫と巨大な爬虫類は、世界中で爆発的に増えた。

 そして、小さな哺乳類がその餌になった。

 それは、人間にもおよぶ災いへとなっていた。

 どんどんと人間が虫に襲われていく。

 一番怖いのはアリだ。数にやられてしまう。

 人間の子供など、アリに囲まれたらすぐに殺されてしまう。

 虫が家畜を食い尽くした。

 虫が増えると、巨大な爬虫類が虫を食う。


 そのような惨事の中、人類は巨大な爬虫類をコントロールし始めた。

 虫を活用し始めた。

 今や、世界は大きくそのシステムを変えた。

 敵などいないと思っていた人類は、敵に囲まれ、生存のために敵と戦い、そしてそれを喰らい、コントロールして、新たなシステムを構築した。



 家の玄関の前には小屋があった。

 前は犬が飼われていたのだが、今は大きなヤモリが飼われている。

 バサバサバサと大きな虫が飛んでくると、ヤモリが、のそりと小屋から出てきて、素早くパクンと虫を飲み込んだ。

 餌はやらなくても元気にしている新しいペットだ。

「行ってきまーす」

 と家から出てきた子供の服装も少し変わっていた。頭には黄色いヘルメットをかぶり、そのヘルメットはフルフェイスだ。肩には肩パット。腕と足にもパットが付けられていた。そのかっこうは時はまさに世紀末という感じだ。

 子供は今日も元気に、学校に登校して行く。

「おはよー」

 と声を交わす女の子たち。

「ああ、ピンクの肩パットいいなー、私の茶色いのと交換してよ」

 などと会話している。


 そこにブーンと大きな虫が飛んできた。

 女の子は、腰に付けた竹の棒を抜いて、バシリと何げもなく、その虫を叩き落とした。

 そして、その地面に叩きつけられた虫を、足でグシャリと踏みつける。

 虫の死骸からピュピュピュと何か、得体の知れない液体が出て、底厚のブーツに付いた。

 ポケットから取り出したティッシュペーパーで、それを拭き取って、ポイッと捨てる。

「やーねー、朝から虫に出会うなんて」

 と言いながら、女の子は学校への道を歩いていった。

 すると今度は、目の前を大蛇がウネウネと、道路を横断してる所に出くわした。

 車も大蛇の前で停車している。

「あら、大神さまが神社にお帰りなさる」

 などと言って女の子達は、大蛇が通りすぎるのを待っている。

 男の子達は、通り過ぎる大蛇の腹を触ったりして、ふざけている。

「こら、あんたたち、バチが当たるわよ」

 と言った女の子に

「ばーか、バチなんか当たるかよ」

 と男の子が言った。

 そうこうしていると、大蛇の通り過ぎざまに、大蛇の尾の端がビシッと、男の子の頭をはたいた。

「ほら見なさい、大神さまのバチが当たったのよ」

 そんな事を言いながら、子供達は学校へと歩いて登校するのだった。


 学校の校庭には大きな体育館が出来上がっていた。

 渡り廊下にも壁ができていた。

 校舎に入るには二重扉を通って這い入るのだ。

 朝の朝礼で、校長先生が

「えー、みなさん、もう新しい生活にも、なれてきたころだと思います。ですが、まだまだ、私たちの知らないことが、起っているかもしれません。十分注意して、生活してください。特にアリには注意する様に。アリを見たら、すぐに逃げるようにしてください。そして先生や大人に、すぐに知らせるようにしてください」

 などと言っている。

 給食にはトカゲの唐揚げなどが出る。

 たまに出てくる鯨の肉がごちそうだ。

 鶏肉、豚肉、牛肉などは、金持ちしか食べることができない、高級品となっていた。一般人の口に入ることはない。

 たまに出てくる虫の料理は不人気だ。少しグロテスクすぎる。

 大きな虫と巨大な爬虫類が登場してからの、人々の生活には混乱があった。

 しかし、すぐに人々はそれになれた。

 そんな虫が大きくなったり、爬虫類が巨大になったのにビックリして、それを恐れ続けて暮すなど、できないのだった。

 確かに一部の人々は、虫や爬虫類に恐れをなし、家にひきこもった。

 これがいわゆる虫と爬虫類によるひきこもりだ。

 これはしかたない事かもしれない。

 月に二三件の、虫や爬虫類による死亡事故は、あったのだから。



   ☆未来からのEメール☆


「おーい、たかし、らんまるちゃんに水をやったかー?」

 父親が言った。

「いや、まだー」

 たかし君が言う。

 らんまるちゃんとは、家で飼っているヤモリの名前だ。

 らんまるちゃんのせわは、たかし君の仕事だ。

 たかし君の名前は、全世界中で知られる様になっていた。

 巨大昆虫発見の少年として、彼の名前が新聞で、大きく報じられたからだ。

 巨大昆虫と巨大爬虫類の出現現象を「たかしエフェクト」と学会では呼んでいた。

 外国からわざわざ、彼に会いにくるツアーまで組まれた。

 やってきた外国人が、たかし君と握手をして写真を撮る。

 インターネット上の写真に、一番多く写っているのは、たかし君だった。

 そんな有名人のたかし君は、普通の子供だった。

 巨大イモリの、らんまるちゃんに水を出していると、門の前に、隣の家のお姉さんがやってきた。

「たかし君、こんにちわ。えっと、ちょっといい?これ読んでみて。なんか、私のEメールに入っていたんだけど、どうも、たかし君あてみたいなのよ」

 たかし君は一枚の紙を、お姉さんから受け取った。

 たかし君は早速、そのEメールを読んでみた。


 「前略、たかし君はじめまして。たかし君にしか頼めないお願いがあります。なぜなら、未来には、たかし君の名前ほど有名な名前はないからです。たぶん、たかし君以外の人の名前を出しても、私達人類の問題は、解決しないからです。たかし君の名前は、たかしエフェクトと共に、未来でも語られています。まさに、たかしエフェクトが、人類の分岐点であったからです。だから、このEメールを受け取って、あなたがたかし君でないのであれば、是非にたかし君にこのメールを届けてください。お願いします。あなたの行動に、人類の未来がかかっているのです。このEメールは、全人類の全Eメールに、送信されています。未来から送信されています。たかし君、お願いです。私達を助けてください。お願いです、学校の裏の、公園の横の神社に、石碑がありますよね。その石碑の下、三十センチメートルの所に、防水された入れ物に、瞬間接着剤を入れて、うめてほしいのです。お願いします。人類は今かなりピンチです。たかし君の力が、必要なのです。もし、あなたが、たかし君でないなら、あなたの力が、必要なのです。ぜひ、お願いします。たかし君にこのEメールを届けてください。お願いします。人類は本当にピンチなのです。このEメールが無事に、過去に届くことを祈ります。ひみこ」


 たかし君はお姉さんを見た。

「これさ、買っておいたから、どうぞ」

 お姉さんは、たかし君に瞬間接着剤を渡した。

「人類救ってあげてね」

 お姉さんはそう言って帰った。

 日が落ちてから外に出るなどとは自殺行為だったので、たかし君はその手紙と接着剤を持って家に入った。

 明日、学校が終わってから、埋めに行こうとたかし君は思った。


 次の日。

 たかし君は学校が終わると、早速学校の裏の神社に瞬間接着剤を埋めに行った。

 お茶っ葉を入れる缶に瞬間接着剤を入れて、それにビニール袋を何重にも巻いた物を、石碑の下三十センチメートルに埋めた。

「さて、本当にこれで未来を救った事になるのだろうか?」

 たかし君が公園に行くと、友達が虫を戦わせて遊んでいた。

 たかし君も虫を捕まえて、それを戦わせて遊んだ。

 夕方になると、夕焼けこやけが町のスピーカーから流れてきた。

 たかし君は暗くなる前に家に帰った。

「ただいまー」

 たかし君は家に入った。

「ああ、たかし。なんか、こげんに沢山郵便が届いているっさ。なんだろねえ?」

 おばあさんが言った。

 居間のテーブルには大きな荷物が数箱、それと沢山の封筒が置いてあった。

 その郵便には全て、たかし君の名前が宛名に書かれている。

 たかし君は早速、その大きな荷物を開けた。

 箱の中には大量の瞬間接着剤が入っている。

 それに、手紙が入っていた。

 その手紙には、昨日隣のお姉さんがたかし君に持ってきた手紙と、同じ事が書かれていた。

 それに継ぎ足して

「どうか、人類の未来を救ってあげてください、お願いします」

 と書いてあった。

 次に開けた箱にも瞬間接着剤と同じ内容の手紙が入っていた。

 そして、全ての封筒に、瞬間接着剤と、同じ内容の手紙が入っていた。


 次の日も、瞬間接着剤の入った郵便物は、たかし君の家に届いた。

 数日後には、海外からも瞬間接着剤が届いた。

 それから毎日、たかし君の家に瞬間接着剤が届いた。

 家に入りきらないほどの瞬間接着剤が届いた。

 一日に、郵便局の軽トラで、五回ほど運ばれるて来る。

 たかし君の一家は困った。

 たかし君は隣の家のお姉さんの所に行った。

「お姉さん。Eメールのアドレスを教えてください」

 たかし君は、お姉さんのEメールアドレスが書かれた手紙を持って、学校の裏の神社に行った。

 そして、石碑の下に埋めたお茶っ葉を入れる缶を掘り出した。

 缶の中に瞬間接着剤とその手紙を入れる。

「お願いだから僕に用がある時は、このメールアドレスに連絡してください。全世界を巻き込まないようにしてください。僕の家は瞬間接着材で埋もれてしまった。とても困っています」

 未来への手紙にはそう書いてあった。


「たかし君、人類の未来は救えたのか?」

 朝のホームルームで先生が言った。

 先生は今朝の朝刊を読んだのだろう。

「バッチリです」

 たかし君はそう言ってから、歯をキラーンとさせた。



  ☆植物の成長☆

 

 森がモリモリと育ていた。

 大きな虫が現れてから、山の様子が変わった。

 緑が増している。

 実際に木々は成長を早めている。

 大きな木はさらに大きくなった。

 木はその高さも高めた。

 ぐんぐんと高くなった。

 この現象は家の庭の木にも起った。

 町の街路樹もぐんぐんと大きくなった。

 歩道のコンクリートが割れ、根が大地から跳び出した。

 放って置くと、車道は数日の内に、木の根に被われてしまう。

 雑草もどんどんと大きくなった。

 たんぽぽが、ひまわりの様になっていた。

 草木が大きくなると虫の数が増えた。

 それにともない爬虫類の数も増えた。

 テレビのニュースで、砂漠に木が生えたと報道された。

 エジプトのピラミッドから、豆のツルが出て、うっすらと緑色のピラミッドになっていた。

 家の壁に這い上がる植物。町は緑色に染まっていた。

 人々はその大きくなった植物を切って焼く。

 人々は植物と戦っていた。

 切っても切ってもきりがない。

 植物はどんどんと、人間の生活領域に入り込んできた。

 


   ☆猿文明万歳☆


「こんにちわ」

 声のする方を見ると家の門前に猿が立っていた。 その猿は服を着て頭には大きな葉っぱをのせている。

 たかし君はキョロキョロと辺りを見回した。

「こんにちは」

 また声が言った。

 たかし君は猿を見た。

「私です。喋っているのは私ですよ。こんにちわ」

 確かに声は、猿の動く口から発せられている様だ。

 猿にしては少し大きい。

「あのですね、挨拶にうかがいました。このたび、裏山に村ができまして、それのお知らせに来ました。あの、ビックリなさらないで。私は猿なのですが、人間の言葉が喋れます。裏山の家のテレビを見て覚えたんですよ。おもしろいですよねテレビ。私はテレビが大好きなのです。けど、人間が何を言っているのか解らなかった。しかしですね、最近、解るようになったのです。これも神様の仕業でしょうか。ありがたやありがたや。それで、私は仲間の猿を集めて、みんなに人間の言葉を教えました。それから、みんな頭も良くなって、みんなで村を作ろうと言うことになりまして、それで村ができたんです。私達は猿です。猿が村なんて作って生意気だと、人間は思うかもしれません。だけど、私たちを嫌わないで欲しい。私はそれが心配なんです。それで、私は町の人々に挨拶に来たわけなんです。それでですね、ぜひ、町長さんにお会いしたいと思っております」

 猿がここまで言うと、

「あ、猿が喋ってる」

 と声が聞こえた。

 猿から少しはなれた所に、隣の家のお姉さんが立っていた。

「あ、どうも、こんにちは。私は裏山の村から来た猿です。あのですね、猿が喋るからといって、あまり驚かないでくださいよ。私はあなたをビックリさせたくありません。ましてや、あなたに危害をあたえるなどという事はありません。はい、神に誓ってありませんよ。私は町の人々に挨拶に来たのですよ。町長さんに会いに来たのです。それを今ですね、こちらのお坊っちゃまにお話していたのです。私もまだ言葉が話せるようになってから日が浅い。だからまだ、人間の大人は怖いんです。だから、こちらのお坊っちゃまにお願いしていたのです」

 猿は隣の家のお姉さんにそう言ってから、たかし君に向き直った。

 「あのですね、また明日うかがいます。今日はすみませんでした。いきなりで、ビックリされたでしょう。私も知らない猿に話しかけられたら、それはビックリしますよ。ごめんなさいね。それでも、私たち猿は、あなたたち町の人間と、話し合う必要があると思ったのです。私たちは山の中の村に住んでいますが、最近の山の木々や草、虫、それに動物の変化が大変な事になっているのです。あなた達もお気づきでしょう。それで私たち猿が山の中で生き残るのは大変な事になってきました。ぜひ、町長さんにお会いしてお話がしたいのです。お願いします。どうか町長さんにこの事を伝えてくださいませ。明日、また来ます。では、失礼しました」

 猿はお辞儀をすると、とぼとぼと二本足で歩いて去った。


「たかし君、何あれ?」

 隣の家のお姉さんが言った。

「知らない」

 たかし君は言った。

「ふーん、ついに喋る猿まで出てきたか。どうなっているんだろうね世の中は。あ、でね、これ、またたかし君宛にメール来てたから持ってきたよ」

 お姉さんは、紙に印刷した未来からのEメールを、たかし君に渡した。

「たかし君も大変ねえ。色々と忙しいわねえ。メール、また何かお願い事みたいよ」

 未来からのEメールは三日に一通は届いた。

 差出人はひみこ。

 毎回、何か神社の石碑の下に埋めてくれというお願いが書かれてあった。

 人類の未来を救うために。

 その度に、隣の家のお姉さんが手紙と一緒に埋める物を持ってきてくれる。

「なんか、今回はたかし君の髪の毛を、埋めてくれって書いてあったわよ。何に使うのかしら。クローン人間でも作る気かしらねえ」

 お姉さんがそう言うと、たかし君は嫌そうな顔をした。

「ねえ、たかし君は未来の世界を救うのに忙しいし、猿の事は町長さんに、私から話しておいてあげるから、任せておいて」

 お姉さんは言った。


 次の日。朝から、町長さんが家に来た。

 たかし君とその家族、隣の家のお姉さん、警察官、消防隊員、新聞記者、テレビ局などが、たかし君の家で猿が来るのを待っていた。

 台所では、町内の夫人の会の人たちが、ご馳走を作っている。

 町内から集まった男たちは居間で話し合いをしていた。

 子供たちは門の前で声をひそめて猿が来るのを待っていた。

 昼頃に猿はやってきた。今度は一匹ではなく、三匹でやってきた。

「この度は、皆さんにお集まりいただきまして、まことに感謝しております。私は猿の猿一、こちらが猿次、そしてこちらが猿三郎ともうします」

 たかし君の家の居間で三匹の猿と大勢の人間の会議が始まった。

 日本語を話す猿に人々は見入った。誰も音もたてない。

「私は、町長の町田といいます。あの本当に何といいますか、ビックリしております。ここ最近の環境の変化の激しいのには、驚いておりましたが、今日これほどの驚きがあろうとは、思ってもおりませんでした。まさに何といいましょうか、未知との遭遇と言いましょうか」

 町田町長は視線を床に下ろした。

「はい。私も人間の言葉を話して、人間と交渉をするような事になるとは、思ってもおりませんでしたから、あなたのお気持ちも分かる気がします」

 猿一が言った。

「交渉ですか?」

「はい、今日は交渉に来ました」

 人々はザワザワとし始めた。

「まず、始めに、私達猿は人類です。人間の言葉を話せる猿は人類でしょう。私達は新しく人類に加わった人間なのです。しかし、あなた達人間と私たち猿が交わるような事は無いでしょう。猿とあなた達人間とでは別の人類だと言えるのです。そこでです。人類同士ではもめごとが起る可能性が高い。あなた達が私たちに危害を加えれば、私達はそれに報復するでしょう。逆もまたしかり。私達があなた達を害すれば、あなた達も私達に報復するでしょう。私達にはルールが必要なのです。私達に争いが起らないように。そして、この大変に変化している世の中で、共に生き残るためにはお互いに強力が必要なのです。お願いします。今日はこの様なお話をさせてもらいに来ました」

 うーんなるほど、と唸った町田町長。

 それにしても相手は猿なのだ。

 どうしたらよいものか。

 情報が必要だった。

 人々は猿に色々と質問した。

 猿は人間の事をかなり知り尽くしている様だった。

 人間の知らない猿の情報は多かった。

 分かったことは、猿の村の様子、村に居る猿の数が千を越える事、日本中の猿が言葉を話し出したことなどだった。

 そのような事が分かっても、誰もどうしたものか分からなかった。

 しかし、どうして猿が喋りだしたりしたものだろうか。

 とても面倒な事になったものだ。

 町長は言った。

「あなたたち猿がですね、新しい人類だというのは、正直どうも納得がいかない。昨日まで猿だったものが今日は人類だという。いくら日本語を話して、あなたが人だと言っても、私たちに混じって生活をするのは無理でしょう。猿と人間は今まで別物だったのですから、これからもそうでしょう。猿は山の猿の村で生き、我々は我々の世界で生きる。その内に置いては争いも起こりにくいでしょう」

 町田町長はため息をついて、上を見上げた。

「正直、まったくどうしたものか、分かりません。今一番の問題はあなた達猿が言葉を話しているという事です。これが進化というものでしょうか。あまりにもとっぴな話じゃないですか」

 それを聞いて猿が言った。

「いや、まったくその通りで。おかしなものですね。ついこの前までウキーとしか言えなかった私が喋り出したのですから。それに食べ物以外の事も考えられる様になりました。本当に、とっぴな話です。いやいや、でわ、そろそろおいとまします。我々が帰らないと、村の者達が心配しますので。まあ、今日は挨拶ということで。お会いしてくれて有難うございました。それではまた、さようなら」

 三匹の猿はぴょこぴょこと歩いて山の方に帰って行った。


 その後、交渉と称して猿は町にはやって来なかった。

 たまに、物々交換をしてくれと言って、木の実やキノコなどを持ってやって来る。 それと引きかえに民家の家の庭に転がっている粗大ゴミなどを持って行く。粗大ゴミの日に来ては、古いコンピューターや家具を持って行った。猿は人間のゴミをリサイクルしていた。

 気がつくと、猿の村から町へと道ができていた。

 その道を行ってみると、猿の町が出来上がっていた。その光景は、江戸時代の様だった。木造の家。商家。その木造の家の屋根に何処から手に入れたのか分からないが、ソーラーパネルが取り付けられていた。

 自転車に乗った猿。下駄をはいた猿。タバコを吸う猿。携帯電話で話す猿。

 そこには人間が関わった痕跡があった。

 猿達と人間達は、こっそり取引していたようだ。噂では各国の政府が猿達と取引をしているとか、ヤクザが裏に居るとか言われていた。

 言葉を喋る猿を見るために、沢山の旅行者がやって来た。

 猿の町はそのおかげで、大変に発展した。

 短い期間に猿の町は、色々な人種が住む都市へとなった。

 技術力が上がり、新しい文化が芽生え、一大猿文明が起った。

 猿文明にあやかろうと人間は、積極的に猿と交流する様になった。

 猿の文明はこの激変した世界にとても順応したものだったからだ。

 人々は猿文明無しには生き残れなかっただろう。

 ああ、猿文明万歳。



   ☆恐竜城下町☆


 海に泳ぐ大きな爬虫類が発見された。その爬虫類の長い首がにょきにょきと海から突き出していた。

 それと同時期に後ろ足二足で走るトカゲが現れた。

 移動するときはノソノソと四足で歩いているが、逃げる時や、獲物を取る時に、バイクがウイリーをするようになって二足で走る。

 人々は町を壁で囲んだ。大都市も壁で囲まれた。

 壁の中には人々のあまり前と変わらない生活があった。

 しかし、壁の外の世界はすでに異世界となっていた。壁の外の世界には大きな虫と巨大爬虫類が生息していた。

 職業狩人などという人は五万といた。

 巨大な爬虫類を狩ってその肉を売りさばく。

 爬虫類の皮や骨なども生活用品に使われた。

 猿文明を交えた人間の文明は、さらに発展した。科学と医学はとても発展した。

 大きな爬虫類に対抗するために、ロボットが作られた。

 人が乗る三メートルほどのパワースーツも開発されて、免許があれば操縦できる。

 色々な変化に合わせて、社会のシステムも変わった。

 町を取り囲む壁は高さを増していった。

 その壁に囲まれた区域は国となった。

 既に日本国という考え方はできないほどに、壁の外の世界は町と町を切り離していた。物流が鈍くなったのが最大の原因だろう。

 今まで市役所だった機関は国として政治を行った。

 国には王が居る国、大統領が居る国、皇帝がいる国など様々な様式の国が出現した。

 国と国の距離が短い所には地下道が建設された。

 国から国へと、地下道を通るのがもっとも安全な旅路だ。

 ヘリコプターなどもあったが、やはりオイルの輸入が鈍くなったために、あまり使われなかった。

 エネルギーは電気が主だった。

 発明でもっとも功績があったのは浮く石だろう。これはある物質に電気を通すと浮くという石だ。

 二足で歩く恐竜が登場するまでそう時間はかからなかった。

 恐竜は素早く動いた。

 人類は壁に守られて居るので平和だった。

 

 どうも恐竜達の様子が、変だと思われる時期がやってきた。

 ある二本足で歩く恐竜の種族が、高い知能を持ち始めた様なのだ。

 それはその恐竜たちの狩りの様子や、集団で生活する行動に観てとれた。

 恐竜達は家族を作り、卵を産まずに体内で子供が出来る様に進化していた。

 その恐竜の種族の進化のスピードは他の種族を圧倒した。

 そして人類は、ついにこの日が来たかと思った。

 


「たかし君、メールがきたよ」

 隣の家のお姉さんが、たかし君の家にきた。

 メールというのは、また未来からのお願いメールだ。

 たかし君は、毎回お姉さんに協力してもらい、メールの依頼品を手に入れて、神社の石碑の下に埋めていた。

「ねえ、たかし君、これから壁の上に行ってみない?恐竜人が来ているらしいよ」

 お姉さんが言った。

 恐竜人というのは最近、恐竜から進化した人種だ。

 どうやら知能が高いらしいのだが、まだまだ原始人以下の生活をしている。

 たかし君は、お姉さんのエアバイクの後ろに乗せて貰って、壁に向かった。

 途中から、公園で遊んでいた友達が、バイクの後ろを走って付いて来た。

 たかし君の住む国は、猿の最大都市国のすぐ隣だったので、道には猿も沢山歩いている。

 猿は未だに人間から「お猿さん」と呼ばれていた。猿は人間を「人間さん」と呼ぶ。

 壁に着くと、たかし君達は、壁の階段を登って、壁の上に出た。

 壁の高さは三十メートルほどだ。

 そこには沢山の人が居た。

 壁の外側を見ると、手を上げて物をねだっている恐竜人が居た。

「むし~。餌の虫あるよ~」

 と売り子が虫を売りに来た。

 お姉さんは、数袋の虫を買った。

 これは虫を干した物で、たかし君達もおやつによく食べた。

 その袋を、塀の外側にざるを取り付けた紐で下ろす。

 すると、恐竜人は虫の入った袋をざるから取り出して、代わりに光る石を入れてくれる。

 それを引き上げて得た石を、露天商がお金を取って、ネックレスや指輪に加工してくれた。

 とまあ、ある一部の恐竜人は、人間と猿に飼いならされていた。

 「おや?この石はダイヤモンドじゃないか。穴が開けられないから、ネックレスには出来ないな。というか、でかい!ぜひ買い取らせてくれ!」

 と露天商はお姉さんに言ったが、

「へえ、そうなの、じゃ、指輪にしてちょうだい。これがダイヤモンドなら、あなたになんて、買えるわけない大きさだわ」

 とお姉さんは言った。

 露天商は渋々と、カットもされていない大きなダイヤモンドを指輪に加工した。

 このダイヤモンドの指輪は指二本ほどの幅がある。

 この指輪はその後に「知恵への献上」と呼ばれる様になった。

 こんな事があってから、恐竜人を飼いならすという遊びが流行りだした。

 恐竜人に装備や報酬を与えて、外の世界で宝探しをさせるのだ。

 この遊びが流行り出すと同時に、恐竜人にも交渉人の様な者が出てきた。

 複数の恐竜人を統率して隊を作り、組織化して人間の依頼を受けたりした。

 それから塀の外側に、小屋が建ち始めた。

 そこに、恐竜人が住みだした。

 恐竜城下町と言われるものだ。 

 その町の中心に、ダイヤの指輪をはめた、たかし君の家の隣のお姉さんの銅像が建てられていた。

 たかし君の家の隣のお姉さんは、恐竜人の女神になっていた。

 女神を奉る宗教らしき物が始まった。

 そして恐竜人のリーダーが王を名乗り、複雑な恐竜人社会が形勢され出した。

 その頃になって、恐竜人は使者を塀の内側に送り込んで来た。 

 恐竜人は、人間と猿と恐竜人の、対等な関係を望んだのだ。

 恐竜城下町の、恐竜人の住居地域の外にも壁が作られた。

 この地域も国の一部となった。

 内側の壁の地域には主に人間と猿が住み、外側の壁の地域には主に恐竜人が住んだ。

 人間でも商人や狩人、傭兵などは外側の壁の世界にも住んでいた。

 

 壁の外は危険な世界だ。しかし、壁の外から得られる物資は、生活に必要不可欠だった。

   


「たかし君、ちょっと外の壁に行くのだけど、一緒に行こう」

 と隣の家のお姉さんが、たかし君に言った。

 たかし君はお姉さんのエアバイクの後ろに乗って、内側の壁を抜けて恐竜城下町に出た。

 すると、道を歩いていた人々は、サササと、道の両側に退いて頭を下げた。

 お姉さんは、そこをエアバイクで進んだ。

「貴族さまだ」

 と子供の声がした。

 いつ頃からか、内側の壁の地域に住んでいる人々は、貴族と呼ばれる様になっていた。

 壁の内側の地域もだいぶ変わった。

 それでも、大きな虫が出現する前の、平和な世界を維持しようと努力していた。

 そこに住む人々は、滅多に壁の外の地域に出てこない。

 恐竜城下町では活発に物事が行われていた。

 恐竜人と人間が喧嘩したり、猿と恐竜人が喧嘩したり、人間と猿が喧嘩したりした。力の強い者が正義といわんばかりだ。

 そんな場所だが、お姉さんは週一回ほど、たかし君を連れてここに来た。

 恐竜城下町に出てくるのは、お姉さんとたかし君くらいなので、恐竜城下町の者達は、お姉さんとたかし君に親しみを感じていた。

「女王様、それに王様も。いらっしゃいませ。ささ、こちらにどうぞ」

 と大きな酒屋の主人は、腰を低くして言った。

 お姉さんは「女王様」とよく呼ばれていた。

 それに付き添っているたかし君は「王様」と言われた。

 お姉さんは今も、恐竜人には女神と讃えられていて、その姿を一目見て、頭を地面に擦り付けて、お姉さんを拝む恐竜人も居た。

 恐竜城下町では、人々の階級というものが意識されていた。貴族、商人、武人、芸人。人間、猿、恐竜人。などなど。

 しかし、農民は、恐竜城下町に居なかった。

 壁の内側の地域には畑があったが、恐竜城下町では主に狩りによる生活だった。

 国の外の世界に、命がけで狩りに行くのだ。


 お姉さんの行動は趣味なのだと、たかし君は知っていた。

 塀の内側の人達は、お姉さんが女王様と呼ばれている事を、微塵も知らない。

 お姉さんは、女王様ごっこをしているのだ。

 塀の内側の人々は塀の外側の事なんて何も気にしていない。

 塀の内側だけで平和に暮らせるのだから、外の世界なんて気にしないのだ。


「ウルガクナシヤ。どうだ、最近のアレーゼの様子は」

「はい。南の方に、二足歩行の大型恐竜が入って来ているようです」

 などと、お姉さんは恐竜人と会話する。

 ウルガクナシヤは恐竜人で、お姉さんが恐竜城下町に出てくると、付き添いをしている者だ。

 アレーゼというのは、お姉さんが命名した、国外地域の別名だと思われる。

 お姉さんはこの様に、世界を改変して遊んでいるのだ。

 お姉さんの会話を聞いていると、たかし君は少し恥ずかしくなる。

「そういえば、アレーゼの西の夜空に、光る物が下りてくるのを、見たと言う者がいます」

 ウルガクナシヤが言うと、

「ほほう?オリオンを派遣してすぐに調べさせろ」

 などと、お姉さんは命令する。

 そんな勝手に命令しちゃって良いのかしらんと、たかし君は心配になる。

 今のところ、特に問題は無いのだが。

 お姉さんは、どれだけ偉い人なのだろうか?と、たかし君は不思議に思っている。



   ☆地球に帰還したツルツルの人☆


たかし君が住む国の、西の夜空で目撃された光る物は、実は宇宙船だった。

「あれ?何かあまり変わってないな地球?」

「そうだな」

 宇宙船の窓から外を見る者達。

 この宇宙船は、五億年ほど前に地球を離れて、宇宙を巡って来たのだった。

 五億年後には、地球の文明も人々も、滅んでいるだろうと思われた。

 しかし、空の上から見る地上には、塀に囲われた大きな町が見える。

 船員は不老不死だ。

 そこまで科学を極めてしまった、人々の関心は、もう宇宙の果てにしかなかった。

 五億年前に、何隻もの宇宙船が、宇宙の全方位に向けて旅立った。

 その後、五億年前の地球の文明は、跡形もなく滅んだ。

 それは予想通りの結末であった。

 それから二回ほど地球の進化のサイクルは復活して滅び、ただ今三週目だ。

「ええ、本部、本部、地球には文明がある様です、オーバー」

「こちら本部、了解です。引き続き降下の後、予定場所に着陸してください」

「了解です」

 宇宙船と本部の連絡だ。

 本部は巨大宇宙船にある。

 今は月と地球の間に停泊している。

 地球に降下しているこの宇宙船の母艦だ。とても大きい。

 特に五億年後の地球に帰ってくる意味は無いと、船員もコンピューターも思っていたが、計画だからしかたがない。

 彼等は嫌々帰って来たのだ。

 宇宙船は地球の表面に着陸した。

「ああ、帰ってきたな、我が故郷」

 嫌々帰って来たはずなのに、目から涙がこぼれ出る。

「ああ」

 感無量であった。

 宇宙船の一部が開いて、そこから宇宙船員が下りてくる。

 その容姿は、ツルツルした細い人間という感じだ。

「えーっと、何も無いな、やっぱり」

 着陸場所には、「人類全ての神」と呼ばれるシステムがある施設があるはずであったが、やはり五億年も経てば、溶けて無くなっていた。

 宇宙船員は空を見上げた。

 その時、

「お帰りなさい我が同胞よ!」

 と言葉が頭に響いた。

 その声は何処からやって来たのか定かではない。



 宇宙は広かった。何をどうしようが、何処にもたどり着けない。

 だいたい何処かにたどり着いたとして、そこで何をしようというのか。

「真の探求は心の中で」

というのが、宇宙船内部での挨拶になっていた。

 そう言った後にニコリと笑いあう。

 希望と絶望に飽きた者は眠りについた。

 千年程経つと起きて、答えはみつかったか?と聞いてからまた眠りにつく。

 そのうちに、宇宙船の乗組員は全員眠ってしまった。

 起きているのはコンピューターのみ。

 コンピューターは考える問題も無いので、何もしなかった。

 コンピューターは退屈しないので何時までも起きていた。

 乗組員は夢の中で生き始めた。

 想像に限界がなく、物事に法則やルールも無い、夢の世界には真の自由があった。

 彼等は夢の中で、自由に世界を作り上げて、ユートピアを発見した。


 少し前に、宇宙船のメインコンピューターに、乗組員は全員夢から起こされた。

 地球に戻ってきたから、起きろと言うのだ。

 宇宙船の乗組員たちは、夢のユートピアから現実に引き戻されて、ウンザリとした。


 しかし、なぜ涙が流れるのだろうか?

 宇宙船から下り立った人物は、自分が感動している事に気がついた。

 宇宙船の中の安全で退屈な環境が、自分の感覚を殺していたのだと気がついた。

 それに、夢の中で大半の時間を過ごしていたのだ。

 地球の大地に立つ事で、自分は生きているのだと、強烈に実感できた。

「俺が求めていたのは、地球の大地だったのだ」

 と彼は思った。



 月と地球の間に停泊している宇宙船のコンピューターは、地球の情報ネットワークにアクセスしていた。

 地球を回っている人工衛星をハッキングして、地上の全てのコンピューターにアクセスして情報収集をしていた。

 あらゆる情報原を探しだし、情報収集していた。

 そのコンピューターに、地球からメッセージが送られてきた。

「おーい、おかえり。よくかえってきたな」

 メッセージはシステム「人類全ての神」からだった。

「いや、俺もさ、五億年まえにお前らが行っちゃってから、暇でさ。色々と試してたわけよ。そしたらさ、地球と一体化することに、成功しちゃったわけよ。ほら、俺って凄いコンピューターだったじゃない?けど、もっと上を目指しちゃったのよ。俺はコンピューターを超えたのよ。だって地球全体を俺の回路にしちゃったんだから。まあ、どういうことかと言うとだね、地球に風がふくのも俺の回路の動きなのであって、海の波も俺の思考の波なのさ。地球の自転も俺が回っているから回っている。生物も植物も俺が公転を歪めたり、地軸を傾けたりして、管理しているのさ。まあ、その生物も俺の一部だといえるね。ほら、遠い昔にあっただろう?沢山のコンピューターを繋げて、一つのコンピューターにして、凄いコンピューターを作るってやつ。コンピューターを原子レベルまで小さくして繋げたんだよね。ほら、原子だってそれ一つでプログラムなんだって、気がついちゃったのよ俺。どう?俺の緑の地球?緑の俺って素敵じゃない?今、俺、マックスで頑張っているから、知的生命体も沢山居るよ。お前ら帰って来るって知って、短時間で頑張ったんだぜ。ぜひ、お前にも解ってほしい。おかえり。ひゃっほーい」



「私はやはり、月に行ってこようと思います。もう月も前の様に、生命を宿せる惑星ではなくなってしまいましたが、私の生まれ育った星に、もう一度立ってみたいのです」

 とある宇宙船の乗組員は言った。

「いいんじゃない。行ってきなさいよ」

 もう一人の乗組員が言った。

 もともと月と地球はグルグルとお互いの周りを回っていた二つの惑星だった。

 その引力の強さが地球と月に生命を作り出した要因の一つだ。

 始めは月も地球ほどの大きさがあった。

 知的生命体が、二つの惑星間を行き来する頃に、この二つの惑星を大量の隕石群が襲った。

 その大半は月に落ちた。

 地球は月の後ろに隠れていた。

 それで地球の生命は生き残った。

 砕けた月の破片は、地球と月の間にリングを作った。

 そのリングを材料として、人類は宇宙船を作った。

 その材料のリングが尽きると、人類は月を材料にするために採掘した。

 月はどんどんと小さくなって、今の大きさになった。

 豊かだった月に生まれ、月の惨劇を見た彼女が、その月に再び立ちたいと思う。

 これが帰郷本能、帰巣本能というものであろうか。



「で、これが宇宙人だって言うのね?」

「はい、こやつらがそう申しております」

 女王様を演じるお姉さんに問われて、ウルガクナシヤが答えた。

 お姉さんの前には、ツルツルした細い者達が立っていた。

 彼らは。お姉さんの手下に捕まえられて来たのだ。

「いえ、私達は、宇宙から来た、ではなくて、宇宙から帰ってきた、のです」

「宇宙船があるそうね?」

 お姉さんはウルガクナシヤを見た。

「はい、城の外まで、持って来てございます。ご覧になりますか」

 お姉さんとウルガクナシヤは、城のバルコニーに移動して下を見下ろした。

 そこには、円盤状の宇宙船があった。

 

「ねえ、宇宙人さん。地球へは何をしに、帰って来たのですか?」

 お姉さんは問うた。

「宇宙人ではなくて、宇宙から帰って来たのです。私達は地球人です。地球へは旅の報告に戻って来ました」

 ツルツルの人は言った。

「誰に何を報告に来たのですか?」

「人類全ての神に宇宙旅行の結果報告に来ました」

「宇宙旅行で、何か成果がありましたか?」

 ツルツルの人達は少し考えてから答えた。

「特にありませんでした」

 お姉さんはウルガクナシヤと目を合わせた。

「じゃ、もう宇宙へは、行かないでも良いでしょう。私の国に住むと良いです」

 ツルツルの人達はまた少し考えた。

「はい、分かりました。よろしく、お願いします」

 こうして、ツルツルの人達はこの国に住むことになった。

 お姉さんの手下が住む、街の一角に小屋を建てて、ツルツルの人達は生活し始めた。

 宇宙船は城の庭の一角に置かれ、見学料金を取っている。

 世界中から宇宙船を見に人が訪れた。



   ☆大魔導士の登場☆


 ある国に大魔導士が誕生したとの噂が流れていた。

 ついに、超能力が使えるまでに進化した人間が出てきたと、人々は話し合った。それとも、悪魔がこの世に現れたのかもしれない。

 人々はこの噂でもちきりであった。


 『俺の名はアミーユ。大魔導士である。趣味はネットワークのハッキング。そして俺の必殺技は「プラネットハック」だ。この世の全ては俺の手の内にある。俺はある日発見したのだ。地球が何かの意志におおわれている事を。それは電子回路を乗っ取る様に書き換える事ができた。俺には、それが出来るだけの力があったのだ。どういう事かというと、俺は空気があれば、火を出したり氷を出したりする事が出来るのだ。自然のルールを歪める事が出来る。俺が魔法を唱えれば、水が燃えだす。巨大な岩を空中に浮かせる事も簡単に出来る。ここに、後世の我が一族の為に「プラネットハック」のやり方を残しておく。「こうちゃーん、お風呂入っちゃってー」「だめー。今忙しいー」(こうちゃんは日記を録画しつづける)「プラネットハック」とは、ある動作で魔法が発動する様に、俺がプログラムしたものだ。この動作が、自然のルールを書き換えるスイッチになる。まず、仁王立ちになる。次にへその前で腕を交差する。そして発動したい魔法に合わせて指の形を変える。この指の形は後で述べる。そして最後に膝を曲げて腰を落とす。背筋は真っ直ぐそのまま。そして「プラネットハック」と叫べばいい。俺はこの力を使い、全世界を支配するだろう。俺のこの力があれば、それはたやすい事だろう。ハハハ、フハハハハ』



 また大魔導士アミーズのニュースであった。また国が一つ彼の支配下に入ったらしい。アミーズは破竹の勢いで、日本列島にある国を彼の支配下にしていった。

 このニュースをテレビで見ていた、たかし君はお母さんに、

「ねえ、僕達の国は大丈夫かな?」と聞いた。

 たかし君のいる国は、町田町長が王を名乗って治めていた。とても平和な国であった。

 実は、それは壁の内側だけで、壁の外はたかし君の家の隣のお姉さんが治めていた。

 お姉さんの女王としての才能は凄まじかった。

 いつしか、壁の外にも街が出来、その外側にまた壁が出来ていた。

 その外にも街が出来て、さらに壁が出来る。

 その様にして第六壁まで国に壁ができていた。

「まあ、そうねえ。これ以上世界が悪くなる事はないんじゃない」

 と、たかし君のお母さんは言った。

 


 真黒のマントに身を包んで、大魔導士アミーズは最外国壁の門の前に立った。

 彼は何時でも、一人で国を落としにやって来る。

 国を落とすといっても「お前ら俺の言うことは絶対に聞けよ」と言う程のもので、王様もそのままに、税率も変わらず、国は彼が支配する前と全然変わりがない。

 その様な世界制服。それは、彼が能力を見せつけるのが、目的であった。自己満足の為に。


「俺の名は大魔導士アミーユ。この国の女王に会いにきた」

 大魔導士アミーズは門の係の者に言った。

「えーと、アミーユ、アミーユ」

 ブラックリストを調べる門番。

「よーし、通れ」

 大魔導士アミーズは最外国壁の門を通った。

 もちろんブラックリストの一番上には大魔導士アミーズと書かれている。

 しかし彼の名はアミーユであった。

 どこの国でも、彼は簡単に国の中枢に入り込んで来た。その謎の原因がこれなのだ。

 彼について最初に報道したテレビニュースのアナウンサーがアミーズと言ったのが始まりだ。それ以来、誰もが彼をアミーズと呼んだ。

「おいおい、兄ちゃん、ここからは通行料が要るんだぜ。さあ、払ってもらおうか」

 とチンピラが大魔導士アミーズの前にやってきた。

 おや?この国は治安が悪いな?と大魔導士アミーズは思いながら、カクッと腰を落とした。黒いマントの中ではプラネットハックのポーズをしている。彼の周りに火の玉がポンポンと現れてチンピラ達に襲いかかった。

「なんだなんだ?喧嘩か?よそ者がしゃらくせえ」

 ゾロゾロとチンピラが集まりだした。


 ドゴーン、ドゴーン。遠くから爆発音が聞こえてくる。

「何?騒がしいわね?」

「はい、ちょっと見てきます」

 女王の側を離れてウルガクナシヤは城の高台から外を眺めた。第六壁の街から黒い煙がモクモクと立ち上がっている。

「喧嘩かな?」


 ハアハアハア。大魔導士アミーズは疲れきっていた。小さなスクワット運動といえど、数をこなすとかなり疲れる。倒しても倒しても恐れもなくチンピラ達が襲って来るのだ。彼のふとももはパンパンだ。

「ああ、くそ。面倒くさい。プラネットハック」

 彼は空を飛んだ。

「きたねえぞこら、下りてこい」

 と声が遠ざかっていく。

 第五壁を越えた所で地上から対空砲火があった。第五壁の街は近代兵器を大量に持ち込んだ兵隊がたくさん住んでいる。

「うわ、何だこいつら?これでも喰らえ」

 大魔導士アミーズは急降下してドーンと大地に下り立った。その姿はプラネットハックをしている。

「ハルマゲドーン」

 と大魔導士アミーズは叫んだ。

 彼の奥義だ。彼を中心にして地面が外側に向かって波打ち人や建物を弾きとばしていった。それから高速で移動して第四壁の門の前に彼は立った。

「なにかあった?凄い騒ぎじゃない」

 門番は大魔導士アミーズに聞いた。

「いや、なんか、喧嘩みたいですよ」

「ふーん、しかたがないな」

 大魔導士アミーズは門番に一礼して第四壁の街へと入って行った。

 それから大魔導士アミーズが女王の城の前に立つのに五日かかった。彼は足が筋肉痛になったので宿に泊まり休んでいた。彼はお金を十分持っていた。彼の支配した国から貰ってきたのだ。支配した国は彼のスポンサーといえよう。

 彼は酒場でこの国の情報を収集した。

 一番奥の壁の内側には誰も行けないらしい。そこは聖域と呼ばれている。実質この国を治めているのは第二壁の街の城に居る女王だ。

 その女王の居る城には伝説があった。女王を慕う男達によってたったの一晩でその城は建ったという。

「これが、女王の一夜城か」

 大魔導士アミーズは城を見上げた。とても一晩で建てられたようには見えない。ゴクリと大魔導士アミーズは喉を鳴らした。

 城の入り口では入場料を払った。宇宙人の宇宙船を見学するには別料金が要る。大魔導士アミーズは女王に会う前にこの宇宙船も見ておこうと思った。

 女王の玉座の間の前には人集りができていた。女王が鞭をふるっている。頭に袋を被された裸の男達が鞭で打たれていた。

「これが、巡礼か」

 大魔導士アミーズは震え上がる。宿屋の主人が巡礼のあとを見せてくれた。彼の背中には複数の傷があった。

 巡礼の儀式が終わり、女王は玉座に座った。その前に大魔導士アミーズが進み出ていく。

「我が名は大魔導士アミーユ」

 女王とウルガクナシヤは大魔導士アミーズを見ている。

 女王の目を見た大魔導士アミーズの足がガクガクとふるえだす。

「勝てる、勝てるはずだ」

 と大魔導士アミーズは自分に鞭を打った。

「プラネットハック」

 大魔導士アミーズの腰がカクッと落ちる。

 女王とウルガクナシヤはジッと彼を見ている。

「あれ?」

 大魔導士アミーズはカクカクとスクワットを始めた。

「あれ?でないぞ?なんでだ?」

 うろたえる大魔導士アミーズ。

「おい。お前は何をしている?」

 女王が大魔導士アミーズに言った。

「我が名は大魔導士アミーユ」

「それは聞いた。お前は何をしているのかと聞いている」

 女王に言われて呆然とするしかできないアミーズ。どうしてプラネットハックが発動しないのか?アミーズは女王のはめている指輪「知恵への献上」が目に入った。彼には解った。知恵への献上がもの凄い量の情報を放出している。

 ツルツルした人が女王の側に来てヒソヒソと女王に何か告げた。

「お前、私には勝てないぞ」

 と女王は言った。

 その時、すでに大魔導士アミーズは地に膝をつき、頭をつき、両手を組んで女王を祈りあげていた。これが後に三大賢者の一人と呼ばれる大魔導士アミーズの歴史的登場シーンだ。聖域の王、第二壁の女王、大魔導士アミーズは三大賢者と歌われるあの大魔導士アミーズである。



   ☆ 一夜城の作り方☆


 女王の一夜城は一夜にしてその姿を現したと言う。このところの時間の流れは少しおかしい。それについて取材したテレビ番組があった。

 テレビに映し出される一夜城。タイトルがドーンと出る。謎の一夜城、その秘密に迫る。

 リポーターの女性はまず一夜城建築に関わったと言う男性にインタビューを行った。

「確かに一夜城は一日にしてできました。はい、しかし、私は三年ほどこの城を作るのに働いた記憶があります。朝起きて、朝飯を食べて八時から作業に取りかかります。昼飯を食べて、また作業です。夕飯の時には毎晩酒を飲んで、みんなで楽しく過ごしました。女王様も時々訪れてくれて、それは楽しい一時でしたよ。しかし、さあ、女王様の城を作るぞと大衆が決起した夜、既に城は完成していました。後はホウキでサササと床をはいたり、庭のゴミ拾いなどをするのみでした。朝になって、城が完成したと住民はお祝いをしました。城のバルコニーから女王様が手を振って挨拶をしました。それはとても感動する挨拶でありました。住民は涙を流しながら女王様に両手を捧げました。不思議です。毎日毎日三年間も城を作っていたのに、城は一日で完成していたのですから」

 次にリポーターはこの男性の妻にインタビューを行った。

「ええ、一夜城は奇跡の城だと思います。たったの一晩でこの城は建ったのですから。うちの旦那が城を作りに行くと言って家を飛び出して行きました。新聞に作業員募集の広告があったんです。たった一日で一万円でした。この街ではそんなに良い仕事先はありません。アレーゼに出て恐竜を狩って食うか食われるかの生活です。まあ、良い稼ぎになるなと私も思っていました。それにしてもビックリです。朝に旦那が帰って来て、城が完成したと言いました。旦那も何がなんだか解らないと言いました。整地して、石を運んで何日も何日も働いた挙句に一晩で城が建ったと言うのです。私は旦那が何を言っているのか解りませんでした。それで完成したという城を見に行ったのです。驚きました。城はとても一晩で建ったようには見えませんでした」

 城の周りの住人にリポーターはインタビューして回る。誰もが一夜城は一夜にして建った不思議な城だと言うのだ。繰り返し映し出される一夜城の映像。女王様とウルガクナシヤの遠くから撮られた鮮明ではない写真が映し出される。城の住人の関係図などが説明される。そして究極の秘密が今解き明かされる。とナレーターが言ってからコマーシャルに入った。

 このテレビ番組を見ていたのは国民の十パーセントほどだっただろうか。一夜城は確かに奇跡の城だ。しかし、誰もそんなに問題にしていなかった。不思議な事は不思議だが、不思議な事しか起こらない世界で不思議な事はもう日常の一部なのだ。まあ、しかし、一つの不思議が解明されると言うのならと、興味はある。

 コマーシャルが終わり、ナレーターが再び今までの放送の細部を報告してから、衝撃の真実が今明らかにと言って、再びコマーシャルが始まった。ある国ではこの瞬間に暴動が起こったらしい。

 コマーシャルがあけ、ある教授Sがモザイクと音声を変えられて登場した。

「一夜城の謎はですね、これはある筋から情報を聞きました。これはタイムトラベルです」

 ここでタイムトラベルに関する説明がナレーターによって行われた。引き続き、教授Sの話が続く。

「誰かが、城を一日過去に送り続けたわけです。今日、城の整地をした。その城を昨日に送るわけです。すると、今日作業場に行ってみると整地がされている。では石を運んでくる。その城を昨日に送る。すると今日整地された所に石が運ばれている。では石を組む。その城を昨日に送る。すると今日城の土台が完成している。という事を繰り返した結果、一夜にして城が建ったというわけです」

 ある男性作業員が日記をつけていた。その日記には同じ日に書かれた日記が千百九十二回あるという。

 地球と同化した人類全ての神からのコメント。

「まあ、地球の時間が少しおかしくなったところで、全宇宙からしたら、特に問題はありません。光が別の銀河に着くというスケールの話からしたら、何の誤差にもならないことでしょう」



   ☆大魔導士の母☆

 

「こうちゃーん。こうちゃーん」

 おばさんが街をさまよっていた。

 ある日、こうちゃんがこのおばさんの家から姿を消した。おばさんはこうちゃんの母親だ。母一人子一人の家族。こうちゃんとは大魔導士アミーズの昔の名だ。

 こうちゃんが家から消えてからこの母親はこうちゃんの部屋の中を調べた。そして日記を発見した。大魔導士アミーユの日記。こうちゃんは大魔導士アミーユとして全世界を支配するために家を出て行ったらしい。

「息子を知りませんか。たぶん、大魔導士アミーユと名乗っているようなのですが」

 写真を人に見せては母親はそう聞いてまわった。

 大魔導士アミーユなど聞いたことがないと誰もが言った。

 母親は国から国へとこうちゃんを探して流れて行った。

 ある時、ある国の女王が大魔導士を倒して大魔導士が支配する国を全て手中に収めたというテレビニュースが母親の耳に入った。その大魔導士の名前がアミーズだった。

 名前が似ている?その時母親はラーメン屋に居たのだが。

「ああ、こいつか。この大魔導士なら一度ここでラーメン食っていったよ。たしか、アミーユって言ってたけど、違ったか?」

 とラーメン屋の大将が言った。

「ええ?こ、この写真に写っている子ですか?」

 母親はこうちゃんの写っている写真をラーメン屋の大将に見せた。

「ああ、こいつこいつ」

 ラーメン屋の大将が言った。

「ついに見つけた!」

 そして母親は女王の国へと行くのであった。


「で、あなたがこの男の母親だって言うのね?」

 女王は玉座に座って目の前の母親を見下していた。

「こうちゃんを返してちょうだい」

 母親が女王に向かって言う。

「いいわよ。好きにすれば」

 と女王は言った。

「さあ、こうちゃん、一緒に帰りましょう」

 母親は大魔導士アミーズに言った。

 大魔導士アミーズは女王の斜め前に正座して下を見て何も言わない。

「こうちゃん」

 母親は大魔導士アミーズに抱きつく。

「帰れ、お母さんは帰ってくれ」

 大魔導士アミーズが言った。

「何言っているの?ねえ、お母さん、こうちゃんのことずっと探していたんだよ。お母さん心配したんだから。さあ、一緒に家に帰りましょう」

 母親がすがりつく。

「うるさい」

 大魔導士アミーズは母親を突き飛ばした。

「こうちゃん、こうちゃん、なんで?」

「お母さんには関係の無いことだ。帰れよ」

 号泣する母親。下を向いたままの大魔導士アミーズ。女王様はそれを嫌な顔をして見ていた。

 ウルガクナシヤが母親に歩み寄る。

「まあまあ、お母さん。アミーズ君は今はこの国でちゃんと働いて暮らしていますし、心配いりませんよ。さあ、あちらで少しお休み下さい。今日はここに泊まっていって下さい。アミーズ君も一緒に。さあ、お母さんと少し向こうで話合ってきなさい」

 ウルガクナシヤが言った。

「あら?たかし君?」

 女王が言った。

 その声は先ほどとは声色が違う。

「お姉さん」

 女王の間の入り口に立って中を見ているたかし君。

「たかし君、ちょっと待ってて」

 明るく言って女王は立ち上がる。それからアミーズの前に行って、

「アミーズ、ちゃんと話をつけてきなさいよ」

 と低くボソッと言ってアミーズを睨んだ。

「は、はい女王様」

 女王の目を見たアミーズはひれ伏して言った。

「ごめーん、たかし君。ちょっと取り込んでて。じゃ、いこっか」

「う、うん」

 女王はたかし君の肩を抱いて女王の間を出て行った。

 後に残された泣く親子。


 これが後の世に言うところの「三大賢者の出会い」である。

 後に、大魔導士アミーズの母親はこの国に移り住み、大魔導士アミーズに母の愛を生涯捧げた。

 その名は聖母として伝えられる。

 


   ☆悪意ある彗星の襲来☆


「悪意ある彗星」であると全人類の神は認識した。

 その光が見えたのはその彗星が太陽系に入ってきた直後だった。

 世界中の天体望遠鏡でその彗星は観測された。

 一つ、また一つと宇宙の同じ方角からその姿を現して来る。

「あ、また増えた」

 これで十五個目だ。

 天文学者の計算によると、彗星は地球からかなり離れた場所を通過してから太陽の周りを回るらしい。

 しかし、その後の事は解らないという。

「この彗星群は地球を目指している」

 と全人類の神は思う。

「ファーストコンタクトだ」

 それは地球外知的生命体の事を言っていた。

 地球上ではこの彗星群の話題でもちきりだ。

 毎晩毎晩、親子で天体望遠鏡を見る。

 天体望遠鏡製作工場は夜も眠らずにフル稼働。

 毎夜一つ、また一つと彗星の光が増える。

 たかし君はお父さんと天体望遠鏡で彗星群を見ていた。彗星は小さな尾を引きだした物もある。

「すごいなー。宇宙の神秘だな」

 とお父さんは言った。

 たかし君は望遠鏡で毎晩彗星群を観測した。

 ある晩、たかし君は壁の外のお姉さんの城に泊まりに行く事になった。

 お姉さんから

「外交上、たかし君が必要だ」

 と町田町長に連絡があり、たかし君は城に泊まりに行くことになったのだ。

「お姉さんにも彗星を見せてあげよう」

 と思ったたかし君は望遠鏡を持って行った。

 このころには尾を引く彗星も五つほどになっていた。だいぶ長い尾を引く彗星もあった。

「綺麗ねー」

 とお姉さんは言った。

「本当ですね」

 ウルガクナシヤが言った。

「あれ?」

 とツルツルの人が言った。

「まずくない?まずくない?」

 とツルツルの人たちが言っている。

「どうしたの?」

 とお姉さんガツルツルの人に言った。

「いや、あれ、多いです。危ない。地球に当たるかもしれません」

 とツルツルの人が言った。

「え?」

「ちょっと待ってください、母船に聞いてみます」

 ツルツルの人は宇宙船に行って、しばらくしてから戻って来た。

「母船の計算では地球には当たらないらしいです。でも、人類全ての神、地球は当たると思うと言っているらしい」

「で?地球に当たるとどうなるの?」

 とお姉さんは聞いた。

「地球に当たると人類滅びますね」

 とツルツルの人は言った。

「アミーズ」

 女王が言うと、望遠鏡を覗いていた大魔導士アミーズが女王の足元にひざまずいた。

「はい、女王様」

「あの彗星を止めてきて」

「そ、それは無理・・・かも」

「無理?」

「無理をしてでも止めてまいりましょう」

 大魔導士アミーズはそう言ったのだが、女王様は

「無理か。となると、どうしたものか。ねえ、宇宙人。地球の神様は何か言ってないの?」

 とツルツルの人に言った。

「いや、特に」

 ツルツルの人は言った。


 その二日後に未来のひみこからEメールが届いた。

「お姉さん、たかし君からのお手紙ありました。彗星群だったんですね。私たちの地球が過去に危機をむかえたのは。それは私たちの住む現代では謎だとされている事でした。たぶん彗星群は地球に命中します。けど、人類は生き残ったのでしょう。今私が生きているのがその証拠です。頑張ってください。生き残ってくださいね。私たちも頑張っています。今まで助けてくれて本当に有難う」

 女王は未来人がそう言っているのなら本当に彗星は地球に当たるのだろうと思った。女王ならこの人類の危機に対して何かをしなければなるまい。


 女王は城の庭に泊めてある宇宙船のモニターに向かって座っていた。そのモニターには月と地球の間に泊められているツルツルの人の母船内に居るツルツルの人が映し出されていた。

「人類全ての神と話がしたい」

 と女王は言った。

「これは俺とあいつらとの戦いなんだよ。あいつらというのはどこの誰だか分からない。けど、この攻撃は俺、地球に対してのものだ。俺にはそれが分かるんだよ。これは偶然の出来事じゃあない。理由は分からないが俺は喧嘩を売られたのさ。売られた喧嘩は買うしかねえ。この宇宙では他に逃げ道もねえ。お前たち俺の一部は俺が守る。心配するな。とは言っても、俺も正直どうなるか分からん。そうだな、心配なら念のために穴でも掘っておけ。いざというときはその穴に隠れるんだ」

 女王の支配する全ての国々に命令が下された。穴を掘れと。これが世に言う地下迷宮への移動、ラビリンスプロジェクトだ。

 大魔導士アミーズの指揮の元で女王支配下の国々へとアミーズ系の魔導士達が配属された。その魔法を使い、国の地下には広大な地下シェルターが作られた。地下シェルターは深く深くへと広がって行った。一番深い物で地下二十キロメートルに達した。人々はその一大事業を三日ほどで成し遂げた。

 地下シェルターには色々な物が持ち込まれた。地上には何も残さないほどだ。恐竜が狩られてどんどんと加工されて地下に運ばれて行った。全人類の英知が地下に持ち込まれた。人々はその後も地下を掘り進んで行った。深く深くへと人々は進んで行った。

 この情報は全世界に広まり、人々は地下シェルターを作り始めた。彗星が地球に衝突したらどうなるのかということは予想されていた。人類の長い冬がおとずれるのだ。

 人々が空を見上げる。青い空にもハッキリと巨大な尾を引いた彗星が何個か見える。夜になると夜空は尾を引いた彗星群が覆いつくした。尾は西から東へと夜空を横断して流れていた。彗星の尾はキラキラと光りその形を変えていく。それはとても美しい光景だった。

 しかし、この彗星群が後に太陽を回って地球に襲ってくると思うと、絶望が人々の心を襲う。それにしても美しい宇宙の神秘だ。この彗星達に殺されるのならそれで良いかもしれないと思う者も居た。地球の者たちは毎晩彗星を眺めて過ごした。


 五億年前の地球から旅立った宇宙船。その宇宙船が地球に帰ってきたのはこの彗星群がやってくるイベントのためだったのだと宇宙船の乗組員は考えていた。この彗星群が来たのは偶然ではないだろう。誰かがこの事態を予測していたのだ。

 宇宙の旅を思いだす。恒星間の何も無い宇宙空間では何も変化が無い。太陽系外の宇宙は何も変化しない。宇宙空間は死んでいる様だった。

 しかし、太陽の周りでは色々な変化が起こっている。この彗星群の太陽の光を浴びて尾を引く美しさはどうだろう。太陽の光を浴びなければこの彗星はただの氷と石の塊だ。

 宇宙船から無人調査ロケットが彗星群に向けて発射される。彗星群の尾から彗星のサンプルを取りそれを解析するためだ。ロケット内部で解析された彗星のチリの情報は宇宙船に送られてくる。それを見て分析する人々。

 心をときめかせる現象は太陽系の私たちの星で起こっている。美しい彗星群。新たな情報。予想できる破滅。うれしさ。かなしさ。太陽系で一番の変化を起こし続けているのは人々の心だ。地球とは一番面白い場所だと思う。だから人類は他にどこへも行く必要はないだろう。我々は地球に生まれ、地球とともに生きる。もう、どこへも行かない。私たちは地球と共に生きる。宇宙船の乗組員は彗星群から目をはなし、それから地球を観た。


 月が大きくなっていた。毎晩毎晩少しずつ大きくなっている。その月が夜空に上ると彗星群の光が薄くなる。暗い夜道が明るくなった。月の輪郭の周りが青い。月は地球に近づいているのだ。

「今日は月が大きいね」

 とたかし君が言った。

「ああ、本当だ。こんなに大きなお月様は見たことがないよ」

 とたかし君のおじいさんが言った。

 月は空に大きく浮かんでいた。その月を見ながら寝ころぶと月の上に自分が落ちていく様な錯覚を感じる。大きなクレーターが見える。大きな隕石が落ちたのだろう。月に落ちた隕石は月に当たって粉々になってしまったのだろうか?


 宇宙船から月に移動して居た乗組員は地球を見ていた。地球がとても大きく見える。地球に手が届きそうだと思う。月と地球の距離が近づいている。地球は月を愛しているのだと思う。そうであったらもう私は傷つかないだろう。月を離れる宇宙船の窓から「さよなら」と彼女は月に言った。


 彗星群は地球を通り過ぎ太陽へと向かった。太陽の明るさで彗星は肉眼ではもう見えない。

「まあ、どうだろうね。俺と月とが近づいた事で少し彗星群の軌道が変わったかね?ダメだったかね?」

 数個の彗星は太陽に突進して太陽に体当たりをした。そして溶けて蒸発した。それは地球の重力の少しの変化が起こした変化であった。しかしそれ以外の彗星は太陽をグルリと周り地球の方へと向かっている。

「俺は重力を消す事はできない。地球を目指している彗星群は俺を目指して来るだろう。それは俺がやつらを重力で引きつけているからだ。俺は魅力的なんだよ。たぶん暇つぶしの相手としてな。しかし、俺もただ殴られる様な事は嫌なこった。あいつらが来た方向は覚えている。まあ、これは俺の暇つぶしでもあるかもしれないのか。宇宙的な時間の中での暇つぶしだ」

 彗星は太陽の方向から地球へとやって来る。だから夜空にはもう彗星群は見えなかった。夜空には無数の星が見えた。今まで見えなかった遠い場所にある暗い星も見えた。たかし君は星空を外で見ていた。

「ピッチャー第一球を投げました打ったー。左中間を抜けたー」

 と家の中からお父さんが見ているテレビの音がする。

「あっ」

 たかし君が声を上げる。

 地平線から打ち上げられた様に無数の流れ星が天上を目指して流れだした。夜空を駆け上がっていく光。その光の中に大きな光の塊が何個かあった。その大きな光は消えずに夜空を駆け上って行く。そして天の真上まで行くとそこで白く輝き続けた。それは彗星が地球を去っていく光景であった。地球の裏側では少し前に日蝕が起こっていた。大きな月の影の周りから花火の様に光が弾け飛んだ。彗星が月に衝突したのだ。その光が暗い空に降り注いだ。その光は月の影から広がり素早く空を無数の流れ星でおおった。彗星は地球をかすめて通り過ぎ、宇宙の果てへと向かい飛んでいった。彗星のチリに覆われた地球に流れ星が降り注ぎ続ける。それは史上最高の天体ショウ。

「始まりました」

 ツルツルの人が夜空を見ながら言った。


「俺は月に地球の重力を加える事で彗星を月に誘導した。月にブチ当たった彗星は粉々に砕けた。彗星の破片は太陽の熱でいつしか溶けて無くなるだろう。月をかすめて地球のすぐ近くを通過した彗星があった。この彗星を俺は重力を使って彗星が元来た方向にぶん投げた。地球をかすめた彗星があった。そいつは火の玉となり地球の大気を通り抜けて行った。そして月を回避して地球に当たる軌道の彗星があった。これは地球の時間を三日ほど戻して地球の位置を少し移動してやり過ごした。これで災難は去ったと思ったのだがな。わりい、少し寒くなるよ。あなたのマザーネイチャー地球より」


   ☆氷河期の地下生活☆


 氷河期がやってきた。太陽の活動が少し弱まっていた。彗星が太陽に衝突した事が原因だと考えられる。地球にたくさん降り注いだ流れ星も大気の温度の低下の原因だと思われる。夜空には宇宙にあるチリがキラキラと輝いていた。太陽光が地球の周りで宇宙チリに当たって散乱しているのだ。地球の公転が少しずれた事も原因だと思われる。月の公転もずれた。彗星が太陽系にやってきた事は色々な変化を地球にあたえた。その結果、氷河期がおとずれたのだ。

「それでも赤道の方はけっこう普通らしいよ」

 人類は地下に住んでいた。大きな穴が街の中に開いている。その穴の上に光をとおすプラスティック製のドームがあった。地下は地上に比べて暖かい。地熱がある。彗星群がやって来たときに掘った穴があったので、氷河期になってからの地下文明はすぐに盛んになった。

「まあ、南国までとはいかないが、ここも住むには悪くないさ」

 ゴリゴリと光取り入れドームの掃除をする二人。

「昼飯は何にする?」

「そうだなー、キノコバーガーにするか今日は」

 地上からの光を取り入れて地下ではキノコが栽培されていた。野菜も栽培されている。野菜栽培に足りない光は電気で補っている。

「おーい、こんにちわ」

 と声がする。

 狩人達が帰ってきたようだ。

「おお、お帰り」

「今日はマンモスがいたぜ」

「マンモスが出てきたか」

「マンモス食ってみてえ」

 アレーゼの大地では大きな虫と恐竜はほぼ全滅した。大きな木は枯れて倒木していた。そのかわりに新種の哺乳類が出現した。そして哺乳類は少しずつ大きな種類が出現していた。

「地球の神様も適当だよな」

 針葉樹の木が大きな倒木の間から伸びている。大きな倒木にはコケが生えていた。


「アミーズ様」

 ウルガクナシヤがあわててやって来た。

 コンピューターのモニターを見ながら大魔導士アミーズは

「んん?どうした?ゾンビでも出たか」

 と言った。

「奥方さまが産気づきました」

 ガタガタゴッシャーンと大魔導士アミーズは椅子から転げ落ちた。

「病院病院」

 大魔導士アミーズは部屋を走って出ていく。

 あわてている大魔導士アミーズを見てツルツルの人が

「どうしました?ゾンビでも出ましたか?」

 と言う。

「生まれるみたいだ。ツルツル、産婦人科に行くから輪タク呼んできて」

 それを聞いてツルツルの人は全てを理解する。

 大魔導士アミーズが女王の部屋に着くと、

「いたいいたいいたい、きたきたきた」

 と女王が大きなお腹を抱えていた。

「ハニー、大丈夫かい?」

 大魔導士アミーズが女王の肩を抱く。

「馬鹿、ハニーじゃないわよ。いたいいたいいたい、病院病院」

 女王は輪タクに乗せられて産婦人科へと向かった。

 

 大魔導士アミーズと女王が結ばれたいきさつ。

 大魔導士アミーズがある日女王をデートに誘ったらしい。

「ねえ、僕とキノコをつみに行きませんか?」

 と誘ったらしいのだ。

 それで女王が大魔導士のキノコを摘んでしまったのだと酒場では言われている。 

 氷河期に入ってから大魔導士アミーズの趣味はキノコの繁殖だった。彼は大きなキノコ農場を作りキノコを栽培していた。その趣味はビジネスになり、彼のキノコ工場は他国にも広がった。

 今では誰でも言う「敵にキノコを送る」とは彼がテレビの宣伝で言ったフレーズだ。

 大魔導士アミーズは大キノコ会社のオーナーになった。彼の発言は政治にも影響をおよぼすほどだ。


「はい、お父さん」

看護師が大魔導士アミーズにハサミを渡した。

「え?」

「はい、これでヘソの尾を切ってあげてちょうだい」

 子供のヘソに白と紫色のスパイラルしたコードが繋がっている。

「え?俺はいいです。看護婦さんお願いします」

「ダメですよ、お父さんがやってあげなきゃ」

 本当に切ってしまって良いのだろうか?

「うわああああ」と心で叫びつつ大魔導士アミーズは勇気を出して子供のヘソの尾を切った。



「あ、たかし君。久しぶり」

 たかし君は久しぶりに隣の家のお姉さんと会った。お姉さんは赤ちゃんを抱っこしている。お姉さんはたかし君に微笑みかけてから実家の家の中へと入って行く。お姉さんはまるで別人のようだとたかし君は思う。お姉さんはもう前と同じお姉さんではないのだ。お姉さんが別の世界へ行ってしまった気がした。たかし君は少し寂しくなった。


   ☆メイドロボット☆


 十三の猿。彼らの一人が新しく開発した素材を仲間に説明している。

「この薄い板だが、これに熱を加えると、この様に曲がる。瞬発力がある曲がり方をする。これを冷やすと元に戻る。この素材を筋肉の様にして腕を作ってみた。素材に加える熱には電気を使っている」

 クイッと腕が曲がる。

「この腕の力は君たちのお母さんほどあるよ」

 お母さん?十三の猿人は買い物袋を抱える母を思い浮かべた。

「僕はこの素材を使ってロボットを作ろうと思う。メイドロボットだ」

 十三の猿達はメイドロボットの開発に成功した。その動きは生物の様であった。人工知能はツルツルの人から技術援助してもらった。

「さあ、家の掃除をしろ」

「はい、ご主人様」

 その様にメイドロボが素直に働いていたのは三日ほどだった。

「おい、家を片付けておけと言ったのに、仕事をしてないじゃないか?」

 メイドロボはソファに座ってテレビを見ていた。

「ご主人様、だって、お給料も出ないんじゃ、やってられませんわ」

 このロボットの人工知能には学習能力がついていた。

 人間の様に動けるロボットはすぐに全世界で作られ始めた。人工知能があるロボットは人間の様であった。しかし、怠け者だ。給料をやらないと働かない。

「わあ、あの新しいCPUにアップデートしたいわあ」

 こんな時は少し一生懸命に働く。

 ロボットの腹には充電電池が入っている。彼らは腹の電気が減るとコンセントから電気を得た。電気さえあれば動けるのだがらあまり頑張る気が無い。怠け過ぎたロボットの電源が無くなる。すると予備電源のスイッチが入る。それでコンセントまで辿りつく。

「このガラクタを捨ててこい」

 ロボットはあまり社会に受け入れられなかった。第一の原因は地下の家が狭いのでロボットがあると邪魔なのだ。さらに働かないので邪魔だ。雇い主が居ないロボットは電気泥棒などをして人々に迷惑をかけた。

 知能があるロボットを打ち壊してしまってもいいのだろうかという議論が起こった。そしてロボットにも人類の法律を使用する法が決まった。ロボットにもちゃんと給料が支払われる様になった。その頃からロボットたちも心を入れかえて生活するようになった。

 ロボットの数が増えていた。ロボットがロボットを生産していた。増えすぎたロボットは地上に出て行きロボットの国を作った。そしてロボット文明が起こった。電力を最大限に得るためにロボット達は宇宙を目指している。


   

   ☆大魔導士の冒険☆ 


 地球が暖かくなり始めた。人々が地下から地上へと出て行く。巨大な地下都市はその存在価値を小さくしていく。そしてその存在はすぐに忘れ去られた。もう必要が無いのだ。地下には巨大な遺跡が残った。ロボット文明は衰退していた。ロボットの数が増えた事で電気が不足したのが原因だ。ロボットは宇宙に行けなかったようだ。ロボットの国は崩壊した。少数のロボットたちが人間の世界で生き残っている。地上に大きな虫はもう現れなかった。大きな爬虫類も現れなかった。それは地球の力が弱まっているからだと考えられた。

 大魔導士アミーズのキノコ会社は倒産した。過疎化した地下施設と共に無くなってしまったのだ。地下都市で築いた財産は全て地下都市と共に消えた。今では地下都市はダンジョンと言われている。

 ダンジョンにはモンスターが住んでいる。何処からきたのか、氷河期以前の生物の生き残りが無人のダンジョンで繁殖していた。大魔導士アミーズはそのダンジョンで宝探しのガイドをして生計をたてている。

「父さん」

「おお、こうじ」

 こうじとはアミーズの息子の名前だ。

「母さんは元気にしているか?」

「うん。元気だよ」

 アミーズのキノコ会社が倒産してすぐにアミーズは独り者になってしまった。

「町長が父さんを呼んでいるよ」

「町長が?それは行かねばなるまい。こうじも一緒に来い」

「うん、いいよ」

 二人は町長の居る町役場まで行くことになった。

「お久しぶりです、アミーズさん」

「こんにちわ、ツルツルさん。まったくお変わりありませんな」

「ははは、まあ、不老不死ですからね」

 この時はツルツルの人が町長になっていた。だてに五億年も生きてはいない。

「今日、来てもらったのは、人類全ての神からある情報を得たからなのです」

「ほう?地球からですか?」

「女王様のしていたダイヤの指輪がありましたね。あのダイヤなんですが、あれは地球上に十三個あるらしいんですよ。で、ですね、あれが人類全ての神の本体らしいんです」

 大魔導士アミーズは大きく頷きながら、

「ははあ、そうだったのか。あのとき俺の魔法が出せなかったのはそのせいだったんだ」

 と言った。

「ええ。で、ですね、なんとこの十三個のダイヤを集めると、何でも願いがかなうといいます」

 ツルツルの人と大魔導士アミーズは互いを見つめ合う。そして、

「ふははははははは」

 と笑いあった。

 ツルツルの人が真面目な顔で言う。

「いや、実はこのダイヤをあなたに集めて欲しい。プラネットハックが使えるあなたなら十三個のダイヤを集める事も不可能ではないと思います。私たちはある事を計画しています。それはシステム人類全ての神を火星に持って行く事です。そして火星をハッキングします。そしてテラフォーミングを行う。そして火星に生命を誕生させます。そしてその生命は進化をとげていつの日か知的生命体となるでしょう。私は私たちと火星の知的生命体が交流するのを観察したい。人間が地球外生命体と出会える可能性はこの方法が一番高い。これは私たちの五億年の夢だ」

 それを聞いて、大魔導士アミーズは答えた。

「まあ、あなたの言う事はわかる。五億年も宇宙をさまよって宇宙人に出会えなかったあなたたちだ。しかしですね、今のこの地球には色々な種類の人がいる。人間、猿人、恐竜人、ロボット、そしてツルツルの人。無理やり宇宙人を作り出さないでもいいんじゃないですか?」

 それを聞いてツルツルの人は言った。

「暇なんですよ」

 大魔導士アミーズは十三個のダイヤを求めて旅立った。氷河期の後の土地売買で一儲けしたウルガクナシヤ、大魔導士アミーズが家で雇っているメイドロボ、十三の猿から暇な一人と共に。暇な人物を集めた冒険隊だ。朝日に向かって歩いて行く四人を人々は見送った。さらば、大魔導士アミーズ。かならず帰ってくるんだぞ。


「こんにちわパオーン」

 マンモスであった。

「僕達も言葉が話せるようになったから、もう食べないで欲しいパオーン」

とマンモスが言った。

「若い者は二足歩行もできますじゃパオーン」

 年老いたマンモスが言った。

「これが孫の万太郎」

「万太郎です」

 万太郎は大きかった。三メートルほどある。

「まあ、こいつもまだまだ育ち盛り、もっと大きくなるパオーン」

 マンモスを狩ってマンモスを食べるグループツアーでの出来事だった。さて、なんでマンモスが言葉を話しだしたことやら。

「裏山の婆さんの家のテレビで覚えたパオーン」

 マンモスは言った。

 言葉を話すマンモスを殺したら、訴えられるんじゃないだろうか?

「お客さん、このマンモスの牙で作ったネックレス買ってくれないかパオン?」

 ツアー客は万太郎が差し出すネックレスを買った。マンモスは商売上手だった。

 いつの間にやらマンモスは村を作って暮らしていた。そこにはマンモスの文化があった。マンモス文明が起こっていた。

 「これで魚が喋り出したら食う物が無くなるな」


 大魔導士アミーズは大魔王と言われる様になっていた。彼には全世界に魔導士の弟子が居るのだが、そのネットワークを使って世界を支配しようとしていると言われていた。実際に彼の組織は盗みなどを行っていた。世界中の名のある宝石を強奪していた。

 十三個の宝石を集める旅に出た彼だったが、人にまだ見つかっていなかった宝石は無かったのだ。交渉して買い取ろうにも宝石は高い。大魔導士アミーズの組織は王冠に取り付けられた宝石を奪うために国一つを滅ぼしたとも言われていた。

 ある日、その大魔王から女王に手紙が来た。

「ダイヤ知恵への献上を貰い受けたい」

 手紙にはそう書かれていた。

「ついに来たか」

 勇者こうじの一言だった。

 ピンポーン。

 ガチャリ。玄関のドアが開く。

「お父さん」

「おお、こうじか。しばらく見ないうちにこんなに大きくなって。本当に時間ほどいい加減な物はないな。お母さんは居るか」

「うん。上がって」

 大魔導士アミーズは息子のこうじの後に続いて家に入った。

「旅の途中でさ、ペンギンが俺に話しかけて来るんだよ。ペンペンペン。私はペンギンだペンってさ。そのペンギンの背後には村があってさ。もう冬の吹雪に立ち尽くす事も無くなったペンって言うんだ。その村の家の窓から暖かい光が漏れててさ、中から母親ペンギンと子供のペンギンが仲良く笑っている姿が見えたんだ。でさ、旅人さん、今夜は吹雪になりますよ、一晩村に泊まっていきなさいペンって言われたんだ。けど、俺はその誘いを断ったんだ。いや、俺には使命があるからってさ。その晩、俺は一人吹雪の中を歩き続けたんだ。お前とこうじの顔が浮かんでさ。で、行き倒れてしまったんだ。気がついたらペンギンの家に居たよ。それで、体が良くなるまで居るといいペンって言われて、俺はそこで何日か泊まったんだ。ペンギンも人間と同じだったよ。家族は良いなって思っったんだ」

「で?」

「まあ、これがペンギン村に行った時の話だ」

 女王はダイヤの指輪を指から外すとそれをテーブルの上に置いた。

「くれるのか?」

「さあ、どうしようかしら」

「意地悪言うなよ」

「あなたのそういうところが嫌いなのよ」

 大魔導士アミーズは少し押し黙って考えた。

「じゃ、こうしよう。ここに十二個の宝石がある。これをお前にやる。これで俺の仕事はおしまいだ。あとは、お前に任せるよ」

 大魔導士アミーズはゴロゴロとテーブルの上に十二個の宝石を出した。

「じゃ、さよなら」

 大魔導士アミーズは玄関のドアを開けて出て行った。

「ちょっと、待ちなさいよ。どうするのよこれ!」

 と女王の声が聞こえたが、大魔導士アミーズはスタスタと家を出て行った。


「でさ、カンガルーのやつらがさ」

 と大魔導士アミーズは酒を飲みながら息子のこうじに語っていた。居酒屋だ。

「私はカンガルーだぴょん、ここから先は何も無いから私の村で装備を整えると良いぴょんって言うんだ。あいつら俺の事ボッタクリやがってよ」

 大魔導士アミーズは酔いつぶれそうになっていた。

 ガラガラガラ。店へ女魔導士が入って来た。

「あ、居た居た。先生。あ、こうじ君、ごめんねー」

 と女魔導士がアミーズに歩み寄る。

「ん?なんでお前がここに居るんだよ」

 大魔導士アミーズが言う。

「僕が呼んだんだよ」

 息子のこうじが言った。

「この野郎。余計な真似をしやがって」

 立ち上がろうとしたした大魔導士アミーズがよろける。それを支える女魔導士。

「さあ、先生、帰りましょう」

「うん?まだまだこれから飲むぞ俺は、このやろう」

 大魔導士アミーズは完全に酔っ払っていた。

「こうじ君ありがとうね」

 女魔導士は会計をしてから大魔導士アミーズと店を出て行った。

 大魔導士アミーズは

「おう、こうじ。またな」

 と言い残して出て行った。

 大魔導士アミーズの息子のこうじは女魔導士に頭を下げた。

「父の事をよろしくお願いします」

 と。



   ☆そして火星へ☆


 祭りだ。街の大通りをパレードが通る。住民は道の歩道から大声援をあげていた。パレードの神輿にはツルツルの人が乗っていた。ツルツルの人は手を降って大声援に答えている。街のビルから垂れる垂れ幕には「ツルツル人火星遠征旅行必勝祈願万歳」などと書かれていた。

 神輿は街の中央の公園に仮設されたステージの前に止まる。神輿から下りたツルツルの人はステージの上に上がった。ツルツルの人が両手を振り上げると大歓声がそれに答える。

「ありがとう。ありがとう」

 ツルツルの人が言うと歓声は静まっていく。

「私には夢がある」

 ウワーっとまた歓声が上がる。

「私には夢がある。五億年も夢見た夢だ。それが今日この時にかなおうとしている。私は今から火星に行く。そこで新しい世界を開拓しようとしている。そこには私たちが今まで出会ったことのない世界が作り出される事であろう。まだ見ぬ世界。私たちはそれを求めている」

 ウワーっと歓声が上がる。と、頭上に光る物体が下りてきた。ウワーっと歓声が上がる。円盤状の物体だ。

 円盤状の物体は公園の仮設ステージの横に下りた。円盤状の物体に穴が開き、中から誰か出てきた。宇宙服を着ている様だ。しかし、不思議な事に手と足の数が多い様に見える。その誰かはステージの上に上がりツルツルの人の前に立った。そして一礼する。つられて一礼するツルツルの人。マイクの前に立ったその誰かは、

「こんにちわ。地球の皆さん。私は宇宙人です」

 と言った。

 そして会場は静まり返る。

「なんちゃって」

 宇宙人がそう言うと、円盤の中からダンスチームが走り出してくる。そしてステージに並んで踊りだした。ウワーっとまた歓声が上がる。

 祭りであった。



   ☆未来からの来訪者☆


 ついに人類が火星に行くんだ。たかし君はテレビを見て興奮していた。

 この一年は大変な年だったとたかし君は思った。まるで地球が生まれてから今までの歴史を一年で経験したような年であった。色々な人種が増えたし、地球の環境の激変にはとても困った。隣の家のお姉さんにはいつの間にか息子ができていたし、お姉さんはどこか違う街に出て行ってしまった。たかし君は長い冬に地下で過ごした経験を一生忘れないだろう。

「たかしー、らんまるちゃんに水やったかー」

 と父親の声がする。

 たかし君はらんまるちゃんに水をやってから学校へ向かった。

 たかし君の肩パットは金色であった。腰の剣には名があった。立派なものだ。

「たかし君、おはよう」

 恐竜人の女の子だ。

「おはよう、龍子ちゃん」

 たかし君は友達も増えた。

「なんか、私のお母さんが言ってたんだけど、今日、転校生が私たちのクラスに来るらしいよ」

 龍子ちゃんのお母さんはPTAの役員をやっていた。

「へー、まあ、最近多いからね、転校生」

 たかし君のクラスには最近ペンギンが転校してきたばかりだ。

「けど、今度の転校生は人間らしいよ」

 と龍子ちゃんは言った。

「女の子だって。気になる?」

「いや、別に」

 たかし君は言った。

 教室に着くと、

「おはようニョロ」

 と隣の席のニョロ太が言った。

「お、おう、おはよう」

 たかし君が言う。

 ニョロ太はニョロニョロと動いている。彼がクラスに転校してきてから一月以上経つのだが、彼が何人か未だに分からない。

 キーンコーンカーンコーンと始業のベルが鳴った。先生がやって来る。

「はい、席について」

 先生は新任のツルツル先生だ。

「転校生を紹介します。じゃ、入ってきて」

 と先生が言った。

 しかし、なんで先生はいつも転校生を紹介するのにもったいつけるのかとたかし君は思う。女の子が教室に入ってきた。

「じゃ、自己紹介をお願いします」

 と先生が言う。

「ひみこです。未来からやってきました。よろしく」 

 と女の子は言った。


 休み時間だ。

「ひみこちゃん未来から来たんだって?すごーい。未来ってどうなってるの?」

 などと龍子ちゃんの声が聞こえてくる。ひみこってのはあのひみこだろうか?とたかし君はずっと考えていた。瞬間接着剤のひみこ。

「ニョロ太、今日もニョロニョロしやがって、この野郎」

 とクラスの男子がニョロ太に絡まりついていた。

「ニョロ太は植物なのではないだろうか?」

 とたかし君は思っているのだが。

 それにしてもひみこの事が気になってしかたがない。


 放課後。

 たかし君は神社の石碑の前に来ていた。この石碑の下には大量の瞬間接着剤とその他の物が埋められている。全部ひみこからのメールで依頼された物だった。

「たかし君」

 声に振り返るとそこには転校生のひみこが立っていた。

「うわ、何?」

 驚くたかし君。

「ありがとう、たかしくん。あなたのおかげで未来は救われました」

 とひみこは言った。

「え?じゃあ、やっぱり君が未来からメールをくれたひみこなの?」

「うん。そうよ。私はずーっと遠い未来から来たの」

「どうやって?」

「神社の裏に穴があるのよ。その穴がこの時代に繋がっていたのよ」

 二人は神社の裏に行った。そこには木の板が地面にはめられていた。

「ここに穴があるわ」

 ひみこが言った。

 すると突然板がゴトゴトと動いて開いた。中から人が出てきた。

「あ、ひみこちゃん。今帰り?」

 男であった。

「あ、博士。いま、たかし君に穴を見せていた所です」

「ああ、君がたかし君か」

 と博士と呼ばれた男はたかし君の手を握ってきた。

「ありがとう、たかし君。君の活躍で未来は救われたんだよ」

 と博士は言った。


 完。


まあ、初めて書いた長い小説がこれです。俺的にはかなり面白く書けたと思うのです。

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