表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

プロローグ②




僕が人間たちに遭遇したのはエルフの里を出た森の中だった。


僕はその時人生で初めての狩をしていた。


生まれて20年。


先月ようやくかあ様から里の外の森に行く許可がおりて、楽しみにしていた。


もちろん、一人では許可がおりず、エルフの大人たちと一緒に森まで来たわけだが。


エルフやハイエルフの成人は100歳からで、20歳の僕はまだまだ子供扱いだ。


体は大分大きくなり、背は160㎝で細身ながら大人のエルフと力くらべしても僕の方が強い。


魔法もしっかりと使えるようになっている。


当然、エルフやハイエルフだけの精霊魔法から人間たちが使うような属性魔法まで。


初めての狩という事もあり魔法ではなく弓でやる。


これはエルフの里の伝統で初めての狩では弓を使う事は決まっていた。


詳しい事は知らないが4代前の女王が決めたらしい。


なんでも、エルフは森の民なのだからなれない魔法を使って森を傷つけるような事が起きないようにらしい。


まぁ僕は弓の扱いにも自信があるからいいんだけど。


今回の狩の標的はロウロウ鳥といって、新人向けの動物だ。


ロウロウ鳥は30㎝位から60㎝位の大きさで肉質がよく、エルフのほとんどの人の大好物である。


因みに僕の大好物でもある。


特徴としては羽が退化しており飛べず、歩いて移動する。


体色は茶色が多く、昼間なら見つけやすいが夜になるとなかなか見つからない。


また、夜行性であるため、昼間は住処からあまり動かず、また動きが鈍くなっている。


だから朝から昼にかけて狩る事が多い。


ほら、言ってるそばからロウロウ鳥だ。


僕は草を掻き分けて弓が届くところまで近づく。


ロウロウ鳥はまだ僕に気づいていない。


頭に狙いを定め弓を引き、矢を放つ。


放たれた矢はロウロウ鳥の頭を撃ち抜き、木に刺さった。


やった!成功だ!


飛び上がりたい気持ちを抑え、仕留めたロウロウ鳥の元に急ぐ。


大きさは50㎝位の大物だった。


「どうやら、仕留めたようですねアルファデウス様」


今日の狩に僕の護衛として参加していたエルフが僕に声をかける。


「あぁ、はじめてだったがうまくいったよ」


僕は声をかけてきた男のエルフにかえす。


一応、かあ様や姉様以外には口調を少しだけ変えて話している。


だって僕、王子だしね。


「おお〜い皆〜!アルファデウス様の狩が無事うまくいった。引き上げるぞ〜!」


男のエルフが大声をだして周りのエルフたちに伝える。


僕の護衛として来たエルフたちが集まってくる。


僕もロウロウ鳥を縛り上げ肩に担ぎ、帰る支度をする。


するとそこに嗅いだ事の無い不快な臭いが漂ってきた。


別に臭いわけでは無い。


ただ、心の底から嫌になる臭いだった。


「なぁ、この臭い、なんだと思う?」


僕が周りのエルフたちに聞くとエルフたちもその臭いに気づいた。


多くのエルフが顔に憎悪の色を浮かべ、女のエルフたちは恐怖からなのか顔が真っ青に染まる。


「アルファデウス様。どうやら人間が近づいてきているようです。急いで里に戻りましょう」


エルフの男が僕にそう告げる。


他のエルフは急いで里に帰る準備をする人と迎え撃つ準備をする人に別れていた。


「いや、僕は人間が見てみたい。果たしてかあ様がおっしゃるような種族なのかを確かめたい」


今がチャンスだ。


これを逃せば次に人間を見られるのは何十年か先だ。


きっとかあ様のことだから今回の狩に人間が現れたと知ったら当分は僕、狩禁止だろうからなぁ。


だからなんとしても見てみたい。


「いけませんアルファデウス様!人間は恐ろしい種族なのです。もし捕まったりしたらもう二度と此処に戻ってくることはできません!」


「そうですよアルファデウス様!此処は我々に任せて逃げてください!」


次づぎとエルフたちが止めてくるが僕はどうしても人間が見たい。


なんとかして説得しないと。


「大丈夫。そこまで近くには行かないし、見るだけだからさ。それに僕はいずれ人間と戦うことになるだろうから、今のうちに見ておいた方がいい」


「し、しかし…」


「問題ないって。もし見つかっても大丈夫なように逃げる準備はしておくからさ」


「…分かりました」


エルフたちはまだ納得していなかったが、僕が王子であることもあり強く言えず、顔をしかめながらも了承してくれた。



僕は臭いがする方へゆっくりと歩んで行く。


僕の両隣りにはエルフの男がそれぞれ2人ずつ並びながら歩き、後ろには6人のエルフたちがついてきている。


さっき顔を恐怖に染めていた女のエルフたちは先に里に戻っている。


あとでかあ様に言わないとあのエルフたち、怒られちゃうな。


そんなことを考えていると、多くの方に人型のシルエットが見えてくる。


僕たちは歩くのをやめ、人間に見えないよう隠れた。


人間の人数は20人とかなり多い。


目を凝らして見ると、皆なかなか良さそうな装備をつけている。


といっても僕にはどれくらいの価値があるかわからないけど。


人間たちが少しずつ近づいてくるのを隠れながら見ていると突然、後ろから魔法が迫ってきていた。


僕たちは急いで回避すると、周りには40人を越える人間が集まっていた。


あの人間たちは囮か。


僕たちが見ていた人間たちもこちらに走って近づいてきている。


僕たちは背中を合わせ、戦闘体制をとる。


「若様、私たちが魔法を放った隙にお逃げください」


「そんなことは出来ない。僕が望んで此処にきたんだ。レーナたちを残して逃げることは出来ないよ」


僕が幼少(エルフ達からみれば今も幼少)の時から僕に仕えてくれたレーナという女のエルフが僕を逃がそうとするが、僕はそれを否定した。


だって僕はレーナに言ったとおり自ら望んでこの場に立っているのだから。


「若様は我らエルフの王子です。捕まれば確実に奴隷にされてしまいます」


「そうなる前に倒せばいい。このメンバーなら出来るだろう?」


「ですが…」


レーナと僕が口論している間に指揮官と思われる人間が前に出てくる。


「これはこれは麗しのエルフが11人もいるじゃないですか!しかもそのうちの1人はまだ子供!これは高く売れそうだ」


下劣な笑みを浮かべながら僕たちを品定めしてくる。


僕はその笑みから目を背けるとレーナに他の護衛のエルフが何か耳打ちをしている様子が目に入った。


僕は怪訝に思い、耳を済まそうとするもその前にレーナが僕に向かって魔法を唱えた。


レーナの手の中から多数の鎖が現れて僕を縛り上げようとする。


僕は回避しようとするも咄嗟のことで間に合わず、縛り上げられてしまった。


「どういうことだレーナ!まさか僕を人間に売るのか!?」


「申し訳ありません若様…。しかし私たちにはこうすることしか…」


レーナの行動に僕は激昂するがレーナは悲しそうな顔をするだけだった。


「ハハハハハッ!まさか仲間割れか!?よーし、その子供のエルフを此方に引き渡せばお前達は見逃してやる!」


指揮官がレーナにそう言い放つがレーナがそれに答える前に他のエルフが発言する。


「何をバカなことを言っている人間。我らエルフが同胞を差し出すわけがなかろう」


「ほう。ではなぜその子供を縛り上げた?」


「それはな…」


答える前に男のエルフは右手を前に突き出し瞬時に魔方陣を展開する。


「此処から逃がすためだ!」


展開していた魔方陣が発動し、あたり一体に凄まじい閃光がはしる。


「レーナ!今だ!」


男のエルフがレーナに向かって叫ぶとレーナは俺を担ぎ、里のほうに向かって全力で走る。


僕は閃光を防ぐことが出来ずくらってしまったため目を開くことが出来ない。


レーナは僕を担ぎその場から離れていると交戦音が聞こえてくる。


その時に僕はレーナと男が何を話していたか理解した。


「おい!離してレーナ!皆が戦っている。僕も加勢しないと!」


「なりません。彼らは若様を逃がす為に囮となったのです!彼らの為にも此処はどうか、私と一緒に里まで逃げてください!」


僕は此処まで感情を露わにしたレーナの声を聞いたことがなかった。


「分かった…。里まで頼む」


僕はその声に従わざる負えなかった。





僕とレーナは無事里までたどり着くことができた。


しかし、僕たちを逃がす為に囮となった9人のエルフたちは里には帰ってくることはなく、あとから聞いた話だと皆人間に捕まって何処かに売られたらしい。


僕があの時、人間が見たいと思わなければ…。


後悔の念と同時に何が何でも助け出すという想いが僕の中に生まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ