どうでもよきかな登校試聴
「じゃあ話すぞ、私がなぜ友達がいないかを」
「おーおー、話せ話せ」
俺は少しヤケになりながら適当に返事する。にしても、なんで昨日戦って負けたやつと一緒に登校しなきゃならねぇ………罰ゲームより気分最悪だぜ。
俺はそんな憂鬱な気持ちになりつつ、とりあえずラジオ代わりに軽く聞きながら相づちを適当にうってやることにした。
「来たばかりで友人がいない、これは実に当たり前だ」
「ああ」
「そして昨日君に勝ち、クラスメートから色々称賛をもらった」
「イヤミかテメェ」
「だが私は気付いてしまった………」
「何にだよ」
「…目立つのは、恥ずかしい……と」
そんなん知るかバカ、と思いつつも俺は仕方なく会話を続ける。
「それと友達に何か関係あんのかよ、むしろ作りやすいだろ」
「実にその通りだな、だが……ほら、私は意外と恥ずかしがりやでな……君のような血気盛んな者以外とは馴染めるかどうかが不安なのだ」
はぁ? 普通逆だろ……とか考えながら、俺は聞く
「なんじゃそりゃ、じゃあなんで現在冷静な俺とは話せてんだよ」
「戦った相手とは友情やら因縁やらを感じて、妙に話しやすくなるじゃないか」
と、にこやかに言ってきた。共感出来ないことはないが、おかしいだろその考えは。
「…お前って変なヤツだな……」
というと、そうか?と言って転校生は首を傾げた。もしかしてこいつはバカなんじゃないか…?
そんなことを考えながら、更に会話を続ける。
「というかなぁ……昨日俺を負かしたテメェが笑顔で俺に話しかけた神経を疑うぜ、全く……お前みたいな女に負けたなんて人生の汚点だぜ」
「良かったな、早々と人生の汚点が出来て」
「嬉しくねぇよアホ!」
駄目だ、こいつと話してると熱が出てきそうだぜ…と思っていると、転校生は顔を少しうつむかせて、言った。
「だから……まぁ、現在この学校で気安く話せそうなのは君ぐらいなんだ、故にその……私と、友達になってくれないか?」
そして、こちらを向き、笑顔で再度手を差し出した。
俺はその手を
パチンッと払って、嫌な顔をして言った。
「けっ、やなこった、負けた相手と仲良しごっこなんてやってられっかよ、作るんならもっと優しいやつにでも友達になろうとか言うんだな」
俺はそう言って、スタスタと歩く。
へっ、いい気味だぜ、ちっとは反省しな。そう思いながら、ちらりと後ろを見ると。
…まるで何もなかったかのようにケロッとした顔で、真後ろから着いて来ていた。
「荒々しいハイタッチだな、レンガも実は恥ずかしがりやか?いや、実は女子の手を触るのも出来ないぐらいの純情くんか?」
「お前なんで着いて来てんだよ!? つうか呼び捨てかテメェ!」
「友達だからそれぐらいはいいだろう?」
「何勝手に友達認定してんだお前!? 今俺はイヤって言っただろ! 少しは否定による嘆き傷つき絶望するっていう三拍子を噛み締めろ!」
「ははは、噛み締めることは出来ないよ。だって友達って言うのはいつの間にか、なってるものじゃないか」
転校生は静かに、憂い気な感じで言った。
俺はその言葉を聞いて、ハッとする。
いつの間にかなっているもの、か。
俺はふっ…と笑って、言った。
「友達なろうって言ったのはテメェからじゃねぇかぁぁ!!」
「それは友達なのに友達になろうって言うジョークだよ」
「だから誰が誰と友達だぁ!」
そして、そうやって口論していて足を止めてしまっていた俺とこの無駄に繊細なくせにポジティブシンキングなバカは遅刻した。
…その後、授業していた時に気付いた。
その時のアイツは、口調が統一されていたなと、ふと思い出した。どうでもいいけどな。