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まともな理由なんてありはしない

……万里チュウカ先輩から、レンガがここにいると聞いて見てみれば。レンガは倒れて、反川さんが縛られている。


後ろから突然ドアを開けて脅かしてみようと思ってきたら、そんなこと出来る状況じゃないのはすぐに理解できた。


今私がわかっているのは……この男たちが、レンガと反川さんをこんな目に合わせていた、それだけだが、それだけで十分だ。


すると、レンガが私に向かって細々と言う。


「どうして……テメェがここに……」


「万里チュウカ先輩に聞いたんだ。けど……まさかこんな状況になってるなんて思わなかったよ、レンガ」


私は辺りを見回す……数人のガラの悪い男、そして、倒れてるレンガの前でハンマーを持つ男。明らかに、おかしな雰囲気だ。


「誰だお前。元忍者部の部員か? 残念ながら、ここはもう俺たちのもんだ、大人しく消えるか……俺に屈服するか、どっちか選びな、ぎっひゃっひゃ!」


私はそんな金髪の人の言うことを無視して、今気になっていることを聞く。


「……貴方が、レンガと反川さんに酷いことをした人ですか?」


金髪の人は周りの男子生徒達と共に大笑いして言う。


「いいやぁ? むしろ俺らは正義のヒーローだぜ? そこの負け犬くんがそこの縛られた女の子にひっでぇぇことしようとしてたからなぁ、俺らはそれを黙って見てられなくて、ちょっと暴力的に攻撃しちゃったわけだ。でも、しょうがねぇよなぁ? 暴力じゃなきゃ解決しないことって世の中多いもんなぁ! ぎっひゃっひゃっひゃっ!」


「……本当ですか?」


「大嘘だよ。俺たちはそこの負け犬ぶっ殺そうとして、そこの女と楽しく遊ぼうとしていた全く普通の不良ちゃんだよ! ぎっひゃっひゃっひゃぁ!」


……一体、何が楽しいのだろう。私はなぜこの人が笑っているのか理解出来なかった。


「まぁそんなことはおいといてよぉ、お嬢ちゃん、今から俺たちはお楽しみパーティーをするわけだが……勿論混ざっていくんだろうなぁ……ぎっひゃっひゃ……!」


金髪の男は舌なめずりをして、薄汚く笑う。


人の笑みを薄汚いと思うだなんて、私は嫌な人間だな。けれど……この状況を見て、私は彼らを好意的に見ることはできない。


そう思っていると、反川さんが必死そうな表情で言う。


「黒日々さん! そこの今日関レンガと一緒に早く逃げて! 私は気にしないでいいから早く!」


「その、反川さん……それは私には難しいというか……その……」


「……だから、気にする必要なんてないって言ってるでしょう、私と貴方は他人同士なんだから。私は、貴方や今日関レンガが自分のために傷つかれるほうが迷惑なの! だから早く私の視界から消えて!」


そんな言葉を、反川さんは……涙目になりながら言った。すると、金髪の男はまた大笑いをする。


「ぎっひゃっひゃぁ! こいつは最低な女だ! 来てくれたお嬢ちゃんに帰れとは! こいつは躾のし甲斐のある性格の悪さだなぁ! つうか……お嬢ちゃんを帰す気なんて、更々ねぇけどな」


そう言って金髪の男が嗤うと。突然金髪の男の後方から何かが私に向かってくる……これは、鎖!?


私はポケットからカラクリ刀を取り出し、刃を出して鎖を弾き飛ばす。


「ヒュゥ~! ブラボー! 比土の鎖を防ぐとはお嬢ちゃん、バトルバッチ持ちだなぁ!? だが、今捕まっていたほうが良かったかもなぁ……」


金髪の男がそう言うと、周りの男子生徒は私に向かって嗤いながら歩き始める。


「外のバカ兄弟は何の力もないクズだったが、こいつらは正真正銘バトルバッチ持ちだ……つまり、単なる雑魚が多数ってわけじゃねぇ、敗戦濃厚ってわけだ。だがぁ? お嬢ちゃんはもう帰れねぇ、そこの女同様……躾させてもらうからなぁ……!」


「つまり……戦う気がある、ということでいいのか?」


「……お嬢ちゃんもそこの負け犬同様バカかぁ? この人数に一人で敵うわきゃねぇだろうが」


「いや、勝たせてもらう」


私は左足に力を入れ……一気に跳躍し、ニヤニヤと笑っていた男の一人と即座に距離を詰める。その男に私は脇腹に刀で一撃を食らわし、サマーソルトキックのように宙返りしつつ相手のアゴに蹴りを食らわせる。すると男は目を回して膝を折る。あと六人。


私はその男の近くにいた、先ほど鎖を投げてきた銀髪の男にすぐさま刀を横に振って攻撃を仕掛ける。


すると、銀髪の男は舌打ちをして鎖を手放して攻撃を避けた。でも、これでいい。十分だ。


「てめぇ……!」


金髪の男の怒りの声が私の耳に届く、でも……それは私も一緒だ。


「私には、どんなことが起きたのかわからない。けれど……今この状況を見て冷静でいられるほど、私は利口な人間じゃない……!」


本当に悪いのはどちらか、私にはわからないけれど……反川さんがあんな辛そうに声を出しているのに、私は黙ってみているなんて出来ない。


「言うねぇ言うねぇ! だが、どうする!? 今の不意打ちは見事と言ってやるが、もう今のは通用しねぇ! 一人で勝つ気かな? お嬢ちゃん!」


「いや、一人じゃない……まだ、もう一人いる」


私はそう言って、金髪の男の後ろを見る。金髪の男は、私の目線を追いかけ……後ろを見る。


そこには


「あ~、ふらふらするな……けど、まっ……まだやれるか」


鎖から開放された、まるで悪役のように笑う黒髪の少年。



「じゃ、第二ラウンドと行こうか、クソ金髪」



今日関レンガが、立っていた。




++++++++++++++++++++++++




身体はまだちょっとふらつくが、全然問題ないぐらいに痛くねぇ。まったく……油断して、そんで黒日々に助けられるなんてどうしようもねぇな。


「礼は言わねぇからな、黒日々」


「ああ、かまわないよ。私はレンガを助けてやれて、借りを作れたというだけでも十分だ」


久々にムカつくこと言ってくれやがって……だが、今度飯おごってやるぐらいはするか。なんせ……リベンジのチャンスをこんなにも早く与えてくれたんだからな……!


そんな俺を見て、金髪は余裕の表情を浮かべてながら言う。


「ふん……まだ立ち上がれたか。だが、所詮は死に体! 死に体が増えたところでこの状況は覆せなんかしないぜぇ……ぎっひゃっひゃぁ!」


「けっ、勝ってみせらぁ……負けんのは、一回で十分だ」


「……そうか。なら安心しろ……貴様が負けた時は、俺に頭を砕かれて死んでいるんだからなぁ!」


そう言って、奴はハンマーを横に振って俺に攻撃を仕掛けるが……それを、右腕で防御して防いだ。


「なっ……!?」


「驚くことはねぇだろ? 棒の部分を腕でガードすりゃ、大して痛くもねえ……」


そう言うと、奴は歯を食いしばって悔しそうに俺を見る。別に悔しがることはねぇさ……俺はここで最強になって、全員負かすんだからな。


「そんじゃ……まずは一発……食らいやがれぇっ!」


そして、俺は金髪の左頬を思いっきり、歯をへし折る勢いでぶん殴った。すると、金髪は軽く吹っ飛び、尻餅をつく。


「おいおい、どうした? まさか……こんなもんじゃねぇだろうな? ハゲ野郎はこの程度じゃ倒れもしなかったぜ?」


「ぐっ……ぎぃぃ……! て……てめぇぇ……! この俺によくもぉぉ! おい、比土ぉ! こいつをもう一回縛りつけてやれぇ!」


金髪は、銀髪に怒鳴るように言った。すると、銀髪は鎖をブンブンと回して俺を見て言う。


「調子乗りすぎたな……一年坊! もう一回食らいなぁ!」


そう言って、銀髪は俺に鎖を投げようとするが……その鎖は、俺に届くことはなかった。


なぜなら、鎖を投げる前に……黒日々が、銀髪の男の腹部に一撃を食らわせていたからだ。


「悪いな……邪魔は、させない」


「こ……このアマァァ!」


逆上した銀髪は黒日々に殴りかかったが、黒日々はいともたやすくそれを避け


「しばらく……眠っていろ!」


ジャンプして、そのまま銀髪の頭に刀を振り下ろす。それを銀髪はまともに食らい、悲鳴も上げずにどさりと倒れた。……唐竹割りってやつか? 恐ろしい女だな全く。


「……なっ……」


そして、金髪はそれを見て呆然としていた……周りのやつらも、同様に口をポカンと開けていた。


「……鎖投げんのは、無理だとよ」


「ぬっ……ぐぐぅっ……! だ……だったら! てめぇら! こいつらを早くやっちまえ! 何のためにいやがる!」


金髪が言うも、ほかの連中は足を動かさない。


「どうやら……本当にタイマンになっちまったらしいなぁ、金髪」


「く……ぎぃぃっ……!」


金髪は立ち上がり、唇を歯でかみ締めて血を出しつつ激昂しながら言う。


「どいつもこいつも舐めやがってぇっ! 俺を誰だと思ってやがる! 田儀ゲミチ様だぞ!? ランクCの俺に……最底辺の負け犬が逆らってんじゃねぇぇっ!」


俺に向かってハンマーを打ち下ろしてくる。ったく、こいつは何か根本的にわかってねぇな……逆らうのに、ランクだとかそんな肩書きはいらねぇ。



テメェの意思だけありゃ、それでいいんだよ……!



俺は右の拳に力を込め……


「最底辺だろうがなんだろうが……ケンカってのは、勝てばそいつより強ぇことには……変わりねぇんだよこのボケがぁぁっ!」


ハンマーが打ち下ろされる前に、俺は金髪野郎の顔面に全力の拳を食らわせた。


すると、奴が座っていた椅子をぶっ飛ばしながら、金髪野郎は壁に叩きつけられ、力なく倒れた。


「……テメェこそ、相手になんなかったぜ、このボケ」


俺はそう言って、残ったやつらを見ると、おびえたような表情をして一目散に去っていった。本当にバトルバッチ持ちだったのかよ、あいつら。


なんにせよ、とりあえずは一勝一敗だな。くっそ……不意打ちさえ警戒しとけや、こいつに負けることなんてなかったってのに……!


そう思っていると、黒日々が俺の肩に手を置いて言う。


「やったな、レンガ」


俺は黒日々に、顔を少しだけ、緩ませながら言う。


「おう」


こうして、今日のケンカは……一勝一敗という、微妙な結果で幕を閉じた。




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