人のウワサも七十五日です
……放課後。私は机に頬をひっつけて、ため息を吐いた。
結局、あれから私たちは打開策を見つけることなく攻撃し続けているうちに鐘が鳴ってしまい、しぶしぶと授業に向かった。
それにしても、悔しい。全く歯が立たないというのを実感した。
激堂先輩のときは、私もレンガ同様に一撃でやられたから差を実感するにはいまいちなところがあったが、今回は本当に実力差というものを実感した。
……ぬぅぅ、悔しすぎる。よし、明日の昼休みも私は挑戦しに行くぞ!
そうやって意気込んだとき、レンガはカバンを持ってどこかに行こうとしていた。
そんなレンガを私は呼び止める。
「帰るのか? レンガ」
「おう、今日はあんま人がいないっぽいしな。つうか、やることが出来た」
「やること?」
「ああ、あの校長をぶっ潰すのも結構骨が折れそうだからな。それの対策だ、つう訳で今日は先に帰らせてもらうぜ」
「ああ、わかった。じゃあ私も何か対策を練っておくよ」
私がそういうと、『そうしろ』と、一言だけいいレンガは帰って行った。さて……私はどうしようか……。
やっぱり、部員探ししかないのだろうなぁ……レンガがいない分、更に緊張するが、それでもやらねば。
……うぅ、なぜこんなにも緊張するのだろう、戦いに関しては大丈夫なのに……待てよ? なら誰かに戦いを挑んでから勧誘をしにいけばなんとかなるのでは……?
そう考えていると、
「ねぇ」
「はっ…はい!?」
突然、声がしたので私は驚きながら返事をする。前を見るとそこには……昨日レンガと口論していた、反川シズネさんが立っていた。
「な……なにか用でしゅうか……?」
ああ、ろれつが回らずに変な口調に。
すると、反川さんは優しい笑みを見せて私に言う。
「ふふっ、そんな警戒しなくてもいいのよ黒日々さん。ちょっと聞きたいことがあって貴方に話しかけさせてもらっただけだから」
「聞きたいこと……ですか?」
一体なんだろうか? まさか勉強とか……聞かれたらあまり力になれないけれどどうしようか。すると反川さんは表情を一転させ、目つきを鋭くさせながら言う。
「なぜ、貴方はあの男と一緒に行動してるの?」
私はそう言われて、思わずえっ?っと声を出してしまう。そして反川さんは更に言葉を繋げて言う。
「だって、貴方は不良じゃないでしょう? だったら、共に行動することなんかないわ。それとも、あの男に何か脅されているの?」
「い……いや、そんなことはないです。私とレンガはその……友達で、同じ部員の人間だから……」
私はたどたどしく言った。この質問の仕方、やっぱり前にレンガと何かあったのだろうか……そう思っていると、反川さんは私の両肩を掴んで言う。
「サク……いえ、黒日々さん。あの男に近寄るのはもう止めたほうがいいわ。あんな危険な男が可愛……純粋な黒日々さんに何もしないはずない、貴方ももう知ってるでしょう? 誰にでも襲いかかる狂犬、今日関レンガのウワサは」
うわさ? 狂犬? 私はそれに関して首を傾げると、反川さんは不憫そうな顔で私を見て肩から手を放して言う。
「そう、知らなかったのね。道理であんな危険人物と歩きまわれていたわけか、じゃあ教えてあげるわ。今日関レンガはね、この学校に入ってから数日もしないうちに色んな生徒に襲いかかってきたケダモノよ」
「……色んな生徒に?」
「ええ、二年生を中心に数々の生徒にケンカを挑み、嫌がる生徒にもケンカを仕掛けるという稀にいない粗暴な男よ」
私はそれを聞いて、少し考える。なるほど、レンガが言っていたバトルバッチ持ちの人間と戦いまくっているという話が広まっていたわけか。うん、レンガから聞いた話と違っていないが、でもなんか……私の解釈と反川さんの解釈は若干違っているような。それにしても、その話は全校生徒に広まるほどだったのだな……相当バトルを行いまくっていたんだろうなぁ。
ヒカリちゃんがレンガのケンカ好きに呆れるのもちょっとわかったかもと思っていると、反川さんは言う。
「これでわかったでしょう? あの男は一般生徒にも見境無くケンカを強要するほどの人間なのよ、まさしく生きていても害にしかならない、最低な人間よ」
「そ……それは違います反川さん!」
私は反川さんの言った言葉に、声を荒げて反応する。
「確かにレンガは粗暴でケンカ好きで良い人間とは間違っても言えないですけど……レンガは、そこまで見境のない人間じゃないです……あくまで、闘う意思のある人間としかレンガは闘わない」
「……なぜ、そう思うの? 貴方はまだ一ヶ月も彼と接していないのに、なぜそれがわかるの?」
私は、反川さんのそんな問いに答える。
「……レンガは、私と同じで戦いを純粋に楽しんでいる人間なんです。だから……その、つまり! そこまで悪い人間じゃないんです!」
私は後半ヤケクソ気味に押し切るように言った。うあぁ……すまないレンガ、反論しきれない。誠実とも優しいとも言い切れないからどうにも言えない……
そんな自分のふがいなさにショックを受けていると、反川さんはそんな私に優しく笑みを返していった。
「……そう、私にはそいつの良さが全くわからないけど、貴方がいい子だっていうのはわかったわ」
そう言うと、反川さんはカバンを持って教室のドアの前まで歩いて、そのままの状態で言った。
「でもね、だから心配なの。貴方が優しい子だからこそね……それじゃあ、また明日ね」
そう言って、反川さんは帰って行った。そうか……レンガのウワサに一般生徒にもケンカを売るという誤報も伝わっていたせいでみんな避けていたのか……。
でも、わかってくれる人もいる。ヒカリちゃんやリンカちゃんは勿論、ルーコ先輩やシュウト先輩もわかってくれている。
だから、きっとレンガのそんな誤報もすぐに治まるだろう。人のウワサも百日までというしな。
さて、私も勧誘に行こう。レンガに何か言われても言い返せるように! そう思い、私は別の教室に行くことにした……手の震えが止まらないけど、が……頑張るぞー。




