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校長、好調、絶好調

昼休み。


俺と黒日々は校長室の前に来ていた。黒日々は俺の言ったことにかなり驚いていたが、俺は元々他の先生どもじゃ話にならねぇと思っていた。


だが、この校長なら別だ。入学式で『自分を殺せるほど強くなれ』とかイカレたことを言ったジジイなら、聞き入れてくれるはず。


まぁ実際にぶん殴ることはなさそうだが、こいつを倒したらOKとかそんな条件を言う可能性はある。


……その『こいつ』が、どんな奴になるかは知らないがどうにでもしてやる。軽く部室を獲得するためにな。


「れ……レンガ、本当に校長先生に頼む気なのか……?」


黒日々はまるでブリキのロボットのようにぎこちなくしながら俺を見て言ってきた。


「当たり前だ、引くわけにはいかねぇ、それにふんぞり返ってるジジイは利用させてもらわなきゃなぁ……」


「レンガ、その台詞は完全に悪役の台詞だぞ……」


「けっ、うっせぇ」


俺は黒日々に軽く言い返し、校長室のドアをノックする。するとガチャリと、ドアが開く。そこに現れたのは


「おおっ? なんじゃい、うっさい教頭かと思えば生徒とは珍しいのぉ」


……入学式同様にスーツをつけ、チョビヒゲが特徴的な細身の校長だった。いや、普通自分で開けるか……?


「まぁ入れ入れ、わしに用があるんじゃろ? いやぁ、久しい久しい! わしに用のある生徒なんかのぉ!」


そう言って上機嫌に俺らを校長室に入れてくれた。つうかやっぱこの校長はどっか頭のネジが外れてんじゃねぇか……?


そう思いつつ中に入る……トロフィーやらなんかいろんなもんが飾られてるぐらいで特に変わってるとは思えない普通の校長室だが……妙に広いな、教室の半分以上の大きさはあるぜ。


そして、校長は椅子に座り俺らに問う。


「それで、何をしに来たのかな君たちは。このわしの場所に直接来る理由を教えてくれたまえ」


……ほぉ、やっぱ校長だけあって椅子に座ったらいくらか威厳が違うぜ。黒日々なんかもうガッチガチに固まってやがる。とりあえず、さっさと本題言わせてもらうか。


俺は苦手な敬語を少し使いながら言う。


「頼みがあって来ました。俺と勝負しませんか、校長」


「勝負?」


「ああ、俺が校長に勝ちましたらまだメンバー揃ってないっすけど、部室を一個提供してほしい。勿論、こんなことを校長に言うなんてちゃんちゃらおかしな話だってわかっちゃいますが……それでも、作りたいんで来ました」


……さて、どうなる。普通なら軽く追い返されるっつうか相手にもされないだろうが、こいつなら……!


俺はそう思いつつ、校長の回答を待つ……すると


校長は、ご機嫌そうに大笑いして


「ばかもん! そんなのは良いにきまっとるじゃろ!」


と、逆に怒られた。乗ってくれたのはありがてぇが、予想以上に快く承諾してくれやがった……。そして、校長は自分のチョビヒゲを触りつつ楽しそうに言う。


「うむ、良いぞ? わしが負けたらなんて小僧小娘らには難しい条件じゃろうから更に緩和してやろう、わしを認めさせるか攻撃を一発食らわせば即座に認めてやる。全く、最近は主らみたいに直接言ってくるやつはいなかったからのぉ、うれしい限りで、よい退屈しのぎになるわ!」


すると黒日々は聞く。


「……え、えっと、大変恐縮ですが……まさか、校長先生自身がその条件で行う気ですか……?」


「無論! こんな楽しい児戯をわしは他の奴になんぞに譲れんわ! じゃが、時間は昼休みのみ、ちゃんと学生の本分は果たしてほしいからの。ちなみに場所はここでよい、お主らが別の場所が良いと言うなら勿論別の場所でよいがのぉ」


そう言って、校長は立ち上がって鼻歌混じりにストレッチを始める。つうか、一発食らわせりゃOKだぁ? 相当楽勝な条件出してくれやがって。後悔させてやんぞジジイ!


「へぇ……んじゃ、学生にとって昼休みってのは大切ですからねぇ……パパっと終わらせてもらうぜ……!」


校長はストレッチをし終わり、俺のほうを向いて言う。


「うむ、かかってこい小童。ぬふふ……生徒相手に戯れるのは久しく楽しみじゃなぁ」


ガキみてぇに笑っていいやがって、悪いがその喜びヅラ……即攻歪ませてやるぜ!


俺は走りだして拳を放ったが、パシリッ、とその手は弾かれた。


……何をした? こいつ。


俺は校長のツラを見る、すると、ニカッと笑みを見せてきた。この野郎……! 無性に腹が立ってきた……!


距離は依然至近距離……だったら、やることは一つ。


「……なにをしたかはしらねぇが、拳の乱打ぶち込めば問題ねぇだろ!」


俺は拳を握り、拳の乱打を放とうとした、だが。


乱打をする前に俺の右と左の拳は、実にあっさりと弾かれた。


「うむ、遅い拳じゃ。ゆっくりとはたき落とせて老体に親切なパンチじゃなぁ」


などとバカにしたような言い方をしてきた。このジジィ……!


「この野郎……もう加減なしだ、叩きのめすぜジジイ!」


「ほほほっ、構わんぞ? まぁ無理じゃろうが」


「抜かせっ!」


俺は校長に蹴りを放つが、それもまた叩き落とされた。


これはなんだ? 能力なのか、それとも……マジで手で叩き落してんのか?


「ほれ、さっさと攻撃せんと昼休みが終わるぞ小童?」


「ぐっ……だったら……!」


拳を振り上げ殴りかかるが、やはり叩き落とされる。ちっ……蹴ろうが、殴ろうが全部はたかれるってんなら……!


「はたかれねぇ場所を蹴ればいい!」


俺は体勢を低くし、左足狙いの足払い気味なローキックを放つ。すると突然、足が浮き上がって俺は体勢を崩して、頭を打つようにすっ転んだ。俺は少しうめき声を出して頭を抑える、このヤロー……!


「たたき落とせぬなら、救い上げるというやつじゃよ小童」


さっきから生徒を小童扱いしやがって……! にしても、さっきからこいつはどうやって叩き落としたりすくい上げたりしてんだ……?


……いや、考えてる暇はねぇ。能力だとしたら穴はあるだろうし、単純な速さなら同じ人間だ、やれないことはねぇ……!


そう思ったとき。俺の横に、黒日々が立っていた。


「なんだよ黒日々、まだ交代する気はねぇぞ」


「いや、交代する必要はないぞレンガ」


んじゃなんでここにいんだよと思っていると、


「協力して、一気に終わらせよう」


カラクリ刀の刃を出して、黒日々はそう言いのけた。








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