将を射るならそのまま将を撃て
翌日。
結局、昨日の勧誘は上手く行かず、私とレンガは困っていた。
意外と……部を作るというのも、大変なんだなと私は実感した。やはりカッコいい事は簡単に出来ないからこそカッコいいと言われるんだな……。
ため息をつきつつ、私はふと昨日の女子の方を見る。
凛とした美人という言葉が似合う女の子、反川シズネ。
朝のホームルームの出席確認で彼女の名前はわかったのだが……何故、彼女はあんなにもレンガを毛嫌いしていたのだろう。確かにレンガは目付きも悪く口も悪いが、昨日のやり取りを見た限りでは彼女はレンガが何を言うこともなく悪態をついていた。
昔レンガが何かをしたのだろうか? 本人は気付いていないうちに何かをしたとか……。
……ちょっと気になるけれど、今は部活を作る方が大事だ。それにもしそれが入り込んでは行けない話題なら、それは私が気安く聞いちゃいけないことだと思う。
……何を当たり前のことを考えてるんだろう私は、まだ友達でも何でもないというのに。
よし、とりあえず気を取り直して、今日の放課後も部員探しを頑張ろう!
私が内心でガッツポーズして意気込んだ時、レンガが私に近付いて来た。
「ん? どうしたんだレンガ、いい方法でも見つかったのか?」
「ああ、この上なく良い方法がな」
「ほ……本当か!? それは一体!?」
「ちょろいもんだ、お前が色仕掛けすりゃ単純な野郎共が軽く……って、いってぇ!」
私はレンガの額に拳を真っ直ぐ出した。
「なにしやがる!」
「レンガ、君は私を何だと思ってるんだ! 魅力もなく、人見知りの私が色仕掛けなんてしても何の効果もないだろう! むしろ恥ずかしすぎて私は泣くぞ! 泣いちゃうぞ!」
「んなもん知るか、泣くなら俺に負けた時に泣け」
どれだけレンガは優越感を味わいたいんだ……その時は絶対に泣いたりしないが。
「まぁ確かに魅力無ぇ、バカ、人見知りと残念の三拍子だが……それでも何人かは誘惑されんだろ、お前みたいなヘンチクリンが好みの野郎もいるだろうしな」
「……それは自分でも自覚してるが、こう自分以外の人から言われるとへこむものがあるな……」
私はまるで頭に石が降ってきたような気分になるが、レンガは続けて言った。
「まっ、あくまで俺の意見ではだからな、他の連中の好みは知らねぇよ。足野郎だってお前を可愛いとか言ってたしな、お前みてーなのが好みのヤツは多いかもしれねぇから意外に釣れるかも知れねぇしな」
などと言ってくれた。先輩のあれは後輩的な可愛いだと思うのだが……。
「って、だから私はそんなことはしないと言っただろう!? どうせならレンガがツンデレ男子と他のみんなにアピールをすれば中々食いついてくる女子もいるかも知れないぞ?」
「なんだそりゃ、アホだろお前」
「色仕掛けなんて手段で部員を増やそうとしていた君に言われたくはないぞ」
私は頬杖をつきながら考える。実際そんな手段で仮に入ってくれたとしても、すぐに辞めたりしてしまいそうだし……なりふり構っていられないのはわかっているんだが……。
すると、レンガは言う。
「なら、しかたねぇ。まずは場所を確保して、特訓しながら部員集めっか」
……レンガは何を言っているのだろうか…? 部員が集まらなければ部室はもらえないのに。私はそのことを、レンガに言う。
「レンガ、部員を集めなければ部室は借りれないぞ……?」
「ああ、んなもん知ってる。だから直談判ってやつだよ」
「先生に直接言う気なのか? だが結局論破できずに終わってしまいそうだが」
すると、レンガはニヤリと笑って言った。
「言う? バカだなお前は、んなもんあの頑固な先生軍団に通用するわきゃねぇ、俺とお前程度の知恵じゃ奴らに勝てるわけもないって知ってらぁ……なら、俺らの得意なもんで語ればいいんだよ」
……レンガの言っていることが私には理解出来なかった。一体何をしようと?
「まだわからねぇか? 簡単だ、殴り合いして勝って無理矢理奪い取る、部室の権利をなぁ」
なんてことを、レンガは極悪人みたいな顔で言った。その顔を見たクラスメートは即座に顔を背けるほどの悪そうな顔だった。
「無茶だレンガ、いくらここが戦う学校だとしてもそんな無茶苦茶なことは……」
「何を怖気づいてんだ黒日々、俺は嫌だぜ、こんな部員だけ探して時間の浪費なんてな。それに……最初に無茶苦茶言ったテメェが何を言ってんだ。新しい部活でふんぞり返ってる強い奴らを叩きのめす、それが練習部を作り上げる理由だろ? だったら、なりふり構わずやる、それがやれる。ならやるしかねぇだろうが黒日々」
理由まで無茶苦茶だった……。
……けれど、レンガの言うとおりかも知れない。いい案も思いつかないし、やれることはやるべきか……否定ばかりはよくない。
私は覚悟を決めて言う。
「ああわかった、じゃあその案に乗るよレンガ。でもちゃんと戦闘するとき合意を求めなければ意味がないぞ?」
ただ、この条件は前回のレンガが言った部員の勧誘の方法と似ている。けれど、今回は先生側にデメリット的なものがあるとは想像できないからなんとかなるかも知れない。基本的にここの部活は顧問というものが機能してないもの近いらしいし。
でも、鳥越先生や私のテンパっていたときの言葉を一刀両断した文立花先生相手にはその案は厳しい気もするが一体誰とそんな提案を持ちかけるのだろう?
「ところでレンガ、一体誰にそれを持ちかけるんだ?」
すると、レンガはさも当然のように
「あぁ? んなもん、校長のイカレジジイに決まってんじゃねぇか」
すごい事を、言い放ってきた。




