強さを知って希望を持つ
私が目を覚ますと……目の前に、医薬野先生とルーコ先輩、そしてレンガがおり、三人とも私を見ていた。あまり大勢に見られるとちょっと困るんだが……というより、あの壁に埋まってる生徒は一体誰なのだろう……。
とりあえず、私は状況を把握すべくあたりを見回す。そこには先程倒れていた生徒達が眠っていた。つまり、ここは保健室で、私はブンゴ先輩に負けた……という訳なんだな……。
そう思っていると、医薬野先生が話しかけてくる。
「二回目の保健室へようこそ~、あの激堂くんと戦うなんて貴方もなかなかの度胸だよね~」
医薬野先生が言うと、レンガは、はぁ?と言って、こちらを見る。
「お前もあの激堂と戦ったってのか?」
「……ああ、レンガがやられた後に私も戦ったんだ」
そう、私はレンガがやられたあと、ブンゴ先輩と戦った。
レンガに放った一撃を見て、私には、勝ち目なんかないと……そうわかってしまった。
けれど……それでも戦った。
戦ってみなきゃ、相手の実力はわからない。そんなレンガの言葉を聞いてしまった私は……ブンゴ先輩に、立ち向かった。
……あっさりと、ものの見事に、負けてしまったわけだが。
そう思っていると、レンガは言ってくる。
「んで、惨敗ってわけか」
私はその言葉に頷く。あんなに強いと思ったのは始めてだ……お姉ちゃんと同じ……もしくは、それ以上かも知れない。
私は、医薬野先生に顔を向けて問う。
「医薬野先生……ランクSとは、一体なんなのですか…?」
私は、思ったことをそのまま告げた。
「ざっくり聞くね~、でも、仕方ないわよね~、それほどに彼らって他の生徒とは一線を越えてるし~」
そんな伸び伸びとした口調で、医薬野先生は言い始める。
「じゃあまずは成績のおさらいからしましょ~か~。ま~、もう黒日々さんも知ってるとは思うけど、通常ではランクはA、B、C、D、Eの五段階に分かれている……そこは大体、普通の学校の通信簿の五段階評価と大体同じだから分かるよね~?」
私はコクリと頷く。数字で表すならAを5、Eを1と言う考えで多分あっているはずだ。
「それで~、この成績のあげ方と単位の取り方は高戦会参加だったり、今日関くんのように見境なく暴れ回ったり~って言うのも知ってるよね~?」
医薬野先生がそう言うと、レンガは医薬野先生を睨むが、医薬野先生は意に介さず話を続ける。
「はい、確か高戦会参加か規定数以上の戦闘回数で単位は取れると……」
「うむうむ~、よろしいよろしい。単位さえ取れてればランクを引き継いで進級する~、これはちゃんと覚えておいてね~?つまり今日関くんはこのままだとランクEのまま後輩にランクEせんぱ~いとか言われちゃったり~」
「ベッド投げんぞ行き遅れ教師」
レンガは医薬野先生に口悪くそう言ったが、医薬野先生はにこやかな笑顔をしてレンガに返す。先生は本当大人だなぁ……。
「とまぁ~、普通の成績のおさらいはこんなとこだね~。まぁぶっちゃけ、戦闘制度なんてこの学校以外には数ヶ所しか導入されてないからまだまだ見直すべき項目箇所が沢山あるらしいし、ツッコミ入れられると穴だらけなんだけどね~。単位なんて高戦会出ればほとんど取れるし~。なのにその制度が導入出来たのはあの校長先生のおかげというかなんというか~」
などと、医薬野先生は若干曖昧げに言った。校長先生……私はまだあまり見たことはないが、内心は物凄い人物なのだろうな。
「さて、ではランクSの解説に入りましょ~か~」
医薬野先生がそう言った時、私は先ほどよりも緊張感を持ちながら聞く。
「ランクSというのは、成績基準より更に上と評価された五人のみが取れるランクでね~、簡単に言うと、戦闘能力の高い上位五人のことを言うんだよ~。それで、そのランクSを倒した人は例えランクEだろうとSになれるという、称号に近い物と考えていいかな~。だから、激堂くんが集団対戦やろうって言ったら、み~んなやろうと思っちゃうんだよ~、一人じゃ勝てない可能性あっても、集団なら勝てる可能性もあるしね~」
私はその言葉を聞いて納得する。なるほど……確かに、数が増えれば勝ち目も増える。個より多、普通に考えて皆で戦った方がいいに決まっている。
でも、それでもあの激堂ブンゴ先輩はその多数を力で押し退けた……このバトルライフ高校に通う、戦える人間の多を、個で押し退けた。
……それほどに、あの人は圧倒的に強すぎる。
そう考えていると、レンガは機嫌悪そうに……いや、いつも通りの顔で医薬野先生に質問する。
「……今、五人っつったな……? あんな奴が、まだ四人もいるってのか?」
レンガがそう言うと、医薬野先生の代わりにルーコ先輩が話し始める。
「ああ、そうだよ。剣道部に一人、魔法部に一人、部活無所属に一人……そして、うちのサッカー部のキャプテンと激堂ブンゴで計五人。そして、その四人も激堂に引けを取らない、もしくは激堂以上の実力を持ってるよ」
ルーコ先輩はニヤリと笑って腕を組みながら言った。ブンゴ先輩と同等、それ以上の……ランクS。
……私に、勝てるんだろうか。
そんな不安が心の中で生まれそうになった時。
レンガは、私の後ろの襟をヒョイッと掴んで来た。
「うわっ、お前重てぇな……ダイエットしろよ」
「なっ!? レンガ! それはあまりに失敬すぎないか!?」
私はそう言われるほど重くなんかないのに…!
そう思って見ていると、レンガはそのまま私を持って保健室のドアを開け、ルーコ先輩や医薬野先生の方を見る。
「ありがとよ足原、医薬野。おかげで……やる気上がって来たぜ、高戦会、楽しみに待っとけよ」
と、ニヤリと笑い、ドアを閉めた。
……すごいな、レンガは……あの力を見ても、怖じ気づくどころか更にやる気が上がっている。
……その向上心は、本当見習わなければならないな……。
私がフッ……と笑ったその時。
いきなりレンガが手を放し、お尻を打った。い……痛い……。
「い……痛いじゃないかレンガ!」
「うっせぇ、お前重いんだよ! つうか自分で歩け!」
「確かに自分で歩かなかったのは悪かったが、君は本当に失敬なことを言い過ぎるぞ!? その重いというのは取り消すんだレンガ!」
「だぁーっ! うるせぇなお前は! 良いから早く部員探すぞ!」
「……部員?」
私は疑問をそのまま言葉に出すと、レンガは言う。
「強くなる為には、まずテメェの力が必要だ……かなり嫌だが、他のヤツに教わるよかはまだマシだしな。その為にはさっさと部室を取って、本格的に訓練出来る場所を取る必要がある……だから、テメェの言ってた一年生から部員になってもらうっつぅ案で行くぞ、確かに一年ならまだ入ってない野郎も多そうだしな」
レンガは不本意そうにそんな言葉を言ったあと、更に私に指を差して言う。
「だからと言って勘違いすんなよ、今はテメェに勝てないって言ってる訳じゃねぇ、テメェから何か教われば更に強くなってテメェと差がつけられるって意味だからな」
……そんなことは全く気にしていないというのに、レンガは本当に負けず嫌いだな。
だが、私も強くならなければいけないのは同意だ。今のままでは高戦会で勝ち残れない……だから。
「わかっているよレンガ。それじゃあ……早速……部員を探し、私達の練習部を作りあげよう!」
すると、レンガはいつものように悪びれながら笑った。そうだ、まずは部活を作り……私達は彼らと同じスタートラインに立たなきゃならない……彼らに勝つために。
私が心の中でそう誓った時。保健室のドアが開き、医薬野先生が顔を出す。どうしたのだろう?
「いい忘れてたけど、早く教室行かないと二時間目の授業始まるから気をつけてね~」
……私とレンガは顔を見合せ、そして、廊下を走った。
「だぁーっ! 文立花先生の授業はあんま出れてねぇからヤバいってのに、最悪だぁ! つうか一時間目出れなかったとか更に最悪じゃねぇかぁぁぁ!」
…レンガは、授業にはちゃんと出ようとするんだな。前も遅刻を気にしていたし、案外意外だな……などと思いつつ、私は遅刻しないよう走って行く。
……高戦会までに、彼らに近づける力を持って見せると、誓いながら。




