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肉親こそが最大のマスターキー

足原ルーコ。


数日前にサッカー部を見学しに行ったときに、実力の片鱗を見せ付けてくれやがったこの女がどうしてここに……


「おっと、別に今戦う気はあたしにはないよ。それは高戦会でのお楽しみに取っておきたいしね」


「……んじゃ、なんで来たんだてめぇは」


「一つはこの愚弟の凶行、あるいは犯罪行為を止めるため」


そう言って、足原ルーコは足野郎の頭をガツガツと壁に打ち付ける。あいつもう死んでないか?


「もう一つは、後輩の心配ってとこかな。うちの部員の奴も激堂に向かった奴がいてねぇ、心配して見に来たんだよ」


なるほどな……やっぱ副キャプテンだけあって、部員の心配をするわけか。


「そ……そういう優しい気遣いしながらも、ウブで素直になれないから姉ちゃんは彼氏とか作れてなごっぐっ!?」


……なんか言っていた足野郎は再び足原によって、壁に叩き付けられた。あいつはいらねぇことを言うのが得意なのかもしれねぇ。そして、気のせいか少し頬を赤くしながら、コホンッと咳払いをして言う。


「と……とりあえず、そういう訳だよ。まさかあんた達まであいつに挑んでたなんてね、怖いもん知らずねぇ、あんた」


「そりゃ、戦わなきゃ相手の強さなんてわかりっこねぇからな」


そう言うと、足原は髪をかきあげながら涼しげに笑う。


「ふぅん……言ってくれるねぇ、レンガ。けれど」


そして、こちらを直視しながら、更に言葉を繋げて言う。


「噛み付くだけしてやられる、キャンキャン鳴いてるだけのワンコは負け犬同然と言わせてはもらうけどね」


「っ……!」


……俺は思わず唇を噛み締める。ちっ……言ってくれんじゃねぇか……痛いとこを付いてきやがる……。


確かに、このままじゃ激堂ブンゴどころかこいつにすら……いや、足野郎にすら勝てねぇかも知れねぇ……むかつく話だが、それは黒日々が部活を作ると言ったときに理解している。


……でもな。


だからって、それが戦わない理由にはならねぇ。弱いから今は戦わないなんて、俺には出来る気もしねぇし、やる気もねぇ。そして……俺はけして、そんな理解があろうと、理屈があろうが……勝つことだけは、ぜってぇ諦めねぇ。だから……俺は、足原ルーコに指を差し、ニヤリと笑って言う。


「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ、犬っころ」


ああ、そうだ……ここでこいつの言葉の通りだなんて、思ってやらねぇ。俺は、俺の全部が弱さを認めても絶対に認めねぇ。


それが、俺がずっと進んできた今日関レンガっつう道だ……!


俺がそう言うと……足原は、口元を歪ませて、笑った。


「くっくっく、やっぱりあんた面白いねぇ。まるで三流やられ役みたいな台詞言っちゃってさ」


「んだと……!?」


「けどね……あんたのその噛み付きは、あたしは嫌いじゃないよ」


……そう言って、足原は満面の笑みを見せた。けっ、てめぇに好かれようと思って言ったんじゃねぇよ。


そう思い、顔を背けようとした、その時。


「えっ!? 姉ちゃん、今日関くんのことが好きなのか!?」


……既に動かなくなったと思った足野郎は、復活して足原にそう言った。つうか、微妙に噛み合ってないが話聞いてたのかお前。


「シュウト、あんたね……」


足原は呆れた目線を足野郎に送る。そして足野郎はそんな言葉が聞こえてないのかわからないが、頭を打たれすぎておかしくなったようなテンションで喋り始める。


「いや、好きになるのはいいけど年下だよ今日関くんは!? 確か姉ちゃん年上好みって言ってたけどいいの!? ……あっ、いや、まぁ僕としてはあの姉ちゃんに好きな人出来たっていうのは良いことだしこの辺は僕があまり口出しすべきじゃないか……でもそうすると、今日関くんには姉ちゃんの好きなあのアイドルグループの岡一さんについて語らなきゃいけないね。これは姉ちゃんとは切っても離せない、これを受け入れられるかどうかによって姉ちゃんの彼氏になれるかなれないかの境目がわかる。そう、姉ちゃんはわざわざライブ会場に行くほどのファンで、いつもキャーキャーいいながら、『岡一さんカッコイー! 愛してるー!』って毎日さわいでるアイドルオ……」


瞬間。


黙って足野郎の話を聞いていたと思っていた足原が突然、足野郎を再び壁に叩きつけ……いや、校舎全体を揺るがす音を響かせながら、壁にめりこませた。相変わらず、なんつう馬鹿力だこいつ……ていうか、足野郎今度こそ死んだな……つうか何をごちゃごちゃ話してたんだあいつは。


すると、足原は顔を真っ赤にしてこちらを睨んでくる。や……やる気かこいつ……!


「……今の、聞いたよねぇ……レンガ……」

「あぁ? 今のってなんだよ、足野郎がごちゃごちゃ言ってた独り言か? 聞こえてねぇし興味ねぇ」


「……本当の本当かい?」


「しつけぇな! 俺は興味ねぇ話はすぐ忘れるタチなんだよ!」


俺がそう返答すると、足原は胸を撫で下ろしていた。なんなんだよ全く……訳わからねぇ。


その時、医薬野がいつもどおりのヘラヘラ顔で言う。


「ふふふ~、なんだ~、ルーコちゃんも実に女の子な趣味していたんだね~」


などと言ったあと、医薬野はニヤリと笑う。すると、足原は更に顔を真っ赤にさせながらスタスタと医薬野に近づき、肩を掴んで何かを言い始めていた。わっけわかんねぇこいつら……。


そんな怪訝な目で俺が二人を見ていると。


「ううん……こ、ここは……?」


目をこすりながら、黒日々が起き上がってきた。



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