セカンドコンタクトはバトル
……なんだアイツは?
俺以外の生徒も、恐らくそんな疑問を覚えたのだろう、教室の空気は妙に固まっている。
その空気の中、謎の女は喋り始める。
「ほ……本日より、この学校に入学することになった黒日々サクヤと言います!皆さん、よろしく頼むのです!」
謎の女、本人いわく黒日々サクヤは自信満々にそんなことを言ってきたが、この固まった空気をほぐすには全く効果がなく、むしろさらに固まったとも言えよう。
そんな訳わからない空気を、現代文らしき物を教えてくれる文立花という先生が、無駄に元気な自称転校生に声をかける。
「あー………黒日々くん、君は明日から出席の予定だっただろう…?」
文立花先生がそういうと、自称転校生はカバンから紙を取り出して見る。
そして、それを見ていると自称転校生は驚愕の表情を見せるが、すぐに平静を装いながら紙をしまい、自称転校生は言った。
「…うん、間違えてしまったな………だが、しかし………それはこの学校の魅力が素晴らしいが故に間違えさせた………そう思いませんか、先生?」
「思わないねぇ」
無駄に饒舌な自称転校生の言葉をあっさりとした言葉で一刀両断する…とりつく暇を与えないな文立花先生は。
自称転校生はその言葉にたじろいでいる……顔が真っ赤になってんぞ。
そんな風に思っていると転校生は何かを閃いたように手をポンッと叩き、先生に制服の襟についているバッチを見せる………って、あれは……!
「…正直言って、今私はものすごく恥ずかしい登場をしてしまいました………だから、バトルさせてください、先生!」
「…いや、意味がわからないんですが?」
「この恥ずかしい空気を謎の少女が颯爽と現れたという空気にしたいのです!だから…」
「いいぜ」
転校生が言い終わる前に俺は立ち上がり、先生と口論している転校生に向かって言った。
…あのバッチは戦闘入学した人間か普通入学した人間が自ら希望したらもらえる、バトルバッチ。それを見せるってことは、自分と戦えって言ってるのと同様。
そんなもん見せられたら、いくら腑抜けてた俺でも燃えない訳には行かねぇな…!
俺は右手を煽るように動かし、転校生に挑発して言う。
「かかって来いよ転校生、遅刻して間違えて負けるって言う恥ずかしいの三拍子を初登校の思い出にしてやるよ」
転校生は俺を見て、不適に笑って言った。
「なるほど、私の相手をしてくれるのか?うん、実にありがたい」
転校生はそう言うと、カバンから刀の柄のような物を取り出す。
「…なんだそりゃ、ボタン押したら刃物が出てくるのかぁ?」
「うん、正解……ただし、切れないけどね」
転校生が刀の柄の後ろを押すと、柄から刃が出て、その柄だけの物は一瞬で刀になった。どういう仕組みだありゃあ。
「私はこれをカラクリ刀と呼んでいるわ。安心して、斬る気はないから模造刀同様に切れないから」
「無駄な気遣いありがとよ………けど、それだけか?」
「…なに?」
「それだけかって、言ってるんだよ」
「うん、まぁ」
俺はそんな気の抜けた返事をした転校生を鼻で笑って言う。
「残念ながら、そんな武器だけじゃ俺には………いや、この学校の大半の連中には通用しないぜ」
「…ほう、それはまた面白いことを言うわね………武器だけで勝敗が決するとは思えないけれど?」
「…ふん、今にわかる……いや、わかる前にお前は俺に負けて絶望を知ることになるぜ…!」
俺は拳を握り、右足を前に踏み出し戦闘体勢に入る。そうさ、ここの連中にはお前みたいな弱そうな女が勝てるほど甘くなんかねぇ…!
「…そう、ならやってやろうかな?そっちが絶望するぐらいに、ぼこぼこにな」
転校生は余裕そうに、カラクリ刀を構えて言った。
「…面白れぇ、やってみろや!!」
俺は拳を握って………転校生に向かって駆け出した。