二度どころか何百度もある
……目を覚ますと、そこは三日前に見た天井と同じ場所だった。
「あはは~、起きたかなー?」
そして、気の抜けた声が聞こえてくる。見るまでもない、この声はあの保健室の先生である、医薬野スーナの声だ。そして、その声が聞こえたってことはやっぱりここは、保健室か。
俺は辺りを見回す、そこには、大量の生徒らが眠っていた。
「や~、災難だったね~、ランクSの激堂くんと戦っちゃうなんてさ~。まぁ君のことだから自分から進んで戦ったんだろうけどね~」
などと、やる気ない声で医薬野は言った。
「けっ、うっせぇ。ところで……こいつら全員あのマッチョ野郎にやられたのか?」
「そだよ~? 彼たまにやるのよ、集団対戦をさ~」
「集団対戦…?」
「うん、少数対多数を望む場合はまとめて戦うことも出来るの、そして激堂くんは多数で襲い掛かってきた生徒たちを一撃で吹っ飛ばしたわけだよ~。今回は保健室入りに一年生が多かったから、激堂くんの強さ知らないで戦った人がいっぱいだったんだろうね~」
本当にあの人数を一人でまとめてぶっ倒したってのか…あの野郎……
「じゃなきゃ普通はランクSの人間と戦おうなんて思わないだろうしね~、一対一でやったら、日常生活に支障あるほどのダメージも受けかねないし~」
俺はその言葉に疑問が浮かぶ。どういうことだそりゃあ? 戦ってもこっちが回復させんだろう? などと思っていると、医薬野は俺の考えてることなどわかると言わんばかりの表情で言う。
「たまにさ~、そういう回復を遅くさせるほどの破壊力とか切断力を持った実力者がいる訳でね~? ランクSの人間はその筆頭な訳なんだよね~、今回は激堂くんもちゃんとその辺わかってたから良かったけどね~、本気出されてたらこの保健室は負傷者のオンパレードのようになってたんじゃあないかな~? まぁ、そんな状況になろうとも絶対死なさない為に、この私、保健室のせんせ~がいる訳なのよ~」
…などと、いつものようにこいつはあっけらかんと言った。つまりこの学校の回復能力のレベルを越えてる人間がいるってことかよ。
「まぁ~、ふつーはそんなことにはならないから安心しなさいな~、なってもこの私がちゃ~んと治してあげるから恐れずにふつ~に戦って頑張ってね~?」
「けっ、俺は元々そんなの知らずに怪我する覚悟でここに入ったんだ、そんなん聞いたとこでビビることなんて一切ねぇよ」
「うは~? まさかのM発言~?」
「ぶっ飛ばすぞ行き遅れ」
にしてもあの野郎……加減してただぁ……? 全く反応も出来ずに、一発も撃ち込めなかったってのに……加減されてたってのか? それほどに俺とあのマッスル野郎……激堂ブンゴとは差があるってことか……。
そして、俺は自覚する。これは……完全な、敗北だ。
雑魚みてぇにあしらわれて、一蹴されるなんてよ。全く……
俺は、顔をうつむかせ……拳を握り締めて……
「へへへっ……はははっ……あっはははははっ!!」
そんで、顔を上げて思いっきり笑った。
俺を見て、医薬野はあっけに取られたような顔をしてるがかまわねぇ。全く、笑えるぐらいに最高だぜ……!
本当、この学校に入って正解だった。あんな化物みてぇな奴までいたなんてな、あそこまで壮大に負けたのは初めてだ……!
「激堂ブンゴ……覚えたぜ、テメェの名前……」
俺は笑いながら、そう呟いた。ランクS、いいじゃねぇか……倒すべき野郎は強ぇ方が燃えるってもんだぜ……!
すると、医薬野はケラケラ笑いながら言う。
「君ってさ……生まれてきた時代を間違いなく間違えてきた人間だよね~、実は数十年前からやってきた人間だったりしちゃう~?」
「アホかテメェは、もうボケたか?」
「君は一回年上に対する礼儀を学んで来ないかな~!?」
などと言って医薬野は頬を膨らます。俺は医薬野の言葉を無視して、身体を起こそうとしたその時、違和感を感じた。
ベッドの中に、何かがいる……?
そう、起こそうとした足に何かがぶつかった。俺はその正体を確認するために毛布を取るとそこには。
……黒日々サクヤが、眠っていた。
「……むにゃあ……」
黒日々はなんとも気持ちよさそうに眠っていた。いや、んなこたぁどうでもいい。俺は青筋を浮かばせて医薬野を睨む。
「……これはどういうことなんすかねぇ……医薬野先生ぇぇ……!?」
「お~、敬語っぽくなったね~。これは一緒に寝かせてあげた感謝の気持ちなのかな~?」
「ははぁ、マジでそう思うわけですかぁ医薬野先生よぉ……! じゃあ感謝のお礼参りさせていただいてもよいですかねぇ……!」
「うわぁ~、なんかすっごい目が怖いわこの生徒~」
医薬野に鉄パイプか釘バットをどっかから見つけてぶん投げてやろうと思った、その時。
「やぁ、もう元気そうだね今日関くん。あのブンゴと戦ったんだって? さいな……」
……足野郎、もとい足原シュウトが喋りながら入ってきた。そして、今のこの状況を見て、足野郎の表情が固まる。まずい、色々とまずい気がすんぞこれ……!
「お……おい足野郎、これはだな……」
俺が言おうとすると、足野郎は髪をかきあげて爽やかに笑う。
「あはは、大丈夫だよ今日関くん。その程度で取り乱すほど僕は……大人でもなければ冷静沈着でもない……!」
と言って、うざったいほどの爽やかな顔は、鬼のような形相へと変化した。お前大丈夫の意味わかってねぇだろ……!
「僕の義妹に手を出すなんてね……君には見損なったぞ……!」
「出してねぇよバカ足野郎! そこのアホ教師が一緒に寝かせてたんだよ!」
つうかいつから黒日々がお前の妹になったんだよ。まさか前の間違いをまだ引っ張ってんじゃ……と考えていると、足野郎は更に声を荒げて喋る。
「例え教師公認だろうが、僕は絶対に君を許さん!」
「お前壮大な勘違いしてんだろ!?」
「ええい、見苦しいぞ今日関! さぁ、僕とそのポジションを替われ! そうすれば許さないこともぐはぁっ!?」
おかしなことを発言し始めた足野郎は、今入ってきたツリ目のジャージつけた背の高い女に頭を掴まれ、壁に叩きつけられた。
「全く……この変態弟は……って、んん?」
そして、ジャージ女は俺を見て、大爆笑して言う。
「あっはっはっはっ! 若いとは思ってたけど、タイムリーにお盛んだねぇ!」
「ちげぇ!」
俺は怒鳴るように反論する。とりあえずこれ以上誤解されんのは面倒だと思い、ベッドから立ち上がる。するとジャージ女はあれ? といわんばかりの顔で言ってくる。
「いちゃつくのはもういいのかい?」
「勘違いすんなアホ、そこのイカレ教師が一緒に寝かせやがっただけだ」
俺はそう言って医薬野に指を差す、すると医薬野は泣き真似をしながら言う。
「うわ~ん、厚意でやったのに言い方がどんどん酷くなるわ~、厚意で行為させようと思ったのに~」
「全然うまくねぇよ変態教師」
と言って、俺は医薬野から目線を外し、改めてジャージ女を見る。俺はこいつに見覚えがある……そうだ、こいつは。
「数日ぶりじゃねぇか……足原ルーコ……!」
そう、サッカー部の副キャプテン。足原ルーコ、そいつだった。




